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全てを甘く考えていた男の話
全てを甘く考えていた男の話
シリルは婚約者のリュークに呆れていた。
リュークは事あるごとに幼馴染みのヘレナをシリルよりも優先するのだ。
「ごめん、シリル。ヘレナが熱を出したから」
「またですか?お仕事がよほど大変なんでしょうね 」
シリルの嫌味にもリュークは気がつかない。
そもそもヘレナはリュークの幼馴染みだが、立場は全く違う。
リュークは領主の跡取り息子で、ヘレナは使用人の娘。いまは使用人としてリュークの家に雇われている。
「そうなんだ。すぐに屋敷に戻らないと」
「お好きにどうぞ」
「この埋め合わせは必ずする」
リュークはそう言って、待ち合わせのカフェから足早に立ち去り、待たせていた馬車に乗り込んだ。
ちらりと馭者がシリルのほうを見たが、シリルは敢えて無視した。
「じゃあ私も好きにしましょう」
リュークに優先されないことにすっかり慣れたシリルは、カフェを出て外で待っていた侍女とともに、待機させていた馬車に乗った。
「今回も発熱だったわ」
「もう少し頭を捻って欲しいものですね」
シリルの侍女の言葉に、
「騙すのはリュークだけでいいんだもの。リュークは同じ理由で愚かに騙されているから、バリエーションなんて必要ないんでしょう」
「そうですね」
「でも他の人は騙せないわよね」
「ほとんどの人は騙せませんよ」
「今回がラストチャンスだったんだけど。リュークのご両親も説明したと、言っていたし手紙も届いていたのに」
「あんな嘘に騙されるような人ですから」
――――――
シリルとのデートを切り上げ、急いで帰宅する馬車の中でヘレナへの心配をしていたリュークは帰宅したが、門が開かない。
「どうした?」
馭者に問うと、馭者は馬車から降りて、
「話を聞いてきます」
そう言ってリュークを残して門兵のもとへと駆けていった。
リュークは目を閉じて門が開くのを待った。
そしてしばらくして馬車が動き出した。玄関に到着するのがいつもより遅いと感じたリュークだったが、ヘレナのことが心配で気が急いているのだろうと自分に言い聞かせた。
馬車が停まると馬車のドアが乱暴に開けられた。
「なにご!」
言い終わるまえに、リュークの体は馬車の外に引きずりだされ、強かに地面に体が打ちつけられた。
一瞬なにが起こったのか解らなかったリュークだが、
「使用人にうつつを抜かすような跡取りは要らないとのこと」
執事が倒れているリュークを見下ろしながら、リュークの父親の言葉を告げた。
「な……んのつもり……」
「それは旦那様が仰りたいことかと。何度注意しても、使用人の嘘を真に受けて、大切にしなければならないシリル様を蔑ろにする姿に、ほとほと愛想が尽きたそうです」
執事の合図で使用人がリュークの足元にトランクを置く。
「あの嘘つき女ヘレナにも暇を出しましたので。あとは好きにするように、とのこと。ああ、もちろん籍は抜いたので、二度と顔を見せるなとのことです。それではさようなら、愚か者のリューク」
執事と使用人は馬車に乗り込み、リュークを置いて去っていった。
その時馭者が、ちらりとリュークを見たが、リュークは気付かなかった。
――――――
シリルは元婚約者リュークに呆れていた。
リュークは事あるごとにシリルより優先していたヘレナを見捨てて、シリルに復縁を迫ってきたのだ。
「ヘレナは本当に熱病にかかって亡くなったそうです」
籍を抜かれ、時期領主の座をうしなったリュークは、邸から追い出され、領地内に「危険人物」として触書が出されたヘレナにまとわりつかれた。
ヘレナは当主の縁談を壊したということで、身ぐるみを剥がれて邸から追い出された。ヘレナの両親も同じく。
ヘレナの両親は「あわよくば娘が愛人になって……」などと考えており、娘の愚行をとめなかったのだ。
そして放り出された彼らは、家などを借りることもできず、路上で生活してすぐに体調を崩して熱病に罹患して次々死んでいった。
その悲惨な様相に、リュークは恐れおののき、シリルに助けを求めた。
リュークはシリルと復縁できたら、実家に戻れると考えていた。
「ヘレナのお陰で、あんなのを当主にしなくて良かった……というべきかしら」
「そうですね」
シリルを出せというリュークの訴えを完全に無視し、翌日には「勘当した息子が、元婚約者の家の前で叫いている」と聞いたリュークの父親が兵を連れてやってきて、
「やめて、くれ!やめーーー!」
縄で体を括り、馬で引きずりながら連れていった……とシリルは門兵から状況を聞いた。
「きっと削れてますね、お嬢様」
「そうね」
以降、リュークがシリルの元を訪れることはなかった。
