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第四十話 王都の冒険者ギルド
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馬車に乗ってしばらくすると、到着しました冒険者ギルド!
流石に王都のは大きいであらしゃいますこと。ピピーナもおっきかったけどせいぜい二階建て。
ここはなんとまあ五階建てですよ!
……マンジローさんの商会と同じだ。ってかそう考えるとマンジローさんの商会の大きさが改めて分かる。
確かにこっちの方が土地は広めだ。酒場併設だしね。でも高級感はだんっぜんマンジローさんの方が上だ。そりゃ商会だからね。そらそうかい。いかんマンジローさんのうつっちゃった。
ってか一階ほぼ酒場やん。受付は上なのかな。
「受付は二階です。行きましょう」
マンジローさんはやはり詳しいようだ。やっぱ冒険者ギルドと色々お付き合いあるのかな。
彼を先頭に、私達三人が中央、最後尾にアシンさんが続く。
時間はまだ午後を過ぎたくらいだが、やけに人が多い。やはり王都だからだろうか。
さてさて外野の声でも聞いてみるか。
「おいなんだありゃあ」
「ファット大商会の大旦那だろ。でも後ろにいるのは……」
「あの赤髪、もしかしなくてもお嬢か」
「今は騎士団所属だろ? ……まさか、呼ばれたのかね?」
「あのエルフ、随分別嬪じゃねぇかよぉ、おい襲っちまうか?」
「やめとけやめとけ。ファット大商会の新しい奴隷かもしれねぇぜ?」
「だったら俺らにゃ縁はねぇわな。じゃああっちの女も……」
「あれもすげぇ別嬪だなぁ……おいお前幾らあるよ」
「いや流石にあれは買えねぇよ……」
「一晩だけなら何とかならねぇかな?」
「俺らの金をかき集めたって、誰が行くんだよ? 血の雨が降るだけさ」
「ちげぇねぇや! ぎゃははは!!」
……こんな感じであった。まあいつものことではあるが。
「……ここはどこも相変わらずだな」
「まあまあ。あれで結構仲間思いだったりするんだよ」
「仲間じゃないと?」
「まあ、ののしりあったり足を引っ張りあったり」
「最悪だな」
「あの中にいると、空気に慣れるよ」
「流石お姉さまですぅ」
「ごめんそこ褒められても嬉しくない」
三人でひそひそ話していると、後ろからアシンさんが。
「おい、上行くぞ」
「はーい」
私達は一階の騒がしい酒場を後にした。
二階は二階で騒がしいが、どちらかというと冒険者と受付の人達とのやり取りで騒がしいみたい。
「さて、と……どうしましょうかな。依頼の受付は分かりますが、新規はとなると……」
マンジローさんがきょろきょろしていると。
「これはこれは大旦那様。 本日はどのようなご相談で?」
凄い。揉み手・狐目・べっとり髪。三拍子揃ったいやらしそーな男が近付いてきた。
「おや副ギルド長。いつもお世話に」
えっこの人副ギルド長なの。ないわー。絶対お金で出世コース駆け上がってるタイプだわー。
「いえいえそんなそんな。こちらこそいつも高額の依頼料を頂いておりまして、感謝しております」
「冒険者の質が良いのかもしれませんな。おっほっほっ」
「それで、本日のご依頼は?」
「あぁ、それですが、二人ほど新規で登録をしたいのですが」
「おや、依頼ではないのですか。大旦那様にはいつもお世話になっておりますし、新規の登録も奥の個室で行いましょうか」
「それは助かります。何しろ私ではあの並びに入るのも億劫で。おっほっほっ」
「それはさもありなんですな。キシシシシ。ではご案内します」
マンジローさんはあの自称副ギルド長についていくので、私達も後ろを歩く。
