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第7話 死神ソルス
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「ふう~、やっと着いた」
懸賞金800万の殺人犯・来栖京介が被害者を殺害した現場近くの町にたどり着いたときには、すでに空は薄ぼんやりと白んでいた。
東を見れば、雲が朱色に染まっている。
俺は人気のない公園にある水飲み場の蛇口をひねった。
細い水流が上向きに飛び出した。大きく口を開けて、その水を迎え入れるようにして、たっぷりと飲む。
水を飲み終えるなり、公園の入り口にある細長い時計台を見上げた。
「五時間くらいで到着か。思ったよりは早かったな。ていうか、本当にこの町で間違いないよな?」
水飲み場を離れ、公園の外へ移動する。
そして道路脇にそそり立つ、コンクリート製の頑丈そうな電信柱に記載された住所を確認する。
「間違いない。ここだ。あの手配書に書かれていたところ師容町に間違いない」
丁目も手配書に書かれた通りの一丁目だ。ただし問題なのは、その後の番地号数については手配書には記載がなかったことだ。
ただ、雑居ビルでの犯行だと書かれていた。
とはいっても師容町はかなり広い。丁目を確定できたとしても、雑居ビルなど数百とあるだろう。
そこで俺の能力を使う。
その能力とは死神使役。
死神使役は、文字通り死神を使って死者の霊などを呼び出すことが出来る。成仏していれば呼び出すことは出来ないが、今回は殺害された被害者だ。しかも殺人犯がまだ捕まっていないとすれば、その心配は恐らくない。
いまも何処かで恨みをのんでいることだろう。
まずはその痕跡を探す。
だが、果たしてこちらの世界でも俺の能力は使えるのだろうか。
やってみればわかることだ。
俺は大きく息を吸い込み、ぴたっと呼吸を止めた。
そして静かに瞑目し、心を整える。
意識をへそのあたりにある丹田に集中させ、そこから徐々に上へと持っていく。
腹から胸骨の間、さらに喉仏を通って鼻腔を滑らす。
あと少し……眉間の位置に意識を集中させて、俺はカッと刮目した。
「呼んだか?」
俺の目の前には、異形の生き物がふわふわと中空に浮かんでいた。
「久しぶりだな、死神ソルス」
俺は笑みを浮かべながら、その異形の生物の名を呼んで挨拶した。
ソルスは、通常ならばあるはずの下半身がぶっつりと切断されて大量の血を地面にしたたらせており、その上半身しかない身体と顔は、蒼黒いフード付きのマントですっぽりと覆い尽くしていた。
そのため顔はほとんど見えない。ただ焼けただれたような顎が微かに見えるのと、双眸が闇の中で不気味に瞬いているだけである。
さらには身体よりもはるかに大きな鎌を肩に担いでおり、不気味さを増幅させていた。
その姿はまさに、死神と呼ぶべきものであったろう。
ソルスは、双眸を輝かせながら俺に問うた。
「三月ばかり前だったかな。お前が最後に俺を呼び出したのは」
「魔王との最終決戦の時だから、それくらいになる」
ソルスはこくりとうなずくと、もの珍しそうに周囲を見回した。
「それにしても、ずいぶんと変わったところだな、ここは」
「俺の元いた世界だ」
ソルスの双眸がスーッと細まる。
「ほう、それは面白い。ジン、現世に帰ったのか」
「なんとかな」
「それで、俺になんの用だ」
挨拶も終わり、すぐに本題となった。
「死者の痕跡を辿りたい」
「では頭の中に、死者の顔を思い浮かべろ」
俺は肩をすくめた。
「残念ながら死者の顔は知らない。その代わり、殺害者の顔はわかる」
「では、その殺害者の顔を思い浮かべろ」
話が早くて助かる。俺は早速目を閉じ、手配書に書かれた犯人の顔を思い浮かべた。
「この男がそうか」
ソルスは死者の魂を感知することが出来る。あまり遠くては無理だが、同じ丁目くらいならば問題なく感じ取れるはずだ。
「なるほど。この男に殺された思念を持つ者は……こちらだな」
目を見開くと、死神ソルスは驚くべき速度で道路の上を滑るように平行移動しはじめた。
俺は慌ててソルスを追いかけた。
途中、くるっとソルスが振り返った。
「お前は飛べないのだったな?」
「飛べない。なので道なりに行ってもらえると助かる」
「わかった」
ソルスは前に向き直ると、さらに加速した。
俺の足は速い。相当に速い。勇者となるべく二十年に渡り、鍛えに鍛え抜いたからだ。だがそれでも追いつくのがやっとだった。
「くそっ!奴め、遊んでいやがる!」
俺はソルスに向かって悪態をついた。
だがソルスは聞こえているのかいないのか、超高速で道路の上を滑空し続ける。
五分ほど全速力で走っただろうか。遥か前方のソルスがピタリと止まった。
俺はようやくかと思ってゆっくり速度を落とし、ソルスが止まっている近くにたどり着いて立ち止まった。
わずか五分とはいえ、本気の全速力だ。息が上がるのも当然だった。
「ふうっ、ふうっ、ふう、ふう……はあ……ここか?」
中空に浮かんだ死神は、小汚く古びた六階建ての雑居ビルを見上げていた。
「このビルの中のようだが、どうする?」
