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3.シルキード子爵家の事情
「嫌よ!絶対イヤ!」
シルキード子爵は二人いる娘のうちの下の娘、ケイティの絶対拒否の態度に頭を抱えた。
「相手はサイファ侯爵令息だぞ。アルバート殿は嫡男でいずれは侯爵夫人になれる好条件だ。何が不満なんだ」
シルキード子爵の言葉にケイティは吊り上がっていた目を更に吊り上げた。
普段の天使のように可愛らしいと言われる評判の顔が今は見る影もない。
「は?何が好条件よ!お父様は私が何も知らないと思ってるの?アルバート様って昔好きだった女に未だに未練タラタラでその女に操を捧げてる人じゃない!他の女性にはすごく冷たいって評判でみんな婚約者になるのを避けてるって知ってるのよ!おまけに私より十歳以上年上のおじさんだなんて!」
一気に捲し立てると、はぁはぁと息を吐いた。
「ケイティ、落ち着きなさいよ。これは政略結婚なの。シルキード子爵家にも利があることよ。想い合う人と結婚したいケイティの気持ちも分かるけど、貴族の娘なんだから分かるわよね」
ケイティは自分とは逆の姉のセレナの落ち着いた声が癇に障って更に顔を歪ませた。
「そりゃあ、シルキード子爵を継ぐお姉様には利があるものね」
「そう言うことじゃないわよ。貴族には貴族の義務が…」
「それならお姉様がサイファ侯爵家にお嫁に行けばいいじゃない!私がシルキード子爵家を継げば丸く収まるわ」
「は?そんなことできるわけないでしょ。私はずっと子爵家を継ぐために勉強してきたし、婚約者のニールが婿養子に入ることが決まってるのよ」
「それなら大丈夫よ。今から勉強するし、婚約者を私に変更すれば万事解決。ニール様なら気の強いお姉様よりかわいい私の方がいいって言ってくれるわ」
「何をバカなことを…」
セレナはケイティのあまりの自分勝手さに開いた口が塞がらない。
わたしが子爵家を継ぐためにどれだけ努力してきたと思ってるのよ!
セレナはケイティが遊んでいる間、シルキード子爵の後継者として厳しく勉強やマナーを仕込まれた。
一方ケイティは家を継げないから、いずれ他所にお嫁に行かないといけないからと、母親からかなり甘やかされて育てられた。
栗色の髪にアイスブルーの父親似の少しキツめに見える容姿のセレナと比べて、淡い金髪に水色の少し垂れ目がちなパッチリした目のケイティは小柄なのもあって守ってあげたくなるような可愛らしい令嬢として世間でも認知されている。
ケイティは母親似で、自分に似ているから余計にかわいいと思えるのか、以前からいつもケイティの味方なのだ。
父親である子爵は仕事にしか興味がない。
後継者教育以外は母親の仕事だと思っていて、ケイティがどれだけ甘やかされていても見て見ぬ振りだった。
ドレスや宝石もケイティはこれから結婚相手を探さないといけないからと、セレナより高価な物を頻繁に与えられた。
コトン子爵家の三男ニールを婿に迎えて子爵家を継ぐことが決まっているからそんなに着飾る必要はないと、セレナの服飾品の予算はケイティの半分にも満たない。
それを今になって簡単に後継者の座を自分に寄越せだなんて!