この辺詳しそうなのは……アシンさんかな。聞いてみよっと。
「ねぇ、さっきの副ギルド長って人、あれホントなの?」
「あぁ。『砂蛇』ボンデワットって名前だ」
「『砂蛇』?」
「普段は地面の中に隠れていたり、砂と見分けがつかないようにしてじっと息を潜め、近付いてきた獲物を一瞬で捕まえ、絶命させる狩りの名手だ」
砂蛇という生物についての解説をすかさず入れてくれるギンシュちゃんは流石である。
そして冒険者の『砂蛇』の解説はアシンさんへとバトンタッチ。
「『砂蛇』は冒険者時代の通り名だ。今言った通り、森や砂地で魔物に気付かれないまま一撃必殺。暗殺者としてもかなり仕事してたって聞くぜ。お蔭で大抵の貴族はあいつに頭が上がらないんだとか」
あらま。私失礼なこと思ってたわ。ごめんなさい。
こっそりぺこりと謝ると、ぞくりとした。
びっくりして頭を上げると、私と『砂蛇』こと副ギルド長は目があって、にっこりしながらゆっくりと頭を下げられた。
えっ何あの人。私の思考読んだの? 怖い。
「すげぇだろ。大抵初対面の奴はお前みたいにやられる。蛇の一睨みってやつさ。暗殺者の方は今でも現役らしいって噂も聞くが、さてさて……どうなんだろうなぁ」
「ひぇっ」
た、確かにこの手の輩にありそうなおじさん体型、つまりお腹は出っ張ってなかった。むしろかなり細めの体つきだった。
だったら……現役もあり得るのかも。
「でも、そんな人でも『副』なの?」
「まあ……ここの一番上はなぁ……」
なんか濁された。えっなに。なんなの。
アシン船長はギンシュを見る。ギンシュは素知らぬ顔で知らんぷり。
あーなんとなく分かった。ギンシュの関係者なのかな。
「ギンシュ詳しいんでしょーおしえてー」
「なっなっなんで私に振るのだ!」
「目がそう訴えてた。ねぇ教えてぇ」
「いやだっ! 絶対喋らんからな!」
「えーっけちぃ」
「余計なことを喋るとやってくるのだ……あのお方は……」
「二人とも、じゃれてないで部屋に入るですぅ」
個室に入る五人と『砂蛇』さん。
「それで、本日は新規の登録と伺いましたが?」
「ええ」
「ではこちらを」
そう言われて書類は……私とミレイの前に置かれる。あれ?
「……違いましたかな?」
「失礼。言っておりませんでしたな。新規で登録するのは、私とアシンですよ」
「おやおやこれは。大変申し訳ありませんでした。ではお二方は……」
「一応、二人とも冒険者として登録済です」
「おや、それにしては王都のギルドにはいらしてないようにお見受けしますが」
「来ないとまずかったです?」
「いえ。しかし冒険者の日々の生活の糧の殆どは、冒険者ギルドを介して行われていると思いますので、依頼も討伐もせずにあなた方は王都で何をしていたのかと思いまして、ね」
なるほど。それは確かに。
「またアシンなら、過去に冒険者をしていたはずですが……再登録でなくてよいのですか?」
皆でアシンの方を向く。
「おや、私もそれは初耳ですぞ」
「……いいんだよ、俺は新規で」
「おやおや勿体ない。僅か半年で『銀』まで駆け上がった『貫手のアシン』の復活など、私は楽しみでならないのですがねぇ」
「その名で俺を呼ぶんじゃねぇ! 俺はもう……冒険者はやらねぇんだよ……」
「ではなぜ新規で登録を?」
「うるせーなー、いいからとっとと書類寄越せ、ワッツ」
アシンさんは『砂蛇』さんから書類をひったくるようにして、がりがり書き始めた。
そういえば私は直接カードに書いたけど、ここはまたちょっと違うのかなぁ。
それとなんだろうこの二人。
「あの、アシンさんと副ギルド長さんって、知り合いなんです?」
「こんな奴、知るもんか」
「ええ、私と彼は同じ時期に冒険者になったのですよ」
