病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【聖女の育成って何ですか?】その6

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私はルベンに聖女ノエミへの手紙を託した後、一週間ゆったり過ごした。
聖女の勉強を午前中に済ました後、いつものリハビリ散歩に出掛けた。
 今日は月石の塔の美少女の赤毛ちゃんの姿は見えなかったが、マテオGの温室にはルベンが噴水の前で仁王立ちしていた。
 私は面倒臭いので、Uターンしてバラ園に向かおうとした。
「待てい!」
「あら? ルベン様、いらしたのですか? 気が付きませんでした」
「嘘をつけ・・・今、ワザと気が付かないフリをしただろう?」
「さあ?」
 にっこりと上品な笑顔で、首を傾げて見せた。
「・・・・・・・・・」
 おうふっ! 魔王ルベン様がじっとりと疑いの眼で私を睨んでおられる・・・。
 しかし、この初夏に暑苦しい長髪野郎だな。
「ミリアン・・・報酬は何が欲しい?」
「ほう・・・しゅう?」
 私は再び反対側にコテンと首を傾げる。
「さすがはヒロコ様が選んだ侍女候補だ・・・どんな魔法を使ったのだ?」
「魔法?」
 そして再び私は首を傾げる。
「ノエミ様が、正気を取り戻し始めたのだ」
「しょ・・・正気って・・・そんなにひどかったんですか?」
「こちらへ」
 魔王ルックスのルベンが、温室の奥の開けた場所に、テーブルとお茶菓子セットを準備していた。
(ふおっ! 超おしゃれ・・・何これ、アフタヌーンティーセット?)
 何故かそこには侍女のクレーが控えていた。
「クレー先輩、何故ここに?」
 クレーは静かに笑顔をこぼし、私に優しく語った。
「ミリアン、今日はあなたがおもてなしの主役よ? さあ、座って」
「え・・・でも・・・」
「ルベン様はあなたが怯えないようにと、私をご指名されたの」
 あ、そういう気遣いをしてくれたんだ魔王・・・て、私の中で何故かルベンの魔王呼びが定着してしまいそうだ。
 これはいかんいかん、直さねば!
 うっかり心の声が漏れたら一大事だよ!
「では、お言葉に甘えて、座ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、ノエミ様の心の恩人、ミリアン」
 静々と白いテーブルセットの椅子に座り、その向かい側にルベンが座った。
 クレーが香りの良いジャスミンティーを淹れてくれたので、それを口にしてお互いにほっと一息ついた。
「ノエミ様のご体調はその後いかがでしょうか?」
「体調というよりは、精神面で参ってしまっているようで、こちらに来てから私の事を“マティアス”、マクシムの事を“アレクシ”、ナトンの事を“リュカ”と言って・・・会話が成立しなかったのだ」
「・・・ノエミ様にはお会いした事はありませんが、見た目よりとても幼い方なのでしょう。きっと異世界召喚のショックで、夢と現実の境目が曖昧になってしまっているようですね」
「その通りだ! そなたからのあのメッセージを半信半疑で渡したら、何故か私達をきちんと認識し始めたのだ・・・一体どんな魔法を使ったのだ?」
「あれは、ノエミ様の故郷の言葉です。ヒロコ様から教えて頂きました」
「そうなのか! だからノエミ様が元気になられて・・・」
 チロリと私が横目でクレーを見ると、表情はポーカーフェイスを気取っているが、口の端と腹筋がピクピクとしている。
 相当笑いをガマンしているようだ。
 (スマヌ・・・クレーさん、こんな茶番に付き合わせてしまって!)
「あの・・・つかぬ事をお伺いしますが、ノエミ様は聖女としてこちらの一般常識の勉強はどれぐらいお進みですか? ヒロコ様はお体が弱く、少しずつしか進められていない状況なのですが」
 ティーカップを持つルベンの指が、ピクリとだけ反応した。
 どうやら答えたくないぐらい、西の聖女の育成は進んでいないらしい。
「そうですか、確かにヒロコ様はノエミ様に比べてお体も小さいですし、来たばかりに召喚士を介抱し・・・倒れられて三日以上床にふせっていたとお聞きしました」
 (ウツ症状が出ちゃって、脱力して起き上がれなかったんですよ~)
「・・・はい、でも、毎日1ミリずつ進んでいますからきっと大丈夫ですよ」
「は? 1ミリ? 一歩ずつではなく?」
「あ、ヒロコ様は一歩進む前に倒れますから、1ミリずつ頑張ってもらってます」
「1ミリ」
「それでも1年間は520日ですから、1年後には確実に520ミリは進めます!」
「520ミリ」
「欲張って無理して進むと・・・倒れて休養が多く必要になってしまいますもの」
 「いい事言った!」と自負しながら、美味しいマカロンをバクバク食べていた。
 もうひとつ・・・と、マカロンに手を伸ばそうとしたら、クレーに「ペチッ」と、右手を叩かれた。
 彼女の顔を見ると「食べすぎ!」と、書いてある様だった。
「本当は、今日ここへお連れしたかったのですが、どうもフラフラとして危なっかしてくて・・・」
「うん、その症状だと・・・まだ私とは会わない方がいいかもしれませんね。まだ、夢と現実の境目が不安定・・・」
 クレーが睨んでいるので、これ以上マカロンのおかわりは無理だとあきらめた。
 私は高級ジャスミン茶をひたすら啜る。
「もしかして、ノエミ様って夜はあまり眠れていないんじゃないですか?」
「そう言えば・・・昼寝はちょくちょくしてますが・・・」
「夜は不安で寂しくて眠れてないのかも」
「不安? 寂しい? なぜ・・・隣室には私も警備の者も控えてますし・・・」
 あちゃ~! と、私は手で目を覆った。
「ノエミ様の食欲は」
「少食です・・・ほとんど飲み物しか受け付けず、今は私が“調合の才”で栄養満点の飲み物で体力的に問題はないかと」
(な、何よそれ!)
「散歩とかは?」
「部屋に閉じ籠りっきりです」
 (おい、それ・・・アカンやつ!)
「とりあえず最近は、ちゃんとみんなを正しい名前で呼ぶようになったのですね?」
「はい・・・」
「ノエミ様の世話係はルベン様以外に決まっているのですか?」
「今は、確定しているのは私だけです」
「髪色に変化は?」
 私は段々と、言葉遣いが素に戻っていくのを感じていた。
「・・・私の忠誠は、まだ受け入れて頂いていません」
「じゃあ、ノエミ様は身も心も独りぼっちじゃないの!!」
 私との会話でどんどんと下を向いて行くルベンに、手を差し出した。
 ひょんと、彼は顔を上げる。
「あの・・・何でしょうか?」
「手紙をよこせ!」
「な・・・何故それを知っている!」
「なぜ隠すの! 解読できないから? 私が敵国のスパイだと疑っているから? 声を上げて読んであげるわよ! 文句ある?」
「・・・・・・・・・」
 図星を突かれたルベンが悔しそうに、懐から手紙を出した。
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