「ふざけないで。そんな簡単に変更できるわけないでしょう」
「ふざけてなんかないわよ!とにかく、イヤなの!」
フンっと顔を背けて、拒絶するケイティに呆れてものも言えない。
すると姉妹が結婚を押し付け合う混沌とした場に今まで静観していた母親のシルキード子爵夫人がぽつりと溢した。
「ケイティの言うことにも一理あるわ」
信じられない母の言葉に、セレナが母親に顔を向けた。
いいこと思いついたという顔をしている母親に嫌な予感しかしない。
「どういうことだ?」
シルキード子爵は流石にどうかと眉を顰める。
「アルバート様はサイファ侯爵家の跡取りでしょ?ケイティには次期侯爵夫人という肩書は重たいんじゃないかしら?」
「それは…まあ、なあ」
シルキード子爵は膨れている子供っぽいケイティの顔を見て、苦々しい顔になる。
「でもセレナだったら、上手くやれるんじゃないかしら?」
「それはそうだろうが。だが、子爵家が…」
「あなたはまだまだ現役でいけるんだし、ケイティにはこれから教えればいいわ。ニールには子爵の補佐の仕事を教えているんだし、婚約者をニールのままにすれば、問題ないんじゃないかしら」
「侯爵家で問題を起こされる方が厄介か。それなら、ケイティに子爵家を継がせた方がいいのか」
シルキード子爵はぶつぶつと誰にも聞こえないような小声で呟いたあと、不承不承頷いた。
それを見て、ケイティの顔がみるみる満面の笑みになる。
「やった!ありがとうお父様、お母様」
万事解決とばかりに笑い合う三人…
「そんな簡単な訳ないでしょ!婚約者の変更なんて、コトン子爵家やニールがそんな簡単に納得する訳ないわ」
セレナは自分勝手な三人の言い草に怒りでプルプルと震えてくる。
子爵家を継ぐのだからと、あれもこれも我慢させてきたのを忘れたって言うの!
ケイティを甘やかして、そんな風に育てたのはあなたたちなのに!
「じゃあ、コトン子爵とニールが納得すれば問題ないな」
セレナのこれまでの努力など完全無視のシルキード子爵のこの言葉で、子爵家内での話し合いは終了してしまった。
元々ニールとの婚約は親同士が決めたものだ。
だから、二人の間には恋愛感情があるわけではないが、八年もの間婚約者だったのだから、情はある。
けれど、ニールはあまり物事を深く考えないタイプで流されやすい。
「ケイティって小動物みたいでかわいいよな」
そんなニールの言葉が頭を過ぎって、ため息が出る。
きっとニールは元々ケイティみたいな子な方がタイプなのだ。
シルキード子爵家の婿養子にしてもらえるなら、どちらでも構わない。
それが、コトン子爵とニールの答えだった。
その瞬間、セレナの手からシルキード子爵家次期当主の座がこぼれ落ちた。
シルキード子爵は二人いる娘のうちの下の娘、ケイティの絶対拒否の態度に頭を抱えた。
「相手はサイファ侯爵令息だぞ。アルバート殿は嫡男でいずれは侯爵夫人になれる好条件だ。何が不満なんだ」
シルキード子爵の言葉にケイティは吊り上がっていた目を更に吊り上げた。
普段の天使のように可愛らしいと言われる評判の顔が今は見る影もない。
「は?何が好条件よ!お父様は私が何も知らないと思ってるの?アルバート様って昔好きだった女に未だに未練タラタラでその女に操を捧げてる人じゃない!他の女性にはすごく冷たいって評判でみんな婚約者になるのを避けてるって知ってるのよ!おまけに私より十歳以上年上のおじさんだなんて!」
一気に捲し立てると、はぁはぁと息を吐いた。
「ケイティ、落ち着きなさいよ。これは政略結婚なの。シルキード子爵家にも利があることよ。想い合う人と結婚したいケイティの気持ちも分かるけど、貴族の娘なんだから分かるわよね」
ケイティは自分とは逆の姉のセレナの落ち着いた声が癇に障って更に顔を歪ませた。
「そりゃあ、シルキード子爵を継ぐお姉様には利があるものね」
「そう言うことじゃないわよ。貴族には貴族の義務が…」
「それならお姉様がサイファ侯爵家にお嫁に行けばいいじゃない!私がシルキード子爵家を継げば丸く収まるわ」
「は?そんなことできるわけないでしょ。私はずっと子爵家を継ぐために勉強してきたし、婚約者のニールが婿養子に入ることが決まってるのよ」
「それなら大丈夫よ。今から勉強するし、婚約者を私に変更すれば万事解決。ニール様なら気の強いお姉様よりかわいい私の方がいいって言ってくれるわ」
「何をバカなことを…」
セレナはケイティのあまりの自分勝手さに開いた口が塞がらない。
わたしが子爵家を継ぐためにどれだけ努力してきたと思ってるのよ!
