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第一章 序章
19話 D組担任の思惑(1)
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俺たちはパンケーキ屋を後にして大聖堂へとやってきた。
既に合格発表の時間を過ぎている。
パンケーキ屋で入店待ちをしたことと、ある理由で時間をとってしまったのだ。
ボリュームのある蜂蜜たっぷりのパンケーキ。
小柄なタームは一口ごとに味を噛み締めていた。
そんな幸せそうな少女を見て、早く食べろと言えるはずもなく、……今に至った。
「すみませんでした、ご主人様。タームのせいで遅くなって……」
タームは耳を下げてしょんぼりと反省する。
「別に気にすることないぞ。それに、遅れてきたから人混みも少なくなってるしな」
幸せな経験なんて無かっただろうターム。演技を忘れるぐらい幸せだったのだろう。
正直、俺にとっては魔術学園の合格発表なんかよりも、彼女を演技の拘束から解くことの方が優先度は高い。
「ドキドキしますね」
ティアナはタームと繋いでいる手の逆の手で、自身の胸をおさえる。
彼女の手の下に隠れた豊満な胸に、無意識的に目がいってしまった。
「どうかしましたか?」
俺の視線に気づいたのだろうか、ティアナは首を傾げた。
「いやっ! 何でもないぞ。それじゃあ、さくっと結果でも見るか」
「はぁ~?」
危ない危ない。
女性は自身の胸へのチラ見を、八割方気付いているという統計を見た事がある。次からは気をつけよう。
目を泳がせていた俺は、キョトンとこちらを見つめるタームと目が合った。純真な瞳に思わず視線を逸らす。
大聖堂前の小スペースに、合格者の受験番号が貼り出されている。
流石にいいとこ無しだった俺の合格はないだろうが。
「ありましたっ! 私、受かってましたー!」
一足早く自分の番号を見つけたティアナは、飛び跳ねて喜ぶ。
「グラッドさんはどうでしたか? グラッドさんが落ちるわけないですけどね」
彼女はどうやら俺の合格を確信している。
確かにモンスターや、チンピラ三人から助けた経緯を考えれば当然だろうが。
俺はひとまず60番を探す。
「ん……?」
「どうでした?」
「あったぞ…… 」
「よかった~! これで来月から同級生ですね!」
60番は確かにあった……が。
番号の隣に保留とある。さらに下隅には、
【保留の学生は学園事務室まで来校されたし】の一文。
さらに──、
【来校されない場合は、当該者問わずペナルティーを設ける。期日は本日十九時まで】とある。
見る限り保留のマークを付けられているのは俺だけだ。
「保留って何ですかね?」
頭の上に、はてなマークをつけたティアナは、顔だけをこちらへ向ける。
「さてね」
俺はとぼけて見せた。
土魔法による広場破壊の一件。犯人が俺だとバレていると推測できるが……どうしたものか。
「ここから近いですし、とにかく行きましょう」
「いや、ちょっと待て」
しばし考える。
「どうしたんですか? 行かないとペナルティーがあるみたいですし?」
その一文が引っかかっている。
行けば破損箇所の弁償をさせられる可能性。行かなければペナルティーときたか……。
だが、学生でもない俺にどうやってペナルティーとやらを課すつもりなのか。
考えられるのは一つ。──ティアナの合格取り消しだろう。
俺の受験申請書の住所や出身地、その他項目。全てティアナの情報の丸写しだ。恐らくバレている。
『当該者』の文字はティアナを指したもの。
仮にティアナが知らないと唱えたとしたらどうなる。実際、関係はないのだから、弁償などの債務を負わないだろう。学園にそれだけの権限を有しているとも思えないしな。
しかし、学園が行使できる権限もある。──合格の取り消し。もしくは入学後の不当な対応。
いづれにせよ、関係のないティアナへは迷惑をかけてしまう。
要は『必ず来い』、という脅しの一文。