ちょっとちょっと。二人で言ってること全然違うんだけど。
「おいワッツ黙ってろ!」
「私はこうして冒険者一筋ですが、彼も当時は名を馳せたものです……西の海で『貫手』と『砂蛇』は、それはもう新人冒険者としては随分名前を売りましてねぇ……あともう一人」
「やめろ!!!」
バンッ! っと机を大きく叩くアシンさん。副ギルド長はやれやれ、って顔して続きを喋るのをやめてしまった。
「……まあ、色々あって彼は冒険者を辞め船乗りになり、私は冒険者を続けて今に至る、という訳です」
「へぇ……」
人に歴史あり、だね。
「ではお二人とも書類が書けたようですので、冒険者の身分証を発行して参ります。少々この部屋でお待ち下さい」
そういうと『砂蛇』ボンデワットさんは出て行った。
後に残された私達には気まずい空気が流れる。なんか……なんか喋らないと。
「あの……」
「あー悪かった悪かった。俺が悪かったよ。もう怒ってないから気にすんな」
先に謝ってくれるアシンさん。やっぱこの人ええ人や。
「いえこちらこそ、何も知らずに」
「何も知らないからこそだろ。だから気にしてねぇって」
「そう言って貰えると……助かります……」
「な。そういや……なんか聞こえねぇか?」
「ええ……なんか……叫び声のような……」
私がそういうと、ギンシュが慌てて席を立った。
「おいエリィ! そなたの魔法で私を隠すことは出来ないか!? 姿も音も匂いも全部!」
「そんな無茶な」
「頼む何とかしてくれ! お前だけが頼りだ!」
「幾ら魔法が使えるっていっても限度があるよ」
私とギンシュの二人で問答をしていると、廊下から声がする。
「ギンシュちゃぁああああああああああん!!!」
何この声。
そしてバァーーーーーーン! と扉が開き、その声の主は目にも止まらぬ速さでギンシュへとべったりくっついた。
「はぁーんギンシュちゃんギンシュちゃんギンシュちゃーーん! もう会いたかったわぁ!! くんかくんか。あぁこの匂い本物! 本物なのね! 本物のギンシュちゃんよぉもうだーいすき!! もう一週間は離さないんだからぁ」
凄い。両手両足ががっちりとギンシュに絡みついて離れない。プロレス技もかくやというところ。
いや言っちゃなんだけど駅弁に近い。なんだあれ。すげーなあれ。
そして絡みついているのは女性だ。身長はそこそこ。見た目は私以上にボンキュッボン。どこぞの泥棒アニメの紅一点並だ。凄いの一言である。先ほどから私の語彙力が『凄い』ばかりで死んでいるが許してほしい。だってもうなんかもう色々と凄いんだもの。そして何より目立つのは髪の色だ。その髪は美しい、ビロードのような緑髪がさらさらふんわり空中を舞っていた。そしてくんかくんかの度に顔をギンシュにこすりつけているので、その髪がぐっちゃぐちゃになってて……うん。
はっきり言おうか。残念美人二号である。
私はギンシュに聞いてみる。
「……誰?」
「…………母上だ」
「もうっ、ダメでしょギンシュちゃんっ。ちゃんと『ママ(はぁと)』って呼んで」
「母上、いい加減離れて下さい」
「やーよー『ママ(はぁと)』っていうまで離さないから」
「以前それでそう呼んでも離してくれなかったではないですか」
「離すか離さないかは私の勝手よぉ。だってギンシュちゃんの匂いがまだ足りないのぉ! もっとぉ! もっとちょおだぁい! そうだスカートの中ならギンシュちゃんの濃い匂いが沢山ありそう! ちょっとお邪魔するわね」
「わぁ母上! 母上やめて下さい! 皆が見ております!!」
「見せつけてあげればいいのよぉ! あぁギンシュちゃんの匂いが充満してて最高! 今なら王宮だって吹き飛ばせるわぁん」
「やめて下さい母上! 母上お願いですから!!」
