【短編集】婚約破棄【ざまぁ】

彼岸花

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自分が断頭台の上にいたことを知らなかった男の末路

自分が断頭台の上にいたことを知らなかった男の末路

セレスティーアは婚約者のクロディルが、のルミナの肩を抱いてパーティー会場に現れたのを見て、扇子で口元を隠して溜息をつく。
セレスティーアは婚約者のクロディルと、もともと相性が悪かった。
王家たっての願いでクロディルと婚約した。この婚約に関してセレスティーアは納得している。
国家のがかかっている、重要な婚姻だと解っているから。

セレスティーアは理解していたが、クロディルはほとんど理解していない。

理解していない理由も、国王から説明を受けていた。ただそれらを差し引いても、クロディルの態度は婚約者に対して「どうか?」というものばかり。

母親の王妃はそれを咎めていないらしく、クロディルは増長し、セレスティーアを蔑ろにする。
その態度を見た王妃の母国の高官などが、セレスティーアや彼女の両親に謝罪しにきた回数は、数え切れない。

だがクロディルの態度はよくならず、そして最近、彼にができた。子爵令嬢のルミナという、セレスティーアやクロディルと同い年の可愛らしい少女。
クロディルはルミナにすっかり魅了され、何処へ行くにも連れ歩いていた。

なので、

「セレスティーア!お前のような女とは、婚約を破棄する!」

パーティー会場でいきなり婚約を破棄されても、驚きはしなかった。そのあまりの愚かさには驚いたが。

「婚約を破棄、ですか」
「そうだ!貴様は醜い嫉妬で、ルミナを傷つけた!」

なにを言っているのだろう……というセレスティーアの表情に気付かず、クロディルは自分に酔いながら婚約破棄の理由を語った。
隣に立っているルミナの肩を抱きながら。

「貴様には国外追放を命じる!」

クロディルがそう言い放ったところで、国王と王妃が入場した。会場の雰囲気から、国王は何が起こったのかを説明するように命じた。

クロディルは良い機会だとばかりに、国王にセレスティーアがルミナを虐めていること。そんなことをする人間は、自分の王妃に相応しくないこと。王妃にはルミナが相応しいことなどを語った。

(自分の母親の顔色が悪いことに、気付かないのかしら)

クロディルが語っている間、何度か王妃は息子の言動を止めようとしたが、悦に浸っている息子のクロディルの口は止まらず、また国王が話を止める必要がないと命じ、王妃は倒れそうになっていたが、女官が両脇から支えていたので、倒れることもできなかった。

「お前は私の子ではない」

クロディルの話を聞き終えた国王は、なんの前置きもなくクロディルの秘密を暴露した。その言葉に会場は一瞬静まったが、徐々に「そうなのか?」と「そんな気はしていた」という人々の驚きが会場を波打つ。

「はっ?いきなり何を」
「お前は王妃の浮気でできた子だ」

セレスティーアとその実家は、このことについて知っていた。クロディルは知らない。

「陛下!それは!」

王妃が国王に手を伸ばすが、はね除けられる。

「自分の罪だから、息子には言わないで欲しいという希望だったが、身の程を弁えるよう躾けろとの命令が実行できていないのだから、こちらも言うことを聞いてやる必要はない。お前は私の息子ではない、解ったか」

まだ事情を飲み込めないクロディルと、理解してクロディルから離れようとしているルミナ。

「お前はこの国の王族の血を引いていないだけではなく、王妃の不義の子だ。だが王妃と私は同盟のための政略結婚だ。そこで我が国の王家の血を引く公爵令嬢と婚姻を結び、お前を王として立てることになっていた」

「あ……あ……」

クロディルは言葉にならないうめき声を上げながら、辺りを見回す。

「痛い!離して!」

そしてルミナが逃げないように、力の限り彼女の細い腕を掴んでいる。

「お前を産んだは”初恋の相手に純潔を捧げたい”と故国で情を交わした。そのまま結婚していたら、危うくこの国の王にお前を就けてしまうところだった。だが神は私に味方して下さった」

王妃も馬鹿ではないので、子どもが出来てしまうことを考慮し、恋人と結ばれる日を、輿入れするぎりぎりにした。
だが王妃の実家側で事件が起こり、輿入れ日が大幅にずれてしまい、王妃と不倫相手が警戒していた通り王妃は身籠もってしまった。

そして騙しきることもできず、腹が膨らんできた王妃と国王は初対面を迎えた。

国同士の政略結婚で、王妃以外の王女がいなかったので、同盟を結ぶために両国が色々と水面下で奔走し、結婚にこぎ着けた。

「迷惑を掛けたな、セレスティーア」
「御言葉ありがとうございます、陛下。国のための婚姻なので耐えるつもりでしたが、相手が自らの立場を理解していないと、かなり大変なことになると勉強になりました」

セレスティーアはこの国の貴族で、王家の血を引いているため、クロディルの婚約者に選ばれた。
クロディルの産まれを知らされたセレスティーアは、この婚姻話を責任感を持って引き受けた。

「産んだ不倫女に似たのであろう」

自分が王妃の子でしかないことを知らなかったクロディルは、その真実を聞いた当初は理解できなかったが、女官に気付け薬を嗅がされている母親と、自分の元から逃げだそうとしているルミナ、そして会場の人混みの中にいた、王妃の母国の貴族たちが絶望に満ちた表情で駆け出してくる姿を見て、理解してしまった。

「生母が不義を自由恋愛と言い換えるような御方ですから、それも致し方ないかと」

「きさっ!口を慎め!セレスティーア」

とは怖ろしいもので、この状況でもクロディルは反射的に、セレスティーアに上から目線で言葉を叩きつけた。
いつものセレスティーアならば大人しく引き下がっていたが、王子ではないことが発表された今は違う。

「黙れ!何者でもないお前に、そのようなことを言われる筋合いはない!」
「?!」

セレスティーアの初めての厳しい口調に、クロディルは驚き言葉が続かない。

「お前たちは、故国に戻って処刑されるがいい。皆の者、本日のパーティーは次期国王の発表とする。セレスティーア」

クロディルは衛兵にパーティー会場から引きずり出された。先ほどまで彼がいた会場は、大きな歓声と拍手に包まれる。

「セレスティーア!」
「黙れ」

頬を殴られすぐに声を上げることはできなくなった。
その後、クロディルと元王妃は檻に入れられ、驢馬でゆっくりと道中を移動した。道沿いにはすでに「不義の子とその母親が故国へ強制送還される」との通達が出されていた。そして通達以外はなにもなく、母子は小石をぶつけられながらの移動になった。
当初は叫いていたクロディルと王妃だったが、護送の者たちは誰も注意はしなかった。また食事も満足に与えられなかったので、偶に檻に投げ込まれる腐った果物などにもかぶりつき生きながらえた。

生きながらえたところで、死が待っているだけなのだが、人間は死を選び実行することは難しい。

「知らなかったんだ!知らなかったんだ!知っていたら!」

クロディルは檻にしがみつきながら、護送の者に「自分の出自を知らなかったから、減刑してくれ」と頼むが、誰もが「知っても知らなくても、婚約者を優先するべき。それが王族ならなおのこと。自分が王子だと思っていたのなら、そのくらい当たり前」としか思わなかった。

謙虚にしろとはでは言わないが、立場を弁えて普通の行動を取っていたら、クロディルは幸せになれた。
だがそれらの幸せを手放したのは、クロディル自身。

小石や腐った食べものをぶつけられ、罵声を浴びせられながら、処刑場へと向かう二人。最期にセレスティーアや国王に謝罪したが、その言葉が届けられることはなかった。

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