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4.レオナルド様の元へ
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翌日の朝早々に侯爵家を出発してから五日かけて漸く、コルストル辺境伯領までたどり着いた。
「お嬢、あと少しで着きますよ」
馬車の外からカインが声をかけてきた。
今回、カインは護衛として着いてきていて、騎乗して馬車の外にいる。
引かれていた馬車の窓のカーテンをパッと開くと、眼前に堅牢な大きな城が見える。
煌びやかな装飾が施された王宮なんかとは違って、華やかさはないが、石造りの頑強そうな外壁とその大きさでかなりの威圧感を放っている。
「漸く着くんですね」
顔色の悪いわたくし専属のメイドのミリーが、ほっとしたように呟いた。
わたくしより五つ年上のミリーは、いつもならしっかりした姉のような存在なのだが、今は五日間の馬車旅によるお尻の痛みと酔いでぐったりしている。
今回のコルストル辺境伯行きはお忍びなので、侯爵家の馬車の中でも家紋の入っていない一番簡素な馬車を用意してもらっている。
そのせいか、馬車の揺れがいつもの倍以上なのだ。
わたくしは日頃の睡眠不足を解消する為、クッションを敷き詰めてほとんど寝て過ごしたせいか、いつもより快調なくらいなんだけど。
壁にもたれて青色吐息のミリーには申し訳ないが、心配だから着いて行くと言って強引に着いてきたのだから、我慢してもらいたい。
「馬車じゃなくて馬だったら、こんなに酔わなかったのに…」
恨めしそうに、涼しい顔をして馬に乗っているカインを見ている。
詳しくは聞いてないが、何らかの勝負をして、ミリーが負けたらしい。
道中、男のカインと御者しかいないのを心配して着いてきてくれたのは分かっているので、感謝はしている。
身支度は自分でできるように練習してきたものの、今まで色んな世話を焼かれて過ごしてきたので、実際一人でやるとなると、戸惑うことも多かった。
「これからは気合いを入れてやっていかないとね!」
気持ちを新たに、コルストル辺境伯領での生活に思いを馳せていると、ミリーが大袈裟なくらいの大きなため息を吐いた。
「お嬢様は本当にコルストル辺境伯の元で働くつもりなんですか?」
「もちろん!ただで辺境伯のところでお世話になる訳にはいかないわ。少しでもレオナルド様のお役に立たなくては!」
「レオナルド様は独身で婚約者もいらっしゃらないんですよね?そんなにお好きなら、あの王子との婚約もなくなったことですし、旦那様にお願いして婚約の申し入れをして頂いたら」
「ダメよ!」
ミリーが言いかけるのを速攻で否定する。
「あのバカ王子の浮気が原因とはいえ、わたくしは王子の心を掴めずに婚約を破棄された傷ものだと言われるのよ。あの素晴らしいレオナルド様にはもっとまっさらで心優しい令嬢が相応しいわ」
理不尽で納得はいかないが、社交界ではそう噂されるのが目に見えている。
モントレート侯爵家の娘とはいえ、今から探す縁談ではそれほどいいものは望めない。
きっと爵位がかなり下か後妻といったところだ。
同世代の有望株の令息はとうに婚約したり、婚姻間近だったりする。
「正直、当分婚約とか結婚はしたくないわ」
ひとつもいいことがなかったギルバートとの婚約を思い出して遠い目になる。
「まあ、終わったことはもういいわ」
首を振って暗くなる思考を振り払った。
「これからはレオナルド様と同じ空気を吸ってるだけで元気になれそうよ。本当ならメイドとして近くに居られれば一番なんだけど」
レオナルド様が寝た後のシーツの交換とか洋服や下着の洗濯…
想像してニヤニヤしていると、ミリーの咳払いが聞こえた。
「だらしない顔になってますよ。大体、お嬢様にメイドは無理です。飾ってある花瓶なんかを壊すのがオチです。すぐにクビになります。それになにより、そんな下心満載の女が側にいたら確実に気持ち悪がられます」
「えっ!」
ミリーの最後の言葉が頭の中でこだまする。
気持ち悪がられます。
気持ち悪…
そっそれは…嫌だ。
好きになって欲しいなんて烏滸がましいけど、気持ち悪い女だと思われるのは避けたい。
「分かったわ。メイドは諦める」
反対されても諦め切れなかったメイドの仕事を断腸の思いで諦めた。
「そんなに得意じゃないけど治癒魔法でお役に立てるようにがんばるわ」
