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第二十七話 ファット大商会
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私達三人は路地から大通りへと出ると、目の前に大きな大きな建物があった。
この辺りはどこも石造りで三階建てくらいが普通なのだが、その建物は圧巻の五階建て。
おまけに他の建物の何軒分の横幅があり、それが大通りに面してにででん! と構えていた。
こりゃ凄いな。
「見事なものだな。流石王国五指に入る大商会だ」
「そんなに凄いの?」
「そうだなどうせお前は分からないからな私が説明しようボロを出さないうちにな」
「ありがとうございます」
「そうだ、毎度感謝してくれると私も嬉しいぞ」
「だったら迷子から空飛んで助けた僕にも感謝の言葉があってもいいと思うんだけどね」
そう私が言うとギンシュちゃんの顔が鬼瓦のようになっていった。……ごめん。
「……確かにそうだ。悪かった。助かった」
「うん」
「でも本当に怖かったんだからな! もう二度とごめんだからな!!」
「分かったよ。気を付けるよ」
「それで、ファット大商会だが……様々な商品を売ってはいるが、基本的には流通関係と奴隷売買、そして人材紹介辺りが有名なところだろうな」
「ふーん。奴隷と人材紹介って……つまり人を捕まえたり集めたりして教育してるってこと?」
「うーむ、大まかにはそうなのだが……奴隷を買ってきてそのまま売ったり、あるいはその奴隷を優秀な人間に育てて売ったり、あるいは自分で抱え込んで優秀な部下にしたり、といったところか」
「なるほど……」
奴隷かぁ。欲しいなぁ。
「ちなみに奴隷って幾らくらいで売ってるの?」
「それこそ小さい子供は銀貨数枚で買える場合もあれば、高級なのは金貨が何枚あっても足りないぞ」
「ふーん。ちょっと楽しみだな」
私は久々の異世界テンプレを楽しみにしながら、商会へと足を向けた。
正面の大きな扉を開けて、中へと入る。
あれだけの大きさがあったにも関わらず、中を入ると受付というかカウンターが幾つか並んでいるだけだった。
そこに立っている一人の男性が、私に近付いてくる。
背格好はすらりとした長身で、銀髪をきっちりと整えた元イケメンと思われる壮年のおじさんだった。
「これはこれは。エルフのお客様など初めてです。当商会に何か御用でしょうか?」
おっと。小娘三人相手にしっかり丁寧な接客。これは好感度高いぞ。
「えっと、要件は二つ。一つはこちらに所属しているアシンさんと大旦那様とのお話に参加する為。もう一つはこちらで売っている奴隷を見させて貰おうと思いまして」
銀髪おじさんは不思議な顔をする。
「ふむ、生憎ですがアシンは船旅の途中でして。王都に到着するのは数日先になりますが」
「先ほど到着しましたよ。私達と一緒に。今港で荷下ろししてます」
「なんと、誠ですかな!?」
私の言葉に驚くおじさん。そりゃそうだよね。本来は一週間の予定が二日で到着だもんね。
ギンシュちゃんがすかさず私のフォローに入る。
「失礼。同行していた際の私の許可証だ」
「見せて頂いても?」
「勿論」
ギンシュちゃんは銀髪おじさんへと許可証を渡す。
おじさんは許可証をチェックしていたが、軽くため息をついた。
「確かに、日程が同様に短縮されておりますね。おい、誰か港に確認しにいってこい!」
「はい!」
「それと大旦那様にも連絡を! アシンが帰って来た旨を伝えにゆくのだ!」
「分かりました!」
そう言って丁稚だろうか、小僧達が走っていった。
「この度は先触れ、誠にありがとうございます。おかげで皆を待たせずに済みそうです」
「それは良かったです」
「では、大旦那様とアシンが戻り次第、お話に参加されるということで宜しいでしょうか」
「はい、それで」
「そしてもう一つは……奴隷を見学したい、と。見学、というのは」
「あ、購入する為に見せて貰いたい、というつもりです」
「なるほど……ちなみに、失礼ですが予算の程は」
「えーっと……」
手持ちのお金は結構あるけど……今後の生活資金もいるし……そうだ!
