【短編集】婚約破棄【ざまぁ】

彼岸花

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姉とは似ていない私

姉とは似ていない私

「リリーが療養施設で、自ら命を絶ったそうだ」
「そうですか」

私にはとても美しくて、とっても傲慢な姉がいた。名前はリリー。

私たちは伯爵家の二人姉妹。
二つ年上の姉が婿を取って、伯爵家を継ぐ予定だったのだけれど、公爵子息が美しい姉を見初めたので、姉は公爵家に嫁ぐことになり、私が婿を取って伯爵家を継ぐことになった。

「私ばっかり幸せになって、悪いわね、ミリア」

婚約が決まった姉は、公爵子息からの贈り物を身につけ、事あるごとに言って来た。

「止めなさい、リリー」
「あら、本当のことじゃない。それと、お父さま。私は公爵夫人になるのよ。お父さまは伯爵、この意味解る?」

両親は姉のことを注意してくれるが、公爵子息と婚約した姉は増長するばかり。

「お父様、お母様私は大丈夫ですから」
「ミリア……済まない」
「ご免なさいね、ミリア」

両親に謝られるが、姉の性格は生まれ持ったものなので、両親もどうすることも出来なかったと思う。

――――――

「婚約者のライリー君だ」

私の婚約者に選ばれたのは、我が家と同じく伯爵家のライリーだった。

「初めまして」
「ああ……はあ、あの美しいリリー嬢の妹だから、期待してたんだが……はあ」

ライリーは「お前で残念だ」という態度を隠さなかった。
ライリーの両親がたしなめたが、

「本当のことだろう」

まったく悪びれることはなかった。
両親はライリーの態度に激怒し、婚約者にはしないと言って来たが、

「待ってください。もしかしたら……」

私は両親を説得し、ライリーとの婚約話を進めてもらった。

「会って話せば、理解し合えるかも」
「そうだといいのだが」

父は渋い表情だったが、私からのたっての願いなので、受け入れてくれた。

――――――

姉は自分が魅力的なことを知り、多くの男性に話し掛け「貴方だけ」と思わせ振りな態度を取る。
男性に声を掛け、嫋やかに手をそっと伸ばして指先だけ触れて、恥ずかしそうに頬を染める素振りをみせる。

「お前との婚約は破棄する」

そんな姉の手練手管に引っかかった婚約者のライリーが、彼の実家で行われていた、親睦を深めるお茶会の席で、婚約破棄を告げてきた。

「何を言っているの?ライリー」

 ライリーの母親が、驚いて声を上げる。

「リリーと結婚するんです。彼女も私のことを愛してくれているのです。母さんも言っていたじゃないですか、こんな冴えないミリアよりも、美しいリリーのほうが、私に似合っていると」

ライリーの言葉に彼の母親は言葉を失い、羞恥で俯いた。

「そう、ですか。あとのことは、父とお話ください」

私はそれだけ告げて、ライリーの自宅を後にする。

「待って!ミリアさん!さっきのライリーが言ったのは!」

ライリーの母親が追ってきたが、無視をして馬車に乗り込んだ。
その後、私とライリーの婚約は解消。
私とライリーの婚約解消の手続きが終わったあと、父は疲れた表情でそう呟いた。

「ライリーはお姉さまと結婚すると言っていましたが」
「公爵子息と婚約していることくらい、知っているだろうが」

父はそう吐き捨てた。

そして事件が起こった。
ライリーが姉を音楽鑑賞に誘った。姉はいつも通り、ライリーの誘いに乗った。邸を出るとき、私の部屋を見上げて、開いた扇で口元を隠して嗤っていた。


見慣れた姉の嗤いを見たのは、あれが最後だった。


「ミリアと婚約を破棄した。だから結婚して欲しいリリー」

ライリーはそこで姉のプロポーズした。

「ふ、ふははははは!ばっかじゃないの」

ライリーは本気だったが、姉は本気ではなかった。それはそうだ、姉は公爵子息の婚約者なのだから。ライリーの一世一代のプロポーズを笑い、

「私が貴方と結婚?するわけないじゃない」
「え……」
「遊びよ、遊び」
「……」
「この私が、貴方南下と結婚するわけないでしょう?ミリアの婚約者だから、からかっただけ。ミリアと別れたのなら、もう必要ないわ。興が褪めたわ」

姉はそう言い、ライリーの手を振り払った。

「なっ!」

いままでそんなことをされたことがないライリーは、すぐに頭に血がのぼり、姉に殴り掛かった。

衆目の前で起こった、コンサートホール入り口での暴行事件は、瞬くまに広まった。

――――――

「嘘よ!嘘よぉ!」

ライリーは姉の顔を重点的に殴ったので、姉の顔は変形してしまった。別に二目と見られない程ではないのだが、美貌が自身のより所だった姉には耐えきれず、引きこもり、一人で空虚な空間に向かって呟くようになるまで、時間はかからなかった。

両親は姉を療養施設へと送った。

ライリーは実家ごと、姉が婚約していた公爵家によって潰された。
彼らが何処へ行ったのかは知らないが、悲惨な目に遭っているのだけは知っている。

「さて……」

これでお姉さまという邪魔者が片付いたから、本格的に婿選びをすることにしよう。

そう今まで姉が何度も私のモノを奪ってきた。
両親が何度諫めても聞きはしない。

私の婚約者に、言い寄って奪うのは確実だった。だから姉を排除する必要があった。

姉を排除するための、偽物の婚約者にライリーはうってつけだった。

私に対して失礼な態度を取り続けるライリー。
そんなライリーと仲良くしようと必死な私。

姉の性格なら、私たちの関係性を壊しにくる。

だから、奪われても惜しくはないライリーを、姉に奪わせることにした。
その後は、姉のことを狂ったように愛している、公爵子息が姉を監禁するなり、なんなりしてくれると考えて。

結末は、私が考えていたものより、酷かったけれど……姉がライリーに言い寄らなければ、ライリーが姉を拒絶したなら、私はライリーと結婚して伯爵家を継いでいた。

そうそう、姉の婚約者だった公爵子息は、姉の葬儀にやって来て、私の顔を見て溜息をついて呟いた

「リリーと似ていたら……」

その言葉を聞き、私は自分が姉と似ていなくて、心底ほっとしながら、彼を見送った。

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