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第一章 序章

12話 いざ、魔術学園の試験へ(2)

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「どうしたんですか? えーと、その女の子は?」

 ティアナは俺の背中越しに、ベンチに座るタームを覗き込んだ。

「タームって言うんだが、どうやら無理をさせてしまったようなんだ。靴擦れをおこしている」
「……結構な靴擦れですね?」
「この世界に病院とかあるのか?」
「この世界?」
「いや、なんでもない」
「……まあ、この規模の街なんで病院は有ると思いますが。これぐらいの傷なら私が治しましょうか?」
「治す?」
「はい」

 ティアナは地面に両膝をつき、タームの目線の高さに合わせた。

「タームちゃん、痛くないから安心してね」

 タームの傷口に手をかざすティアナ。
 半透明の白いオーブが傷口を包んでいる。
 ほんの数秒間の出来事。

「はい、終わったよ」

 ティアナはミディアムボムの金色の髪をサラリといて、妹をあやすかのようにタームへ笑顔を投げかけた。
 
「どうだ、ターム?」
「……痛くなくなったです」

 タームはひょこひょこと足を動かしている。
 回復魔法というのだろうか?
 確かに傷口が綺麗になくなっている。

「タームちゃん、足をかしてね。血の跡を洗い流しておこうね」

 ティアナは優しい口調でそう言って、背負っていた布製のバックバッグから水筒を取り出す。水筒に入っていた水でくるぶしに残る血の跡を綺麗に洗い流した。

「あ、ありがとうございます」

 ダラリと下がっていたウサギ耳を元通りにピンと立てた少女は、ぺこりと頭を下げた。

「どういたしまして。そのお耳可愛いわね。ラビット族かしら?」
「はい。そうで──」

 タームは紡いでいた言葉を途中で留めた。
 ティアナの顔を真剣な顔つきでじっとみつめている。
 初めて見せる表情だ。
 相手の心の中を探るかのような……そんな深淵の視線。

「……どうしたターム?」

 嫌な間を感じとった俺は、思わず話に割って入った。

「あっ、なんでもないです。本当にありがとうございました」

 彼女はハッとして気を取り直し、すぐにいつもの表情へと戻った。
 俺はタームの不穏な雰囲気を見逃さなかった。
 しかし、突き詰めるような事はしない。彼女が何でもないと言うならそれでいい。

「よしっ、それじゃあ三人で飯にでも行くか」

 二人の少女の笑顔。俺は合わせるように表情を取り繕った。

 ティアナはバックバッグを担ぎ直し、タームは靴擦れの原因となったボロボロの靴を履き、俺のあとをついてくる。

 おっと、メシを食べる前にやるべき事があったな。
 俺は飯屋を素通りして目的の店を探す。

 それにしても、計らずともタームについての情報を一つ得られた──ラビット族か?
 あとで色々と調べてみよう。
 これから暮らしていく中で、知っておくべき種族の特性などがあるかもしれなからな。

「あれ? グラッドさん、お昼にするんじゃないんですか?」
「悪いな。先に買いたい物があるんだ」
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