「ねぇ、今日の宿代って幾らくらい?」
「幾らも何も、よっぽどの高級宿の一番上とかでなければ、金貨1枚で泊まれぬ部屋などないぞ」
こっそりギンシュちゃんに確認したら、そんな返事が返って来た。
だったら手持ちの大半のお金をつぎ込んでもよさそうだ。
「でしたら、最大で金貨50枚くらいで」
「ぶっ!!?」
「ふぇっ!?」
「ごっ……ごじゅうまい……ですかな」
「ええ……なにか?」
「いっいえ……ちなみにご希望などは」
「あ、特にないです。むしろなるべく全員見せていただきたいなぁと」
「す、すぐにご準備致しますので、こちらへどうぞ」
そうして私は、部屋の奥へと通された。
そこにはやわらかーい数人掛けのソファが一つと、小さな一人掛けのソファがこれまた一つ。
私達は数人掛けのソファに座り、「では少しお待ちを」と言われて、銀髪おじさんはゆっくりと、だが間違いなく慌てて部屋の外へと出て行った。
扉がきいっばたんとしまった直後に、ギンシュちゃんがそれはもう喚き出した。
「おい貴様ぁ! なんだあれは!?」
「なにが?」
「自分が何を言ったか分かってないのか!?」
「分かってたらあんなこと言わないですぅ」
ミレイがフォローしてくれる。嬉しい。
「そうだよねー」
「ああもう流石の私もどうかと思うですぅ」
あっミレイもギンシュちゃん側だった。かなしぃ。
「ホントに! ホントにもう! 頼むからお前は外に出たらもう喋らないでくれないか!?」
「えー……」
そんなに?
「お姉さまの常識の無さは今に始まったことじゃないですぅ」
「はい……なんか良く分からないけどすみません……」
「まったく……いいか、説明するぞ……そもそもどんな奴隷でもせいぜい金貨20枚から30枚程度だ」
「えっ!? でもギンシュちゃんが高級なのは幾らあっても足りないって」
「そんなの試し言葉に決まっているだろう!? そもそも金貨を何十枚も持ち歩く馬鹿の方がおかしいんだ!」
私のことですね。ごめんなさい。あと試し言葉ってなんだろう。大げさな表現とか……あっ、『言葉の綾』とかかな?
私の思考などおかまいなしにギンシュちゃんは説明を続ける。
「その金額を超えると、それこそ戦争に負けて捕虜になった元王族とかそーゆー裏の奴隷が出てくることになる」
「裏の奴隷って?」
「所有しているだけで危険な奴隷だ。そういうのを金の力でもみ消す為に、相場以上の額を言って奴隷商人に伝えるのだ」
「ってことはつまり?」
「お前はそういう裏の奴隷を連れてこいと暗にお願いしたことになる」
それは困る! そんなつもりはこれっぽっちも無いぞ!?
「そっ、そんなつもりじゃ!」
「分かっている! だから今後は黙っていろと言ったのだ!」
「これでとんでもないのが出てきたらどうしてくれるですかぁ」
「とんでもないのって?」
ギンシュちゃんとミレイ、二人で視線を合わせて同時にため息。えっ……そんなに?
「お待たせいたしました! ご準備が出来ましたのですが……お客様方はいかがでしょうか?」
「え、えっと……大丈夫です、はい」
私は二人を見て、頷いたのを確認して、銀髪おじさんに声をかけた。
「ではお一人ずつご紹介させていただきましょう。金額が金額でしたので、見目麗しい女性の奴隷の紹介が主となりますので、ご了承ください。それでは一人目!」
というわけで奴隷ショーが始まった。
確かに銀髪おじさんの言う通り、それはそれは美人さんが揃っていた。
でもやっぱりどこか憂鬱そうな表情だった。そりゃね。奴隷だしね。
ちなみに私は【鑑定】で能力見放題である。
既に【鑑定】スキルもレベル10に到達した。ミレイの部屋の鏡で自分を確かめたり、林で歩く傍から【鑑定】しまくった結果だ。
この【鑑定】、レベル10ともなると本当に詳細に出してくれる。あと人間に使っても【鑑定】しているかどうかバレない風に偽装してくれる機能まで搭載されたので、選り取り見取りの見放題だ。
