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1.実験失敗?
しおりを挟む次こそは、次こそはーー。
薄暗い部屋の中、黄緑の光を浴びて作業する男の姿があった。
丸まった背と不健康に痩せた体は細く、乾いた唇からはぶつぶつと何かを呟く低い声が発せられていた。
ゴーグルに覆われたその目には生気が無く、顎には薄く髭が生えている。手入れのされていない顔は老けて見えるが、整えればそれはまだ年若い青年のものだとわかるだろう。
手元には底の広い透明な入れものと1滴ずつ液体を垂らす為の器具を持っていた。
「━━━━━頼む、」
ポト、と液体が垂れ、もうひとつの薬品に落ちた。
その瞬間、眩い光と共にものすごい力で体を吹き飛ばされ、部屋の壁を突き破った先で床に叩きつけられた。
遅れてきた爆風から腕で顔を覆い、煙の充満したラボの天井からパラパラとその破片が落ちてくるのを最後に視界は暗転した。
「う、……ぅ……?」
ギシリと軋む体と息苦しさを覚え、目を開く。
そういえば、すんげー派手な失敗したんだった…。
「ゲホッ、ゴホッ」
はあはあと息を整え、何とか上体を起こした。
周りは瓦礫だらけ。壁が壊れているが、恐らくラボの外の廊下だろう。ラボの中は棚などの瓦礫でよく見えないが、中の惨状は想像に難くない。いや、想像したくない……。
「う゛~~~、あいつら全部逝っちまったのか…?」
個人での研究の為にめちゃくちゃな数と難易度の資格も、それを申請するための書類だって気の遠くなるほど出して待って結局うちの管轄じゃなかったとか言って突き返されて……何とか降りた許可だったのに!!
「ぜ、ぜんぶ無駄だったんだあ……」
はは……勝手に笑いが出てくる。もうやめだ。俺には無理なんだ。
そこら辺の瓦礫に捕まりながら立ち上がって、入口の概念なんて壊されてしまった部屋に入る。
部屋の真ん中に置いてあったはずの愛用の机もない。あるのは…………………………。
あるのは、裸で膝を抱えた子供だけだった。
「……え?」
なんだ、俺やっぱ死んだのか?幽霊になって周りの幽霊も見えるようになってしまったのか?
しばらく呆気に取られていても、その子供は俯いて動かなかった。
この子供が幽霊だとしても、とりあえずここは俺のラボ(跡形もないが)なので、一旦退いてもらうとする。
仮に俺が幽霊なのだとして、俺に後悔があるのだとして、きっとその心残りは、このラボにある。
「おい」
「……。」
声をかけても反応は無い。
あーどうしよ、なんか今更怖くなってきた。あいつが顔上げて、そこに目も鼻も無かったらどうしよう。
そもそもこの家に俺以外に人なんていないんだ。
こんなに小さい子供がいるのが異様で……。
瓦礫の中を慎重にかきわけて子供に近寄る。
「おーい、子供。生きてる?」
やっと触れられる程の距離まで近寄れた。
背中にポンと手を置いてもう一度声をかけようとした時、
びくりとその肩が跳ねてガバッと頭を上げた。
「ぎゃーーーーー!!!」
「!!?!!??!!?」
あ、反射的に叫んじゃったけど顔はあった。
「ゴホッ、ゴホ」
「……?」
急に大声出したからむせてしまった。そういえば俺実験に失敗して爆風を1番近くで浴びたんだ……。魔力でシールドしたとはいえ、あの距離では防ぎきれなかった。
息を整えながら自分に回復の魔法を施す。
その姿を不思議そうに見やるこの子供は何がなにやらわかって無さそうだ。
ふふん、こう見えて俺は王家直属の魔法騎士団の認定資格を持っているのだ。国内でもかなり優秀な魔法使いなんだぞ~~。
と言っても何もわからなそうだ。
濃紺の髪に黄色の瞳。顔立ちは幼く判断が付きにくいが、恐らく男児だろう。
「お前、誰?どっから入ったの。」
「……」
俺を困った顔で見あげ、そして周囲をキョロキョロと見回し始めた。こやつ、なにか喋らんか。
「いや、いい、それより先に聞くべきことがあった。」
「?」
男児は首を傾げて俺を見た。
「お前、幽霊か?」
そいつは頭を勢いよく左右に振った。
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