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第百十一話 エルムールの鷹
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「両名ともに苦労であった!」
駐エルムール属州長官エドワルド・ミュラーの怒号のような大音声が、白亜に輝くエルムール政庁舎内に設けられた最も豪壮な長官室内一杯に響き渡った。
ロンバルドとシェスターは直立不動の姿勢から右腕だけをすばやく上げて敬礼し、この隻腕の恐るべき上司からのねぎらいの言葉に対して態度でもって返答した。
「それにしても千年竜とはな。さぞ現場は阿鼻叫喚の修羅場であったことだろうな」
「レイダム、ローエングリン両軍ともにその被害は甚大でありました。しかしそれゆえ両軍ともに矛を納め易かったといえます。なにせ混乱に次ぐ混乱で収拾がつきませんでしたから」
ロンバルドの言葉を、シェスターが継いだ。
「とりあえず本国へ帰還して軍を再編しなければと思ったのでしょう。両軍に対して停戦を呼びかけた際、実にあっさりと両軍ともに応じましたから。またそれには、両軍ともに最高司令官が亡くなったのも大きかったのではないかと思います」
「ローエングリンのゴルコス将軍と、レイダムのビエルサ将軍だったな?」
ロンバルドたちはゴルコスの名を耳にした瞬間、ほんのわずかピクリと顔の表情筋が反応してしまったものの、それは一瞬の出来事であり、うまくやり過ごしたはずだった。
しかしこの隻腕の恐るべき男は、猛禽類を思わす鋭いまなざしで二人を容赦なく見据えると、エルムールの鷹の異名に恥じない一言を放った。
「貴様ら、なにか俺に隠し事でもあるのか?」
ロンバルドたちは、内心大いに驚いた。
しかし彼らは、自分たちの上司がその慧眼によって敵味方問わず恐れられていることを誰よりもよく知っていたため、事前にこのような事態になるかもしれないと想定しており、そのため何とか顔色を変えずにいることに成功した。
「いえ。そのようなことはありません」
ロンバルドは、努めて平静を装って言った。
「では先ほどのお前たちの反応はなんだったのだ?ゴルコス将軍の名を出した瞬間、貴様らの顔色が変わったようだったが?」
代わってシェスターが答えた。
「我々は千年竜の襲撃前にゴルコス将軍とは面談をしておりまして、その際、将軍の人となりに触れたものですから」
「人となり?一体どのような人物だったのだ?」
「一言で申せば、人間の屑です」
「ほう、そうなのか?シュナイダー審議官」
「あまり褒められた人物ではないのは、確かかと」
「ふむ、確かゴルコス将軍は、現教皇のご子息だったと思ったが?」
ミュラー長官の質問に、シェスターが雄弁に答えた。
「その立場をこれ以上ないというほど笠に着た男でした。傲岸不遜にして厚顔無恥、傍若無人にして冷酷無残、私利私欲によってのみ動く、嗜虐嗜好な虎の威を借る狐とは、奴のような男のことを言うのでしょう」
「ほう、それほどか」
「そのため、奴の名を聞いただけで条件反射に虫唾が走ってしまったという訳であります。申し訳ありません」
シェスターは流暢な弁明を終えると、しれっとした顔つきでミュラー長官に対して敬礼をした。
それを見ていたロンバルドもまた、シェスターに続いて敬礼をした。
ミュラーは周囲を圧倒する厳かな雰囲気をその身に纏いながら、ゆっくりとした動作で右手を上げ、二人に向かって敬礼を返した。
「うむ、良く判った。両名とも改めてご苦労であった。下がってよし!」
「両名ともに苦労であった!」
駐エルムール属州長官エドワルド・ミュラーの怒号のような大音声が、白亜に輝くエルムール政庁舎内に設けられた最も豪壮な長官室内一杯に響き渡った。
ロンバルドとシェスターは直立不動の姿勢から右腕だけをすばやく上げて敬礼し、この隻腕の恐るべき上司からのねぎらいの言葉に対して態度でもって返答した。
「それにしても千年竜とはな。さぞ現場は阿鼻叫喚の修羅場であったことだろうな」
「レイダム、ローエングリン両軍ともにその被害は甚大でありました。しかしそれゆえ両軍ともに矛を納め易かったといえます。なにせ混乱に次ぐ混乱で収拾がつきませんでしたから」
ロンバルドの言葉を、シェスターが継いだ。
「とりあえず本国へ帰還して軍を再編しなければと思ったのでしょう。両軍に対して停戦を呼びかけた際、実にあっさりと両軍ともに応じましたから。またそれには、両軍ともに最高司令官が亡くなったのも大きかったのではないかと思います」
「ローエングリンのゴルコス将軍と、レイダムのビエルサ将軍だったな?」
ロンバルドたちはゴルコスの名を耳にした瞬間、ほんのわずかピクリと顔の表情筋が反応してしまったものの、それは一瞬の出来事であり、うまくやり過ごしたはずだった。
しかしこの隻腕の恐るべき男は、猛禽類を思わす鋭いまなざしで二人を容赦なく見据えると、エルムールの鷹の異名に恥じない一言を放った。
「貴様ら、なにか俺に隠し事でもあるのか?」
ロンバルドたちは、内心大いに驚いた。
しかし彼らは、自分たちの上司がその慧眼によって敵味方問わず恐れられていることを誰よりもよく知っていたため、事前にこのような事態になるかもしれないと想定しており、そのため何とか顔色を変えずにいることに成功した。
「いえ。そのようなことはありません」
ロンバルドは、努めて平静を装って言った。
「では先ほどのお前たちの反応はなんだったのだ?ゴルコス将軍の名を出した瞬間、貴様らの顔色が変わったようだったが?」
代わってシェスターが答えた。
「我々は千年竜の襲撃前にゴルコス将軍とは面談をしておりまして、その際、将軍の人となりに触れたものですから」
「人となり?一体どのような人物だったのだ?」
「一言で申せば、人間の屑です」
「ほう、そうなのか?シュナイダー審議官」
「あまり褒められた人物ではないのは、確かかと」
「ふむ、確かゴルコス将軍は、現教皇のご子息だったと思ったが?」
ミュラー長官の質問に、シェスターが雄弁に答えた。
「その立場をこれ以上ないというほど笠に着た男でした。傲岸不遜にして厚顔無恥、傍若無人にして冷酷無残、私利私欲によってのみ動く、嗜虐嗜好な虎の威を借る狐とは、奴のような男のことを言うのでしょう」
「ほう、それほどか」
「そのため、奴の名を聞いただけで条件反射に虫唾が走ってしまったという訳であります。申し訳ありません」
シェスターは流暢な弁明を終えると、しれっとした顔つきでミュラー長官に対して敬礼をした。
それを見ていたロンバルドもまた、シェスターに続いて敬礼をした。
ミュラーは周囲を圧倒する厳かな雰囲気をその身に纏いながら、ゆっくりとした動作で右手を上げ、二人に向かって敬礼を返した。
「うむ、良く判った。両名とも改めてご苦労であった。下がってよし!」
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