セレナはケイティが遊んでいる間、シルキード子爵の後継者として厳しく勉強やマナーを仕込まれた。
一方ケイティは家を継げないから、いずれ他所にお嫁に行かないといけないからと、母親からかなり甘やかされて育てられた。
栗色の髪にアイスブルーの父親似の少しキツめに見える容姿のセレナと比べて、淡い金髪に水色の少し垂れ目がちなパッチリした目のケイティは小柄なのもあって守ってあげたくなるような可愛らしい令嬢として世間でも認知されている。
ケイティは母親似で、自分に似ているから余計にかわいいと思えるのか、以前からいつもケイティの味方なのだ。
父親である子爵は仕事にしか興味がない。
後継者教育以外は母親の仕事だと思っていて、ケイティがどれだけ甘やかされていても見て見ぬ振りだった。
ドレスや宝石もケイティはこれから結婚相手を探さないといけないからと、セレナより高価な物を頻繁に与えられた。
コトン子爵家の三男ニールを婿に迎えて子爵家を継ぐことが決まっているからそんなに着飾る必要はないと、セレナの服飾品の予算はケイティの半分にも満たない。
それを今になって簡単に後継者の座を自分に寄越せだなんて!
「ふざけないで。そんな簡単に変更できるわけないでしょう」
「ふざけてなんかないわよ!とにかく、イヤなの!」
フンっと顔を背けて、拒絶するケイティに呆れてものも言えない。
すると姉妹が結婚を押し付け合う混沌とした場に今まで静観していた母親のシルキード子爵夫人がぽつりと溢した。
「ケイティの言うことにも一理あるわ」
信じられない母の言葉に、セレナが母親に顔を向けた。
いいこと思いついたという顔をしている母親に嫌な予感しかしない。
「どういうことだ?」
シルキード子爵は流石にどうかと眉を顰める。
「アルバート様はサイファ侯爵家の跡取りでしょ?ケイティには次期侯爵夫人という肩書は重たいんじゃないかしら?」
「それは…まあ、なあ」
シルキード子爵は膨れている子供っぽいケイティの顔を見て、苦々しい顔になる。
「でもセレナだったら、上手くやれるんじゃないかしら?」
「それはそうだろうが。だが、子爵家が…」
「あなたはまだまだ現役でいけるんだし、ケイティにはこれから教えればいいわ。ニールには子爵の補佐の仕事を教えているんだし、婚約者をニールのままにすれば、問題ないんじゃないかしら」
「侯爵家で問題を起こされる方が厄介か。それなら、ケイティに子爵家を継がせた方がいいのか」
シルキード子爵はぶつぶつと誰にも聞こえないような小声で呟いたあと、不承不承頷いた。
それを見て、ケイティの顔がみるみる満面の笑みになる。
「やった!ありがとうお父様、お母様」
万事解決とばかりに笑い合う三人…
「そんな簡単な訳ないでしょ!婚約者の変更なんて、コトン子爵家やニールがそんな簡単に納得する訳ないわ」
セレナは自分勝手な三人の言い草に怒りでプルプルと震えてくる。
子爵家を継ぐのだからと、あれもこれも我慢させてきたのを忘れたって言うの!
ケイティを甘やかして、そんな風に育てたのはあなたたちなのに!
「じゃあ、コトン子爵とニールが納得すれば問題ないな」
セレナのこれまでの努力など完全無視のシルキード子爵のこの言葉で、子爵家内での話し合いは終了してしまった。
元々ニールとの婚約は親同士が決めたものだ。
だから、二人の間には恋愛感情があるわけではないが、八年もの間婚約者だったのだから、情はある。
けれど、ニールはあまり物事を深く考えないタイプで流されやすい。
「ケイティって小動物みたいでかわいいよな」
そんなニールの言葉が頭を過ぎって、ため息が出る。
きっとニールは元々ケイティみたいな子な方がタイプなのだ。
シルキード子爵家の婿養子にしてもらえるなら、どちらでも構わない。
それが、コトン子爵とニールの答えだった。
その瞬間、セレナの手からシルキード子爵家次期当主の座がこぼれ落ちた。
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