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SCENE8 悪戦苦闘
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「とりまここから出ろ。あンまし家をぶっ壊すと、同居人に怒られるンだ。いいな?」
クレバーはそう言った。そこから先の景色は壮大なものだった。彼は赤子のように、自分が切り開いた屋根の隙間に蹴り飛ばされた。
鈍い音が聞こえ、それは彼が路上に着地した音だと希望は知る。クレバーは軽快な動作で空を舞い、やはり屋根の隙間から外へ飛び出た。
「今日はあまりいい日じゃねェな。ガン首並べたアホ共が整列して家をぶっ潰そうとしたと思えば、天夜叉が現れて、そして…お前みたいな格下に一瞬でも下に見られたと。なるほど…お前らオレをバカにしてンだな?」
クレバーは金色の翼のような、暴風のような現象を背中へ生み出した。高さにして五メートルほどの現象は、一直線に彼を目掛けて動き始めた。
「……そう簡単に勝てると思うなよ怪物ゥ。」
彼は身体に電気を纏わせ、光速で彼方へ脱出することで、辛くもクレバーの攻撃から逃げ延びた。鉄骨の上に立った彼は、素早く電気を両手へ集め始めた。
「成果に多少の失敗はつきもンだ…。どうせ浮浪者しか住んでねェ街なら…まるごと吹き飛ばしゃいいンだよ!」
街ひとつを消滅させる雷撃が瞬時に貯められ、彼はそれを解き放った。
何も戸惑うこともなく、何も躊躇することは無い。この都市において、弱者に価値は無いのだから。
「…ヘェ。」
クレバーは背中に生えた現象を交差させながら、電撃をその手に収めた彼に詰め寄った。
クレバーは彼に告げた。
「よォ、ちゃんとオレに当てろよ?じゃねェとご近所迷惑だぜ。」
「ほざけ!」
身体の痺れが収まり、希望はクレバーと彼が戦う空中へ目を向けた。
まるで平気だと言っているような余裕に溢れた笑みを浮かべるクレバーと、その余裕に恐怖を覚えた彼。対象的な光景が広がっていた。
「……え?」
人間は驚くと言葉が出ない。今日二回目の絶句と共に、希望は天空で起きた怪奇な現象を二度見した。
雷撃は放たれた。完全に。だがそれはかき消された。分岐されたクレバーの金色の翼のような現象によって。
「オレが知る超能力者の中で唯一強ェと感じたのは…そこで無様に寝っ転がってるガキみてェな身長しかねェヤツだけだ。テメェは大したことねェなァ。典型的な自惚れ野郎だ。」
クレバーは彼の攻撃を完封した。それだけが事実として残るのだ。
そして希望が次に聞き、見たものは、彼が鉄骨の上から蹴り落とされることだった。
「…クソッ!」
脳の判断が追いついた彼は、同時に機転を効かせた。クレバーによる無残な暴力を避けるため、雷撃そのものとなった彼はどこかへ消え去った。
クレバーは逃げ去った彼を見て、深いため息をついた。
「希望、良智を叩き起こせ。そのバカはそれぐらいじゃあ死なねェ。」
「…え、あ、うん。」
空中から地上、隠れ家に降り立ったクレバーは希望に言った。金色の現象は物の見事に消えていた。
「生きてっか?」
「……死ンでるな。」
「そいつァ良かった。」
出血多量で今にも死に絶えそうな良智は、クレバーの嫌味な口調に反応する胆力も無くなっていた。
「さァてと…こういう時はどうするンだっけな?良智。」
希望は無言でクレバーと良智の会話を聞いていた。少年は悪寒に苦しむ中、携帯をポケットから取り出した。
「クレバーァ…おめェ…謀ったな…?」
「別に何も謀ってねェよ。ただ…死にかけの人間を完璧に治せる人間は数えるほどにしか知らねェ。その内のひとりはお前がラブコールをすりゃ飛んでやってくる。だろ?」
「鬼みてェな野郎だ…クソッ…。」
ひとくいおにに人の倫理を追い求める方がおかしな話だ。クレバーはどこにたどり着こうと、ひとくいおになのだから。だから良智はクレバーと共に居るのだから。
「もしもし…オレだ…光良智だ…。要件は分かってンだろ…?今、全身大火傷で…くたばり損ない…やってるところだ…。助けてくれ…。」
恥辱的な行為をしたような顔で、良智は通話を切った。
クレバーはタバコを吸いながら、遠くを見つめて呟いた。
「良智ォ、お前って結構優しいよな。少女を見殺しにすンのは無為だと思ったのか、何となくなのかは知らねェが…希望の盾になったじゃねェか。オレはお前のそういう人情に溢れたところ、結構好きだぜ。」
希望は先程のお礼を済ませていないことに気がつく。良智は身を呈して自分を助けたのだ。クレバーの言う通り、優しい行動だった。横たわる少年に、少女は頭を深々と下げた。
「あの…ありがとうございました!」
良智は希望から顔を背けて言った。
