病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【本物って誰のこと?】その7

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「ミリアンさまあぁぁぁぁ~~~っ!」
 どすっ・・・。
 地味に内蔵に響く体当たりを食らってしまう・・・か~ら~のぉ締め技だ!
 ギリギリギリギリギリ・・・。
「ちょ・・・苦し・・・ノエミちゃ・・・」
 いつの間にか私の足は地面から離れていた。
「ノエミ様! 一体ここまでどうやって?」
「もちろん走って来ました!」
 クレーの方に振り向き、的外れな元気の良い返事をしながら私を抱きしめ続けていた。
 ぎゅぎゅぎゅぎゅ~・・・。
「ノエミ様! ヒロコ様をお放し下さい! 死んでしまいます!?」
「はっ! いけない、アタシったら!?」
 意外に馬鹿力のノエミの腕から解放された瞬間、私は脱力し、クレーが素早く体を支えてくれた。
「ご、ご、ご、ごめんなさい! うれしくって、つい」
「とりあえず・・・話し合おうか・・・」
 ベランダでは何なので・・・と、客室に何故かメイドコスプレをしているノエミを案内し、お互いにソファーに座り向かい合った。
 ノエミはウルウルした瞳で、顔の前に掌を組みながら私を見詰めた。
 クレーは警戒しつつ、来客用に冷たいアップルティーを淹れてくれた。
「ミリアン様・・・いいえ、やはり貴方が聖女ヒロコ様なのですね」
「うん、まあ、そう・・・」
 これは誤魔化しようがなかった。
 すでに現場を押さえられた万引き犯の心境である。
「先ほど聖女ヒロコ様からの手紙を受け取り、居ても立っても居られなくって!」
「もしかして・・・侍女の衣服を剥ぎ取り、ここまで走ってきた?」
「てへ!」
 ノエミは後ろ頭を掻きながら、舌を出して茶目っ気を出した。
 (可哀想に・・・被害者の侍女さん・・・)
「あの! 初回限定ムツノクニポストカード・・・ありがとうございます」
「いえいえ・・・ノエミちゃんが頑張ってるご褒美です」
「しかも、アレクシ様のピンポイントぉぉぉっ!!」
 (とりあえず一枚だけね)
「うん、好きだと思って」
「しかもレアな騎士制服のヤツ」
「人気投票一位はマティアスだったけどね?」
「私は受け顔のツンデレ・アレクシ様一筋ですから!」
 (言っちゃったよ、“受け顔”って言っちゃたよ! 聖〇士〇矢の氷〇様タイプだもんね)
「知ってるんだね、BL版裏設定・・・」
「モチのロンです! シナリオライター様と神絵師様の裏ペンネームで書いた本!」
「ああ、冬コミ行ったクチ?」
「はい、薄い本で貯金が危うかったです」
「本物だけ買えばそんなに使わないでしょう・・・実際グッズもそんなに出してないし」
「いいえ! ファンの課金熱量を甘く見ないで下さい!」
「デスヨネ?」
 “ムツノクニ下克上”を熱く語り始めたノエミに、私はやるせない気持ちになり、体中に震えが走っていた。
 たった一冊のあの本のせいで、この子は青春の真っただ中で死んでしまった。
 これから大人になり、自分で稼ぎ、楽しい事も辛いこともたくさん経験できたはずの未来が絶たれてしまったのだ。
 とても中途半端な人生・・・プツリと切れた運命の糸は二度と戻る事はないだろう。
 私も学生時代はとても辛い経験もあったけれど、ちゃんと学生と社会人の区切りを経験できただけでも儲けものだと考えている。
 なんて尊い――――。
 私は意を決し、ソファーから立ち上がり、彼女の横に立った。
「え、ヒロコ様、どうしたの?」
 そして私は土下座した。
「ノエミ様、この度は弊社のトミシヤマ企画が、ムツノクニ下剋上バカンス編のライトノベル化におきまして、初回特典ポストカードの増版が間に合わず、ご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした!」
「えええぇっ!! うそ? スタッフ様だったの!?」
「ヒロコ様! 聖女が土下座なんてしてはなりません!」
 土下座をしながら体を屈めていた私を、クレーは両肩を支えながら引っ張り上げた。
「そうよ、ヒロコ様は悪くないわ! 青信号だろうが何だろうが、きっとアタシが落ち着いていれば避けられたかもしてない事故だったんだから」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
 うつむきながら謝罪の言葉を繰り返す私の前にノエミは跪き、頬を両手で包み込み、顔を上げさせた。
「いいえ! あなたはスタッフ様! ミリアン様! ヒロコ様! 聖女様! 女神様・・・」
 その時、客室の扉がガチャリと音を立てて開いたが、ノエミはかまわず言葉を続けた。
「そして神! 私にとって、あなたは神です!! だってミリアンと言えばあの、ラノベの連載の後書きとか、ラノベ設定を加筆した超有名人ではないですかぁ!! まさしく私にとって神そのものです! あのポスカを拝めるとは天にも昇る気持ちでした!」
 客間の扉がほぼ全開にされていた為、ノエミの“神”発言は廊下中に響いた――――。
「この聖女ノエミが、貴方を“神”認定します!」
「“神”・・・?」
 扉を開き、呆然とそこに立ち尽くしていたのは、ノエミの大好きな“アレクシ”の姿を持つマクシムだった。
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