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【聖女の育成って何ですか?】その5
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朝食の後に、マクシムとこの国の歌を練習したりダンスレッスンをし、少し休憩して、昼食を取ってから、見習い侍女のミリアンに変身して、日課の場内散歩に1人で出かけた。
どうやら、私の3人に色染められた髪は、呼びかければいつでも駆けつけられる魔法効果があるらしい。
(そんな魔法にびっくりだよ!)
とりあえず、3人の誰かに助けを呼ぶハメにならないように細心の注意を払いながら、場内散歩に出かけた。
城の細部に亘る装飾には興味があるので、ウフウフしながら見学していた。
毎日新発見があるからだ!
すれ違う人達とは、何気ない会話をするようになった。
“侍女見習いのミリアン”は、自分の中でも徐々に受け入れられるようになった。
少しずつだけれど、生きていて楽しいと思える出来事が、静かに雪の様に降り積もり始めた。
いつか・・・この思いが、何の疑いもなく私の中で、溶けて行けばいいと願ったーーーー。
昔、読んだことのある本で出てきた言葉が頭をかすめる。
“幸せを恐れる者は、不幸を望んでいる”
そうなのだろうか・・・?
私は・・・この幸せを感じる瞬間を否定して、不幸を望んでしまうのだろうか・・・。
ただひたすら歩くコース、たまにソラルさまにお願いして、秘密の戦闘訓練も始めた。
特にナトンには極秘に進めている。
「聖女様の身代わりだけで、何も出来ない私を鍛えて欲しい」と言う名目で、何も知らない新人騎士に混じって戦闘の基礎を習っている。
ちなみに、その時だけは自分で作ったズボンで参加している。
(コスプレイヤーの基礎中の基礎のヤツだ!)
その時間だけは、何もかも忘れられた。
無心で体を動かすと、夜はちゃんと睡魔が来るのだ。
お陰で、睡眠導入剤なしで眠れるようになった。
まだ、眠りは浅いけど・・・ありがたい事に、だいぶマシになった。
ソラルさまは年上なだけに、広い心で私のそんなワガママを許してくれる。
ありがたやー!
今はとにかくこの重い体に筋肉をつけたいと思った。
万歩計はないのか!? と、思ったがないものはない。
長年の感覚で、場内散歩コースで8,000歩は越えているのは分かっている。
でも、それではダメなのだ!
下半身のダイエットに成功しても、上半身の筋肉をつけるのは素人の知識だけでは難しかった。
しかも、腕立て伏せでは全くムリなのも知っている・・・だからこそ、ソラルさまのプロの知識に頼った。
これは誰にも秘密にして欲しい! と、合意の上で実施している。
新人騎士に混じって訓練を受けさせてもらった後に、何食わぬ顔をして月石の塔を通り過ぎ、時折姿を見せる赤毛の美少女に視線だけで挨拶をして、マテオGの温室でひと泣きするのが日課になった。
けれど、その日は少し違った。
ストレス発散の為に、温室内の噴水の前で涙を流していたら、誰かの気配がした。
「だれ?」
キラキラと光る、多種多様の美しい南国の植物園の中に、不似合いな暑苦しい衣装を着た、黒い長髪にルビー色の瞳をした超絶美形が現れた。
「そなたこそ何者だ! この温室はマテオ様の許可を受けた者しか入れないはず・・・」
「“雷の鍵”ならマテオ様に戴いておりますので・・・放っておいて下さい」
私は、細かい事はスルーして、温室の小さな美しい噴水を“浄化の才”の練習台にしながら、その水音だけに耳を傾けた。
(どうでもいい・・・この時間だけは、自分の気持ちを見つめる時間・・・)
「・・・ずいぶんと、私の来ない間に、その噴水は美しい水音を奏でるようになったな・・・」
私は散々練習したあるセリフを声に出した。
「聖女ヒロコ様のご意思でございましょう・・・」
(なんちゃって!)