……流石にギンシュがかわいそうになってきた。
実の母にスカートの下に顔を入れられて喜ばれてもびっくりするほど嬉しくない。
こんな『ちやほや』は絶対にお断りだ。
「おっほっほっほっほっほっほっほっほっ」
マンジローさんめっちゃ笑ってるし。
ミレイは……あーあー怖がってる。私の服しっかり掴んで後ろ向いて震えてら。
アシンさんは……呆然。
「いやぁ……噂にゃ聞いてたがはじめてみたぜ。ギルド長の一人娘の猫可愛がり」
「えっ有名なんですかこれ?」
「有名も有名、王都で知らねぇ奴はいねぇだろうよ。でもまずお目にかかれないからなぁ。今回船の依頼があったろ? アレも依頼主がバニング家の一人娘だと知って本物が拝めるって思ってウキウキで受けたんだぜ」
「なんだと!? アシンそなた、私見たさに受けたのか!?」
「王都に住んでる奴はアンタの顔を拝みたくてしょうがねぇのよ。しかもギルド長のこれが見れたんだ。俺は『砂蛇』とは色々あったけど、今日はこれで大満足さ。皆に一生自慢できらぁ」
そんなにか。そんなに自慢出来るほどなのかこれ。
「アシン! そなた許さんぞ! 騎士団の名目ならともかく、私見たさとは!」
「それだけギンシュちゃんが可愛いってことじゃない! ママ嬉しいわぁ」
「母上は黙っててくれ! というか私のスカートの中で喋らないでくれ! 息が……当たって……」
「あらいけないわ! これってもしかしてギンシュちゃんのお漏らしおぱんつじゃない!? やったあお宝よ! おたからよぉおおおお!!!」
ぶぉんっ! という一陣の風がギンシュを中心に舞い起こり、彼女は……ギルド長である母上は、その一瞬で姿を消してしまった。
「なんだったんだ……アレ」
「だからここには来たくなかったのだ……はぁ」
ごめんねギンシュ。そういうのはちゃんと言ってよ……知らなかったよ……
流石に王都のは大きいであらしゃいますこと。ピピーナもおっきかったけどせいぜい二階建て。
ここはなんとまあ五階建てですよ!
……マンジローさんの商会と同じだ。ってかそう考えるとマンジローさんの商会の大きさが改めて分かる。
確かにこっちの方が土地は広めだ。酒場併設だしね。でも高級感はだんっぜんマンジローさんの方が上だ。そりゃ商会だからね。そらそうかい。いかんマンジローさんのうつっちゃった。
ってか一階ほぼ酒場やん。受付は上なのかな。
「受付は二階です。行きましょう」
マンジローさんはやはり詳しいようだ。やっぱ冒険者ギルドと色々お付き合いあるのかな。
彼を先頭に、私達三人が中央、最後尾にアシンさんが続く。
時間はまだ午後を過ぎたくらいだが、やけに人が多い。やはり王都だからだろうか。
さてさて外野の声でも聞いてみるか。
「おいなんだありゃあ」
「ファット大商会の大旦那だろ。でも後ろにいるのは……」
「あの赤髪、もしかしなくてもお嬢か」
「今は騎士団所属だろ? ……まさか、呼ばれたのかね?」
「あのエルフ、随分別嬪じゃねぇかよぉ、おい襲っちまうか?」
「やめとけやめとけ。ファット大商会の新しい奴隷かもしれねぇぜ?」
「だったら俺らにゃ縁はねぇわな。じゃああっちの女も……」
「あれもすげぇ別嬪だなぁ……おいお前幾らあるよ」
「いや流石にあれは買えねぇよ……」
「一晩だけなら何とかならねぇかな?」
「俺らの金をかき集めたって、誰が行くんだよ? 血の雨が降るだけさ」
「ちげぇねぇや! ぎゃははは!!」
……こんな感じであった。まあいつものことではあるが。
「……ここはどこも相変わらずだな」
「まあまあ。あれで結構仲間思いだったりするんだよ」
「仲間じゃないと?」
「まあ、ののしりあったり足を引っ張りあったり」
