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第七章 黒白の聖戦
#91 神の世界へ
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──神暦38326年6月28日──
その日は晴れていた。昨晩降った雨により、森の中は心地よい空気に包まれていた。
ゼイアが指定した場所に皆が集まっている。その拓けた場所は葉っぱ一つなく掃除され、チョークで大きな魔法陣が描かれていた。
「……まだ踏むなよ。全部台無しになる」
グレンを肩に乗せたゼイアがそう言う。その目の怖さにエレンたちはコクコクと頷く。
「いいか、これから門を開ける。そんなに長くは開いてないぞ。さっさと通れ」
「分かった……」
エレンが答えると、ゼイアは剣を呼び出し、逆手に持つと魔法陣へと突き出した。
「“Koryan welte, Yeno welte. Ald ge absal laph……」
エレンたちには分からない言語でゼイアは詠唱を始める。いつもと違って長そうだ。
「Kolt, Sagan, Phana oa ven welte zekleation」
ゼイアは魔法陣に剣を突き立てる。すると魔力がそこへ流れる気配がした。
「Nelf palalel bec”!」
辺りの空間が捻れた気がした。いや、実際魔法陣の中心に空間の歪みが出来ている。それは徐々に広がり、やがて魔法陣を覆い尽くした。そこには混沌が広がっている。
「よし、成功だ。行くぞ」
「この中に……?」
「当たり前だ。俺は最後に行く。順番に飛び込め」
そう言われても、この中へ飛び込むにはなかなか勇気がいる。そもそも上へ行くんじゃないのか? とエレンは疑問に思うが、それを問うている暇はない。
エレンは振り向くと、見送りに下がっているイアリたちに声を掛ける。
「じゃあ、行って来る……」
「気を付けてな!」
「おう」
イアリの言葉に、エレンは頷く。しかしどうも足が竦む。飛び降りるのはどちらかと言うと得意なのだが。
「何グズグズしてんだ! とっとと行け」
「うわ!」
後ろに回って来たゼイアがエレンを、そしてアーガイル、ケレン、ロレンを次々と投げ込む。
「まだ心の準備が!」
「「うわーー!」」
最後にゼイアがグレンを連れて飛び込んだ。
「無事に帰って来いよー!」
イアリの声が届いた。直後、門は閉ざされた。
「うわわわわ!」
ぐねりと捻じ曲がった空間。上下間隔が分からなくなる。しかし、不思議と負荷はなく通り過ぎて行く。
そして視界が明るくなり、気がつくと地面に足が付いていた。
「……な、なんだ」
「……着いたの?」
アーガイルの言葉に、エレンは辺りを見渡す。そこは何もない広場だった。向こうに街が広がっている。
「……ここが天界……?」
見上げた空から降り注ぐ光は、とても柔らかなものだった。暑さを感じない。太陽などの熱光源ではないようだった。
「な。来るのは簡単だったろ」
グレンを下ろしたゼイアが、皆の前に立って言う。そしてエレンの顔を見て眉を上げる。
「何だその顔は」
「いや……なんか拍子抜けっていうか」
ものの数秒だった。ふと振り向くと、さっき飛び込んだのと同じような混沌が大きな門の奥に広がっている。
「……間違っても飛び込むなよ、そこに」
「え」
「これは“帰還門”。天界へ来る方の扉だ。その先は行き先のない次元の狭間だ」
「えぇ……」
じゃあどうやって帰るのか、とそう訊こうと思った時、ガシャ、と周りで音がした。
ふと気がつくと、周りを鎧に包囲されている。
「……つ、翼の生えた奴がいっぱい……」
「当たり前だろ。ここは天界だ」
ゼイアとは違う、純白の翼を持った者たち────神徒が自分たちを囲んでいた。やっぱりマズかったか? とエレンたちは警戒した。しかし、やがてその中から一人の神徒が出て来ると、頭を下げた。
「────お帰りなさいませ、セレク卿」
「……エクレス……」
ゼイアがそう呼ぶと、彼は顔を上げた。壮年に見える上品そうな神徒だった。
「長旅、ご苦労様でした。アル様がお待ちです」
「……あぁ」
その時ようやく、ゼイアの顔にあった緊張が解けた。その時エレンは、彼の素直な笑顔を初めて見た。
* * *
「セレク卿のおられぬ間に、様々な改革がございました」