俺は呼吸を整えるなり、決然と言った。
「行くに決まっている」
懸賞金800万の殺人犯・来栖京介が被害者を殺害した現場近くの町にたどり着いたときには、すでに空は薄ぼんやりと白んでいた。
東を見れば、雲が朱色に染まっている。
俺は人気のない公園にある水飲み場の蛇口をひねった。
細い水流が上向きに飛び出した。大きく口を開けて、その水を迎え入れるようにして、たっぷりと飲む。
水を飲み終えるなり、公園の入り口にある細長い時計台を見上げた。
「五時間くらいで到着か。思ったよりは早かったな。ていうか、本当にこの町で間違いないよな?」
水飲み場を離れ、公園の外へ移動する。
そして道路脇にそそり立つ、コンクリート製の頑丈そうな電信柱に記載された住所を確認する。
「間違いない。ここだ。あの手配書に書かれていたところ師容町に間違いない」
丁目も手配書に書かれた通りの一丁目だ。ただし問題なのは、その後の番地号数については手配書には記載がなかったことだ。
ただ、雑居ビルでの犯行だと書かれていた。
とはいっても師容町はかなり広い。丁目を確定できたとしても、雑居ビルなど数百とあるだろう。
そこで俺の能力を使う。
その能力とは死神使役。
死神使役は、文字通り死神を使って死者の霊などを呼び出すことが出来る。成仏していれば呼び出すことは出来ないが、今回は殺害された被害者だ。しかも殺人犯がまだ捕まっていないとすれば、その心配は恐らくない。
いまも何処かで恨みをのんでいることだろう。
まずはその痕跡を探す。
だが、果たしてこちらの世界でも俺の能力は使えるのだろうか。
やってみればわかることだ。
俺は大きく息を吸い込み、ぴたっと呼吸を止めた。
そして静かに瞑目し、心を整える。
意識をへそのあたりにある丹田に集中させ、そこから徐々に上へと持っていく。
腹から胸骨の間、さらに喉仏を通って鼻腔を滑らす。
あと少し……眉間の位置に意識を集中させて、俺はカッと刮目した。
「呼んだか?」
俺の目の前には、異形の生き物がふわふわと中空に浮かんでいた。
「久しぶりだな、死神ソルス」
俺は笑みを浮かべながら、その異形の生物の名を呼んで挨拶した。
ソルスは、通常ならばあるはずの下半身がぶっつりと切断されて大量の血を地面にしたたらせており、その上半身しかない身体と顔は、蒼黒いフード付きのマントですっぽりと覆い尽くしていた。
そのため顔はほとんど見えない。ただ焼けただれたような顎が微かに見えるのと、双眸が闇の中で不気味に瞬いているだけである。
さらには身体よりもはるかに大きな鎌を肩に担いでおり、不気味さを増幅させていた。
その姿はまさに、死神と呼ぶべきものであったろう。
ソルスは、双眸を輝かせながら俺に問うた。
「三月ばかり前だったかな。お前が最後に俺を呼び出したのは」
「魔王との最終決戦の時だから、それくらいになる」
ソルスはこくりとうなずくと、もの珍しそうに周囲を見回した。
「それにしても、ずいぶんと変わったところだな、ここは」
「俺の元いた世界だ」
ソルスの双眸がスーッと細まる。
「ほう、それは面白い。ジン、現世に帰ったのか」
「なんとかな」
「それで、俺になんの用だ」
挨拶も終わり、すぐに本題となった。
「死者の痕跡を辿りたい」
「では頭の中に、死者の顔を思い浮かべろ」
俺は肩をすくめた。
「残念ながら死者の顔は知らない。その代わり、殺害者の顔はわかる」
「では、その殺害者の顔を思い浮かべろ」
話が早くて助かる。俺は早速目を閉じ、手配書に書かれた犯人の顔を思い浮かべた。
「この男がそうか」
ソルスは死者の魂を感知することが出来る。あまり遠くては無理だが、同じ丁目くらいならば問題なく感じ取れるはずだ。
「なるほど。この男に殺された思念を持つ者は……こちらだな」
目を見開くと、死神ソルスは驚くべき速度で道路の上を滑るように平行移動しはじめた。
俺は慌ててソルスを追いかけた。
途中、くるっとソルスが振り返った。
「お前は飛べないのだったな?」
「飛べない。なので道なりに行ってもらえると助かる」
「わかった」
ソルスは前に向き直ると、さらに加速した。
俺の足は速い。相当に速い。勇者となるべく二十年に渡り、鍛えに鍛え抜いたからだ。だがそれでも追いつくのがやっとだった。
「くそっ!奴め、遊んでいやがる!」
俺はソルスに向かって悪態をついた。
だがソルスは聞こえているのかいないのか、超高速で道路の上を滑空し続ける。
五分ほど全速力で走っただろうか。遥か前方のソルスがピタリと止まった。
俺はようやくかと思ってゆっくり速度を落とし、ソルスが止まっている近くにたどり着いて立ち止まった。
わずか五分とはいえ、本気の全速力だ。息が上がるのも当然だった。
「ふうっ、ふうっ、ふう、ふう……はあ……ここか?」
中空に浮かんだ死神は、小汚く古びた六階建ての雑居ビルを見上げていた。
「このビルの中のようだが、どうする?」
俺は呼吸を整えるなり、決然と言った。
「行くに決まっている」
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