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【一章】僕が最強モンスター職を手に入れるまで
透明でぷるぷる ゼリーなあいつ
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目の前に立ちはだかる金属質の重厚な扉。
そういうと、どう考えても不思議な力で開きそうだろ?
呪文を唱えると開くとか手をかざすと光を放ちながら扉が消えるとか……。
でも、実際は違った。完全なる手動だ。
しかも、僕が自力で開けることになった。いや、開けさせられたと言った方がいい。ふたりは後ろでただ見守っているだけ。
花火さんは腕組みして、仁王立ちまでしている。
「がんばれ~、グミく~ん」
星蘭さんは辛うじて応援してくれているだけマシか。いやだからこそ、タチ悪いのか?
なんて考えているうちに、ようやく扉が開いた。
「ぜえ……ぜえ……」
さすが金属質。見た目通り重い扉だった。
でもそれは別にいい。
そんなことより扉を開いた途端、ふたりが涼しい顔をして僕の横をすり抜けて行ったのには驚きを通り越してあきれた。
ありがとうの一言もないんだもん。
……めちゃくちゃ美人だからって調子に乗りやがって。
甘やかして育てた親の責任でもあるんじゃないのか。
ここはひとつ礼儀を教えるついでに、溜まった不満でもぶつけてやるか。
そう思って口を開きかけたのだけど。
「あっ、そうそう。グミくん、ありがとう~」
「サンキュ、グミ! そんなとこ突っ立ってないで、はやくこっち来なよ」
うぐぐ……。なんなんだよ。
少し嬉しくなってる自分が情けない。
感謝を言われたというより、ちゃんと仲間だと思われている気がしたからだ。
少しだけ目頭が熱くなった。
礼も忘れるほど、ダンジョンに夢中だったのかも。吸い込まれるように中へ入っていったし。とりあえず、そう受け止めておくか。
不満はもうちょっとしてからぶつけてやってもいいだろう。
とにかくも僕はまぶたをごしごし擦りながら、ダンジョンに足を踏み入れた。
その瞬間、
「おっ? おおっ⁉」
突然、我が身に起こった異変に仰天する。
自分の身体が淡い光に包まれたからだ。 ぽや~んと不思議な青白い光。
一方で、花火さんや星蘭さんには僕に起こったような異変は見られない。
これはまさか!
僕だけ特別扱いされたんだ!
ザ・優越感!
選ばれし者的な??
「ほらほら、どうです? なんか僕だけこれ見よがしに光ってますよ!」
ところが、なんだろう。ふたりは驚いたりとか、ましてや悔しがっている様子もない。
「あー、それね。うちらもあったあった」
「そうなんだよぉ。私たちも昨日そんな風に光ったんだよね~」
「えっ」と僕は口を開けた。
花火さんは頭をかきながら、
「なにこれって思ったけど、認証的なこと? されてるんかなって推理してたんじゃ」
「グミ君も光ったってことは、その線ますますあり得るよねぇ」
はい?
つまり、初入場すると身体が光るってこと?
みんな?
僕だけじゃなくて?
だとすると単なるぬかよろこび?
どや顔してた自分がめちゃくちゃ恥ずかしい。
「はあぁ……認証ですか……確かに……」
なんかすごい力を得たとか。確かにそんな感じはまるでしない。相変わらずのヒョロガリボディのままだし、坂を登ってきた足は痛いままだし。
ふたりの話が本当なら、少なくとも千人にひとりの伝説の勇者なんてものではなさそうだ。
「どうしたん、グミ? 顔赤いよ?」
「さっき踏んばり過ぎたのかな? 無理させてごめんね」
僕は顔をぶるぶるさせてから、がっくり肩を落とした。
「……いえ、先を進みましょう」
しかし、歩きだして間もなく、恥ずかしいなんて感情はすぐに消えた。
内装というか迷宮内の造りに、たちまち意識を奪われてしまったからだ。
「す、すごい……。通路がどこまでも続いている」
じゃろ? と言わんばかりに、花火さんが横目で僕を見た。
僕はペタペタと壁を触った。
レンガを積み上げたような壁だが、手触りはつるつるとしている。地上にある材質で何が近いと言われてもすぐには答えられない。強いて言うならセラミック?
そして道幅は、だいたい四、五人が並んで歩けるほどだろうか。
閉塞感はないが、決して広くもない。
通路は真っ直ぐに伸びては曲がりを繰り返し、まさしく迷路のように入りくんでいた。
明らかに人工物。なのにどこか人工物と言いきれない不思議な感じもする。
人知を超えた存在の息吹を背後に感じるとでも言おうか。
造りは極めて精巧でも、ダンジョンが存在する目的や意図がいまいち掴めないのだ。
神々の暇つぶし?