数人の兵士を連れ立って、エレンたちは街の中を歩いていた。目指す先は王宮だという。先頭を歩くゼイアに並んで、エクレスは話を始めた。
ゼイアの紹介によると、彼は元々彼の家に仕えていた使用人で、今は兵士として働いているのだという。
「何より、魔族殲滅隊の廃止が大きな変化でしょう」
「無くなったのか?」
「はい。人員不足が重なりまして。今は神兵團と名を変えて、貴族以外の神徒も多く所属しております」
「エクレス、お前は……」
「私はまだ権天使ですので、まだ聖團におります」
エレンたちにはよく分からない話だ。しかしゼイアの真剣な表情からして、質問する気にはなれなかった。
「……恐れながらセレク卿、そちらの方々は?」
「あぁ、連れだ」
そう言ってゼイアは、横を歩くグレンの頭をぽんと撫でる。グレンは不服そうな顔をした。
「見たところ、人間と存じますが」
「そうだ」
あれ、これ本当に大丈夫なのかとエレンは思う。しかしその心配とは裏腹に、エクレスは表情を緩めた。
「それはそれは。アル様もお喜びになりますね」
「だといいな」
ふ、とゼイアは笑う。ここに来てから彼のそんな顔ばかりだ。
「……ねぇ、なんか入りにくい雰囲気だよね」
アーガイルがそう話しかけてくる。エレンは頷く。
「ゼイアってなんか……すげー奴だったのかな」
「ていうかちょっとシュールじゃない?」
後ろから見ると、悪魔と神徒が並んで歩いている。白い翼の神徒は初めて見たが、この中でゼイアはやはり異質だった。
と、そんな話をヒソヒソとしていた時、どこからか声が飛んで来た。
「ビアス?! ビアスじゃないか?!」
「あ? ……あ」
斜め上から青い髪の神徒が飛来して、ゼイアに飛びついた。勢いでどたっとゼイアは後ろへ倒れる。
「うぉあっ!! サファラてめっ……」
「うわー! 本当にビアスだ!」
サファラと呼ばれた神徒は、ゼイアから離れると感激した様子で彼の顔を触る。
「やめろ! ったく……相変わらずだな……」
「お前もな。へへ、夢みたいだ」
跳ね除けられてなお、サファラは笑う。ゼイアは悪態を吐いているが……エレンはその時、彼の目尻に光るものを見た。
* * *
「へーえ、じゃあその小っちゃいのが今のお前の“体”ってわけ」
エクレスたちと別れ、一行にサファラが加わった状態で街を進む。ゼイアはグレンを見下ろして答えた。
「……そうなるな」
サファラはグレンを見て笑う。
「なんか変な感じ」
「……何だよ」
グレンはムスッとして答えた。サファラは無邪気な笑みを返すとエレンたちの方を見た。
「そっちは?」
「下界での仲間だ。そこ二人はコイツの弟」
「え? 弟?」
エレンとケレンを見てサファラは目を丸くする。今はどう見たってグレンの方が弟だ。
「俺の宿主は魔障の影響で小さくなってるだけだ。元はちゃんとした大人だよ」
「じゃあ……浄化するのって」
「コイツと、あとそこのと……」
と、ゼイアは後ろを歩くロレンを顎で指した。
「……あいつはどういう?」
「悪魔と人間のハーフだ。まだ覚醒し切ってはいないが、早く浄化しないとマズい」
「ええっ! それって拘束しなくて大丈夫……」
「今は俺の封印式を掛けてある」
「そうか、じゃあ心配ないか」
サファラはケロッとして言った。ゼイアへの信頼は厚いようだった。
「……なあ」
「ん?」
グレンがゼイアの袖を引っ張った。
「そろそろそいつのこと紹介してくれよ」
「……あぁ、そうだな」
と、ゼイアは立ち止まると振り返り、隣の神徒を親指で指差すと言った。
「コイツはサファラ。俺の同期で友人だ。よろしく」
「ってェ、軽ッ!」
ずっこけながらサファラはツッコむ。
「何がだよ」
「もっとマシな紹介ねェのかよ。ったく……」
と、サファラは咳払いすると笑顔を浮かべてゼイアの肩を持つ。
「っと、こいつの雑な紹介に加えて……俺はサファラ・エレスカ。四大貴族エレスカ家の出身で、ビアスとは大親友だ!」
「おい……」
「よろしく!」
随分と明朗な神徒だ。何というか、神徒のイメージと違う。
「あと……階級は智天使だ! こいつと一緒。呼び方はそうだな……サファラでいいよ。ビアスの友達ならな」
「お前その呼び方やめろ……今はゼイアだ。……って、何でお前まだ智天使なんだ」
「何でって?」
きょとんとしてサファラは訊き返す。ゼイアは眉を顰めた。