「そうか、そなたはヒロコ様の影武者役か・・・」
(いや、その設定ってバレたらダメなヤツじゃん!?)
「さあ、なんの事でございましょう? 私は最近入った侍女見習いのミリアンでございます」
「そうか・・・しかし、雰囲気がよく似ている」
(まあ、本人ですからね)
「西の聖女様のご体調はいかがでしょうか?」
とりあえず、今話題沸騰の話を振ってみた。
「・・・何故、そなたがそんな事を訊く?」
「ヒロコ様が・・・とても気にかけておりましたから、せめてご様子を伺いたいと思いまして」
「そなたは・・・バカなのか?」
「・・・は?」
(おいおい、そりゃ一体どうーゆー意味だい? ルベンさんや!)
黒髪のどっからどうみても、美しき悪役ラスボスキャラがため息をついた。
「一目で私が西の聖女ノエミ様の世話係だと何故わかった?」
(おいおいルベンさんや? 私はそこまで言ってないよ? 自己紹介か? これはお約束の自己紹介なのか?)
「え・・・とぉ、ノエミ様の世話係、ルベン様とお見受けいたします・・・でも、放っといて下さい。どうでもいいんで・・・」
「なんだと? 侍女見習いの分際で・・・」
(うん、そうだよね、ごめんごめん)
イラっとしたが、ここは大人の対応をしようと努力した。
近くにある大きめの適当な葉っぱを千切り、髪留めのヘアピンを使い、日本語でメッセージを刻んだ。
「はい! コレ、ノエミ様に渡しといて下さい」
後ろ向きのまま、その葉っぱを差し出した。
ルベンは少し迷った末、そのメッセージ入りの葉っぱを受け取った。
「これは何と書いてあるのだ?」
私はしゃがみ込んでいた体を噴水から離し、立ち上がった。
「・・・・・・聖女様に聞いて下さい」
私は、涙で腫れた顔を一気に噴水の水面に突っ込み、涙を洗い流し、手持ちのハンカチで顔を拭った。
固まっているルベンを尻目に、さっさとその場を後にした。
“ミッションその1:[ムツノクニ]の名前でキャラを呼ばない事! 一週間それを守れたら、日本語で手紙を下さい。チュートリアル担当、ミリアンより”
どうやら、私の3人に色染められた髪は、呼びかければいつでも駆けつけられる魔法効果があるらしい。
(そんな魔法にびっくりだよ!)
とりあえず、3人の誰かに助けを呼ぶハメにならないように細心の注意を払いながら、場内散歩に出かけた。
城の細部に亘る装飾には興味があるので、ウフウフしながら見学していた。
毎日新発見があるからだ!
すれ違う人達とは、何気ない会話をするようになった。
“侍女見習いのミリアン”は、自分の中でも徐々に受け入れられるようになった。
少しずつだけれど、生きていて楽しいと思える出来事が、静かに雪の様に降り積もり始めた。
いつか・・・この思いが、何の疑いもなく私の中で、溶けて行けばいいと願ったーーーー。
昔、読んだことのある本で出てきた言葉が頭をかすめる。
“幸せを恐れる者は、不幸を望んでいる”
そうなのだろうか・・・?
私は・・・この幸せを感じる瞬間を否定して、不幸を望んでしまうのだろうか・・・。
ただひたすら歩くコース、たまにソラルさまにお願いして、秘密の戦闘訓練も始めた。
特にナトンには極秘に進めている。
「聖女様の身代わりだけで、何も出来ない私を鍛えて欲しい」と言う名目で、何も知らない新人騎士に混じって戦闘の基礎を習っている。
ちなみに、その時だけは自分で作ったズボンで参加している。
(コスプレイヤーの基礎中の基礎のヤツだ!)
その時間だけは、何もかも忘れられた。
無心で体を動かすと、夜はちゃんと睡魔が来るのだ。
お陰で、睡眠導入剤なしで眠れるようになった。
まだ、眠りは浅いけど・・・ありがたい事に、だいぶマシになった。
ソラルさまは年上なだけに、広い心で私のそんなワガママを許してくれる。
ありがたやー!
