病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

文字の大きさ
40 / 71

【それは偽りではなく、ノリです。】その3

しおりを挟む
「カーテン開けますよ~」
「うん、大丈夫、どうぞ・・・」
 ノアさんも向かい側のベッドの方が終わったようだ。
 介護関係も就職の選択肢に入れていたが・・・ハローワークの人に、PCスキルとリテールマーケティングと簿記とカラーコーディネーターのスキルがあるので「もったいない」と言われていた。
 PCスキルもマーケティングの才能も介護関係には必要だと思うんだよなあ・・・。
 あ、でもそれ、私だとマーケティングの方の仕事に偏っちゃうか?
 ただ、誰かを「元気にしたい」って気持ちだけでは、どうにもならないんだよね。
「おおっ~、一室のシーツ交換まですごい速さで終わった! ミリアンこーゆーの慣れてるの?」
「そうでもないです・・・私、体力ないんで」
「ありゃあ・・・じゃあ、この仕事はキツイかあ」
「思ったんですけど・・・ここの方は軽傷が多いですね?」
「そりゃここは、一時的なところだもの、専門の治療が必要な人はすぐに転院よ・・・もしくは・・・」
 カーン!
 と、鐘がひとつ鳴った。
「来た! 直ぐにこの桶、片付けて!」
「あ、はい! さっきの元のところでよろしいですか?」
「ええ、お願いね! 今のは急患の知らせよ!」
「急患?」
「まあ、私達はベッドの準備とかだけど、まずは先生が走るわ・・・」
「えっと、とりあえず桶とシーツを片付けますね」
 急いでリネン室前のカゴに洗濯依頼のシーツを突っ込み、桶を洗浄室の受付に渡した。
「はっ! 私・・・こんな事してる場合じゃなかった!!」
 つい、労働の喜びを噛み締めてしまった社畜体質に気が付き、ノアさんに誤解を解きに駆け出そうとした時・・・目の前を医者らしき人物が駆け足で横切っていた。
「おっふぅ・・・マジで先生が走ってる?」
 医者が駆け寄った先に、人が群がっている。
 私は遠目からその異様な状況を呆然と眺めていた、看護塔の入り口辺りでは「待て、これ以上、人は入るな!」と、見張りの兵士が人の流れを止めようと叫んでいた。
 人だかりで良く見えない・・・誰かが大けがをして運ばれて来たらしい。
「そこの人! ちょっとコレ見張っててくれ!」
 いきなり私の目の前に放り投げられるように、兵士が担架を置き去りにして行った。
「え? みる? 何を!?」
 廊下の向こうでは誰かの救命活動が行われ、私の目の前には・・・放置された担架・・・。
 覆いかぶされたその布をはいだ。

 細い身体から滲みだしていた血の量に、全身の肌が粟立った。
 けれど私の身体は勝手に動いていた。
 彼を覆っていた衣服を剥ぎ、殺傷箇所を確認し、呼吸が楽になるように横向きに寝かせた。
「せめて、痛み止めは・・・ないだろうな・・・」
 弱い呼吸、身体には深い刺し傷が三か所、全て貫かれている。
 十歳ぐらいと思われる子供が、身体を刃物で貫かれている。
「なんで、こんな子供が・・・」
 喉をヒューヒューと空気だけが通っていた、周りはみるみるうちに血で染まって行く。
 小さく震える身体、咳き込む度にどんどんと血液は傷口から流れ出ていた。
「おか・・・さ・・・いたい・・・」
 (これを・・・見張っていろと・・・・・・・)
 私は、その男の子の手を握っていた。
「痛いの?」
 男の子は小さく頷く。
 触れた男の子の指先が冷たい。
 私はその子の頭を恐る恐る、そっとなでた。
「痛いの痛いの、飛んでけ・・・痛いの、痛いの、飛んでけ!」
 向こうで懸命に救助されているのは、きっと責任ある高い地位の人間なのだろう。

 目の前に居るのは・・・見捨てられた子供・・・。
 ああせめて、この血で濡れた身体をきれいにしてあげたい・・・。
 この傷も・・・汚れてしまった顔も・・・小さな手も・・・。
 ぜんぶ、ぜんぶ、きれいに、したい。

 ぽたりぽたりと落ちた私の涙は、金色の光を帯びていた。
 まるで水面に落ちる波紋の様に、男の子の身体を伝い、床を伝い・・・壁が揺れた。
 周囲で聞こえるざわめきが、一瞬だけ途切れた。
「ミ・・・ミリアン! 無事か!!」
 (イスマエル・・・?)
 力強く駆け寄ってくる足音、私の体は白い大きなタオルで包まれた。
「むぐ・・・クレー・・・この子にもタオルかけて?」
 クレーが目の前の男の子に視線を落とす。
「あの・・・ヒロコ様・・・この子はもう・・・」
「かけてあげて? この子のお母さんが近くに居ないの」

 ああ・・・よかった。
 血でひどく汚れてしまっていた身体が、きれいになってる。

 彼女は静かに頷いて、大きなバスタオルを彼の亡骸の上に掛けた。
「ミリアン・・・何を願った?」
 イスマエルが静かに言った。
「‟痛くないように”って、‟この子がきれいになりますように”って・・・願ったよ?」
「それで・・・“金の波紋”が・・・」
「きんのはもん?」
「多分、これは城全体に響きましたね」
 二人の会話が、私には理解できなかった。
「なんて事だ・・・・・・クレー、看護塔の抜け道はこの先にあったか?」
「直ぐにご案内します! ちなみに女性に囲まれて、身動きのできなくなったマクシム様の回収は・・・」
「放っておけ!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

「ご褒美ください」とわんこ系義弟が離れない

橋本彩里(Ayari)
恋愛
六歳の時に伯爵家の養子として引き取られたイーサンは、年頃になっても一つ上の義理の姉のミラが大好きだとじゃれてくる。 そんななか、投資に失敗した父の借金の代わりにとミラに見合いの話が浮上し、義姉が大好きなわんこ系義弟が「ご褒美ください」と迫ってきて……。 1~2万文字の短編予定→中編に変更します。 いつもながらの溺愛執着ものです。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...