人間を超越した何者かが、気まぐれで作ったのだろうか?
そんな風にも思いたくなるくらい謎めいた迷宮に、僕は引き込まれていた。
スマホの明かりを頼りにしながら、夢中で先へ先へと進んでいたんだと思う。
やがて僕は思い出したように、こんな疑問を口にした。
「それじゃあ。ふたりは昨日、どこまで進んだんですか?」
そう言ってみて、ふと疑問とは別に、あることに気が付いた。いつの間にか僕が先頭を進んでいたのだ。
少し歩くスピードが速かっただろうか。
いや、違う。
並んで歩けるほど通路は広いのに、ふたりは僕のやや後方をそろそろと歩いていた。
「昨日はね」左斜め後ろを歩く星蘭さんが先に答えた。「ダンジョンに入ってすぐに引き返しちゃったんだ」
僕が気を使ってせっかく歩速を緩めたのに、星蘭さんは話しながらさらにペースを落とした。
放課後だし、今日は体育もあったし、歩き疲れたのかな?
心配しつつ僕もさらにペースを落とす。
「じゃからね。こんなに進んだのは初めてなんよ」
そう付け加える花火さんはもう動き止まってるんじゃないかってくらいトロい。
どこまで探索を進めたなんてことより、彼女たちの歩みの遅さの方が気になって仕方なかった。
「どうしたんです、ふたりとも。疲れたなら引き返しましょうか?」
たまりかねた僕はとうとう丁字路の突き当りで歩みを止めた。
そして肩をすくめながら背後を振り返った。
その直後━━
「グミ! 危ない!」
「グミ君、後ろ‼」
悲鳴に近い勢いで、ふたりが同時に叫んだ。
僕は声に驚き、びくっと硬直していた。
「へぶっ⁉」
突然、顔面に衝撃が走る。
痛烈に頬を叩かれたのだと理解した瞬間、バチンッと破裂するような音が響いた。
脳が揺れるほどの衝撃が顔面を襲う。
「なっ⁉」
僕はぐるんと身をひねらせながらも、ダンと足を踏み出し、なんとか持ちこたえる。
一瞬、顔がふき飛んだのではないかとさえ思った。
「うぐぅ……いったいなんだよ……⁉」
軽く脳震盪を起こしたのだろう。
吹っ飛びそうになる意識をなんとか保つ。
「な、なんだ……こいつ⁉」
ぐるぐるする視線を意志の力だけで正面に定めると、ぷるんぷるんとした透明な物体が目に飛び込んできた。
ゼリー状の、生き物と呼んでいいのかわからないがとにかく有機的に動いている物体がそこにいた。
スライムだと、おそらく多くの人はそう思ったんじゃないかな。
あの、まさしく序盤の敵にふさわしい、戦い方の初歩を覚えるためだとか、レベル上げのためだけに存在するあいつ。
僕も最初はそう思った。そう思いたかった。
「スライム……じゃない!」
それは人型をしていた。
二本の足で立ち、体長は160cmぐらい。
偉そうに両手を腰に当てている。
もちろん顔も透明なゼリー状で、表情のようなものは一切見えない。
奇妙というより完全に不気味だった。
「なにっ、こいつ⁉」
それがゲームでさんざん見慣れたスライムなら、もう少し心構えというか、スムーズな対処もできていたかもしれない。
よし、さっそく現れたな!
ってね。でも、人型は流石に無理だ。
不気味すぎる。予告もなしにこれはツラい。
「ひっ、ひぇっ⁉」
「グミ、よけて‼」「グミ君!」
とにかくその時、背後にいるふたりが同時に叫んでくれた。
でも、どこから来る攻撃をどう避ければ良かったというのだろう。
ゼリー状の人型モンスターは、腰に当てていた手をしゅるるると僕に向かって伸ばした。
まるで鞭のよう。凄まじい速度で、顎にクリーンヒット!
やり手のボクサーかよ。
水族館のイルカみたいに、ざっぱーんと真上に打ち上げられていた。
柔らかい脳みそがグリングリン揺れる音を、僕は確かに聞いたのだ。
「やばっ、グミがやられちゃった!」
「グミ君、しっかり!」
ゆっくりと遠のいていく意識のなかで、ふたりの声が聞こえた。
どさりと地面に落ちた僕は、両脇からふたりに担ぎ上げられ、ずるずると足を引きずりながら来た道を戻ることとなった。
辛うじて意識があったのはそこまでだ。
またかよ。
また僕は気を失う……の……か…………。
そういうと、どう考えても不思議な力で開きそうだろ?
