病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【本物って誰のこと?】その4

  カキコカキコカキコ・・・・・・。
 私は今、使い慣れないペンを使い、とても立派な机の上でお手紙を日本語で書いている。
 西の聖女・・・もとい、ノエミちゃんへのご挨拶の手紙を正式にこちらの国の言葉で書いてから、そのままの言葉を翻訳してノエミちゃん用に書いているのである。
 目の前にいる“聖女の世話係”は、上品な灰色の髪をオールバックにキメ、がっしりとした黒縁メガネで、私の手元をじっとりと見つめている。
「余計な事は書いていませんよね?」
「はい、ちゃんと余所行よそいき用に丁寧な言葉で書いていますよ」
 嘘である。
「・・・ちゃんとノエミ様に何て書いてあるか、1字1句聞きますからね?」
「済みません、書き直します」
 カキコカキコカキコ・・・・・・。
 ソラルさま警備突破事件から一夜が明けた。
 (侵入した賊って・・・ソラルさまの事なんだろうか? それとも別の侵入者?)
 賊が侵入したと言う情報は世話係全員に通達されていたが、ベランダでの出来事は誰にも話してはいない。
 当たり前だ、あんな事は口が裂けても、言えない。
 でも、頭の片隅に何かが引っかかっていた。
 (う~ん・・・なんか大事な事を忘れているような?)
「ヒロコ、実は急で申し訳ないのですが・・・今日この後、謁見えっけんが入っていまして・・・」
「え? 謁見? 陛下もまだなのに部外者に会っていいの?」
「ヒロコは立場上、謁見される側なのですが・・・部外者ではなく・・・正式に、その・・・本来はきちんとご挨拶をしなければならなかったのですが・・・色々あったもので」
「部外者じゃない? 本来はきちんと挨拶が必要な相手?」

 西側の聖女(見習い)ノエミちゃん宛の挨拶の手紙・・・まだ、ミリアンの正体が聖女ヒロコだって言っていないのだ。
 マテオ様に正式に「ノエミちゃんと聖女として会いたいな? いいかな?」と言うお伺いと、「ちゃんとした戦闘訓練をソラルさまの近くで習いたいな!」と言う希望(願望)書である。
 ちなみにこの訓練の希望書は後出しだ。
 既に騎士の訓練の横っちょで見学まがいな事はしていた。
 立場上 、ちゃんとこーゆー事しないと、みんなに迷惑かけちゃうしな。
 ナトンが「僕が教えるって言ったじゃん!」と、ねかねないのだ。
 ついでに、トリュフチョコレートを自分で(大量に)作りたいから、厨房の使用許可と材料の取り寄せの依頼書を書いて、誰かが勝手に手紙を開けられないように、クレーに封をしてもらった。
 (へい、ひと仕事終わったよ! 今日のお昼ご飯は何かな?)
 昨晩はひと騒動あったので、遅めのお目覚め・・・朝食と昼食は一緒に、と言う感じでセッティングしてもらった。

 クレーが私の手紙をマテオGの宰相室に届ける為、ナトンと一緒に出てしまっていた。
 ナトンは体術が得意で、とっても頼りになるボディーガードなのだ!
 ・・・んで、お昼ご飯の給仕は誰がやるのかというと・・・イスマエルである。
 食事を乗せたカートを押して、座っている私に前掛けのナプキンを首に巻いて、目の前に懇切丁寧に食器を並べ、さっと食前に常温のマリーゴルドのお茶を出し、前菜のキャベツのおひたしを出した。
 以外に合う組み合わせだった。
 (うんうん、私が食べ過ぎないように気を使ってくれているのだなあ・・・)
 もぐもぐもぐもぐ。
 このキャベツは柔らかくて新鮮で、高級感があった・・・深夜のスーパーで見切り品を買い漁る派遣時代が、なんだか悲しい思い出になってしまった。
 ちなみに、冷蔵庫が食料で満タンになった事など一度もない。
「確か私の死亡保険なら教育ローンを完済してもお釣りが出るはず・・・」
「ん? どうしたヒロコ?」
 しゃもじを持ったイスマエルが、皿に白米をよそいながら私の方を見た。
「あ、ごめん、ちょっと独り言・・・」
「そうか」
 実は私は二重の教育ローンを組んでしまっていた。
 大学はワケあって一年で中退、その後、専門学校で経済学を学んだ。
 故に、教育ローン貧乏である・・・しくしく(涙)。
「金利が4%と6%じゃ辛いよなぁ・・・でも電車止めちゃったし・・・」
(賠償金とかあるのかなぁ?)
「どうした、ヒロコ? 悩み事か?」
「うん、お金の悩み事」
 カシャーン・・・
 金属製のしゃもじが落ちた――――。
 (ここはしゃもじもオサレっぽいな)
 お皿を持ったままイスマエルが固まっている。
 「イスマエルは白い割烹着も似合いそうだなぁ」などと睡眠不足の私は、ぼうっとしながら考えていた。
 直ぐにイスマエルは拾ったしゃもじを水魔法を使って空中で洗浄し、気を取り直して食事の支度を進めた。
 どこからともなく現れた水は、どこからともなく消えていった。
 マジシャンみたいにキレイな魔法を使う・・・と、私は感嘆の溜め息をこぼした。
「済まないヒロコ・・・食事が質素だったか・・・」
「ううん、ぜんぜん! 毎日おいしいごはんありがとう! 調理師さんにも今度ご挨拶したいな?」
「そうか・・・」
 (なんだかイスマエルが涙目になっているよ? どうしたイスマエルの兄貴!?)
 今日のお昼ご飯は、キャベツのおひたし・白米・和風スープ・魚のソテーだった。
 この国で手に持つ茶碗などは、下級の庶民しか使わないそうなので、却下された。
 とりあえず、立派なお箸は作って貰ったのだが・・・作法の勉強の為、あまり使わせてもらえないのだ。
 今日は特別にお許しがもらえた。
 もぐもぐもぐもぐ・・・美味しい食事に思わず笑みがこぼれまくる私であった。
「やはり・・・幼いなヒロコは・・・」
「そお?」
 もぐもぐもぐもぐ・・・。
「そんな質素な食事を美味しそうに、頬張って・・・」
「質素じゃないよ? 誰かが自分の為にこんなに美味しいごはんを作ってくれるなんて、奇跡だよ?」
「なんと純粋な・・・」
 この貴族様感覚は、どうも馴染めない。
 (こいつ根っからの坊ちゃんだな)
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