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義理の妹を優先した男
義理の妹を優先した男
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公爵家の一人娘ロザリーには、ルークという婚約者がいる。
ロザリーは公爵家を継ぐので、その補佐も担当することになる婚約者は、かなり速い段階が決められた。
それがルークだった。
ルークとは政略結婚なので激しい感情の起伏はないが、穏やかな夫婦になれるだろうとロザリーは思っていた。
ルークにそのことを尋ねたことはないが、そうだと思っていると信じてたが、
(私が思っていただけだけ……だったのかも)
ロザリーがそう感じたのはルークの父親が子連れの女性と再婚したあと。
ルークの父親の再婚相手は男爵令嬢で、裕福な庶民と結婚したが、夫に先立たれ、夫の弟が財産を独り占めして、再婚相手と娘を放り出した。
曲がりなりにも貴族令嬢だった兄嫁と、その子を追い出したのは、弟の妻の意向。弟の妻は子爵令嬢で、兄嫁よりも身分の財力も上だった。
もと子爵令嬢の実家の力により、兄嫁と娘は追い出された。
その後、ルークの父親と彼女の間に何があったのかは知らないが、再婚することになった……ロザリーはルークからそう聞かされた。
ルークの父親と再婚相手の馴れ初めなど、ロザリーには興味がないので、事細かに聞かされなくて良かったのだが、再婚相手の連れ子とルークが急接近し、ロザリーのことを蔑ろにするようになった。
連れ子はレイアといい、触れなくても解るほど柔らかな金髪と、透き通るような青い瞳で、肌には染み一つなく、可愛らしい顔だちに華奢だが出るところは出ている体つき。
ルークは義理の妹につきっきりになった。
ルークの言い分は「レイア庶民から貴族になったから、大変なんだ」「レイアの練習のために、エスコートする」「元が庶民だからといって、お前の友人に虐められている。どうにかしろ!」最初は少しは取り繕えていたが、徐々に攻撃的になり、
「レイア虐めの首謀者と、結婚などできるものか!お前とは婚約破棄だ!」
最後には可愛らしい義妹の言葉を鵜呑みにし、婚約破棄を突きつけてきた。
「昔はもう少し賢かったのだが」
「女に狂うかどうかは、成長してからでなくては解りませんから」
ロザリーの両親の口調は穏やかだが、ルークとその家族に対して怒り心頭だった。
――――――
「お前は何を言っているのだ?」
ロザリーに婚約破棄を告げたルークは、意気揚々と父親にこの一件を伝えた。
父親は、息子の発言に思わず怒りも忘れて、呆けた声で聞き返してしまった。
「ですから、レイアと結婚すると」
「いや、その前だ」
「その前とは?」
「何を継ぐと?」
「ああ、シュトラト家です」
「なぜお前がシュトラト家を継ぐのだ?」
「私が継ぐのが、当たり前ではありませんか」
「なぜだ?お前はシュトラト家の直系ではないぞ」
「私はシュトラト家を継ぐために、様々な努力をして学んできたのです。私に任せれば安心だと言っていました」
「だから、お前はシュトラト家の直系ではない」
「そんなことは、関係ありません」
「お前に関係なくても、シュトラト家には関係ある。お前はシュトラト家の直系の総領姫に対して、これ以上ないほど失礼な態度を取ったんだぞ。そんな奴を当主に迎えるわけがない」
「そんなことはありません。わたしは非常に期待され」
「ロザリーの婿になるから、皆が盛り立て、囃し立てていただけだ。お前は、そんなことも解らないのか?」
「父上こそ、私の実力をご存じないのでは?」
「話ているだけで、頭が痛い。ああ、もう家から出ていけ。ああ、追い出せ!もう顔も見たくない」
父親の一言でルークは邸から追い出された。
「いたっ!お前、こんなことをしていいと思っているのか」
ルークを邸からつまみ出した門番は、ルークの言葉に怯むこともなければ、相手にもしなかった。
「いや!やめて!」
邸の方からレイアの叫びが聞こえてきたので、ルークは門扉にしがみつく。
「おい、何をしている!止めないか!」
レイアは乱暴に腕を引かれ、引きずられてきた。
そして門扉が開き、レイアが投げ捨てられ、続いてレイアの母親も放り投げられ、門扉は再び閉じられた。
ルークは怒鳴ろうとしたが、衛兵が槍先を突きつけてきた。
「さっさと去れ」
穂先は脅しではなく、ルークの頬に軽く刺す。頬から血が流れ出す感覚に、尻餅をつき、そして這うようにして逃げ、レイアもルークを追いかける。
レイアの母親はその場で立ち尽くしていたが、衛兵が槍で威嚇してきたので、のろのろとその場を去った。
レイアの母親は、レイアがしでかしたことに対して責任を取らされ離婚され、着の身着のままで追い出された。
娘が公爵家との縁談を壊したと聞かされたのは、邸を追い出される直前。そんなはずはない!と言いたかったが、邸内でも二人がよく一緒にいたのを思い出し、自分の娘の浅はかさと、自身の鈍さに絶望し、レイアの母親は邸前から去ってから、川へと身投げした。
レイア母親の最期を知らない二人。
ルークは当初、友人達の元へと足を運び、父親の機嫌を取りなしてくれないかと頼もうとしたのだが、どの家でも門前払い。
唯一会ってくれた元友人は、
「みんなお前が、シュトラト家の令嬢の婿だから、近づいてちやほやしていただけだ。その婚約者の地位を捨てたお前なんかに、誰が好んで近づくんだよ。さらに今のお前は貴族ですらない。だから二度と来るな」