というわけで片っ端から【鑑定】を使ったのだが……そこそこのスキルを持っていたりはするが、こうなんか「おぅこの人凄いなにこれ!」みたいなのがこなくてしょんぼり。
「いやはや、流石に皆さまお目が高い。では当商会の『とっておき』を連れて参りましょう。おい」
「しかし旦那様、彼女は大旦那様から」
「いいから! 連れてこい!」
「はいっ、分かりましたっ!」
なんか丁稚が走らされてる。どんな奴隷ちゃんがくるのだろう。
でも『とっておき』っていうくらいだから……結構ヤバいのがきちゃうのかもなぁ……どきどき。
そう思っていると、準備が整ったようで、扉の奥から現れたのは……冷たい、吹雪のようなオーラをしながら、決して人にはなつかないのか、犬歯を、八重歯を見せて今にもとびかかってきそうな……そんな、野良犬のような荒んだ目をしている……とても美しい……獣人族の少女だった。
ぼさぼさになっているが、きっと綺麗にしたら本当に輝くような美しさを見せかねない白? 銀髪? の髪に、瞳は透き通るようなサファイアブルー。頭の上には、ぴょこんぴょこんと三角形の可愛い耳がくっついていて、今もひくひくと左右に動きながら辺りの様子を伺っているようだ。なにあれめっちゃかわええ。肌も真っ白で、むしろ死体のように見えかねないほどの白さと細さだが……体中から湧き上がる闘志は、熱い情熱を秘めているかのようで……なんだろう、『可憐』と『力強さ』を兼ね備えた、なんとも見事な美しさを秘めていた。
……ただ一点、右足の膝から下が義足だったことをのぞけば。
簡易的な義足で、立っているのも辛そうなのだが、そんなのはおくびにも出さず、ずっと私達を睨み付けていた。
そこに銀髪おじさんのセールストークが入る。
「この奴隷はかの白狼族の、あの伝説の『北の氷結姫』とだけお伝えすれば、後は説明など不要でしょう、本来は金貨200枚ほどを予定していたのですが、お客様のような方ならば、金貨50枚を即決でいただければ、残りは分割でもようございますよ……いかがでしょうか」
いや『北の氷結姫』って……知らんけど。そんな説明じゃあ困るよ全く。
でもめっちゃかわええ。欲しい。どーしよ。
私は【鑑定】を使うのも忘れて、即決で欲しいとか言おうとしてしまったが、流石にそれもどうかと思ったので、ちょっと周りに相談しようかなーとのんきに考えながら二人の方を見ると、まずギンシュちゃんは完全に魂が抜けていた。あれ彼女ってそんなにヤバいの?
そしてミレイの方を向くと……一瞬ぽかんとした顔が、慌てて後ろを向いている。えっ何かあるの?
そんな違和感を向こうの奴隷娘も感じたようで、闘争心を抑えてよくよくミレイの方を見ると……顔が物凄く青ざめてきて、じゃらじゃらという両手の鎖も片足から引きずられた大きな鉄の鎖もいとわぬまま、不自然な形で土下座を始めた。
「申し訳ありません! このようなお姿で! どうか! どうかお情けを! お慈悲を頂けますでしょうか!!」
あーこれあかんやつや。
「おい、どうした?」
「お前も早く頭を下げろ! 死にたいのか!?」
「なっ、なにを……まさか!?」
「そうだ! いいから下げろ!」
「はっ、ははぁ!! 申し訳!! 申し訳ございませぬ!! 知らぬこととはいえ!!」
銀髪おじさんもぶるぶる震えながら土下座し始めた。何これ。
ミレイを見ると……ソファに顔をうずめたまま、ぷるぷる涙目だ。
「ミレイ……どーする?」
「もういやですぅ……私こんなの……こんなのぉ……」
「よしよし」
「誰も私を見てくれないですぅ……みんな私の『血』を、『魔力』を、そして『名』だけを見て頭を下げだすんですぅ……嬉しくもなんともないですぅ」
「大丈夫だよ、私は何も気にしてないから」
「おねぇさまぁ……ぐすん」
「それより……あっちの人達なんとかしてあげて。『嬉しくもなんともない』あたりから震えが一層顕著になってるから」
「あぁ……確かにそうですねぇ。そんなこと言われたら、自分にどんな戒めが降り注いでもおかしくないですから」
こわっ。ほんま『ドの御方』こわっ。