「それが無難ですね」
ただでさえ馬車酔いで顔色が悪かったミリーは更に疲れが増したのか、無表情になっていた。
「お嬢、あと少しで着きますよ」
馬車の外からカインが声をかけてきた。
今回、カインは護衛として着いてきていて、騎乗して馬車の外にいる。
引かれていた馬車の窓のカーテンをパッと開くと、眼前に堅牢な大きな城が見える。
煌びやかな装飾が施された王宮なんかとは違って、華やかさはないが、石造りの頑強そうな外壁とその大きさでかなりの威圧感を放っている。
「漸く着くんですね」
顔色の悪いわたくし専属のメイドのミリーが、ほっとしたように呟いた。
わたくしより五つ年上のミリーは、いつもならしっかりした姉のような存在なのだが、今は五日間の馬車旅によるお尻の痛みと酔いでぐったりしている。
今回のコルストル辺境伯行きはお忍びなので、侯爵家の馬車の中でも家紋の入っていない一番簡素な馬車を用意してもらっている。
そのせいか、馬車の揺れがいつもの倍以上なのだ。
わたくしは日頃の睡眠不足を解消する為、クッションを敷き詰めてほとんど寝て過ごしたせいか、いつもより快調なくらいなんだけど。
壁にもたれて青色吐息のミリーには申し訳ないが、心配だから着いて行くと言って強引に着いてきたのだから、我慢してもらいたい。
「馬車じゃなくて馬だったら、こんなに酔わなかったのに…」
恨めしそうに、涼しい顔をして馬に乗っているカインを見ている。
詳しくは聞いてないが、何らかの勝負をして、ミリーが負けたらしい。
道中、男のカインと御者しかいないのを心配して着いてきてくれたのは分かっているので、感謝はしている。
身支度は自分でできるように練習してきたものの、今まで色んな世話を焼かれて過ごしてきたので、実際一人でやるとなると、戸惑うことも多かった。
「これからは気合いを入れてやっていかないとね!」
気持ちを新たに、コルストル辺境伯領での生活に思いを馳せていると、ミリーが大袈裟なくらいの大きなため息を吐いた。
「お嬢様は本当にコルストル辺境伯の元で働くつもりなんですか?」
「もちろん!ただで辺境伯のところでお世話になる訳にはいかないわ。少しでもレオナルド様のお役に立たなくては!」
「レオナルド様は独身で婚約者もいらっしゃらないんですよね?そんなにお好きなら、あの王子との婚約もなくなったことですし、旦那様にお願いして婚約の申し入れをして頂いたら」
「ダメよ!」
ミリーが言いかけるのを速攻で否定する。
「あのバカ王子の浮気が原因とはいえ、わたくしは王子の心を掴めずに婚約を破棄された傷ものだと言われるのよ。あの素晴らしいレオナルド様にはもっとまっさらで心優しい令嬢が相応しいわ」
理不尽で納得はいかないが、社交界ではそう噂されるのが目に見えている。
モントレート侯爵家の娘とはいえ、今から探す縁談ではそれほどいいものは望めない。
きっと爵位がかなり下か後妻といったところだ。
同世代の有望株の令息はとうに婚約したり、婚姻間近だったりする。
「正直、当分婚約とか結婚はしたくないわ」
ひとつもいいことがなかったギルバートとの婚約を思い出して遠い目になる。
「まあ、終わったことはもういいわ」
首を振って暗くなる思考を振り払った。
「これからはレオナルド様と同じ空気を吸ってるだけで元気になれそうよ。本当ならメイドとして近くに居られれば一番なんだけど」
レオナルド様が寝た後のシーツの交換とか洋服や下着の洗濯…
想像してニヤニヤしていると、ミリーの咳払いが聞こえた。
「だらしない顔になってますよ。大体、お嬢様にメイドは無理です。飾ってある花瓶なんかを壊すのがオチです。すぐにクビになります。それになにより、そんな下心満載の女が側にいたら確実に気持ち悪がられます」
「えっ!」
ミリーの最後の言葉が頭の中でこだまする。
気持ち悪がられます。
気持ち悪…
そっそれは…嫌だ。
好きになって欲しいなんて烏滸がましいけど、気持ち悪い女だと思われるのは避けたい。
「分かったわ。メイドは諦める」
反対されても諦め切れなかったメイドの仕事を断腸の思いで諦めた。
「そんなに得意じゃないけど治癒魔法でお役に立てるようにがんばるわ」
「それが無難ですね」
ただでさえ馬車酔いで顔色が悪かったミリーは更に疲れが増したのか、無表情になっていた。
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