「……気にするな。過ぎたことだ。」
三人はしばしの平和と安全を享受し、やがて訪れる戦いに備えた。
クレバーはそう言った。そこから先の景色は壮大なものだった。彼は赤子のように、自分が切り開いた屋根の隙間に蹴り飛ばされた。
鈍い音が聞こえ、それは彼が路上に着地した音だと希望は知る。クレバーは軽快な動作で空を舞い、やはり屋根の隙間から外へ飛び出た。
「今日はあまりいい日じゃねェな。ガン首並べたアホ共が整列して家をぶっ潰そうとしたと思えば、天夜叉が現れて、そして…お前みたいな格下に一瞬でも下に見られたと。なるほど…お前らオレをバカにしてンだな?」
クレバーは金色の翼のような、暴風のような現象を背中へ生み出した。高さにして五メートルほどの現象は、一直線に彼を目掛けて動き始めた。
「……そう簡単に勝てると思うなよ怪物ゥ。」
彼は身体に電気を纏わせ、光速で彼方へ脱出することで、辛くもクレバーの攻撃から逃げ延びた。鉄骨の上に立った彼は、素早く電気を両手へ集め始めた。
「成果に多少の失敗はつきもンだ…。どうせ浮浪者しか住んでねェ街なら…まるごと吹き飛ばしゃいいンだよ!」
街ひとつを消滅させる雷撃が瞬時に貯められ、彼はそれを解き放った。
何も戸惑うこともなく、何も躊躇することは無い。この都市において、弱者に価値は無いのだから。
「…ヘェ。」
クレバーは背中に生えた現象を交差させながら、電撃をその手に収めた彼に詰め寄った。
クレバーは彼に告げた。
「よォ、ちゃんとオレに当てろよ?じゃねェとご近所迷惑だぜ。」
「ほざけ!」
身体の痺れが収まり、希望はクレバーと彼が戦う空中へ目を向けた。
まるで平気だと言っているような余裕に溢れた笑みを浮かべるクレバーと、その余裕に恐怖を覚えた彼。対象的な光景が広がっていた。
「……え?」
人間は驚くと言葉が出ない。今日二回目の絶句と共に、希望は天空で起きた怪奇な現象を二度見した。
雷撃は放たれた。完全に。だがそれはかき消された。分岐されたクレバーの金色の翼のような現象によって。
「オレが知る超能力者の中で唯一強ェと感じたのは…そこで無様に寝っ転がってるガキみてェな身長しかねェヤツだけだ。テメェは大したことねェなァ。典型的な自惚れ野郎だ。」
クレバーは彼の攻撃を完封した。それだけが事実として残るのだ。
そして希望が次に聞き、見たものは、彼が鉄骨の上から蹴り落とされることだった。
「…クソッ!」
脳の判断が追いついた彼は、同時に機転を効かせた。クレバーによる無残な暴力を避けるため、雷撃そのものとなった彼はどこかへ消え去った。
クレバーは逃げ去った彼を見て、深いため息をついた。
「希望、良智を叩き起こせ。そのバカはそれぐらいじゃあ死なねェ。」
「…え、あ、うん。」
空中から地上、隠れ家に降り立ったクレバーは希望に言った。金色の現象は物の見事に消えていた。
「生きてっか?」
「……死ンでるな。」
「そいつァ良かった。」
出血多量で今にも死に絶えそうな良智は、クレバーの嫌味な口調に反応する胆力も無くなっていた。
「さァてと…こういう時はどうするンだっけな?良智。」
希望は無言でクレバーと良智の会話を聞いていた。少年は悪寒に苦しむ中、携帯をポケットから取り出した。
「クレバーァ…おめェ…謀ったな…?」
「別に何も謀ってねェよ。ただ…死にかけの人間を完璧に治せる人間は数えるほどにしか知らねェ。その内のひとりはお前がラブコールをすりゃ飛んでやってくる。だろ?」
「鬼みてェな野郎だ…クソッ…。」
ひとくいおにに人の倫理を追い求める方がおかしな話だ。クレバーはどこにたどり着こうと、ひとくいおになのだから。だから良智はクレバーと共に居るのだから。
「もしもし…オレだ…光良智だ…。要件は分かってンだろ…?今、全身大火傷で…くたばり損ない…やってるところだ…。助けてくれ…。」
恥辱的な行為をしたような顔で、良智は通話を切った。
クレバーはタバコを吸いながら、遠くを見つめて呟いた。
「良智ォ、お前って結構優しいよな。少女を見殺しにすンのは無為だと思ったのか、何となくなのかは知らねェが…希望の盾になったじゃねェか。オレはお前のそういう人情に溢れたところ、結構好きだぜ。」
希望は先程のお礼を済ませていないことに気がつく。良智は身を呈して自分を助けたのだ。クレバーの言う通り、優しい行動だった。横たわる少年に、少女は頭を深々と下げた。
「あの…ありがとうございました!」
良智は希望から顔を背けて言った。
「……気にするな。過ぎたことだ。」
三人はしばしの平和と安全を享受し、やがて訪れる戦いに備えた。
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