ミレイが言葉を発する直前に、奥から新たな人が現れた。
「私にお客人だとか。紹介していただけますかな? 商会だけに。おっほっほっほ」
またアクの強そうなのがご登場だ。
この辺りはどこも石造りで三階建てくらいが普通なのだが、その建物は圧巻の五階建て。
おまけに他の建物の何軒分の横幅があり、それが大通りに面してにででん! と構えていた。
こりゃ凄いな。
「見事なものだな。流石王国五指に入る大商会だ」
「そんなに凄いの?」
「そうだなどうせお前は分からないからな私が説明しようボロを出さないうちにな」
「ありがとうございます」
「そうだ、毎度感謝してくれると私も嬉しいぞ」
「だったら迷子から空飛んで助けた僕にも感謝の言葉があってもいいと思うんだけどね」
そう私が言うとギンシュちゃんの顔が鬼瓦のようになっていった。……ごめん。
「……確かにそうだ。悪かった。助かった」
「うん」
「でも本当に怖かったんだからな! もう二度とごめんだからな!!」
「分かったよ。気を付けるよ」
「それで、ファット大商会だが……様々な商品を売ってはいるが、基本的には流通関係と奴隷売買、そして人材紹介辺りが有名なところだろうな」
「ふーん。奴隷と人材紹介って……つまり人を捕まえたり集めたりして教育してるってこと?」
「うーむ、大まかにはそうなのだが……奴隷を買ってきてそのまま売ったり、あるいはその奴隷を優秀な人間に育てて売ったり、あるいは自分で抱え込んで優秀な部下にしたり、といったところか」
「なるほど……」
奴隷かぁ。欲しいなぁ。
「ちなみに奴隷って幾らくらいで売ってるの?」
「それこそ小さい子供は銀貨数枚で買える場合もあれば、高級なのは金貨が何枚あっても足りないぞ」
「ふーん。ちょっと楽しみだな」
私は久々の異世界テンプレを楽しみにしながら、商会へと足を向けた。
正面の大きな扉を開けて、中へと入る。
あれだけの大きさがあったにも関わらず、中を入ると受付というかカウンターが幾つか並んでいるだけだった。
そこに立っている一人の男性が、私に近付いてくる。
背格好はすらりとした長身で、銀髪をきっちりと整えた元イケメンと思われる壮年のおじさんだった。
「これはこれは。エルフのお客様など初めてです。当商会に何か御用でしょうか?」
おっと。小娘三人相手にしっかり丁寧な接客。これは好感度高いぞ。
「えっと、要件は二つ。一つはこちらに所属しているアシンさんと大旦那様とのお話に参加する為。もう一つはこちらで売っている奴隷を見させて貰おうと思いまして」
銀髪おじさんは不思議な顔をする。
「ふむ、生憎ですがアシンは船旅の途中でして。王都に到着するのは数日先になりますが」
「先ほど到着しましたよ。私達と一緒に。今港で荷下ろししてます」
「なんと、誠ですかな!?」
私の言葉に驚くおじさん。そりゃそうだよね。本来は一週間の予定が二日で到着だもんね。
ギンシュちゃんがすかさず私のフォローに入る。
「失礼。同行していた際の私の許可証だ」
「見せて頂いても?」
「勿論」
ギンシュちゃんは銀髪おじさんへと許可証を渡す。
おじさんは許可証をチェックしていたが、軽くため息をついた。
「確かに、日程が同様に短縮されておりますね。おい、誰か港に確認しにいってこい!」
「はい!」
「それと大旦那様にも連絡を! アシンが帰って来た旨を伝えにゆくのだ!」
「分かりました!」
そう言って丁稚だろうか、小僧達が走っていった。
「この度は先触れ、誠にありがとうございます。おかげで皆を待たせずに済みそうです」
「それは良かったです」
「では、大旦那様とアシンが戻り次第、お話に参加されるということで宜しいでしょうか」
「はい、それで」
「そしてもう一つは……奴隷を見学したい、と。見学、というのは」
「あ、購入する為に見せて貰いたい、というつもりです」
「なるほど……ちなみに、失礼ですが予算の程は」
「えーっと……」
手持ちのお金は結構あるけど……今後の生活資金もいるし……そうだ!
