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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その4
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ムカついたのでとりあえずティースプーンを紫頭の顔面に向かって投げておいた。
コンッ――――、といい音をさせて紫頭の額で跳ねたティースプーンは空中で弧を描いたが、ギヨムが澄まし顔で片手で回収して見せた。
紫頭は両手で額を押さえながら悶絶している。
かなり痛かったらしい・・・昨夜から私はこの紫頭をジワジワいじめているような気がしている。
いや、気のせいだ。
きっと。
たぶん。
「ヒ・・・ヒロコ様、申し訳ありませんでした!」
侍女のクレーは深く頭を下げる。
「クレー、気にしないで? 最初から・・・私はこの紫頭を捕まえるつもりだったから」
彼女はお辞儀の姿勢のまま頭だけを上げ、何か言いたげに口を薄く開いて下から私を見上げた。
「ムラサキアタマってなに!?」
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「それは・・・ええっ~と・・・」
温かい紅茶を口にしながら、三人の動作を観察していた。
今朝方から慣れない首の動きを繰り返しているクレーが、何事もなかったかのように、背筋を定規のようにぴんと戻した。
料理人のギヨムは会話を邪魔しないように静かに食器を片付け始めた。
さすがはプロ、後片付けまで美しい所作だ。
自分の心を読ませないように警戒している男は、腕を組んで思案に暮れていた。
「首を跳ね飛ばされる瞬間まで、そう呼ばれるのは嫌じゃない? なんて呼ぼうか?」
「・・・・・・・・・いーよ、あんたの好きな名前で呼べよ」
他国の諜報員ならば、仮の名前などいくらでも思いつくのではないのだろうか。
母親の愛人だと疑われ、そのフォスティンヌを客と呼び、口が悪い。
ソラルさまの姿をしていたとは言え、細かい仕草などは不快にさせない何かがある。
そして人の気持ちに寄り添うのが巧い。
おや? どこかで聞いた、誰かとの共通点があるような気がする。
「・・・・そう、なの?」
良く分からないけれど、諦め顔の彼を見詰めながら、理想の名前を思い浮かべる。
こんなキャラクター担当した“ムツノクニ”には居なかったからなあ。
「じゃあ・・・“ヴィヨレ”はどう?」
フランス語で紫を意味する。
ちなみに、某液体せっけんの事ではない。
紫頭は苛立たしくも不思議な笑みを頬だけに浮かべた。
「いいぞ! それで! はっきりその名でオレを今、呼んでみろよ」
「え? 呼べばいいの?」
「ああ、ちゃんとオレを認識して“聖女”として胸張って呼んでくれよ!」
その彼の言葉に、ギヨムとクレーは空気を大きく吸い込んで、口を開きかけた。
「じゃあ・・・あなたの名前は“ヴィヨレ”!」
その瞬間、私の口から金色の粉が飛び出し、ヴィヨレの身体に降りかかった。
「承諾した! 聖女に与えられし名を我が身に刻む、オレの名は“ヴィヨレ”!」
ヴィヨレは眼を見開き、嬉しそうにそう答えた。
彼の体はふんわりと光り、その光はすぐに消えた。
「――――ちょっと待てぇっ!!」
扉が勢いよく開かれたと思ったら、一歩部屋に入ったイスマエルが、勢いよくつまずき、後ろのマクシムとナトンの下敷きとなった。
「・・・・・・・・え? なに?」
「な・・・・・・・何故、聖女しか使わない契約魔法を・・・お前が知っている・・・」
息苦しそうに、青ざめたイスマエルがヴィヨレを床から睨み上げていた。
先ほどとは正反対の体勢になっているイスマエルの姿を、ヴィヨレは勝ち誇ったような顔で見下ろしていた。
どうやら私は、また何かやらかしたようだ。
コンッ――――、といい音をさせて紫頭の額で跳ねたティースプーンは空中で弧を描いたが、ギヨムが澄まし顔で片手で回収して見せた。
紫頭は両手で額を押さえながら悶絶している。
かなり痛かったらしい・・・昨夜から私はこの紫頭をジワジワいじめているような気がしている。
いや、気のせいだ。
きっと。
たぶん。
「ヒ・・・ヒロコ様、申し訳ありませんでした!」
侍女のクレーは深く頭を下げる。
「クレー、気にしないで? 最初から・・・私はこの紫頭を捕まえるつもりだったから」
彼女はお辞儀の姿勢のまま頭だけを上げ、何か言いたげに口を薄く開いて下から私を見上げた。
「ムラサキアタマってなに!?」
「じゃあ、なんて呼べばいい?」
「それは・・・ええっ~と・・・」
温かい紅茶を口にしながら、三人の動作を観察していた。
今朝方から慣れない首の動きを繰り返しているクレーが、何事もなかったかのように、背筋を定規のようにぴんと戻した。
料理人のギヨムは会話を邪魔しないように静かに食器を片付け始めた。
さすがはプロ、後片付けまで美しい所作だ。
自分の心を読ませないように警戒している男は、腕を組んで思案に暮れていた。
「首を跳ね飛ばされる瞬間まで、そう呼ばれるのは嫌じゃない? なんて呼ぼうか?」
「・・・・・・・・・いーよ、あんたの好きな名前で呼べよ」
他国の諜報員ならば、仮の名前などいくらでも思いつくのではないのだろうか。
母親の愛人だと疑われ、そのフォスティンヌを客と呼び、口が悪い。
ソラルさまの姿をしていたとは言え、細かい仕草などは不快にさせない何かがある。
そして人の気持ちに寄り添うのが巧い。
おや? どこかで聞いた、誰かとの共通点があるような気がする。
「・・・・そう、なの?」
良く分からないけれど、諦め顔の彼を見詰めながら、理想の名前を思い浮かべる。
こんなキャラクター担当した“ムツノクニ”には居なかったからなあ。
「じゃあ・・・“ヴィヨレ”はどう?」
フランス語で紫を意味する。
ちなみに、某液体せっけんの事ではない。
紫頭は苛立たしくも不思議な笑みを頬だけに浮かべた。
「いいぞ! それで! はっきりその名でオレを今、呼んでみろよ」
「え? 呼べばいいの?」
「ああ、ちゃんとオレを認識して“聖女”として胸張って呼んでくれよ!」
その彼の言葉に、ギヨムとクレーは空気を大きく吸い込んで、口を開きかけた。
「じゃあ・・・あなたの名前は“ヴィヨレ”!」
その瞬間、私の口から金色の粉が飛び出し、ヴィヨレの身体に降りかかった。
「承諾した! 聖女に与えられし名を我が身に刻む、オレの名は“ヴィヨレ”!」
ヴィヨレは眼を見開き、嬉しそうにそう答えた。
彼の体はふんわりと光り、その光はすぐに消えた。
「――――ちょっと待てぇっ!!」
扉が勢いよく開かれたと思ったら、一歩部屋に入ったイスマエルが、勢いよくつまずき、後ろのマクシムとナトンの下敷きとなった。
「・・・・・・・・え? なに?」
「な・・・・・・・何故、聖女しか使わない契約魔法を・・・お前が知っている・・・」
息苦しそうに、青ざめたイスマエルがヴィヨレを床から睨み上げていた。
先ほどとは正反対の体勢になっているイスマエルの姿を、ヴィヨレは勝ち誇ったような顔で見下ろしていた。
どうやら私は、また何かやらかしたようだ。
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