「仕方ない……行くか」
俺は渋々にティアナの案内のもと、ローレン魔術学園へと向かったのだ。
既に合格発表の時間を過ぎている。
パンケーキ屋で入店待ちをしたことと、ある理由で時間をとってしまったのだ。
ボリュームのある蜂蜜たっぷりのパンケーキ。
小柄なタームは一口ごとに味を噛み締めていた。
そんな幸せそうな少女を見て、早く食べろと言えるはずもなく、……今に至った。
「すみませんでした、ご主人様。タームのせいで遅くなって……」
タームは耳を下げてしょんぼりと反省する。
「別に気にすることないぞ。それに、遅れてきたから人混みも少なくなってるしな」
幸せな経験なんて無かっただろうターム。演技を忘れるぐらい幸せだったのだろう。
正直、俺にとっては魔術学園の合格発表なんかよりも、彼女を演技の拘束から解くことの方が優先度は高い。
「ドキドキしますね」
ティアナはタームと繋いでいる手の逆の手で、自身の胸をおさえる。
彼女の手の下に隠れた豊満な胸に、無意識的に目がいってしまった。
「どうかしましたか?」
俺の視線に気づいたのだろうか、ティアナは首を傾げた。
「いやっ! 何でもないぞ。それじゃあ、さくっと結果でも見るか」
「はぁ~?」
危ない危ない。
女性は自身の胸へのチラ見を、八割方気付いているという統計を見た事がある。次からは気をつけよう。
目を泳がせていた俺は、キョトンとこちらを見つめるタームと目が合った。純真な瞳に思わず視線を逸らす。
大聖堂前の小スペースに、合格者の受験番号が貼り出されている。
流石にいいとこ無しだった俺の合格はないだろうが。
「ありましたっ! 私、受かってましたー!」
一足早く自分の番号を見つけたティアナは、飛び跳ねて喜ぶ。
「グラッドさんはどうでしたか? グラッドさんが落ちるわけないですけどね」
彼女はどうやら俺の合格を確信している。
確かにモンスターや、チンピラ三人から助けた経緯を考えれば当然だろうが。
俺はひとまず60番を探す。
「ん……?」
「どうでした?」
「あったぞ…… 」
「よかった~! これで来月から同級生ですね!」
60番は確かにあった……が。
番号の隣に保留とある。さらに下隅には、
【保留の学生は学園事務室まで来校されたし】の一文。
さらに──、
【来校されない場合は、当該者問わずペナルティーを設ける。期日は本日十九時まで】とある。
見る限り保留のマークを付けられているのは俺だけだ。
「保留って何ですかね?」
頭の上に、はてなマークをつけたティアナは、顔だけをこちらへ向ける。
「さてね」
俺はとぼけて見せた。
土魔法による広場破壊の一件。犯人が俺だとバレていると推測できるが……どうしたものか。
「ここから近いですし、とにかく行きましょう」
「いや、ちょっと待て」
しばし考える。
「どうしたんですか? 行かないとペナルティーがあるみたいですし?」
その一文が引っかかっている。
行けば破損箇所の弁償をさせられる可能性。行かなければペナルティーときたか……。
だが、学生でもない俺にどうやってペナルティーとやらを課すつもりなのか。
考えられるのは一つ。──ティアナの合格取り消しだろう。
俺の受験申請書の住所や出身地、その他項目。全てティアナの情報の丸写しだ。恐らくバレている。
『当該者』の文字はティアナを指したもの。
仮にティアナが知らないと唱えたとしたらどうなる。実際、関係はないのだから、弁償などの債務を負わないだろう。学園にそれだけの権限を有しているとも思えないしな。
しかし、学園が行使できる権限もある。──合格の取り消し。もしくは入学後の不当な対応。
いづれにせよ、関係のないティアナへは迷惑をかけてしまう。
要は『必ず来い』、という脅しの一文。
「仕方ない……行くか」
俺は渋々にティアナの案内のもと、ローレン魔術学園へと向かったのだ。
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