リュークは事あるごとに幼馴染みのヘレナをシリルよりも優先するのだ。
「ごめん、シリル。ヘレナが熱を出したから」
「またですか?お仕事がよほど大変なんでしょうね 」
シリルの嫌味にもリュークは気がつかない。
そもそもヘレナはリュークの幼馴染みだが、立場は全く違う。
リュークは領主の跡取り息子で、ヘレナは使用人の娘。いまは使用人としてリュークの家に雇われている。
「そうなんだ。すぐに屋敷に戻らないと」
「お好きにどうぞ」
「この埋め合わせは必ずする」
リュークはそう言って、待ち合わせのカフェから足早に立ち去り、待たせていた馬車に乗り込んだ。
ちらりと馭者がシリルのほうを見たが、シリルは敢えて無視した。
「じゃあ私も好きにしましょう」
リュークに優先されないことにすっかり慣れたシリルは、カフェを出て外で待っていた侍女とともに、待機させていた馬車に乗った。
「今回も発熱だったわ」
「もう少し頭を捻って欲しいものですね」
シリルの侍女の言葉に、
「騙すのはリュークだけでいいんだもの。リュークは同じ理由で愚かに騙されているから、バリエーションなんて必要ないんでしょう」
「そうですね」
「でも他の人は騙せないわよね」
「ほとんどの人は騙せませんよ」
「今回がラストチャンスだったんだけど。リュークのご両親も説明したと、言っていたし手紙も届いていたのに」
「あんな嘘に騙されるような人ですから」
――――――
シリルとのデートを切り上げ、急いで帰宅する馬車の中でヘレナへの心配をしていたリュークは帰宅したが、門が開かない。
「どうした?」
馭者に問うと、馭者は馬車から降りて、
「話を聞いてきます」
そう言ってリュークを残して門兵のもとへと駆けていった。
リュークは目を閉じて門が開くのを待った。
そしてしばらくして馬車が動き出した。玄関に到着するのがいつもより遅いと感じたリュークだったが、ヘレナのことが心配で気が急いているのだろうと自分に言い聞かせた。
馬車が停まると馬車のドアが乱暴に開けられた。
「なにご!」
言い終わるまえに、リュークの体は馬車の外に引きずりだされ、強かに地面に体が打ちつけられた。
一瞬なにが起こったのか解らなかったリュークだが、
「使用人にうつつを抜かすような跡取りは要らないとのこと」
執事が倒れているリュークを見下ろしながら、リュークの父親の言葉を告げた。
「な……んのつもり……」
「それは旦那様が仰りたいことかと。何度注意しても、使用人の嘘を真に受けて、大切にしなければならないシリル様を蔑ろにする姿に、ほとほと愛想が尽きたそうです」
執事の合図で使用人がリュークの足元にトランクを置く。
「あの嘘つき女ヘレナにも暇を出しましたので。あとは好きにするように、とのこと。ああ、もちろん籍は抜いたので、二度と顔を見せるなとのことです。それではさようなら、愚か者のリューク」
執事と使用人は馬車に乗り込み、リュークを置いて去っていった。
その時馭者が、ちらりとリュークを見たが、リュークは気付かなかった。
――――――
シリルは元婚約者リュークに呆れていた。
リュークは事あるごとにシリルより優先していたヘレナを見捨てて、シリルに復縁を迫ってきたのだ。
「ヘレナは本当に熱病にかかって亡くなったそうです」
籍を抜かれ、時期領主の座をうしなったリュークは、邸から追い出され、領地内に「危険人物」として触書が出されたヘレナにまとわりつかれた。
ヘレナは当主の縁談を壊したということで、身ぐるみを剥がれて邸から追い出された。ヘレナの両親も同じく。
ヘレナの両親は「あわよくば娘が愛人になって……」などと考えており、娘の愚行をとめなかったのだ。
そして放り出された彼らは、家などを借りることもできず、路上で生活してすぐに体調を崩して熱病に罹患して次々死んでいった。
その悲惨な様相に、リュークは恐れおののき、シリルに助けを求めた。
リュークはシリルと復縁できたら、実家に戻れると考えていた。
「ヘレナのお陰で、あんなのを当主にしなくて良かった……というべきかしら」
「そうですね」
シリルを出せというリュークの訴えを完全に無視し、翌日には「勘当した息子が、元婚約者の家の前で叫いている」と聞いたリュークの父親が兵を連れてやってきて、
「やめて、くれ!やめーーー!」
縄で体を括り、馬で引きずりながら連れていった……とシリルは門兵から状況を聞いた。
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以降、リュークがシリルの元を訪れることはなかった。
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