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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その14
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クレーが淹れ直してくれた熱い紅茶に、私ははじめて薔薇ジャムをひと匙入れた。
くるくると匙で回している隙に、クレーがひと匙ブランデーを何も言わず落とす。
ふいに・・・がたりとテーブルを揺らし、ヴィヨレは立ち上がった。
「何が・・・罰だよ・・・」
私は紅茶を静かに啜る。
うん、我ながら絶妙に美味しい。
そして、私はこう付け加えた。
「あ、ごめんなさい。週休二日も労働条件に必ず入れて下さい」
「承知しました。後で労働契約書を作成してこちらにお持ちします」
「・・・分かりました。私も今日は東側聖女専用の事務室に待機していますので、確認作業に加わります」
「うぬ、一度ヴィヨレの身柄はこちらで確保させてもらおう」
淡々と、イスマエルも加わり業務的な会話となった。
「オレはもっと・・・重い罪で・・・」
彼に・・・ヴィヨレに的確な言葉を投げ駆けることはできなかった。
重い罪で裁かれれば、きっとその所在は自分を雇った者の耳に入る。
そして、願わくは自分を捨てた両親にも届くであろう・・・という憶測も感じた。
彼にとっては一世一代の、自分の能力の限界を試したのだろう。
けれど、それは成功もせず、失敗とも言えない歯がゆい状態となった。
私は、彼の矜持を傷つけたのだろうか・・・。
ヴィヨレの身柄は一度マテオ宰相が預かる事となり、念のため彼の両手には枷を付けられ兵士達に連行される運びとなった。
私はただ、どう見送っていいのやら分からず、席に着いたまま冷めた紅茶を啜っていた。
そんな私を薄目を開けてヴィヨレはちらりと視界に入れる。
「おい! あんた!」
兵士が「無礼者!」と、声を上げたが、誰もがその続きを聞きたいが為に兵士の方を黙らせた。
「・・・・・・なあに?」
「聖女様ってのは・・・あんたみたいに底抜けなお人好しなのか?」
「ん~・・・・・・さあ? あ、アーチュウ先生・・・忘れてましたぁ!」
「はいはい、なんでしょう?」
「ヴィヨレは正式登用なんですよね?」
「はい、そのつもりです」
「では、正式な給与で雇って下さい」
「・・・・・・・随分と寛大な処置ですね」
「ちなみに、ヴィヨレは私のものなので、給与は私の口座にお願いします」
「あ・・・はい、わかりま・・・した・・・」
キョトンとした目でアーチュウは私を見つめると、すぐに脱力して見せ、ふわりと少年のような笑顔を見せる。
眼の下にクマがないと、さらに若く見える人だった。
その言葉を聞いたヴィヨレは打って変わって眼を見開いた。
「あんたぁ!? それでも聖女かあぁあぁあっっっ!」
いや、知らん――――。
そもそも・・・この世界の“聖女”の定義が良く分からん。
不法侵入者を連行するのを慣れているのか、兵士達はきびきびとした動作で、素早くヴィヨレを部屋から退出させた。
私はティーカップに残った薔薇ジャムの残りを口にした。
その直前に、クレーがブランデーをもうひと匙追加してくれたことは黙っていよう。
くるくると匙で回している隙に、クレーがひと匙ブランデーを何も言わず落とす。
ふいに・・・がたりとテーブルを揺らし、ヴィヨレは立ち上がった。
「何が・・・罰だよ・・・」
私は紅茶を静かに啜る。
うん、我ながら絶妙に美味しい。
そして、私はこう付け加えた。
「あ、ごめんなさい。週休二日も労働条件に必ず入れて下さい」
「承知しました。後で労働契約書を作成してこちらにお持ちします」
「・・・分かりました。私も今日は東側聖女専用の事務室に待機していますので、確認作業に加わります」
「うぬ、一度ヴィヨレの身柄はこちらで確保させてもらおう」
淡々と、イスマエルも加わり業務的な会話となった。
「オレはもっと・・・重い罪で・・・」
彼に・・・ヴィヨレに的確な言葉を投げ駆けることはできなかった。
重い罪で裁かれれば、きっとその所在は自分を雇った者の耳に入る。
そして、願わくは自分を捨てた両親にも届くであろう・・・という憶測も感じた。
彼にとっては一世一代の、自分の能力の限界を試したのだろう。
けれど、それは成功もせず、失敗とも言えない歯がゆい状態となった。
私は、彼の矜持を傷つけたのだろうか・・・。
ヴィヨレの身柄は一度マテオ宰相が預かる事となり、念のため彼の両手には枷を付けられ兵士達に連行される運びとなった。
私はただ、どう見送っていいのやら分からず、席に着いたまま冷めた紅茶を啜っていた。
そんな私を薄目を開けてヴィヨレはちらりと視界に入れる。
「おい! あんた!」
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「・・・・・・なあに?」
「聖女様ってのは・・・あんたみたいに底抜けなお人好しなのか?」
「ん~・・・・・・さあ? あ、アーチュウ先生・・・忘れてましたぁ!」
「はいはい、なんでしょう?」
「ヴィヨレは正式登用なんですよね?」
「はい、そのつもりです」
「では、正式な給与で雇って下さい」
「・・・・・・・随分と寛大な処置ですね」
「ちなみに、ヴィヨレは私のものなので、給与は私の口座にお願いします」
「あ・・・はい、わかりま・・・した・・・」
キョトンとした目でアーチュウは私を見つめると、すぐに脱力して見せ、ふわりと少年のような笑顔を見せる。
眼の下にクマがないと、さらに若く見える人だった。
その言葉を聞いたヴィヨレは打って変わって眼を見開いた。
「あんたぁ!? それでも聖女かあぁあぁあっっっ!」
いや、知らん――――。
そもそも・・・この世界の“聖女”の定義が良く分からん。
不法侵入者を連行するのを慣れているのか、兵士達はきびきびとした動作で、素早くヴィヨレを部屋から退出させた。
私はティーカップに残った薔薇ジャムの残りを口にした。
その直前に、クレーがブランデーをもうひと匙追加してくれたことは黙っていよう。
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