呪文を唱えると開くとか手をかざすと光を放ちながら扉が消えるとか……。
でも、実際は違った。完全なる手動だ。
しかも、僕が自力で開けることになった。いや、開けさせられたと言った方がいい。ふたりは後ろでただ見守っているだけ。
花火さんは腕組みして、仁王立ちまでしている。
「がんばれ~、グミく~ん」
星蘭さんは辛うじて応援してくれているだけマシか。いやだからこそ、タチ悪いのか?
なんて考えているうちに、ようやく扉が開いた。
「ぜえ……ぜえ……」
さすが金属質。見た目通り重い扉だった。
でもそれは別にいい。
そんなことより扉を開いた途端、ふたりが涼しい顔をして僕の横をすり抜けて行ったのには驚きを通り越してあきれた。
ありがとうの一言もないんだもん。
……めちゃくちゃ美人だからって調子に乗りやがって。
甘やかして育てた親の責任でもあるんじゃないのか。
ここはひとつ礼儀を教えるついでに、溜まった不満でもぶつけてやるか。
そう思って口を開きかけたのだけど。
「あっ、そうそう。グミくん、ありがとう~」
「サンキュ、グミ! そんなとこ突っ立ってないで、はやくこっち来なよ」
うぐぐ……。なんなんだよ。
少し嬉しくなってる自分が情けない。
感謝を言われたというより、ちゃんと仲間だと思われている気がしたからだ。
少しだけ目頭が熱くなった。
礼も忘れるほど、ダンジョンに夢中だったのかも。吸い込まれるように中へ入っていったし。とりあえず、そう受け止めておくか。
不満はもうちょっとしてからぶつけてやってもいいだろう。
とにかくも僕はまぶたをごしごし擦りながら、ダンジョンに足を踏み入れた。
その瞬間、
「おっ? おおっ⁉」
突然、我が身に起こった異変に仰天する。
自分の身体が淡い光に包まれたからだ。 ぽや~んと不思議な青白い光。
一方で、花火さんや星蘭さんには僕に起こったような異変は見られない。
これはまさか!
僕だけ特別扱いされたんだ!
ザ・優越感!
選ばれし者的な??
「ほらほら、どうです? なんか僕だけこれ見よがしに光ってますよ!」
ところが、なんだろう。ふたりは驚いたりとか、ましてや悔しがっている様子もない。
「あー、それね。うちらもあったあった」
「そうなんだよぉ。私たちも昨日そんな風に光ったんだよね~」
「えっ」と僕は口を開けた。
花火さんは頭をかきながら、
「なにこれって思ったけど、認証的なこと? されてるんかなって推理してたんじゃ」
「グミ君も光ったってことは、その線ますますあり得るよねぇ」
はい?
つまり、初入場すると身体が光るってこと?
みんな?
僕だけじゃなくて?
だとすると単なるぬかよろこび?
どや顔してた自分がめちゃくちゃ恥ずかしい。
「はあぁ……認証ですか……確かに……」
なんかすごい力を得たとか。確かにそんな感じはまるでしない。相変わらずのヒョロガリボディのままだし、坂を登ってきた足は痛いままだし。
ふたりの話が本当なら、少なくとも千人にひとりの伝説の勇者なんてものではなさそうだ。
「どうしたん、グミ? 顔赤いよ?」
「さっき踏んばり過ぎたのかな? 無理させてごめんね」
僕は顔をぶるぶるさせてから、がっくり肩を落とした。
「……いえ、先を進みましょう」
しかし、歩きだして間もなく、恥ずかしいなんて感情はすぐに消えた。
内装というか迷宮内の造りに、たちまち意識を奪われてしまったからだ。
「す、すごい……。通路がどこまでも続いている」
じゃろ? と言わんばかりに、花火さんが横目で僕を見た。
僕はペタペタと壁を触った。
レンガを積み上げたような壁だが、手触りはつるつるとしている。地上にある材質で何が近いと言われてもすぐには答えられない。強いて言うならセラミック?
そして道幅は、だいたい四、五人が並んで歩けるほどだろうか。
閉塞感はないが、決して広くもない。
通路は真っ直ぐに伸びては曲がりを繰り返し、まさしく迷路のように入りくんでいた。
明らかに人工物。なのにどこか人工物と言いきれない不思議な感じもする。
人知を超えた存在の息吹を背後に感じるとでも言おうか。
造りは極めて精巧でも、ダンジョンが存在する目的や意図がいまいち掴めないのだ。
神々の暇つぶし?
