【短編集】婚約破棄【ざまぁ】

彼岸花

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あなたは私の救い主【連載中】

セシリーとネイト

セシリーは本邸から追い出されて別邸で暮らしていた。

セシリーは母親にひどく嫌われていた。弟にも嫌われていた。
父はセシリーには優しかったが、父は入り婿なので表立って母に逆らうことはできなかった。

だがセシリーは家族と暮らせなくても、幸せだった。
セシリーの側には乳母一家が仕えてくれていた。セシリーと同い年の娘は他の家に働きに出たが、彼女の兄ネイトは騎士としての才能があり、王宮騎士団にも入れる筈なのにずっとセシリーに仕えてくれていた。

セシリーには婚約者がいた。

侯爵家の嫡男で賢い男だけれど、セシリーを見下すような態度を取ってばかり。
同じ学校に通っていたが、婚約者がセシリーに声を掛けてくることはなかった。婚約当初から、相手はセシリーのことを嫌っていた。

婚約者はネイトにも当たりが強かった。
月に一度の顔合わせの日に、ネイトが同席していると、あからさまな表情を浮かべて嫌った。

家族に蔑ろにされているセシリーにとって、家族同然のネイトが嫌われるのは辛かった。だが、ある時から婚約者は何も言わなくなった。

彼は学園で男爵令嬢と恋仲になり、セシリーのことなど一切構わなくなった。

月に一度の決められた日すらすっぽかすようになった。そんな人の元に嫁ぎたくないと思いはしたが、貴族の娘として産まれた者の責務だと、セシリーは受け入れる覚悟を決めた。

ただ婚約者は貴族の嫡男としての責務もなにもかも忘れてしまったらしく、ある日、件の男爵令嬢と共に財産を持って駆け落ちした。

「なんてこと……」

関係を築けてはいなかったセシリーだが、駆け落ちされたことはショックだった。
だがそれ以上にショックだったのは、婚約は既に白紙になっていたことだった。

「こんな娘を妻になどしたくはなかったのでしょう」
「当然ですね」

母親と弟は、婚約者に完全に捨てられたセシリーを見て、言い捨てた。

入り婿の父親はやはり何も言い返すことはできなかったが、

「相手側と話をつけてくる。なにも心配することはない……ただ、彼との婚約は白紙のままでいいな?」

セシリーにそう言った。

「ええ。むこうがこんなにも私との結婚を望んでいなかったなんて……」

父親はセシリーに気遣わしげな眼差しを向け、腹部に手を置いて頷いた。
そして父親は婚約者の両親との会談で、相手側を殴って殺害してしまった。
貴族が殺人罪で捕まるのは外聞が悪いということで、相手の婚約白紙と殺人で相殺することになった。

表向きは何ごともなかったことで収めたが、何ごともなかったかのように過ごすわけにはいかない。
セシリーの父親は弟に爵位を譲り、実家に帰ることになった。

セシリーは父親と共に、良い思い出のない邸を出て、父親の実家へ。乳母一家もセシリーに付き従った。

「ネイト……これから、どうなるのかしら」
「大丈夫です、セシリーお嬢さま。このネイトが必ずや」

父親とセシリーたちは、父の実家では歓迎されていなかった。

「ほんとうに、お前は問題を起こしてばかりだ。ああ、外に出るな!外でまた騒ぎを起こされたらたまったもんじゃない」

父親の兄で現当主は、父親にそう言い、セシリーを一瞥して、

「身持ちが悪い者同士の間に産まれた娘など、敷地ないにも置いておきたくはない」

嫌悪感をあらわにして、部屋を出ていった。

父親は実家に残ることができたが、セシリーと乳母一家は追い出されることになった。

「お願いです!少しの間だけでも!すぐに他に生活の基盤を作って家を出ていきますから!」

伯父の足元に跪き、全身で懇願したセシリーは、

「嫌に決まっているだろう。出産でお前が死んだら、我が家が産まれた子を引き取ってそだてなくてはならないではないか。お前の母親がそうだったように」
「私の母親……出産で死亡?」

伯父から思いも寄らない言葉をかけられた。

「何を驚いて……もしかして、知らなかったのか。そうか!知らないで、死んだ母親と同じようなことをしたのか。お前の母親は、お前が母親と勘違いしている女性の姉だ。身持ちの悪い女で離縁され出戻り、入り婿のこいつと浮気をしてお前を身籠もった。あんな女の誘いに乗ったもどうにかしているが」

「やめてくれ、兄さん……セシリーはいま、一人の体じゃないんだ」

「あの阿婆擦れ出戻りと、入り婿のくせに考えなしな弟の間に産まれただけのことはある。婚約者がいるのに、他の男の子を妊娠するなんて。婚約を白紙にしてくれただけで赦してくれた元婚約者、ウォルト卿に感謝するんだな」

伯父はセシリーの膨らんだ腹に足を乗せた。

「止めて!」
「腹の子を殺しはしない。生かしておいたほうが、お前たちが苦しむからな。婚約者がいるのに使用人と密通した貴族令嬢と、主人と密通して孕ませる使用人など、邸においていけないからな。つまみ出せ!」

そしてセシリーとネイトは邸から放りだされた。僅かばかりの金を足元に投げつけられ、

「もう二度と、ここには来るな。あと元実家にも行くなよ」

門番にそう言われ、愛するネイトの子を身籠もったセシリーと、愛する人を手に入れたネイトは二人で手を取りあい、邸の前から去った。

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