おぼろ月

春想亭 桜木春緒

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第二章

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 月子が源治の肘の辺りを掴み、爪が、彼の肌を少し傷つけた。
 その華奢な身体を逃さないように捕え、源治は月子を犯す。乙女らしく感触が硬い。
 彼を押し出そうとしているのか、吸い込もうとしているのか。源治は彼のそれに絡む月子の身体に悩乱した。つい先ほどまであれほど、そうすることを躊躇っていたのに、それを忘れたように激しく月子を突き上げた。
 悲痛な声が湧いた。

 初めて通じるときの女は痛みを伴うと聞いたことはある。まして月子はか細い少女だ。眼下で苦しそうに身悶えている。同情を覚える。労わらなければと頭では思う。
 それでも、身体が感じる快さは絶佳である。許してくれ、と何度も言った。
 月子の膝裏に腕を絡め褥に手をついて、源治は月子の身体に己の楔を打ち込む。力を篭めるたびに月子の睫毛の下に涙が滲む。辛いだろうかと懸念して月子を見つめながらも、身体が悦楽を追うことを止められない。未熟な月子は源治を受容しきらないが、それでも彼女の往還は彼にとってあまりに快い。
 苦しげに身を捩る華奢な肢体に許しを請いながら、源治は惑乱の中で苛烈なほどに月子の深奥を追い求めた。
 白い顎が跳ね上がる。
 初めて暴かれたその箇所を、源治が突き破っていくのを月子は感じている。身体を穿つ痛みに、啼いた。

 月子の身体を離し、汗ばんだ身体を鎮めながら源治はひどい後悔に襲われている。
 そういう宿であるから、褥の傍らに枕紙が用意されている。それを取って、残滓を拭う。己が血塗られている。それは破瓜の血である。月子のそれである。
 溜息をつきながら、源治は着ていた物の袂から手ぬぐいを出し、鉄瓶の湯を少し落として湿らせた。
「辛い、でしょう」
 呆然と横たわった月子の身体を、源治はその手で拭う。
「そのような……」
「いえ……」
 わずかに抗った月子を制し、彼は月子の肌を拭い、秘所の汚れを拭う。拭って、清らかになるものではない。それでも、そうせずにいられなかった。
 月子の白い胸元に、源治が吸い付いた跡が残っていた。
 身体で踏みしだいていた夜着を引き出して月子の裸体を覆う。
 そうしながら、源治はなぜか、泣けてきて止まらなかった。

「許してください」
 言って、何が変わるものではない。為してしまった事が消えるわけではない。己の愚かしさが消えるわけではない。
 それでも、夜着に包んだ月子を固く抱いて、許してくれと源治は訴え続けた。
「泣かないで下さい……」
 夜着の中から手を出して、月子は源治の頬を撫でた。指先が彼の涙で濡れる。
 うなずきながら、源治は月子の額に額を付けた。己の滑稽さに腹が立った。
 泣くのは月子のほうのはずだ。源治は思う。男に買われ、清浄だった身を汚された。まだ少女のか細い身体が痛々しい。苦しげだったのも、月子を犯した当人の源治自身が、よく解っている。
 それなのに、月子に源治は泣くなと慰められている。慰めなくて良い。むしろ罵倒されてしかるべきだ。罵り、殴打し、足蹴にして踏みつけてくれて良い。そうされても源治は抗わない。月子の気が済むまで殴られ、蹴られていたいと思う。
 月子の手が、源治の頬を、弟妹に触れるような優しさでそっと撫でている。日々の家事で荒れて、乾いた指先だ。細くて白い。
 この働き者の優しい手をした娘がどうして、なお辛い目にあわねばならないのか。
 悲しくなった。
 そしてなお深く、月子が愛しくなった。

 気づけば、源治はまた月子の唇を貪っている。
 月子を包んだ夜着の中に、身体を入れた。びくりと震えた肌を撫でる。下肢の素肌が触れる。
「許してください」
月子の耳朶を噛みながら源治は言った。月子はうなずいた。だがそれが免罪符になるとは源治は思っていない。
 許せと訴えて、月子にうなずかせる己の狡さが腹立たしい。愛しいと感得した途端に、熱くなった下腹のそれが忌々しい。
 駄目だと、ふと呟く。
 夜着の中で源治は身を起こした。
 月子は、初めては貴方が良いと言った。そんな言い訳を胸の奥で源治は考えた。先ほどのことはそれでかろうじて許される可能性もある。だが二度は、ない。
「いえ……、やめないで」
 月子は少し呼気を乱しながら首を横に振った。潤んだ目が強く源治を見つめていた。
「……教えて。男の人のすることを」
「月子」
 挑むような月子の言葉に、その瞳に宿る光に、かっ、とこめかみに血が上ったのを感じる。
 昂ぶるままに白い乳房を口に含んだ。月子が呻いたのが聞こえた。

 月子、と源治はいつの間にか呼び捨てに彼女の名を言う。何度も月子の耳元でそう呼ぶ。
「源治さん……」
 呼ばれるたびに月子は呼応した。髪が乱れかかる首筋を源治の唇が滑る。あえかな胸の膨らみをその手が掴んでいる。やわやわと滑らかで、どこか未熟で固い。
 絶え入るような月子の声がやまない。半ば閉じた目蓋の下に、しずくが滲む。
 幾度目か、源治が月子の中に居る。
 髷の崩れた黒髪の上に掌を重ね、指を絡めた。
 時雨に似た音色とともに月子の濡れた襞を源治が疾走するように往来する。
「……」
 切れ切れのかすれた吐息の下で、華奢な背が反りかえる。
 褥から浮いた身体を浅黒い腕が引き寄せ、深く、重なった。
 耳に響くの激しい血流の音の中で、月子を呼ばう源治の声が遠い。
 やがてその声も、身体の芯に醸された熱の中に白く解けて消えた。

 朝になり、源治は薄い粗末な褥に眠ったままの月子を置いて、部屋の外へ出た。
 階下の帳場に居汚く眠る女将がいた。
「おい」
 横柄に声をかけて目を覚まさせる。
「遣り手は居るか?」
 昨日の、あの口元の引き攣れた醜い男を呼ばせた。女衒というべきなのか遣り手と言うべきなのか、いずれにせよ女に身を売らせる立場の者を指す言葉だ。どちらで呼んでも通じるだろう。
 宿のどこかで酒を食らって寝ていたらしい。脂ぎった顔をして、酒精が臭う。廊下の奥からげっぷをしながら現れた。
 一分金を指ではじいて男に投げ与え
「今夜もあの娘をもらう」
 と、言った。
「少ねえな」
「相場よりは良いはずだ。昨日が払いすぎた。あの娘にちゃんと渡せよ」
「ふん」
 腕組みをして睨み下ろした源治の眼差しが鋭い。男は少し怯んだように頷いた。 

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