「最悪だな」
「あの中にいると、空気に慣れるよ」
「流石お姉さまですぅ」
「ごめんそこ褒められても嬉しくない」
三人でひそひそ話していると、後ろからアシンさんが。
「おい、上行くぞ」
「はーい」
私達は一階の騒がしい酒場を後にした。
二階は二階で騒がしいが、どちらかというと冒険者と受付の人達とのやり取りで騒がしいみたい。
「さて、と……どうしましょうかな。依頼の受付は分かりますが、新規はとなると……」
マンジローさんがきょろきょろしていると。
「これはこれは大旦那様。 本日はどのようなご相談で?」
凄い。揉み手・狐目・べっとり髪。三拍子揃ったいやらしそーな男が近付いてきた。
「おや副ギルド長。いつもお世話に」
えっこの人副ギルド長なの。ないわー。絶対お金で出世コース駆け上がってるタイプだわー。
「いえいえそんなそんな。こちらこそいつも高額の依頼料を頂いておりまして、感謝しております」
「冒険者の質が良いのかもしれませんな。おっほっほっ」
「それで、本日のご依頼は?」
「あぁ、それですが、二人ほど新規で登録をしたいのですが」
「おや、依頼ではないのですか。大旦那様にはいつもお世話になっておりますし、新規の登録も奥の個室で行いましょうか」
「それは助かります。何しろ私ではあの並びに入るのも億劫で。おっほっほっ」
「それはさもありなんですな。キシシシシ。ではご案内します」
マンジローさんはあの自称副ギルド長についていくので、私達も後ろを歩く。
この辺詳しそうなのは……アシンさんかな。聞いてみよっと。
「ねぇ、さっきの副ギルド長って人、あれホントなの?」
「あぁ。『砂蛇』ボンデワットって名前だ」
「『砂蛇』?」
「普段は地面の中に隠れていたり、砂と見分けがつかないようにしてじっと息を潜め、近付いてきた獲物を一瞬で捕まえ、絶命させる狩りの名手だ」
砂蛇という生物についての解説をすかさず入れてくれるギンシュちゃんは流石である。
そして冒険者の『砂蛇』の解説はアシンさんへとバトンタッチ。
「『砂蛇』は冒険者時代の通り名だ。今言った通り、森や砂地で魔物に気付かれないまま一撃必殺。暗殺者としてもかなり仕事してたって聞くぜ。お蔭で大抵の貴族はあいつに頭が上がらないんだとか」
あらま。私失礼なこと思ってたわ。ごめんなさい。
こっそりぺこりと謝ると、ぞくりとした。
びっくりして頭を上げると、私と『砂蛇』こと副ギルド長は目があって、にっこりしながらゆっくりと頭を下げられた。
えっ何あの人。私の思考読んだの? 怖い。
「すげぇだろ。大抵初対面の奴はお前みたいにやられる。蛇の一睨みってやつさ。暗殺者の方は今でも現役らしいって噂も聞くが、さてさて……どうなんだろうなぁ」
「ひぇっ」
た、確かにこの手の輩にありそうなおじさん体型、つまりお腹は出っ張ってなかった。むしろかなり細めの体つきだった。
だったら……現役もあり得るのかも。
「でも、そんな人でも『副』なの?」
「まあ……ここの一番上はなぁ……」
なんか濁された。えっなに。なんなの。
アシン船長はギンシュを見る。ギンシュは素知らぬ顔で知らんぷり。
あーなんとなく分かった。ギンシュの関係者なのかな。
「ギンシュ詳しいんでしょーおしえてー」
「なっなっなんで私に振るのだ!」
「目がそう訴えてた。ねぇ教えてぇ」
「いやだっ! 絶対喋らんからな!」
「えーっけちぃ」
「余計なことを喋るとやってくるのだ……あのお方は……」
「二人とも、じゃれてないで部屋に入るですぅ」
個室に入る五人と『砂蛇』さん。
「それで、本日は新規の登録と伺いましたが?」
「ええ」
「ではこちらを」
そう言われて書類は……私とミレイの前に置かれる。あれ?