「……お前なら今頃熾天使に……」
「あぁ、蹴ったよ」
「蹴っただぁ?!」
愕然とするゼイアの袖を、グレンが引っ張る。
「……なぁ、してんし、ちてんしって?」
するとサファラがにこりと笑って答える。
「あぁ、神徒の階級だよ。八段階あって……一番上が熾天使で、二番目が智天使なんだ。智天使は十二人いて、そこから熾天使に誰かが昇格すると次の智天使が決まる」
「へえ、じゃあすごいのか」
と、グレンはゼイアを見る。ゼイアは難しい顔をして目を伏せると、サファラの方へ視線を戻した。
「……で。昇格の話が来ておきながらどうして……あんなに熾天使になるって息巻いていたのに」
「いや。お前が帰って来たら寂しがるかと思ってさ」
「んなっ……馬鹿……!」
「なんてのは冗談で。俺の命はお前のお陰であるんだ。それなのに、お前より先に昇格するのはナシだろ」
にへら、と笑ってサファラは肩を竦める。それを聞いたゼイアの表情からして、彼がゼイアの堕天に関わっているのだろうとエレンたちは察した。
「で、俺もそっちの名前は聞いてないんだけど」
「……あぁ」
と、ゼイアは「自分で言え」とばかりにエレンたちに視線を送った。
「……エレン・レオノールだ。それの上の弟……」
と、グレンを指差す。グレンはムッとしてからサファラを見上げた。
「おれはグレン。一応ゼイアの宿主……っぽい」
「ぽい?」
「自覚がねェんだ、記憶がなくて」
ゼイアがため息混じりに言う。そうか、とサファラは頷いた。
「えっと……ケレン・レオノールです。下の弟です」
「僕はアーガイル・エウィン。まぁあの……付き添いです」
「何だそれ……」
アーガイルの妙な自己紹介にエレンは思わずツッコむ。アーガイルは目を逸らした。
「ロレン・レミエルです。……一応まだ人間です」
気まずそうに言うロレンの言葉を、サファラは笑い飛ばす。
「はは! まぁ角もないしな。大丈夫、ビアスの魔術の腕は一流なんだ。心配いらねェって」
と、サファラはゼイアと肩を組む。ゼイアは辟易とした顔をしてため息を吐いた。
「……早くアル様のところへ行くぞ」
「あぁ、そうだった。アル様も喜ぶだろうな」
ぽんぽんとゼイアの肩を叩いて、サファラは歩き出す。ゼイアもそれに続き、エレンたちも足を再び踏み出した。
#91 END
To be continued...
その日は晴れていた。昨晩降った雨により、森の中は心地よい空気に包まれていた。
ゼイアが指定した場所に皆が集まっている。その拓けた場所は葉っぱ一つなく掃除され、チョークで大きな魔法陣が描かれていた。
「……まだ踏むなよ。全部台無しになる」
グレンを肩に乗せたゼイアがそう言う。その目の怖さにエレンたちはコクコクと頷く。
「いいか、これから門を開ける。そんなに長くは開いてないぞ。さっさと通れ」
「分かった……」
エレンが答えると、ゼイアは剣を呼び出し、逆手に持つと魔法陣へと突き出した。
「“Koryan welte, Yeno welte. Ald ge absal laph……」
エレンたちには分からない言語でゼイアは詠唱を始める。いつもと違って長そうだ。
「Kolt, Sagan, Phana oa ven welte zekleation」
ゼイアは魔法陣に剣を突き立てる。すると魔力がそこへ流れる気配がした。
「Nelf palalel bec”!」
辺りの空間が捻れた気がした。いや、実際魔法陣の中心に空間の歪みが出来ている。それは徐々に広がり、やがて魔法陣を覆い尽くした。そこには混沌が広がっている。
「よし、成功だ。行くぞ」
「この中に……?」
「当たり前だ。俺は最後に行く。順番に飛び込め」
そう言われても、この中へ飛び込むにはなかなか勇気がいる。そもそも上へ行くんじゃないのか? とエレンは疑問に思うが、それを問うている暇はない。
エレンは振り向くと、見送りに下がっているイアリたちに声を掛ける。
「じゃあ、行って来る……」
「気を付けてな!」
「おう」
イアリの言葉に、エレンは頷く。しかしどうも足が竦む。飛び降りるのはどちらかと言うと得意なのだが。
「何グズグズしてんだ! とっとと行け」
「うわ!」
後ろに回って来たゼイアがエレンを、そしてアーガイル、ケレン、ロレンを次々と投げ込む。
「まだ心の準備が!」