ルークすら知らなかったことを教えてくれた。
「俺が貴族じゃない……そんな筈は!」
ロザリーは公爵家を継ぐので、その補佐も担当することになる婚約者は、かなり速い段階が決められた。
それがルークだった。
ルークとは政略結婚なので激しい感情の起伏はないが、穏やかな夫婦になれるだろうとロザリーは思っていた。
ルークにそのことを尋ねたことはないが、そうだと思っていると信じてたが、
(私が思っていただけだけ……だったのかも)
ロザリーがそう感じたのはルークの父親が子連れの女性と再婚したあと。
ルークの父親の再婚相手は男爵令嬢で、裕福な庶民と結婚したが、夫に先立たれ、夫の弟が財産を独り占めして、再婚相手と娘を放り出した。
曲がりなりにも貴族令嬢だった兄嫁と、その子を追い出したのは、弟の妻の意向。弟の妻は子爵令嬢で、兄嫁よりも身分の財力も上だった。
もと子爵令嬢の実家の力により、兄嫁と娘は追い出された。
その後、ルークの父親と彼女の間に何があったのかは知らないが、再婚することになった……ロザリーはルークからそう聞かされた。
ルークの父親と再婚相手の馴れ初めなど、ロザリーには興味がないので、事細かに聞かされなくて良かったのだが、再婚相手の連れ子とルークが急接近し、ロザリーのことを蔑ろにするようになった。
連れ子はレイアといい、触れなくても解るほど柔らかな金髪と、透き通るような青い瞳で、肌には染み一つなく、可愛らしい顔だちに華奢だが出るところは出ている体つき。
ルークは義理の妹につきっきりになった。
ルークの言い分は「レイア庶民から貴族になったから、大変なんだ」「レイアの練習のために、エスコートする」「元が庶民だからといって、お前の友人に虐められている。どうにかしろ!」最初は少しは取り繕えていたが、徐々に攻撃的になり、
「レイア虐めの首謀者と、結婚などできるものか!お前とは婚約破棄だ!」
最後には可愛らしい義妹の言葉を鵜呑みにし、婚約破棄を突きつけてきた。
「昔はもう少し賢かったのだが」
「女に狂うかどうかは、成長してからでなくては解りませんから」
ロザリーの両親の口調は穏やかだが、ルークとその家族に対して怒り心頭だった。
――――――
「お前は何を言っているのだ?」
ロザリーに婚約破棄を告げたルークは、意気揚々と父親にこの一件を伝えた。
父親は、息子の発言に思わず怒りも忘れて、呆けた声で聞き返してしまった。
「ですから、レイアと結婚すると」
「いや、その前だ」
「その前とは?」
「何を継ぐと?」
「ああ、シュトラト家です」
「なぜお前がシュトラト家を継ぐのだ?」
「私が継ぐのが、当たり前ではありませんか」
「なぜだ?お前はシュトラト家の直系ではないぞ」
「私はシュトラト家を継ぐために、様々な努力をして学んできたのです。私に任せれば安心だと言っていました」
「だから、お前はシュトラト家の直系ではない」
「そんなことは、関係ありません」
「お前に関係なくても、シュトラト家には関係ある。お前はシュトラト家の直系の総領姫に対して、これ以上ないほど失礼な態度を取ったんだぞ。そんな奴を当主に迎えるわけがない」
「そんなことはありません。わたしは非常に期待され」
「ロザリーの婿になるから、皆が盛り立て、囃し立てていただけだ。お前は、そんなことも解らないのか?」
「父上こそ、私の実力をご存じないのでは?」
「話ているだけで、頭が痛い。ああ、もう家から出ていけ。ああ、追い出せ!もう顔も見たくない」
父親の一言でルークは邸から追い出された。
「いたっ!お前、こんなことをしていいと思っているのか」
ルークを邸からつまみ出した門番は、ルークの言葉に怯むこともなければ、相手にもしなかった。
「いや!やめて!」
邸の方からレイアの叫びが聞こえてきたので、ルークは門扉にしがみつく。
「おい、何をしている!止めないか!」
レイアは乱暴に腕を引かれ、引きずられてきた。
そして門扉が開き、レイアが投げ捨てられ、続いてレイアの母親も放り投げられ、門扉は再び閉じられた。
ルークは怒鳴ろうとしたが、衛兵が槍先を突きつけてきた。
「さっさと去れ」
穂先は脅しではなく、ルークの頬に軽く刺す。頬から血が流れ出す感覚に、尻餅をつき、そして這うようにして逃げ、レイアもルークを追いかける。
レイアの母親はその場で立ち尽くしていたが、衛兵が槍で威嚇してきたので、のろのろとその場を去った。
レイアの母親は、レイアがしでかしたことに対して責任を取らされ離婚され、着の身着のままで追い出された。
娘が公爵家との縁談を壊したと聞かされたのは、邸を追い出される直前。そんなはずはない!と言いたかったが、邸内でも二人がよく一緒にいたのを思い出し、自分の娘の浅はかさと、自身の鈍さに絶望し、レイアの母親は邸前から去ってから、川へと身投げした。
レイア母親の最期を知らない二人。
ルークは当初、友人達の元へと足を運び、父親の機嫌を取りなしてくれないかと頼もうとしたのだが、どの家でも門前払い。
唯一会ってくれた元友人は、
「みんなお前が、シュトラト家の令嬢の婿だから、近づいてちやほやしていただけだ。その婚約者の地位を捨てたお前なんかに、誰が好んで近づくんだよ。さらに今のお前は貴族ですらない。だから二度と来るな」
ルークすら知らなかったことを教えてくれた。
「俺が貴族じゃない……そんな筈は!」
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