人間を超越した何者かが、気まぐれで作ったのだろうか?
そんな風にも思いたくなるくらい謎めいた迷宮に、僕は引き込まれていた。
スマホの明かりを頼りにしながら、夢中で先へ先へと進んでいたんだと思う。
やがて僕は思い出したように、こんな疑問を口にした。
「それじゃあ。ふたりは昨日、どこまで進んだんですか?」
そう言ってみて、ふと疑問とは別に、あることに気が付いた。いつの間にか僕が先頭を進んでいたのだ。
少し歩くスピードが速かっただろうか。
いや、違う。
並んで歩けるほど通路は広いのに、ふたりは僕のやや後方をそろそろと歩いていた。
「昨日はね」左斜め後ろを歩く星蘭さんが先に答えた。「ダンジョンに入ってすぐに引き返しちゃったんだ」
僕が気を使ってせっかく歩速を緩めたのに、星蘭さんは話しながらさらにペースを落とした。
放課後だし、今日は体育もあったし、歩き疲れたのかな?
心配しつつ僕もさらにペースを落とす。
「じゃからね。こんなに進んだのは初めてなんよ」
そう付け加える花火さんはもう動き止まってるんじゃないかってくらいトロい。
どこまで探索を進めたなんてことより、彼女たちの歩みの遅さの方が気になって仕方なかった。
「どうしたんです、ふたりとも。疲れたなら引き返しましょうか?」
たまりかねた僕はとうとう丁字路の突き当りで歩みを止めた。
そして肩をすくめながら背後を振り返った。
その直後━━
「グミ! 危ない!」
「グミ君、後ろ‼」
悲鳴に近い勢いで、ふたりが同時に叫んだ。
僕は声に驚き、びくっと硬直していた。
「へぶっ⁉」
突然、顔面に衝撃が走る。
痛烈に頬を叩かれたのだと理解した瞬間、バチンッと破裂するような音が響いた。
脳が揺れるほどの衝撃が顔面を襲う。
「なっ⁉」
僕はぐるんと身をひねらせながらも、ダンと足を踏み出し、なんとか持ちこたえる。
一瞬、顔がふき飛んだのではないかとさえ思った。
「うぐぅ……いったいなんだよ……⁉」
軽く脳震盪を起こしたのだろう。
吹っ飛びそうになる意識をなんとか保つ。
「な、なんだ……こいつ⁉」
ぐるぐるする視線を意志の力だけで正面に定めると、ぷるんぷるんとした透明な物体が目に飛び込んできた。
ゼリー状の、生き物と呼んでいいのかわからないがとにかく有機的に動いている物体がそこにいた。
スライムだと、おそらく多くの人はそう思ったんじゃないかな。
あの、まさしく序盤の敵にふさわしい、戦い方の初歩を覚えるためだとか、レベル上げのためだけに存在するあいつ。
僕も最初はそう思った。そう思いたかった。
「スライム……じゃない!」
それは人型をしていた。
二本の足で立ち、体長は160cmぐらい。
偉そうに両手を腰に当てている。
もちろん顔も透明なゼリー状で、表情のようなものは一切見えない。
奇妙というより完全に不気味だった。
「なにっ、こいつ⁉」
それがゲームでさんざん見慣れたスライムなら、もう少し心構えというか、スムーズな対処もできていたかもしれない。
よし、さっそく現れたな!
ってね。でも、人型は流石に無理だ。
不気味すぎる。予告もなしにこれはツラい。
「ひっ、ひぇっ⁉」
「グミ、よけて‼」「グミ君!」
とにかくその時、背後にいるふたりが同時に叫んでくれた。
でも、どこから来る攻撃をどう避ければ良かったというのだろう。
ゼリー状の人型モンスターは、腰に当てていた手をしゅるるると僕に向かって伸ばした。
まるで鞭のよう。凄まじい速度で、顎にクリーンヒット!
やり手のボクサーかよ。
水族館のイルカみたいに、ざっぱーんと真上に打ち上げられていた。
柔らかい脳みそがグリングリン揺れる音を、僕は確かに聞いたのだ。
「やばっ、グミがやられちゃった!」
「グミ君、しっかり!」
ゆっくりと遠のいていく意識のなかで、ふたりの声が聞こえた。
どさりと地面に落ちた僕は、両脇からふたりに担ぎ上げられ、ずるずると足を引きずりながら来た道を戻ることとなった。
辛うじて意識があったのはそこまでだ。
またかよ。
また僕は気を失う……の……か…………。
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