「「うわーー!」」
最後にゼイアがグレンを連れて飛び込んだ。
「無事に帰って来いよー!」
イアリの声が届いた。直後、門は閉ざされた。
「うわわわわ!」
ぐねりと捻じ曲がった空間。上下間隔が分からなくなる。しかし、不思議と負荷はなく通り過ぎて行く。
そして視界が明るくなり、気がつくと地面に足が付いていた。
「……な、なんだ」
「……着いたの?」
アーガイルの言葉に、エレンは辺りを見渡す。そこは何もない広場だった。向こうに街が広がっている。
「……ここが天界……?」
見上げた空から降り注ぐ光は、とても柔らかなものだった。暑さを感じない。太陽などの熱光源ではないようだった。
「な。来るのは簡単だったろ」
グレンを下ろしたゼイアが、皆の前に立って言う。そしてエレンの顔を見て眉を上げる。
「何だその顔は」
「いや……なんか拍子抜けっていうか」
ものの数秒だった。ふと振り向くと、さっき飛び込んだのと同じような混沌が大きな門の奥に広がっている。
「……間違っても飛び込むなよ、そこに」
「え」
「これは“帰還門”。天界へ来る方の扉だ。その先は行き先のない次元の狭間だ」
「えぇ……」
じゃあどうやって帰るのか、とそう訊こうと思った時、ガシャ、と周りで音がした。
ふと気がつくと、周りを鎧に包囲されている。
「……つ、翼の生えた奴がいっぱい……」
「当たり前だろ。ここは天界だ」
ゼイアとは違う、純白の翼を持った者たち────神徒が自分たちを囲んでいた。やっぱりマズかったか? とエレンたちは警戒した。しかし、やがてその中から一人の神徒が出て来ると、頭を下げた。
「────お帰りなさいませ、セレク卿」
「……エクレス……」
ゼイアがそう呼ぶと、彼は顔を上げた。壮年に見える上品そうな神徒だった。
「長旅、ご苦労様でした。アル様がお待ちです」
「……あぁ」
その時ようやく、ゼイアの顔にあった緊張が解けた。その時エレンは、彼の素直な笑顔を初めて見た。
* * *
「セレク卿のおられぬ間に、様々な改革がございました」
数人の兵士を連れ立って、エレンたちは街の中を歩いていた。目指す先は王宮だという。先頭を歩くゼイアに並んで、エクレスは話を始めた。
ゼイアの紹介によると、彼は元々彼の家に仕えていた使用人で、今は兵士として働いているのだという。
「何より、魔族殲滅隊の廃止が大きな変化でしょう」
「無くなったのか?」
「はい。人員不足が重なりまして。今は神兵團と名を変えて、貴族以外の神徒も多く所属しております」
「エクレス、お前は……」
「私はまだ権天使ですので、まだ聖團におります」
エレンたちにはよく分からない話だ。しかしゼイアの真剣な表情からして、質問する気にはなれなかった。
「……恐れながらセレク卿、そちらの方々は?」
「あぁ、連れだ」
そう言ってゼイアは、横を歩くグレンの頭をぽんと撫でる。グレンは不服そうな顔をした。
「見たところ、人間と存じますが」
「そうだ」
あれ、これ本当に大丈夫なのかとエレンは思う。しかしその心配とは裏腹に、エクレスは表情を緩めた。
「それはそれは。アル様もお喜びになりますね」
「だといいな」
ふ、とゼイアは笑う。ここに来てから彼のそんな顔ばかりだ。
「……ねぇ、なんか入りにくい雰囲気だよね」
アーガイルがそう話しかけてくる。エレンは頷く。
「ゼイアってなんか……すげー奴だったのかな」
「ていうかちょっとシュールじゃない?」
後ろから見ると、悪魔と神徒が並んで歩いている。白い翼の神徒は初めて見たが、この中でゼイアはやはり異質だった。
と、そんな話をヒソヒソとしていた時、どこからか声が飛んで来た。
「ビアス?! ビアスじゃないか?!」
「あ? ……あ」
斜め上から青い髪の神徒が飛来して、ゼイアに飛びついた。勢いでどたっとゼイアは後ろへ倒れる。
「うぉあっ!! サファラてめっ……」
「うわー! 本当にビアスだ!」
サファラと呼ばれた神徒は、ゼイアから離れると感激した様子で彼の顔を触る。
「やめろ! ったく……相変わらずだな……」
「お前もな。へへ、夢みたいだ」
跳ね除けられてなお、サファラは笑う。ゼイアは悪態を吐いているが……エレンはその時、彼の目尻に光るものを見た。
* * *
「へーえ、じゃあその小っちゃいのが今のお前の“体”ってわけ」