「……違いましたかな?」
「失礼。言っておりませんでしたな。新規で登録するのは、私とアシンですよ」
「おやおやこれは。大変申し訳ありませんでした。ではお二方は……」
「一応、二人とも冒険者として登録済です」
「おや、それにしては王都のギルドにはいらしてないようにお見受けしますが」
「来ないとまずかったです?」
「いえ。しかし冒険者の日々の生活の糧の殆どは、冒険者ギルドを介して行われていると思いますので、依頼も討伐もせずにあなた方は王都で何をしていたのかと思いまして、ね」
なるほど。それは確かに。
「またアシンなら、過去に冒険者をしていたはずですが……再登録でなくてよいのですか?」
皆でアシンの方を向く。
「おや、私もそれは初耳ですぞ」
「……いいんだよ、俺は新規で」
「おやおや勿体ない。僅か半年で『銀』まで駆け上がった『貫手のアシン』の復活など、私は楽しみでならないのですがねぇ」
「その名で俺を呼ぶんじゃねぇ! 俺はもう……冒険者はやらねぇんだよ……」
「ではなぜ新規で登録を?」
「うるせーなー、いいからとっとと書類寄越せ、ワッツ」
アシンさんは『砂蛇』さんから書類をひったくるようにして、がりがり書き始めた。
そういえば私は直接カードに書いたけど、ここはまたちょっと違うのかなぁ。
それとなんだろうこの二人。
「あの、アシンさんと副ギルド長さんって、知り合いなんです?」
「こんな奴、知るもんか」
「ええ、私と彼は同じ時期に冒険者になったのですよ」
ちょっとちょっと。二人で言ってること全然違うんだけど。
「おいワッツ黙ってろ!」
「私はこうして冒険者一筋ですが、彼も当時は名を馳せたものです……西の海で『貫手』と『砂蛇』は、それはもう新人冒険者としては随分名前を売りましてねぇ……あともう一人」
「やめろ!!!」
バンッ! っと机を大きく叩くアシンさん。副ギルド長はやれやれ、って顔して続きを喋るのをやめてしまった。
「……まあ、色々あって彼は冒険者を辞め船乗りになり、私は冒険者を続けて今に至る、という訳です」
「へぇ……」
人に歴史あり、だね。
「ではお二人とも書類が書けたようですので、冒険者の身分証を発行して参ります。少々この部屋でお待ち下さい」
そういうと『砂蛇』ボンデワットさんは出て行った。
後に残された私達には気まずい空気が流れる。なんか……なんか喋らないと。
「あの……」
「あー悪かった悪かった。俺が悪かったよ。もう怒ってないから気にすんな」
先に謝ってくれるアシンさん。やっぱこの人ええ人や。
「いえこちらこそ、何も知らずに」
「何も知らないからこそだろ。だから気にしてねぇって」
「そう言って貰えると……助かります……」
「な。そういや……なんか聞こえねぇか?」
「ええ……なんか……叫び声のような……」
私がそういうと、ギンシュが慌てて席を立った。
「おいエリィ! そなたの魔法で私を隠すことは出来ないか!? 姿も音も匂いも全部!」
「そんな無茶な」
「頼む何とかしてくれ! お前だけが頼りだ!」
「幾ら魔法が使えるっていっても限度があるよ」
私とギンシュの二人で問答をしていると、廊下から声がする。
「ギンシュちゃぁああああああああああん!!!」
何この声。
そしてバァーーーーーーン! と扉が開き、その声の主は目にも止まらぬ速さでギンシュへとべったりくっついた。
「はぁーんギンシュちゃんギンシュちゃんギンシュちゃーーん! もう会いたかったわぁ!! くんかくんか。あぁこの匂い本物! 本物なのね! 本物のギンシュちゃんよぉもうだーいすき!! もう一週間は離さないんだからぁ」
凄い。両手両足ががっちりとギンシュに絡みついて離れない。プロレス技もかくやというところ。
