【短編集】婚約破棄【ざまぁ】

彼岸花

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元婚約者と幼馴染みの顛末と残された子

後編

手紙の内容は、シモンが妻にと選んだ幼馴染みのエミリアは、じつは窃盗犯の恋人。シモンと結婚したいまも続いていて、産まれた子どももシモンの子とではなく、その窃盗犯の子だったというもの。

「よほど似ていなかったのかしら?」
「僭越ながら、カロリーナ様の元に届いていた手紙の内容を確認しておりましたが”自分に似ている”と書かれておりました」
「見た目では分からなかったのね。それがどうして?」

シモンからの手紙には「エミリアの子は自分の子じゃなかった」「助けてくれ」としか書かれていなかった。助けを求めるなら、もう少し詳しい事情を書いて欲しいものだと、カロリーナも家令も溜息をついた。

「少し調べてみます」
「頼んだわ」

家令の調査の前に、カロリーナの実家の母から手紙が届き、その全貌が明らかになった。

エミリアは恋人の窃盗犯の仕事の手引きをするために、幼馴染みで賢くないシモンを選んだ。

「たしかに、あまり賢くない人だったものね」

別れ際の場面を思い出し、眉間に皺を寄せて首を振り、母親からの手紙を読み進めると、窃盗犯が捕まったことで、手引きしていたのがエミリアだということも突き止められた。
そしてエミリアと結婚しているシモンやその一家に対しても「知っていたのではないか?分け前を貰って協力していたのではないか?」という嫌疑がかけられた。

「当然の疑いよね」

シモンとその実家は「疑わしいが、はっきりとした証拠がない」ということで、ギリギリの所で罪を免れた。

そしてシモンとエミリアの子をどうするか?

子どもに関しては両親のエミリアとシモン、両方等しく責任がある。その片方であるエミリアは死刑が確定。エミリアの両親は娘がそんなことをしているとは知らなかったが、シモン一家とは違い、罰金刑が科せられ家財を全て売り払ってもまだ足りず、最終的に自殺した。

シモンとエミリアの子は、シモン一家に引き取られることになる……はずだった。実際シモンはエミリアには裏切られたが、シモンは可愛い盛りの我が子を手放すつもりはなかった。

「その子はシモンの子じゃない」

だがシモンの両親は、そんなことを言い出した。

「犯罪者の子を引き取りたくはないのは分かるけれど、あんまりだ!」

シモンの抗議に対して両親は、

「貴方は子どもが作れない体なの」
「え……」
「幼い頃に、高熱を出したのが原因だ」
「うそだ!!」

シモンは子どもを作れない体だと告げた。

「え、そうなの?」

元婚約者のカロリーナは知らない、何よりも大切な情報。もちろんカロリーナの両親も知らなかった。何も知らないまま結婚していたら……と考えカロリーナは身震いした。

真実を告げず、騙してシモンと結婚させようとしたシモンの両親。

「間違いなく、責任を私に押し付けたでしょうね」
「そうかと」

エミリアと子どもが出来たと言ったときには「お前は子どもが作れない体だ」とは言わなかったのは、

「親戚筋の愛人を、他の男で妊娠させて、私の子として育てさせるつもりだったからでしょうねえ」

カロリーナを騙して、そういう扱いにするつもりだったとしか思えないし、実際にシモンの両親はそのつもりだった。
そしてシモンとエミリアの子が、他人の子であるのは分かっていたが、親戚筋の子を跡取りにするつもりだったし、シモンが自分の子ができたと、父親の喜びを満喫していたので口を噤んでいた。

だがここに来て事態が一変したので、シモンの両親は真実を明かした。

「バカにされたものね」

危うく「子どもができない嫁」のレッテルを貼られそうになったカロリーナは、ますますシモン一家のことが嫌いになった。

そしてそんな一家と縁を結んだ元凶の父親だが、

”あの人のことは、叱責しているから”

母親が現在進行形でそう綴っていた。

シモンの子ではないという証明がなされ、子どもは孤児院に入れられた。そしてシモン一家はシモンの新しい嫁を探し始めたが、犯罪者と縁を結んで騙されていた、種なしという貴族当主跡取りとしては致命傷を負っているの男。
さらに、嫁を飼い殺しにしようとしていた両親がいる家に、娘を嫁がせたいなどと思う親はいない。
こんな家名に傷がつき、資産も目減りした家など相手にされず。
そんな時、シモンはかつて自分には婚約者がいたことを思い出した。

「いまだシモンのことを思って、わたしが独身を貫いていると思って……あの”助けて”という手紙って、結婚しようという意味だったの」

結婚して欲しいと書かれていてもカロリーナは応えるつもりはないが、あの文面で「やり直そう」は、どう読んでも無理だなと。

カロリーナはシモンに、断りの手紙を送ることはなかった。代わりに父親に「婚約を結び直すなんてこと、しませんよね」と、王都まで出向いて直接「馬鹿なことするなよ」と脅した。

もっともカロリーナの母親が、プライドその他をズタボロにしていたので、父親は黙って頷くだけの顔色悪い生き物になっていた。
だからといって、カロリーナは父親のことを可哀想とも思わなかったし、母親にたいして、これ以上は止めて欲しいとも言わなかった。

そして王都にある孤児院の一つに足を伸ばした。

「本当によろしいのですか?」
「ええ」

エミリアと窃盗犯の子が預けられた孤児院で、カロリーナはその子を引き取りたいと申し出た。

「ですが」
「シモンが勝手に結婚届けを出していなければ、私の子として、私が育てていたはずです」

きっとそうなったはずだと言い、カロリーナはその子を引き取り、馬車でその子の両親が処刑された広場を通り過ぎ、領地へと帰った。

領地でその子はのびのびと育ち、

「あら? またシモンからの手紙」
「はい」

シモンからは、ずっと「そんなヤツより、私を救ってくれ!」「君が愛している私が、こんなに苦しんでいるのに」「君よりよい女性と良い感じになっている」「このままでは。、他の女性と結婚してしまうよ」「やはり君以外いない」「救って欲しいのは、薄汚い犯罪者の子じゃなくて私なんだ」等、読んでいて全く楽しくない手紙が届き続けたが、カロリーナは無視し続ける。

数年後、カロリーナが治めている、国でも上位の治安と豊かさを誇る領地に、薄汚れた男が一人が現れ、領主のカロリーナと手を繋ぎ、楽しそうに歩いている子どもの姿を見て涙を流し、

「カロリーナ!」

ありったけの声で叫ぶと、カロリーナは気付たが、薄汚れた男の正体には気付かずを浮かべ、軽く手を振り子どもとともに、また歩き出した。

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