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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その15
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私は、座ったままティーカップに指を添えながら静止していた。
「ねぇ~、僕、薔薇ジャム食べれないんだけどお・・・」
「存じております。今回はあえてナトン様が口にしないように薔薇ジャムにしました」
クレーが私の代わりにナトンにそう答えた。
「・・・・・・・・どうしてえ?」
「ナトン様には必要ないからです」
「そうだな、勉強や訓練で疲れた様子もないもんな」
「ぶう~! んもう、ヒロコぉ・・・今度僕にもお菓子作ってよ?」
「うん、わかった」
首から下は動かないので、精一杯の笑顔で答えた。
「俺は昨日の寝不足が吹っ飛んたんで、これから訓練場で自主練してくるよ」
「あ、マクシム! せっかくだから、五十人抜きしてから対戦しようよ!」
「五十人抜きって・・・本当におまえには回復薬なんか必要なさそうだな」
立ち上がったマクシムと合わせて、ナトンも椅子から腰を上げた。
部屋には私とイスマエル、クレーとギヨムが残った。
具はないが、栄養が凝縮されたコンソメスープと一口サイズのサンドイッチが、準備された。
私は水だけ先に口にし、それを確認したイスマエルが食事を始める。
上品だが、男性らしい食べっぷりだ。
それを見越してか、イスマエルのサンドイッチは私の分よりボリューム感があった。
先ほどから私と目を合わさずにいた彼は、ようやく異変に気が付いたのか、動かない私を不思議そうに見つめた。
「ヒロコ・・・食べないのか?」
「・・・あ、ごめんなさい。下げてください、後にします」
「ヒロコ様、せめて温かいうちにスープだけでも・・・栄養を凝縮してあります」
「うん・・・」
ギヨムもクレーも承知の上で、余計な事は一切せず、当然のようにスープと水以外を下げた。
「どうした・・・私が不機嫌な態度を取った事を気にしているのか?」
少しばつが悪そうな表情を浮かべて見せた。
「ううん・・・そうじゃないの。クレー、今日の予定は?」
「はい、今日はこの後何も予定は入れていませんので、ご安心して休息をお取り下さい。私が、おそばにおります・・・ヒロコ様」
前かがみに私の顔を覗き込んだクレーが、寂しげな笑顔を浮かべる。
「だ・・・だいたい、あの男が偽物だと気が付いていたのなら・・・直ぐに私に言えばよかったものを! 何故わざわざ、こんなあぶない真似をしたのか・・・そ、そりゃあまだ、私達の関係は信頼度が足りないとは思っているが・・・相談してくれても良かっただろう? 軽率ではないのか?」
さっと顔を上げたクレーが、イスマエルをひと睨みした。
「・・・・・・・・お言葉ですが、思慮が浅いのはイスマエル様の方でございます」
「なにっ?」
「今回、ヒロコ様は私の立場を護って下さいました。それは・・・私に相談すれば、イスマエル様の知る事となり・・・あの男を待ち伏せしてでも有無を言わさずにお切りになったでしょう」
「当然だ!」
「そして、事件の要因はうやむやにされ、解決しなかった事でしょう」
冷たく響くその声は、誰よりも強い説得力を持っていた。
イスマエルはみぞおちを打たれたように声も立てられなかった。
「ねぇ~、僕、薔薇ジャム食べれないんだけどお・・・」
「存じております。今回はあえてナトン様が口にしないように薔薇ジャムにしました」
クレーが私の代わりにナトンにそう答えた。
「・・・・・・・・どうしてえ?」
「ナトン様には必要ないからです」
「そうだな、勉強や訓練で疲れた様子もないもんな」
「ぶう~! んもう、ヒロコぉ・・・今度僕にもお菓子作ってよ?」
「うん、わかった」
首から下は動かないので、精一杯の笑顔で答えた。
「俺は昨日の寝不足が吹っ飛んたんで、これから訓練場で自主練してくるよ」
「あ、マクシム! せっかくだから、五十人抜きしてから対戦しようよ!」
「五十人抜きって・・・本当におまえには回復薬なんか必要なさそうだな」
立ち上がったマクシムと合わせて、ナトンも椅子から腰を上げた。
部屋には私とイスマエル、クレーとギヨムが残った。
具はないが、栄養が凝縮されたコンソメスープと一口サイズのサンドイッチが、準備された。
私は水だけ先に口にし、それを確認したイスマエルが食事を始める。
上品だが、男性らしい食べっぷりだ。
それを見越してか、イスマエルのサンドイッチは私の分よりボリューム感があった。
先ほどから私と目を合わさずにいた彼は、ようやく異変に気が付いたのか、動かない私を不思議そうに見つめた。
「ヒロコ・・・食べないのか?」
「・・・あ、ごめんなさい。下げてください、後にします」
「ヒロコ様、せめて温かいうちにスープだけでも・・・栄養を凝縮してあります」
「うん・・・」
ギヨムもクレーも承知の上で、余計な事は一切せず、当然のようにスープと水以外を下げた。
「どうした・・・私が不機嫌な態度を取った事を気にしているのか?」
少しばつが悪そうな表情を浮かべて見せた。
「ううん・・・そうじゃないの。クレー、今日の予定は?」
「はい、今日はこの後何も予定は入れていませんので、ご安心して休息をお取り下さい。私が、おそばにおります・・・ヒロコ様」
前かがみに私の顔を覗き込んだクレーが、寂しげな笑顔を浮かべる。
「だ・・・だいたい、あの男が偽物だと気が付いていたのなら・・・直ぐに私に言えばよかったものを! 何故わざわざ、こんなあぶない真似をしたのか・・・そ、そりゃあまだ、私達の関係は信頼度が足りないとは思っているが・・・相談してくれても良かっただろう? 軽率ではないのか?」
さっと顔を上げたクレーが、イスマエルをひと睨みした。
「・・・・・・・・お言葉ですが、思慮が浅いのはイスマエル様の方でございます」
「なにっ?」
「今回、ヒロコ様は私の立場を護って下さいました。それは・・・私に相談すれば、イスマエル様の知る事となり・・・あの男を待ち伏せしてでも有無を言わさずにお切りになったでしょう」
「当然だ!」
「そして、事件の要因はうやむやにされ、解決しなかった事でしょう」
冷たく響くその声は、誰よりも強い説得力を持っていた。
イスマエルはみぞおちを打たれたように声も立てられなかった。
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