エクレスたちと別れ、一行にサファラが加わった状態で街を進む。ゼイアはグレンを見下ろして答えた。
「……そうなるな」
サファラはグレンを見て笑う。
「なんか変な感じ」
「……何だよ」
グレンはムスッとして答えた。サファラは無邪気な笑みを返すとエレンたちの方を見た。
「そっちは?」
「下界での仲間だ。そこ二人はコイツの弟」
「え? 弟?」
エレンとケレンを見てサファラは目を丸くする。今はどう見たってグレンの方が弟だ。
「俺の宿主は魔障の影響で小さくなってるだけだ。元はちゃんとした大人だよ」
「じゃあ……浄化するのって」
「コイツと、あとそこのと……」
と、ゼイアは後ろを歩くロレンを顎で指した。
「……あいつはどういう?」
「悪魔と人間のハーフだ。まだ覚醒し切ってはいないが、早く浄化しないとマズい」
「ええっ! それって拘束しなくて大丈夫……」
「今は俺の封印式を掛けてある」
「そうか、じゃあ心配ないか」
サファラはケロッとして言った。ゼイアへの信頼は厚いようだった。
「……なあ」
「ん?」
グレンがゼイアの袖を引っ張った。
「そろそろそいつのこと紹介してくれよ」
「……あぁ、そうだな」
と、ゼイアは立ち止まると振り返り、隣の神徒を親指で指差すと言った。
「コイツはサファラ。俺の同期で友人だ。よろしく」
「ってェ、軽ッ!」
ずっこけながらサファラはツッコむ。
「何がだよ」
「もっとマシな紹介ねェのかよ。ったく……」
と、サファラは咳払いすると笑顔を浮かべてゼイアの肩を持つ。
「っと、こいつの雑な紹介に加えて……俺はサファラ・エレスカ。四大貴族エレスカ家の出身で、ビアスとは大親友だ!」
「おい……」
「よろしく!」
随分と明朗な神徒だ。何というか、神徒のイメージと違う。
「あと……階級は智天使だ! こいつと一緒。呼び方はそうだな……サファラでいいよ。ビアスの友達ならな」
「お前その呼び方やめろ……今はゼイアだ。……って、何でお前まだ智天使なんだ」
「何でって?」
きょとんとしてサファラは訊き返す。ゼイアは眉を顰めた。
「……お前なら今頃熾天使に……」
「あぁ、蹴ったよ」
「蹴っただぁ?!」
愕然とするゼイアの袖を、グレンが引っ張る。
「……なぁ、してんし、ちてんしって?」
するとサファラがにこりと笑って答える。
「あぁ、神徒の階級だよ。八段階あって……一番上が熾天使で、二番目が智天使なんだ。智天使は十二人いて、そこから熾天使に誰かが昇格すると次の智天使が決まる」
「へえ、じゃあすごいのか」
と、グレンはゼイアを見る。ゼイアは難しい顔をして目を伏せると、サファラの方へ視線を戻した。
「……で。昇格の話が来ておきながらどうして……あんなに熾天使になるって息巻いていたのに」
「いや。お前が帰って来たら寂しがるかと思ってさ」
「んなっ……馬鹿……!」
「なんてのは冗談で。俺の命はお前のお陰であるんだ。それなのに、お前より先に昇格するのはナシだろ」
にへら、と笑ってサファラは肩を竦める。それを聞いたゼイアの表情からして、彼がゼイアの堕天に関わっているのだろうとエレンたちは察した。
「で、俺もそっちの名前は聞いてないんだけど」
「……あぁ」
と、ゼイアは「自分で言え」とばかりにエレンたちに視線を送った。
「……エレン・レオノールだ。それの上の弟……」
と、グレンを指差す。グレンはムッとしてからサファラを見上げた。
「おれはグレン。一応ゼイアの宿主……っぽい」
「ぽい?」
「自覚がねェんだ、記憶がなくて」
ゼイアがため息混じりに言う。そうか、とサファラは頷いた。
「えっと……ケレン・レオノールです。下の弟です」
「僕はアーガイル・エウィン。まぁあの……付き添いです」
「何だそれ……」
アーガイルの妙な自己紹介にエレンは思わずツッコむ。アーガイルは目を逸らした。
「ロレン・レミエルです。……一応まだ人間です」
気まずそうに言うロレンの言葉を、サファラは笑い飛ばす。
「はは! まぁ角もないしな。大丈夫、ビアスの魔術の腕は一流なんだ。心配いらねェって」
と、サファラはゼイアと肩を組む。ゼイアは辟易とした顔をしてため息を吐いた。
「……早くアル様のところへ行くぞ」
「あぁ、そうだった。アル様も喜ぶだろうな」
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