病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

文字の大きさ
39 / 71

【それは偽りではなく、ノリです。】その2

しおりを挟む
 ぱちり。
 目を覚ますと、普通の高さの白い天井が視界に入った。
 最近ようやく見慣れた豪奢な天井ではなかった。
逆に、今まで見ていたことが夢で、私が今いるのは病院のベッドだと言われれば納得できたかも知れない。
 私は簡素なベッドにひとりで横たわっていた。
 きょろきょろ見回すと、病院の個室のように思えたが・・・残念ながら壁も窓枠もベッドの作りも私の知っている近代日本の造りとはかけ離れていた。
 美しい曲線を描く窓枠、はめられたガラスの透明度はかなり低いが、趣がある。
 頭がなんだかぼうっとして、次の正しい行動が思い浮かばなかった。
 扉のひとつ向こう側は、沢山の人の気配がして随分と騒がしい。
 ひょっこりと起き上がり、ベッドの横に置かれた靴を履き、心の赴くままに扉を開き廊下に一歩足を出した。

「あ、あんたね! ドジ踏んで降格したって言う新人は?」
「えっ!?」
 ぐいっと、左腕を掴まれ、灰色の制服を着た体格の良いおねーさんにそのままリネン室に連れて行かれ、タオルの入ったカゴを渡され、おねーさんの方はシーツの山を担いだ。
「もう! 初日から迷子ってどういう事? 制服がまだ支給されてないってのは聞いてたけど、勝手に病室に入っちゃダメじゃない!」
「あ・・・はい、すみません」
 訳も分からず、とりえず謝っておいた。
 このおねーさんはどうやら看護師のようだ。
「あんたもそんな若いのに、いきなり看護塔に配属されちゃうなんてついてないわね」
 周りは包帯を巻いたケガ人やら、同じ灰色の制服を着た看護師らしき人達がいた。
 ここは城の一部なのだろうか?
 (はじめて来るところだから、何がなんだかわかんないや・・・)
「あたしはノア、あんたは?」
 鼻息を荒くした妙齢の女性が、胸を張って名乗る。
「・・・・・・・・・ミリアンと申します」
「十代の娘が来るって聞いてたけどさ・・・そんな立派な侍女服来て・・・」
 何故か同情するような眼差しで見つめられた。
「あ、あのう・・・」
 確実に別人と勘違いされている事に気が付き、誤解を解こうとしたのだが。
「わかってる、わかってる! どうせエロ親父にセクハラされて反撃しちゃったんでしょう? あるある、ここに来る可愛いくて若い娘はみんなそう、そんで、ここのハードな仕事に参っちゃって、ごめんなさいして元ン所で頑張り直すのよ!」
 力技で言い負かされたような気分になり、どうでも良くなってきた。
 ノアは大股で力強く歩きながら、途中で蒸しタオルの入った桶を準備し、私に渡した。
「新人は、まずは清拭せいしきに慣れてね! ま、男性が多いから最初は照れちゃうかも知れないけど」
 本当に病院みたいだ。
 床の白い樹脂の四角いタイル、白い壁・・・薄汚れているけれど、たまに、血痕らしき壁の汚れが視界をかすめた。
 (き・・・気にしない、気にしない・・・)
「清拭・・・ですか?」
「そーよ、教えるから」
 彼女は元気な笑顔で、六人部屋へと案内し、清拭の準備を始めた。
「ノアさん・・・そんな若い子の前でオレに脱げと・・・?」
「脱げっ!」
 足を骨折した兵士の青年が悲しそうな顔をした。
「いーい? 今から見本見せるから・・・」
「あの、ノアさんお忙しいんですよね?」
「そりゃ・・・まあ、ここの仕事はハードだし」
「私、習った事あるやり方があるんで、ここは手分けして済ませちゃいましょう」
 (本と動画と支援センターでほぼ付け焼刃で覚えたんだけど・・・実家のばーちゃん元気かな・・・)
「え? 大丈夫? 身体拭くだけだけどさ・・・力もいるよ?」
「では、手を貸して頂きたいときは声を掛けさせて頂きますね」

「はい、それでは失礼します」
 私はささっと、ベッド周りのカーテンを閉めた。
「若輩者の私でもよろしいですか? 勉強の為、貴方の身体に触れてもよろしいでしょうか?」
 骨折した兵士を不安にさせないように、営業スマイルを向け、承諾を確認した。
「もお・・・好きにして・・・」
「では、顔から失礼しますね・・・痛くはないですか?」
 ゆっくりと目頭から目尻へとタオルを優しく触れて行く、額、頬、顎の順番で・・・耳も耳の裏も指でなぞっていく。
「うん、丁寧で気持ちがいいよ・・・」
「骨折しているのは足だけですか?」
「ああ・・・でも、手首をひねっていてね、動かすと辛いんだ」
「そうですか、気を付けますね・・・気になるところはありますか?」
「頭を・・・洗いたい・・・」
 さすがに洗髪剤は高級品扱いらしいので、ハッカ油を垂らしたお湯で洗ってあげたいと思った。
「なるほど・・・では、お湯で洗っていいか、後で確認しましょうね・・・、腕、上げてもよろしいですか?」
「うん、自分で上がるよ・・・」
 などど、触れるたびに本人に確認しながら全身を清拭し、足の指の間までゴシゴシと拭って終了した。
 本来は末端から心臓に向けて拭くのが基本らしいが、蒸しタオルを替えつつ、上から下へと今回は清拭をした。
 一丁上がり!
 私は腕で、汗をかいた額をグイっと拭った。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

処理中です...