いや言っちゃなんだけど駅弁に近い。なんだあれ。すげーなあれ。
そして絡みついているのは女性だ。身長はそこそこ。見た目は私以上にボンキュッボン。どこぞの泥棒アニメの紅一点並だ。凄いの一言である。先ほどから私の語彙力が『凄い』ばかりで死んでいるが許してほしい。だってもうなんかもう色々と凄いんだもの。そして何より目立つのは髪の色だ。その髪は美しい、ビロードのような緑髪がさらさらふんわり空中を舞っていた。そしてくんかくんかの度に顔をギンシュにこすりつけているので、その髪がぐっちゃぐちゃになってて……うん。
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私はギンシュに聞いてみる。
「……誰?」
「…………母上だ」
「もうっ、ダメでしょギンシュちゃんっ。ちゃんと『ママ(はぁと)』って呼んで」
「母上、いい加減離れて下さい」
「やーよー『ママ(はぁと)』っていうまで離さないから」
「以前それでそう呼んでも離してくれなかったではないですか」
「離すか離さないかは私の勝手よぉ。だってギンシュちゃんの匂いがまだ足りないのぉ! もっとぉ! もっとちょおだぁい! そうだスカートの中ならギンシュちゃんの濃い匂いが沢山ありそう! ちょっとお邪魔するわね」
「わぁ母上! 母上やめて下さい! 皆が見ております!!」
「見せつけてあげればいいのよぉ! あぁギンシュちゃんの匂いが充満してて最高! 今なら王宮だって吹き飛ばせるわぁん」
「やめて下さい母上! 母上お願いですから!!」
……流石にギンシュがかわいそうになってきた。
実の母にスカートの下に顔を入れられて喜ばれてもびっくりするほど嬉しくない。
こんな『ちやほや』は絶対にお断りだ。
「おっほっほっほっほっほっほっほっほっ」
マンジローさんめっちゃ笑ってるし。
ミレイは……あーあー怖がってる。私の服しっかり掴んで後ろ向いて震えてら。
アシンさんは……呆然。
「いやぁ……噂にゃ聞いてたがはじめてみたぜ。ギルド長の一人娘の猫可愛がり」
「えっ有名なんですかこれ?」
「有名も有名、王都で知らねぇ奴はいねぇだろうよ。でもまずお目にかかれないからなぁ。今回船の依頼があったろ? アレも依頼主がバニング家の一人娘だと知って本物が拝めるって思ってウキウキで受けたんだぜ」
「なんだと!? アシンそなた、私見たさに受けたのか!?」
「王都に住んでる奴はアンタの顔を拝みたくてしょうがねぇのよ。しかもギルド長のこれが見れたんだ。俺は『砂蛇』とは色々あったけど、今日はこれで大満足さ。皆に一生自慢できらぁ」
そんなにか。そんなに自慢出来るほどなのかこれ。
「アシン! そなた許さんぞ! 騎士団の名目ならともかく、私見たさとは!」
「それだけギンシュちゃんが可愛いってことじゃない! ママ嬉しいわぁ」
「母上は黙っててくれ! というか私のスカートの中で喋らないでくれ! 息が……当たって……」
「あらいけないわ! これってもしかしてギンシュちゃんのお漏らしおぱんつじゃない!? やったあお宝よ! おたからよぉおおおお!!!」
ぶぉんっ! という一陣の風がギンシュを中心に舞い起こり、彼女は……ギルド長である母上は、その一瞬で姿を消してしまった。
「なんだったんだ……アレ」
「だからここには来たくなかったのだ……はぁ」
ごめんねギンシュ。そういうのはちゃんと言ってよ……知らなかったよ……
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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