30 / 71
【本物って誰のこと?】その11
しおりを挟む
フォスティンヌとの挨拶は一通り終了したので、来客室にてイスマエルのいつものお小言が始まった。
「ヒロコ、わかっているとは思うが」
「はい・・・・・・」
何故か私は、イスマエルの向かい側のソファーで正座をしていた。
「母上の言うことは鵜呑みにしないように」
「・・・デスヨネ」
「あの通り自由奔放なのだ」
「・・・ナルホド」
私はよく分からないまま、頷くしかなかった。
「父も私も母の事は大切に思っている」
ふいっと、私は顔を上げる。
「はい、とても魅力的な方ですよね?」
「ああ・・・そこがかなり問題でな」
何となくだが、私は思った事を口にした。
「・・・・・・母親が美しく自由奔放なので、まさかとは思いますが、あくまで私の想像なのですが」
「と、言うと?」
「もしかして、その後処理に振り回されている・・・・・・とか?」
「そこを理解してもらえるとは・・・私は救われた気がするよ」
イスマエルは老け込んだ表情で、眉間に指を当てた。
どうやら図星らしい。
両親があんなだと、息子はこんなに真面目に育つのだろうか・・・謎である。
「――――まあ、あの様子だとお腹の子供の父親は確実にソラル様だから安心しなよ」
半分存在を忘れていたマクシムが口を開いた。
なんて他人事のように・・・いや、まあ・・・他人事だけど、マクシムは随分とサバサバとしていた。
「マクシム、人の家庭に踏み込み過ぎだ!」
「付き合い長いからね、嫌でも分かるよ」
マクシムは光魔法の持ち主で、更に音を聞き分ける才があるので、そう言う事はすぐにわかるらしい。
(音と光って・・・どんだけ音速と光速を兼ね備えてんだよ? 声のトーンとかで嘘を見抜けるのかな?)
「うん・・・女はそういうの、勘でわかるし、フォスティンヌ様はちゃんと判断できる人だと思う」
ぽつりと、私の感想を口にした。
まさか初対面の女性に対して、あそこまでお互いに思っていることを見透かせるとは思わなかった。
(なんだこの感覚? 私は魔力に目覚めたのかな?)
「よくわからんな・・・」
魅力的な人ほど、墓場まで持って行く秘密は数多く存在するのだ。
ソラルさまなんか、その典型的パターンだと思う。
(なんてったって、ソコがいい!! 魅力的なおじ様は影があってナンボなのだ)
フォスティンヌとの顔合わせの数日後、私の希望したトリュフチョコレートの材料が届けられた。
キレイな木箱に収められた材料を、私とクレーとイスマエルで開封した。
「わお! うれしいなあ・・・」
ブラックチョコレート、ココアパウダー、ナッツ類に、調味料、洋酒の瓶が入手できた。
「え~と、これが領収書と明細書だ。ちゃんと、言われた通りに業者と直接取引きをしたぞ、これでいいな?」
しゃがみながら、領収書の束と明細書を私に手渡してから、木箱の中の材料の確認をイスマエルはし始めた・・・そのスキに、イスマエルの頭を撫でておいた。
「よしよし、偉い偉い!」
「なっ・・・」
(うんうん、そのびっくりした顔が見たかったんだよ)
「あれ? 作法でやっちゃダメだった?」
私は、普段からはるか上から見下ろすイスマエルに、仕返しをしたかっただけなのだ。
こんなチャンスはなかなかない。
「だ・・・だめではない・・・」
「ふうん? で? この国の庶民の平均収入は分かった?」
「ああ、・・・だいたい、家族四人の共稼ぎ家庭で30万Bだ、父親などが25万Bを稼ぎ、母親が内職などで5万B、10歳ぐらいまでの子供二人で困らない程度の生活ができる。また、その両親などが共に暮らし、働きに出ていると僅かに上がるが・・・せいぜい45万Bで、6人家族での生活は少し苦しいらしい。子供が多いとなおさらだ」
「おお、勉強になる! 偉い偉い」
イスマエルが、ちらりと私を見たが、もう撫でてやらん。
そんな感じでふざけていた私を、とてもなまぬる~い眼で、クレーが後方から見守っていた。
「あ・・・コホン、やっぱり領収書の読み上げはクレーがして」
私はクレーに紙の束を渡す、実はまだ文字があまり読めない。
「はい、かしこまりました。前に言っていた“検品”ですね?」
