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第一章 序章

16話 不穏な予兆(2)

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 広場の地面がまるで波のようにたわんだかと思うと、木の枝分かれの如く地面に亀裂が走った。
 急な出来事に受験生たちの悲鳴がこだまする。

 ──やってしまった!

 この地震の発生源は迷うことなく俺の仕業だ。
 俺は土魔法を解除するために、地面に充てていた右手を即座に離した。

 数秒間の出来事。

 大地の揺れがおさまると、学園関係者たちがフィールドへ出てきた。
 そして受験生たちの騒ぎを収拾させていく。
 俺は何食わぬ顔でやり過ごす。
 芝生の整備費用を徴収されたらたまったもんじゃない。
 幸い誰も俺の仕業だとは気付いていないようだ。

 4つのグループを其々担当していた試験官が中央に集まり、何やら談議をはじめた。
 受験生たちは今にも崩れそうなフィールドから観覧席へと避難させられる。

 俺もその中に紛れてタームの元へと戻った。

「大きな地震だったけど、大丈夫だったかターム?」
「はい」
「怖くなかったか?」
「怖くないです。ちゃんと頭を隠してました」

 元気な声で強がるターム。
 足を小刻みに震わしているが見なかったことにしよう。

 試験官たちの話し合いが終わったのだろうか。
 試験官四人はフィールドの中央から観覧席前まで走ってきた。
 談議の結果と次の工程を説明する。

「只今を持ってローレン魔術学園の試験を終了とさせて頂きます。試験結果は二時間後。大聖堂前で行います」

 一方的な説明が終えると、試験官たちはこの試験の責任者とおぼしき女性の前に駆け寄った。
 受験生と親たちは広場の観覧席から続々と退出していく。
 不満を述べる者がいなかったということは、ちょうど受験生全員の試験は終えていたのだろう。

「ご主人様、試験は如何でしたか?」

 ぱちくりとした目で窺う少女。

「……どうだろうな。まあ、結果は二時間後に分かるしな。とりあえずティアナと合流しよう」

 俺とタームは退出の列の流れに乗り、広場の外へと出た。
 出入口付近でティアナを待つ。
 
 ほどなくして、

「あっ、いたいた! ここに居たんですね。探しましたよ」

 笑顔で駆け寄ってくるティアナと無事合流できた。
 表情からして、試験は上手くいった様子だ。
 一応訊いてみたが、『バッチリです』とキレのいい回答。『グラッドさんは?』と訊かれたので、『まずまず』とだけ答えておいた。

 恐らく不合格だろう。──最後のやらかしの犯人が、俺であると気づかれて無ければ。

「それじゃあ、結果まで時間ありますし、どこかでお茶でもしましょうか?」

 ティアナの誘いに承諾すると、彼女はタームの手をとって前を歩き始めた。

「……」

 俺は彼女の行動に若干の疑念を抱く。
 それは違和感というには大袈裟なほど些細なものだが……。


 俺は彼女と初めて出会った森での事を思い返す。

 瞬刻、俺は全身に鳥肌をたてた──。

 タームの手を引いて前を歩くティアナの事ではない。
 俺を極寒の感覚に追いやった張本人は、──俺の背後にいる。

 
 振り返らずともその存在が認識出来るほどの圧倒的な威圧感。

 俺は前を歩く二人の少女たちを庇うため、二人のもとまで一足飛びに間合いを詰めた。
 二人を背中にして振り返える。

「どうしたんですか、グラッドさん?」
「ティアナ、ターム、俺の後ろに隠れてろっ」
「えっ……? わかりました……」

 俺の緊張感が伝わったのか、ティアナは物分かりよく応じる。

 そして、俺の視線の先にたたずんでいたのは──同年代の澄まし顔をした少年だった。
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