今はとにかくこの重い体に筋肉をつけたいと思った。
万歩計はないのか!? と、思ったがないものはない。
長年の感覚で、場内散歩コースで8,000歩は越えているのは分かっている。
でも、それではダメなのだ!
下半身のダイエットに成功しても、上半身の筋肉をつけるのは素人の知識だけでは難しかった。
しかも、腕立て伏せでは全くムリなのも知っている・・・だからこそ、ソラルさまのプロの知識に頼った。
これは誰にも秘密にして欲しい! と、合意の上で実施している。
新人騎士に混じって訓練を受けさせてもらった後に、何食わぬ顔をして月石の塔を通り過ぎ、時折姿を見せる赤毛の美少女に視線だけで挨拶をして、マテオGの温室でひと泣きするのが日課になった。
けれど、その日は少し違った。
ストレス発散の為に、温室内の噴水の前で涙を流していたら、誰かの気配がした。
「だれ?」
キラキラと光る、多種多様の美しい南国の植物園の中に、不似合いな暑苦しい衣装を着た、黒い長髪にルビー色の瞳をした超絶美形が現れた。
「そなたこそ何者だ! この温室はマテオ様の許可を受けた者しか入れないはず・・・」
「“雷の鍵”ならマテオ様に戴いておりますので・・・放っておいて下さい」
私は、細かい事はスルーして、温室の小さな美しい噴水を“浄化の才”の練習台にしながら、その水音だけに耳を傾けた。
(どうでもいい・・・この時間だけは、自分の気持ちを見つめる時間・・・)
「・・・ずいぶんと、私の来ない間に、その噴水は美しい水音を奏でるようになったな・・・」
私は散々練習したあるセリフを声に出した。
「聖女ヒロコ様のご意思でございましょう・・・」
(なんちゃって!)
「そうか、そなたはヒロコ様の影武者役か・・・」
(いや、その設定ってバレたらダメなヤツじゃん!?)
「さあ、なんの事でございましょう? 私は最近入った侍女見習いのミリアンでございます」
「そうか・・・しかし、雰囲気がよく似ている」
(まあ、本人ですからね)
「西の聖女様のご体調はいかがでしょうか?」
とりあえず、今話題沸騰の話を振ってみた。
「・・・何故、そなたがそんな事を訊く?」
「ヒロコ様が・・・とても気にかけておりましたから、せめてご様子を伺いたいと思いまして」
「そなたは・・・バカなのか?」
「・・・は?」
(おいおい、そりゃ一体どうーゆー意味だい? ルベンさんや!)
黒髪のどっからどうみても、美しき悪役ラスボスキャラがため息をついた。
「一目で私が西の聖女ノエミ様の世話係だと何故わかった?」
(おいおいルベンさんや? 私はそこまで言ってないよ? 自己紹介か? これはお約束の自己紹介なのか?)
「え・・・とぉ、ノエミ様の世話係、ルベン様とお見受けいたします・・・でも、放っといて下さい。どうでもいいんで・・・」
「なんだと? 侍女見習いの分際で・・・」
(うん、そうだよね、ごめんごめん)
イラっとしたが、ここは大人の対応をしようと努力した。
近くにある大きめの適当な葉っぱを千切り、髪留めのヘアピンを使い、日本語でメッセージを刻んだ。
「はい! コレ、ノエミ様に渡しといて下さい」
後ろ向きのまま、その葉っぱを差し出した。
ルベンは少し迷った末、そのメッセージ入りの葉っぱを受け取った。
「これは何と書いてあるのだ?」
私はしゃがみ込んでいた体を噴水から離し、立ち上がった。
「・・・・・・聖女様に聞いて下さい」
私は、涙で腫れた顔を一気に噴水の水面に突っ込み、涙を洗い流し、手持ちのハンカチで顔を拭った。
固まっているルベンを尻目に、さっさとその場を後にした。
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