「“検品”?」
私は木箱とイスマエルの前にしゃがみ込み、商品の確認の姿勢を取った。
「うん、伝票と商品が合っているか、答え合わせをするんだよ」
「答え合わせ・・・」
「クレー、一緒に単価も読み上げてね。大事なことだから」
「はい、かしこまりました。では・・・ココアパウダー、3千B」
「これだ」
イスマエルは小さめの紙袋を指さす。
「やっぱりこれは高級品だね」
「え? たった3千Bだろう?」
「まあ、まあ、その辺は後で一緒に確認しようよ。クレー、続きを」
「チョコレート・・・砂糖・・・塩・・・乾燥果実・・・」
(ふんふん、だいたい予想通りの価格帯だな・・・)
「そんなに安いのか?」
「そこの貴族の坊ちゃん、ちょっと黙っとけや・・・クレー、続き・・・」
「ヒロコ様・・・言葉遣い・・・」
「済みません・・・」
「白ワイン・・・赤ワイン・・・ブランデー・・・・ウイスキー・・・ラムダーク・・・オレンジキュラソー・・・グランマニエ・・・」
「おい・・・ちょっと待て? 酒が多いぞ?」
「お菓子の材料です」
「いや、多いぞ・・・」
「お菓子を美味しく頂く材料です」
「ん? 酒と菓子だぞ?」
どうやらこちらの世界では、甘いものをツマミに酒を煽る習慣は根付いてないらしい。
(ドライフルーツと酒は合うんだが?)
「いやいや・・・私の世界ではこのような嗜みは、上流階級では当たり前でしたけど?」
「そうなのか?」
「そうなんです!」
(こちとら禁酒で気が滅入ってんだよ。飲ませろよ、本当はビールが飲みたいんじゃ!)
・・・と、言うのが本心であって、素直に「酒を飲ませろ」とは言えないただの小心者なのであった。
「・・・以上です」
「うん、全部そろってるね。ありがとう、イスマエル、これで美味しいお菓子を作るね!」
「ヒロコが・・・作るのか?」
イスマエルがポカンとして質問した。
「うん、ミリアンとして厨房に入れるように手配もよろしくね」
「・・・国の宝と呼ばれる聖女が厨房に入るのか?」
「は? なにそれ? んじゃ、聖女命令! 私に料理をさせなさい、イスマエル」
「そこで権限を使用するのか!?」
「うん」
よ~し! 日持ちするツマミを作るぞう!・・・と言う目的もあった。
「ヒロコ、わかっているとは思うが」
「はい・・・・・・」
何故か私は、イスマエルの向かい側のソファーで正座をしていた。
「母上の言うことは鵜呑みにしないように」
「・・・デスヨネ」
「あの通り自由奔放なのだ」
「・・・ナルホド」
私はよく分からないまま、頷くしかなかった。
「父も私も母の事は大切に思っている」
ふいっと、私は顔を上げる。
「はい、とても魅力的な方ですよね?」
「ああ・・・そこがかなり問題でな」
何となくだが、私は思った事を口にした。
「・・・・・・母親が美しく自由奔放なので、まさかとは思いますが、あくまで私の想像なのですが」
「と、言うと?」
「もしかして、その後処理に振り回されている・・・・・・とか?」
「そこを理解してもらえるとは・・・私は救われた気がするよ」
イスマエルは老け込んだ表情で、眉間に指を当てた。
どうやら図星らしい。
両親があんなだと、息子はこんなに真面目に育つのだろうか・・・謎である。
「――――まあ、あの様子だとお腹の子供の父親は確実にソラル様だから安心しなよ」
半分存在を忘れていたマクシムが口を開いた。
なんて他人事のように・・・いや、まあ・・・他人事だけど、マクシムは随分とサバサバとしていた。
「マクシム、人の家庭に踏み込み過ぎだ!」
「付き合い長いからね、嫌でも分かるよ」
マクシムは光魔法の持ち主で、更に音を聞き分ける才があるので、そう言う事はすぐにわかるらしい。
(音と光って・・・どんだけ音速と光速を兼ね備えてんだよ? 声のトーンとかで嘘を見抜けるのかな?)
「うん・・・女はそういうの、勘でわかるし、フォスティンヌ様はちゃんと判断できる人だと思う」
ぽつりと、私の感想を口にした。
まさか初対面の女性に対して、あそこまでお互いに思っていることを見透かせるとは思わなかった。
(なんだこの感覚? 私は魔力に目覚めたのかな?)