「ねぇ、今日の宿代って幾らくらい?」
「幾らも何も、よっぽどの高級宿の一番上とかでなければ、金貨1枚で泊まれぬ部屋などないぞ」
こっそりギンシュちゃんに確認したら、そんな返事が返って来た。
だったら手持ちの大半のお金をつぎ込んでもよさそうだ。
「でしたら、最大で金貨50枚くらいで」
「ぶっ!!?」
「ふぇっ!?」
「ごっ……ごじゅうまい……ですかな」
「ええ……なにか?」
「いっいえ……ちなみにご希望などは」
「あ、特にないです。むしろなるべく全員見せていただきたいなぁと」
「す、すぐにご準備致しますので、こちらへどうぞ」
そうして私は、部屋の奥へと通された。
そこにはやわらかーい数人掛けのソファが一つと、小さな一人掛けのソファがこれまた一つ。
私達は数人掛けのソファに座り、「では少しお待ちを」と言われて、銀髪おじさんはゆっくりと、だが間違いなく慌てて部屋の外へと出て行った。
扉がきいっばたんとしまった直後に、ギンシュちゃんがそれはもう喚き出した。
「おい貴様ぁ! なんだあれは!?」
「なにが?」
「自分が何を言ったか分かってないのか!?」
「分かってたらあんなこと言わないですぅ」
ミレイがフォローしてくれる。嬉しい。
「そうだよねー」
「ああもう流石の私もどうかと思うですぅ」
あっミレイもギンシュちゃん側だった。かなしぃ。
「ホントに! ホントにもう! 頼むからお前は外に出たらもう喋らないでくれないか!?」
「えー……」
そんなに?
「お姉さまの常識の無さは今に始まったことじゃないですぅ」
「はい……なんか良く分からないけどすみません……」
「まったく……いいか、説明するぞ……そもそもどんな奴隷でもせいぜい金貨20枚から30枚程度だ」
「えっ!? でもギンシュちゃんが高級なのは幾らあっても足りないって」
「そんなの試し言葉に決まっているだろう!? そもそも金貨を何十枚も持ち歩く馬鹿の方がおかしいんだ!」
私のことですね。ごめんなさい。あと試し言葉ってなんだろう。大げさな表現とか……あっ、『言葉の綾』とかかな?
私の思考などおかまいなしにギンシュちゃんは説明を続ける。
「その金額を超えると、それこそ戦争に負けて捕虜になった元王族とかそーゆー裏の奴隷が出てくることになる」
「裏の奴隷って?」
「所有しているだけで危険な奴隷だ。そういうのを金の力でもみ消す為に、相場以上の額を言って奴隷商人に伝えるのだ」
「ってことはつまり?」
「お前はそういう裏の奴隷を連れてこいと暗にお願いしたことになる」
それは困る! そんなつもりはこれっぽっちも無いぞ!?
「そっ、そんなつもりじゃ!」
「分かっている! だから今後は黙っていろと言ったのだ!」
「これでとんでもないのが出てきたらどうしてくれるですかぁ」
「とんでもないのって?」
ギンシュちゃんとミレイ、二人で視線を合わせて同時にため息。えっ……そんなに?
「お待たせいたしました! ご準備が出来ましたのですが……お客様方はいかがでしょうか?」
「え、えっと……大丈夫です、はい」
私は二人を見て、頷いたのを確認して、銀髪おじさんに声をかけた。
「ではお一人ずつご紹介させていただきましょう。金額が金額でしたので、見目麗しい女性の奴隷の紹介が主となりますので、ご了承ください。それでは一人目!」
というわけで奴隷ショーが始まった。
確かに銀髪おじさんの言う通り、それはそれは美人さんが揃っていた。
でもやっぱりどこか憂鬱そうな表情だった。そりゃね。奴隷だしね。
ちなみに私は【鑑定】で能力見放題である。
既に【鑑定】スキルもレベル10に到達した。ミレイの部屋の鏡で自分を確かめたり、林で歩く傍から【鑑定】しまくった結果だ。
この【鑑定】、レベル10ともなると本当に詳細に出してくれる。あと人間に使っても【鑑定】しているかどうかバレない風に偽装してくれる機能まで搭載されたので、選り取り見取りの見放題だ。
というわけで片っ端から【鑑定】を使ったのだが……そこそこのスキルを持っていたりはするが、こうなんか「おぅこの人凄いなにこれ!」みたいなのがこなくてしょんぼり。
「いやはや、流石に皆さまお目が高い。では当商会の『とっておき』を連れて参りましょう。おい」
「しかし旦那様、彼女は大旦那様から」
「いいから! 連れてこい!」
「はいっ、分かりましたっ!」
なんか丁稚が走らされてる。どんな奴隷ちゃんがくるのだろう。
でも『とっておき』っていうくらいだから……結構ヤバいのがきちゃうのかもなぁ……どきどき。
そう思っていると、準備が整ったようで、扉の奥から現れたのは……冷たい、吹雪のようなオーラをしながら、決して人にはなつかないのか、犬歯を、八重歯を見せて今にもとびかかってきそうな……そんな、野良犬のような荒んだ目をしている……とても美しい……獣人族の少女だった。
ぼさぼさになっているが、きっと綺麗にしたら本当に輝くような美しさを見せかねない白? 銀髪? の髪に、瞳は透き通るようなサファイアブルー。頭の上には、ぴょこんぴょこんと三角形の可愛い耳がくっついていて、今もひくひくと左右に動きながら辺りの様子を伺っているようだ。なにあれめっちゃかわええ。肌も真っ白で、むしろ死体のように見えかねないほどの白さと細さだが……体中から湧き上がる闘志は、熱い情熱を秘めているかのようで……なんだろう、『可憐』と『力強さ』を兼ね備えた、なんとも見事な美しさを秘めていた。
……ただ一点、右足の膝から下が義足だったことをのぞけば。
簡易的な義足で、立っているのも辛そうなのだが、そんなのはおくびにも出さず、ずっと私達を睨み付けていた。
そこに銀髪おじさんのセールストークが入る。
「この奴隷はかの白狼族の、あの伝説の『北の氷結姫』とだけお伝えすれば、後は説明など不要でしょう、本来は金貨200枚ほどを予定していたのですが、お客様のような方ならば、金貨50枚を即決でいただければ、残りは分割でもようございますよ……いかがでしょうか」
いや『北の氷結姫』って……知らんけど。そんな説明じゃあ困るよ全く。
でもめっちゃかわええ。欲しい。どーしよ。
私は【鑑定】を使うのも忘れて、即決で欲しいとか言おうとしてしまったが、流石にそれもどうかと思ったので、ちょっと周りに相談しようかなーとのんきに考えながら二人の方を見ると、まずギンシュちゃんは完全に魂が抜けていた。あれ彼女ってそんなにヤバいの?
そしてミレイの方を向くと……一瞬ぽかんとした顔が、慌てて後ろを向いている。えっ何かあるの?
そんな違和感を向こうの奴隷娘も感じたようで、闘争心を抑えてよくよくミレイの方を見ると……顔が物凄く青ざめてきて、じゃらじゃらという両手の鎖も片足から引きずられた大きな鉄の鎖もいとわぬまま、不自然な形で土下座を始めた。
「申し訳ありません! このようなお姿で! どうか! どうかお情けを! お慈悲を頂けますでしょうか!!」
あーこれあかんやつや。
「おい、どうした?」
「お前も早く頭を下げろ! 死にたいのか!?」
「なっ、なにを……まさか!?」
「そうだ! いいから下げろ!」
「はっ、ははぁ!! 申し訳!! 申し訳ございませぬ!! 知らぬこととはいえ!!」
銀髪おじさんもぶるぶる震えながら土下座し始めた。何これ。
ミレイを見ると……ソファに顔をうずめたまま、ぷるぷる涙目だ。
「ミレイ……どーする?」
「もういやですぅ……私こんなの……こんなのぉ……」
「よしよし」
「誰も私を見てくれないですぅ……みんな私の『血』を、『魔力』を、そして『名』だけを見て頭を下げだすんですぅ……嬉しくもなんともないですぅ」
「大丈夫だよ、私は何も気にしてないから」
「おねぇさまぁ……ぐすん」
「それより……あっちの人達なんとかしてあげて。『嬉しくもなんともない』あたりから震えが一層顕著になってるから」
「あぁ……確かにそうですねぇ。そんなこと言われたら、自分にどんな戒めが降り注いでもおかしくないですから」
こわっ。ほんま『ドの御方』こわっ。
ミレイが言葉を発する直前に、奥から新たな人が現れた。
「私にお客人だとか。紹介していただけますかな? 商会だけに。おっほっほっほ」
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