死神使役《ネクロマンサー》、現世《うつしよ》に惑う

マツヤマユタカ

文字の大きさ
7 / 54

第7話 死神ソルス

しおりを挟む
「ふう~、やっと着いた」

 懸賞金800万の殺人犯・来栖京介が被害者を殺害した現場近くの町にたどり着いたときには、すでに空は薄ぼんやりと白んでいた。

 東を見れば、雲が朱色に染まっている。

 俺は人気のない公園にある水飲み場の蛇口をひねった。

 細い水流が上向きに飛び出した。大きく口を開けて、その水を迎え入れるようにして、たっぷりと飲む。

 水を飲み終えるなり、公園の入り口にある細長い時計台を見上げた。

「五時間くらいで到着か。思ったよりは早かったな。ていうか、本当にこの町で間違いないよな?」

 水飲み場を離れ、公園の外へ移動する。

 そして道路脇にそそり立つ、コンクリート製の頑丈そうな電信柱に記載された住所を確認する。

「間違いない。ここだ。あの手配書に書かれていたところ師容しよう町に間違いない」

 丁目も手配書に書かれた通りの一丁目だ。ただし問題なのは、その後の番地号数については手配書には記載がなかったことだ。

 ただ、雑居ビルでの犯行だと書かれていた。

 とはいっても師容町はかなり広い。丁目を確定できたとしても、雑居ビルなど数百とあるだろう。

 そこで俺の能力を使う。

 その能力とは死神使役ネクロマンサー

 死神使役ネクロマンサーは、文字通り死神を使って死者の霊などを呼び出すことが出来る。成仏していれば呼び出すことは出来ないが、今回は殺害された被害者だ。しかも殺人犯がまだ捕まっていないとすれば、その心配は恐らくない。

 いまも何処かで恨みをのんでいることだろう。

 まずはその痕跡を探す。

 だが、果たしてこちらの世界でも俺の能力は使えるのだろうか。

 やってみればわかることだ。

 俺は大きく息を吸い込み、ぴたっと呼吸を止めた。

 そして静かに瞑目し、心を整える。

 意識をへそのあたりにある丹田に集中させ、そこから徐々に上へと持っていく。

 腹から胸骨の間、さらに喉仏を通って鼻腔を滑らす。

 あと少し……眉間の位置に意識を集中させて、俺はカッと刮目した。

「呼んだか?」

 俺の目の前には、異形の生き物がふわふわと中空に浮かんでいた。

「久しぶりだな、死神ソルス」

 俺は笑みを浮かべながら、その異形の生物の名を呼んで挨拶した。

 ソルスは、通常ならばあるはずの下半身がぶっつりと切断されて大量の血を地面にしたたらせており、その上半身しかない身体と顔は、蒼黒いフード付きのマントですっぽりと覆い尽くしていた。

 そのため顔はほとんど見えない。ただ焼けただれたような顎が微かに見えるのと、双眸が闇の中で不気味に瞬いているだけである。

 さらには身体よりもはるかに大きな鎌を肩に担いでおり、不気味さを増幅させていた。

 その姿はまさに、死神と呼ぶべきものであったろう。

 ソルスは、双眸を輝かせながら俺に問うた。

三月みつきばかり前だったかな。お前が最後に俺を呼び出したのは」

「魔王との最終決戦の時だから、それくらいになる」

 ソルスはこくりとうなずくと、もの珍しそうに周囲を見回した。

「それにしても、ずいぶんと変わったところだな、ここは」

「俺の元いた世界だ」

 ソルスの双眸がスーッと細まる。

「ほう、それは面白い。ジン、現世に帰ったのか」

「なんとかな」

「それで、俺になんの用だ」

 挨拶も終わり、すぐに本題となった。

「死者の痕跡を辿りたい」

「では頭の中に、死者の顔を思い浮かべろ」

 俺は肩をすくめた。

「残念ながら死者の顔は知らない。その代わり、殺害者の顔はわかる」

「では、その殺害者の顔を思い浮かべろ」

 話が早くて助かる。俺は早速目を閉じ、手配書に書かれた犯人の顔を思い浮かべた。

「この男がそうか」

 ソルスは死者の魂を感知することが出来る。あまり遠くては無理だが、同じ丁目くらいならば問題なく感じ取れるはずだ。

「なるほど。この男に殺された思念を持つ者は……こちらだな」

 目を見開くと、死神ソルスは驚くべき速度で道路の上を滑るように平行移動しはじめた。

 俺は慌ててソルスを追いかけた。

 途中、くるっとソルスが振り返った。

「お前は飛べないのだったな?」

「飛べない。なので道なりに行ってもらえると助かる」

「わかった」

 ソルスは前に向き直ると、さらに加速した。

 俺の足は速い。相当に速い。勇者となるべく二十年に渡り、鍛えに鍛え抜いたからだ。だがそれでも追いつくのがやっとだった。

「くそっ!奴め、遊んでいやがる!」

 俺はソルスに向かって悪態をついた。

 だがソルスは聞こえているのかいないのか、超高速で道路の上を滑空し続ける。

 五分ほど全速力で走っただろうか。遥か前方のソルスがピタリと止まった。

 俺はようやくかと思ってゆっくり速度を落とし、ソルスが止まっている近くにたどり着いて立ち止まった。

 わずか五分とはいえ、本気の全速力だ。息が上がるのも当然だった。

「ふうっ、ふうっ、ふう、ふう……はあ……ここか?」

 中空に浮かんだ死神は、小汚く古びた六階建ての雑居ビルを見上げていた。

「このビルの中のようだが、どうする?」

 俺は呼吸を整えるなり、決然と言った。

「行くに決まっている」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

R・P・G ~転生して不死にされた俺は、最強の英雄たちと滅ぼすはずだった異世界を統治する~

イット
ファンタジー
オカルト雑誌の編集者として働いていた瀬川凛人(40)は、怪現象の取材中、異世界の大地の女神と接触する。 半ば強制的に異世界へと転生させられた彼は、惑星そのものと同化し、“星骸の主”として不死の存在へと変貌した。 だが女神から与えられた使命は、この世界の生命を滅ぼし、星を「リセット」すること。凛人はその命令を、拒否する。 彼は、大地の女神により創造された星骸と呼ばれる伝説の六英雄の一人を従者とし、世界を知るため、そして残りの星骸を探すため旅に出る。 しかし一つ選択を誤れば世界が滅びる危うい存在…… 女神の使命を「絶対拒否」する不死者と、裏ボス級の従者たち。 これは、世界を滅ぼさず、統治することを選んだ男の英雄譚である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

処理中です...