「よくわからんな・・・」
魅力的な人ほど、墓場まで持って行く秘密は数多く存在するのだ。
ソラルさまなんか、その典型的パターンだと思う。
(なんてったって、ソコがいい!! 魅力的なおじ様は影があってナンボなのだ)
フォスティンヌとの顔合わせの数日後、私の希望したトリュフチョコレートの材料が届けられた。
キレイな木箱に収められた材料を、私とクレーとイスマエルで開封した。
「わお! うれしいなあ・・・」
ブラックチョコレート、ココアパウダー、ナッツ類に、調味料、洋酒の瓶が入手できた。
「え~と、これが領収書と明細書だ。ちゃんと、言われた通りに業者と直接取引きをしたぞ、これでいいな?」
しゃがみながら、領収書の束と明細書を私に手渡してから、木箱の中の材料の確認をイスマエルはし始めた・・・そのスキに、イスマエルの頭を撫でておいた。
「よしよし、偉い偉い!」
「なっ・・・」
(うんうん、そのびっくりした顔が見たかったんだよ)
「あれ? 作法でやっちゃダメだった?」
私は、普段からはるか上から見下ろすイスマエルに、仕返しをしたかっただけなのだ。
こんなチャンスはなかなかない。
「だ・・・だめではない・・・」
「ふうん? で? この国の庶民の平均収入は分かった?」
「ああ、・・・だいたい、家族四人の共稼ぎ家庭で30万Bだ、父親などが25万Bを稼ぎ、母親が内職などで5万B、10歳ぐらいまでの子供二人で困らない程度の生活ができる。また、その両親などが共に暮らし、働きに出ていると僅かに上がるが・・・せいぜい45万Bで、6人家族での生活は少し苦しいらしい。子供が多いとなおさらだ」
「おお、勉強になる! 偉い偉い」
イスマエルが、ちらりと私を見たが、もう撫でてやらん。
そんな感じでふざけていた私を、とてもなまぬる~い眼で、クレーが後方から見守っていた。
「あ・・・コホン、やっぱり領収書の読み上げはクレーがして」
私はクレーに紙の束を渡す、実はまだ文字があまり読めない。
「はい、かしこまりました。前に言っていた“検品”ですね?」
「“検品”?」
私は木箱とイスマエルの前にしゃがみ込み、商品の確認の姿勢を取った。
「うん、伝票と商品が合っているか、答え合わせをするんだよ」
「答え合わせ・・・」
「クレー、一緒に単価も読み上げてね。大事なことだから」
「はい、かしこまりました。では・・・ココアパウダー、3千B」
「これだ」
イスマエルは小さめの紙袋を指さす。
「やっぱりこれは高級品だね」
「え? たった3千Bだろう?」
「まあ、まあ、その辺は後で一緒に確認しようよ。クレー、続きを」
「チョコレート・・・砂糖・・・塩・・・乾燥果実・・・」
(ふんふん、だいたい予想通りの価格帯だな・・・)
「そんなに安いのか?」
「そこの貴族の坊ちゃん、ちょっと黙っとけや・・・クレー、続き・・・」
「ヒロコ様・・・言葉遣い・・・」
「済みません・・・」
「白ワイン・・・赤ワイン・・・ブランデー・・・・ウイスキー・・・ラムダーク・・・オレンジキュラソー・・・グランマニエ・・・」
「おい・・・ちょっと待て? 酒が多いぞ?」
「お菓子の材料です」
「いや、多いぞ・・・」
「お菓子を美味しく頂く材料です」
「ん? 酒と菓子だぞ?」
どうやらこちらの世界では、甘いものをツマミに酒を煽る習慣は根付いてないらしい。
(ドライフルーツと酒は合うんだが?)
「いやいや・・・私の世界ではこのような嗜みは、上流階級では当たり前でしたけど?」
「そうなのか?」
「そうなんです!」
(こちとら禁酒で気が滅入ってんだよ。飲ませろよ、本当はビールが飲みたいんじゃ!)
・・・と、言うのが本心であって、素直に「酒を飲ませろ」とは言えないただの小心者なのであった。
「・・・以上です」
「うん、全部そろってるね。ありがとう、イスマエル、これで美味しいお菓子を作るね!」
「ヒロコが・・・作るのか?」
イスマエルがポカンとして質問した。
「うん、ミリアンとして厨房に入れるように手配もよろしくね」
「・・・国の宝と呼ばれる聖女が厨房に入るのか?」
「は? なにそれ? んじゃ、聖女命令! 私に料理をさせなさい、イスマエル」
「そこで権限を使用するのか!?」
「うん」
よ~し! 日持ちするツマミを作るぞう!・・・と言う目的もあった。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる