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13.目をキラキラさせてたあの子(レオナルド視点)
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彼女がコルストルの城の食事室にいるのを見た時、少し大人っぽくなっているが、あの時の子だとすぐに分かった。
二年前、魔の森に魔物が大発生した。
次から次へと現れて、倒しても倒しても終わりが見えない戦いが続いた。
いつもなら難なく倒せる魔物も疲労が溜まった状態では剣も重く身体の動きも鈍くて、苦戦を強いられていた。
魔物がここウエスティーの地を突破すれば、他の地域ではなす術もなく魔物に蹂躙されるだろう。
もちろん、王都も例外ではない。
母の実家である東の辺境伯に応援要請したが、距離があるのでここに来るまでに日数もかかってしまう。
当然国にも要請したが、「討伐隊を編成するから暫し待て」なんていう呑気な返事だった。
その一日二日が命取りだというのに。
強い魔物が増え出している。間に合いそうにない応援の到着を諦めた俺たちは死を覚悟して、魔物の発生源を目指した。
そこに辿り着くまでに何人もの兵士が命を落とした。
漸く到達した発生源の場には10メートルはあろうかという熊のような形の魔物がいる。
一時間以上にも渡る死闘の末、その魔物を倒した時には父は足を負傷していて何とか立っているという状態だった。
魔物の発生させている瘴気が噴き出す穴に俺が魔法を放ち、穴が塞がるとやっと魔物の発生が止まった。
コルストル辺境伯の直系にはこの瘴気の穴を塞ぐ独自の魔法が継承されているのだ。
だからこそ、直系の者は早く婚姻をして、次の継承者にその魔法を繋いでいかなければならないのだが、それがなかなか難しい。
陛下から褒賞をやるから王都まで来いという連絡を受けたが、父は足の怪我を理由に俺一人に押し付けやがった。
治癒魔法が使えるのはカリムだけなので、命の危機にある者から順番に治療しているし、治癒魔法も全てが治るわけではないから、父はまだ杖をついている。
だから仕方ないと言えなくもないが、あれは絶対面倒くさいから、俺に丸投げしたに違いなかった。
俺はと言えば、魔物との戦いの中で右頬に傷を負った。
かなり深く傷ついたせいで、治癒魔法でも完全に傷跡を消すことは出来なかった。
母はこれでまた婚期が遅れると嘆いていたが、こればかりは仕方ない。
傷一つで結婚できないような女などこちらから願い下げだ。
仕方なく参加した褒賞式の会場では、あまり好意的な目で見られることはなかった。
ちゃんと理解してくれている者は感謝の念を持っていてくれるが、そうではない者は武力しか持たない田舎者という侮りやその武力に対する怯えが窺える。
まあ、そんなことだろうとは思っていたから、気落ちしたりはしないが、自分たちの平和な生活はどうやって守られているかぐらい分からないのかとの苛立ちはある。
褒賞を貰うために国王陛下の前に立った時、王族席、退屈そうな顔をしたギルバート殿下の隣にいる少女が目に入った。
彼女は何故かこちらをアメジストのようなキラキラした瞳でこちらを見ていた。
勘違いでなければ、憧憬の念を感じる視線。
騎士や兵士、冒険者などからは感じるその感情は女性から向けられることはほぼない。
俺がそちらを見ると、サッと目を逸らして扇子を開いてその影からチラチラと見ている。
その様子が小動物みたいでかわいくて、このつまらない褒賞式に出て唯一良かったと思えることだった。
その時の彼女が何故か我が家の食事室にちょこんと座っているのだから、驚くのは当たり前だろう。
「ジュリア嬢はギルバート殿下に婚約破棄されて、今身を隠してるんだ」
食事が終わり、ジュリア嬢が部屋に戻った後、両親から事情を聞くことになった。
「婚約破棄!?何故?」
ジュリア嬢はキレイな顔立ちの品のある侯爵令嬢だ。
気質も良いように思う。
「それは結局ギルバート殿下の浮気だな」
「浮気した方が婚約破棄するのか?」
普通なら、浮気した方が婚約破棄されるものだ。
あまりに理不尽な話に眉間に皺が寄る。
「あーうん、そうなんだが、モントレート侯爵もジュリア嬢も婚約破棄は望むところらしい。殿下の浮気の証拠はたっぷりあるらしいし、最終的には殿下有責の婚約破棄ということになるだろう」
「ジュリアちゃんは王命でギルバート殿下の婚約者になって、それはそれは苦労していたみたいなの。王子妃教育だけでも大変なのに、ギルバート殿下の仕事も肩代わりしていたんですって。きっとそのせいで顔色もよくないし、痩せているのよ」
母は苛立たしげにパチンパチンと扇子を左手に打ち付けている。
ギルバート、クソだな。
「ギルバート殿下はいずれは臣籍降下する予定なんだ。その時に支えてくれる予定だったモントレート侯爵令嬢を手放した。一方、殿下の浮気相手は男爵令嬢らしい。そのことで自分の立場がどうなるのか、後で気づいてジュリア嬢に復縁を迫る可能性が高いんだ。頭悪いからな」
ギルバート、益々クソだな。
「レオナルド、ジュリアちゃんは見かけだけに囚われることがないいい子よ。彼女を守るわよ」
ジュリア嬢は知ってか知らずにか、我が家で一番発言権のある母に気に入られたらしい。
二年前、魔の森に魔物が大発生した。
次から次へと現れて、倒しても倒しても終わりが見えない戦いが続いた。
いつもなら難なく倒せる魔物も疲労が溜まった状態では剣も重く身体の動きも鈍くて、苦戦を強いられていた。
魔物がここウエスティーの地を突破すれば、他の地域ではなす術もなく魔物に蹂躙されるだろう。
もちろん、王都も例外ではない。
母の実家である東の辺境伯に応援要請したが、距離があるのでここに来るまでに日数もかかってしまう。
当然国にも要請したが、「討伐隊を編成するから暫し待て」なんていう呑気な返事だった。
その一日二日が命取りだというのに。
強い魔物が増え出している。間に合いそうにない応援の到着を諦めた俺たちは死を覚悟して、魔物の発生源を目指した。
そこに辿り着くまでに何人もの兵士が命を落とした。
漸く到達した発生源の場には10メートルはあろうかという熊のような形の魔物がいる。
一時間以上にも渡る死闘の末、その魔物を倒した時には父は足を負傷していて何とか立っているという状態だった。
魔物の発生させている瘴気が噴き出す穴に俺が魔法を放ち、穴が塞がるとやっと魔物の発生が止まった。
コルストル辺境伯の直系にはこの瘴気の穴を塞ぐ独自の魔法が継承されているのだ。
だからこそ、直系の者は早く婚姻をして、次の継承者にその魔法を繋いでいかなければならないのだが、それがなかなか難しい。
陛下から褒賞をやるから王都まで来いという連絡を受けたが、父は足の怪我を理由に俺一人に押し付けやがった。
治癒魔法が使えるのはカリムだけなので、命の危機にある者から順番に治療しているし、治癒魔法も全てが治るわけではないから、父はまだ杖をついている。
だから仕方ないと言えなくもないが、あれは絶対面倒くさいから、俺に丸投げしたに違いなかった。
俺はと言えば、魔物との戦いの中で右頬に傷を負った。
かなり深く傷ついたせいで、治癒魔法でも完全に傷跡を消すことは出来なかった。
母はこれでまた婚期が遅れると嘆いていたが、こればかりは仕方ない。
傷一つで結婚できないような女などこちらから願い下げだ。
仕方なく参加した褒賞式の会場では、あまり好意的な目で見られることはなかった。
ちゃんと理解してくれている者は感謝の念を持っていてくれるが、そうではない者は武力しか持たない田舎者という侮りやその武力に対する怯えが窺える。
まあ、そんなことだろうとは思っていたから、気落ちしたりはしないが、自分たちの平和な生活はどうやって守られているかぐらい分からないのかとの苛立ちはある。
褒賞を貰うために国王陛下の前に立った時、王族席、退屈そうな顔をしたギルバート殿下の隣にいる少女が目に入った。
彼女は何故かこちらをアメジストのようなキラキラした瞳でこちらを見ていた。
勘違いでなければ、憧憬の念を感じる視線。
騎士や兵士、冒険者などからは感じるその感情は女性から向けられることはほぼない。
俺がそちらを見ると、サッと目を逸らして扇子を開いてその影からチラチラと見ている。
その様子が小動物みたいでかわいくて、このつまらない褒賞式に出て唯一良かったと思えることだった。
その時の彼女が何故か我が家の食事室にちょこんと座っているのだから、驚くのは当たり前だろう。
「ジュリア嬢はギルバート殿下に婚約破棄されて、今身を隠してるんだ」
食事が終わり、ジュリア嬢が部屋に戻った後、両親から事情を聞くことになった。
「婚約破棄!?何故?」
ジュリア嬢はキレイな顔立ちの品のある侯爵令嬢だ。
気質も良いように思う。
「それは結局ギルバート殿下の浮気だな」
「浮気した方が婚約破棄するのか?」
普通なら、浮気した方が婚約破棄されるものだ。
あまりに理不尽な話に眉間に皺が寄る。
「あーうん、そうなんだが、モントレート侯爵もジュリア嬢も婚約破棄は望むところらしい。殿下の浮気の証拠はたっぷりあるらしいし、最終的には殿下有責の婚約破棄ということになるだろう」
「ジュリアちゃんは王命でギルバート殿下の婚約者になって、それはそれは苦労していたみたいなの。王子妃教育だけでも大変なのに、ギルバート殿下の仕事も肩代わりしていたんですって。きっとそのせいで顔色もよくないし、痩せているのよ」
母は苛立たしげにパチンパチンと扇子を左手に打ち付けている。
ギルバート、クソだな。
「ギルバート殿下はいずれは臣籍降下する予定なんだ。その時に支えてくれる予定だったモントレート侯爵令嬢を手放した。一方、殿下の浮気相手は男爵令嬢らしい。そのことで自分の立場がどうなるのか、後で気づいてジュリア嬢に復縁を迫る可能性が高いんだ。頭悪いからな」
ギルバート、益々クソだな。
「レオナルド、ジュリアちゃんは見かけだけに囚われることがないいい子よ。彼女を守るわよ」
ジュリア嬢は知ってか知らずにか、我が家で一番発言権のある母に気に入られたらしい。
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