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神都アースガルド

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   ピ、ピーー!!!


   コツコツ!



 ピチュー!ピッ、ピ~!!


   
 ゴスゴスッ!



「…ん?…朝…か?」



 ピッ! 



「んを!? フェニ?」


 俺の顔を覗きこむように、綺麗な紅い羽根の小鳥が小首を傾げていた。クリックリの目が可愛くてしょうがない。


「起こしてくれたのか? ありがとうな」


 そう言って首辺りを撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める。
この小鳥は[フェニ]という。朱雀なのだが、俺が不死鳥と間違えてフェニックスから取って名前をつけた。昨日会ったばかりなのだが、なぜかフェニは片時も俺の側を離れようとしない。言葉はわかるようでコミュニケーションは取れる。ちなみに昨日間違えた不死鳥は昨日皆で美味しく頂いた。まぁ、まな板洗って待っとけと言ったのは俺だ。


「おはよ~、リーシュ」


  俺はまだ眠い目を擦りながらドアを開けた。実はドア恐怖症は少し前から克服していた。ドアを触る時、全力で魔力を体に纏わせるのだ。これなら大丈夫!もし、風結界が張られていても消滅は防げるはずだ。


『あっ、今起きたの? 遅いよ? ピーちゃんに起こしてきてって頼んだんだけど』


  リーシュは昨晩からフェニをピーちゃんと呼ぶようになっていた。呼びやすいんだそうだ。


「あぁ、フェニが起こしにきてくれたよ」


『早く顔洗ってきなよ! 今日は街に行くんでしょ? 楽しみにしてたじゃない』


「そうだった! 急いで準備してくる!」




  そして俺達は準備を終え、家の前にいた。フェニは俺の肩を定位置としたらしく、朝食の時からずっと乗っていた。街へはリーシュの魔法で飛んで行くらしく


『ほらっ! もっとこっちきて! 範囲広げると魔力の消費すごいんだから!』


  (そう言われても…もう肩当たりそうじゃん)


『もうっ!』


「あっ、ち、ちょっと!」


  リーシュが俺のわき腹に手を回してきた。


(うわぁ…めっちゃいい匂いがする…)

何かの花のような香りがし、頭がクラクラし始めたが


『…[風結界]、[飛翔]』



…フォンッ!



  風の膜が俺達を包み、体が浮いた。


『ユシルは初めてだから抑えめに飛ぶね♪』


  そう言われた瞬間…



…ヒュンッ!!  ギュンッ!



「うわっ!!!  おぉーーーーー!」



 物凄い速度で上昇、急角度で方向転換し、地上と平行に飛んでいる。恐らく前世のテクノロジーでは再現不可能な速度で飛んでいると思う。風結界が高速度による風圧を防いでくれているようだ。少し慣れてきたのでしゃべる余裕が出てきた。


「…すごい速度だな。これで抑えてるのか」



『普段はこの3倍くらいで行くよ?』


「マジかよ…これの3倍って、どんだけだよ…」


『そりゃあ、風の神だからね? 風より早くなきゃ♪ ね~、ピーちゃ~ん?』



ピッピ、ピュイ~♪


  フェニは楽しそうだ。


(そうだな!  俺も楽しまなきゃ!)




  (美少女と、密着してる今の状況をな!…あ~、楽し…)



  そんな口には出せないような事を思いながら1時間ほど経っただろうか。遠くの方に街が見えてきた。近づくにつれてはっきり見えるようになってきた街は近世ヨーロッパのような雰囲気だった。…広い。だだっ広い。もう視界の半分は街だ。何キロくらいあるんだろうか。


(街って表現でいいのかよ…てか、あの城デカ過ぎだろ)


   街の奥の方に飛んでもない大きさの城が存在していた。高さはわからない。何故なら雲に届いてしまっているので1番上が見えないからだ。

「うわぁ、デカイ城だなぁ…」


『あっ、あれね? あれはオーディン様が住む宮殿[ヴァルハラ]だよ。そして、この外壁に囲まれた街が[神都アースガルド]だよ。まぁ、街って言うより広すぎて国みたいな感じなんだけどね。そろそろ降りるからね?』


  そして、俺達はアースガルドの外壁付近の森へと降り立った。


『よし! これでバレない♪』


  リーシュがそう言いながら、キャスケットの帽子を深く被《かぶ》りマスクをつけている。


「…何してんの?」


『ん? 変装に決まってるじゃない! 前にマイリスト見せた時に[隠居中]って載ってたでしょ?』


 ( …いや、モロバレって書いてたじゃん。てか、格好が怪しすぎる。サングラスがないだけマシだけどさ)

そんなことを考えていると

『行くよ!』


  そのまま行ってしまった。ほんの少しだけ一緒に歩きたくないが、置いていかれるわけにはいかないのでついていくと大きな門があり、鎧を着て槍を携えた門番のような男が2人いた。こちらに気付いた一人が俺達に向かって


「止まれ~ぃ!!ここは神都アースガルドの西門である!ここに来た理由を聞こう!」


『は? 買い物に決まってんだろ!? 通るぞ…』


 (リーシュさん…これが初対面の時のアレですか。もう口調がチンピラにしか聞こえないよ?あの可愛い女神はどこへ行ったんだ…)


「待てぃ!強行突破とは…切られても文句は言えんぞ!」


  そう言い、片方の門番が槍を突き出してきた。


『…[風壁]』


パキィッ!ブワッ!!…ズサー!


  折れる槍。突き出した門番は驚愕の顔を浮かべながら、風壁の衝撃に耐えきれず3メートルほど後ろに吹き飛ばされた。そこへ…


『…[風刃]』


シャ、シャキィッ!


「ヒィ~!」

  門番の周りの地面を切り裂き抉る風刃…


『あ? やんの? 消すぞ?』


  (容赦ねぇ…)


門番並みにビビる俺。そこへもう一人の門番が


「っ待ってくれ! き、急にそいつが攻撃して悪かった! 謝るから許してくれ! こっちも仕事だったんだ!」


『…ったく、許してやるから早く通せよな』


「も、もちろんだ! でも、1つだけ確認させてくれ!仕事だから、誰かも確認せず入れるわけに行かないんだ!…あんた、風天のヴァーユかい?」


  ビクッ!クルッ!


  リーシュが一瞬ビクッとした後、後ろにいる俺を見る。そして、門番を見ずに斜め上を見ながら


『ん、んなわけねぇだろ! ただの風の神だよ! 後ろのこいつは連れだ! 通さねぇなら門ごとぶっ飛ばすぞ!?』


  (その態度とかでバレバレじゃんか。だからモロバレになってたのか。嘘、苦手なんだな…)


「あ、あぁ、あんたなら入場料なしで入ってもらって構わない。その連れもだ」


『そうか、じゃあ通るぞ』


  そして、門を通り抜け神都アースガルドに入った俺の感想は


「うわ~、まさしく近世ヨーロッパみたいな感じだな! 神様の街っぽくないな」


『スキル以外じゃ生活はミドガルドとそれほど変わらないよ? 神っぽくなれるのはミドガルドに顕現してる時だけだよ?』


  小声でリーシュが教えてくれる。


(まぁ、スキルが破格過ぎるんだけどね)


『ちなみに、この世界の人たちはほとんど神か神族だから喧嘩とか絶対しちゃダメだよ? 危ないからね! とりあえず…ユシルの服、買いにいこう。あんまりローちゃんの服借りるのも悪いし!』


「そ、そうだね。ローさんに悪いしね!…はぁ~…」


 実は初日以降、制服は着ずにローさんの部屋のタンスに入っていた男物の服を着ていた。それを出された時は本当にショックで、リーシュに恋人かと意を決して聞いてみると大笑いされ、結局どうなのか聞けなかったのだ。



  そして俺達は服屋に着いた。服屋は外にTシャツのようなロゴの看板があり、わかりやすかった。違う国?の神が来た時もわかりやすいようにという配慮らしい。異文化交流的なものかな?

  結局、下着とインナーを数枚に、黒のズボンと7分丈のジャケットも3枚ずつ買ってもらった。もちろんリーシュに。決してヒモではない…と思いたい。

  この世界にも貨幣が流通しており、種類としては上から[オリハルコン金貨]、[ミスリル銀貨]、[ヒヒイロ銅貨]、[ダマスカス鋼貨]の4種類で、たとえば金貨1と銀貨10枚が同価値であり、すべてが10枚で1つ上の硬貨に両替できるらしい。
 ちなみにこの硬貨…武器の素材にも転用可能で、1番下のダマスカス鋼貨1枚で日本円で10,000円くらいのようだ。
 なぜこれが分かったかというと、服のお会計がヒヒイロ銅貨1枚だったからだ。結構高いと思ったが店番のおじさんがダマスカス鋼の素材でもあるウール鋼を使った布で出来ているからだと熱心に語っていたのでそのくらいの値段が適正のようだ。
 リーシュは買った服を背負っていたリュックに詰めていたが、そのリュック、なぜかまったく膨らまない。聞いてみると中が別の次元らしく、いくらでも入るのだそうだ。まるで、某アニメの○次元ポケットじゃないかと言いそうになったが、リーシュがわからないと思うのでやめておいた。そして、今俺達は商店街のようなアーケードのような所の食材専門の店の前にいる。


『あたしは食材の買い出しに行くけど、ユシルも来る? それとも、その辺観光してる?』


「俺は物珍しいし、その辺ブラブラするよ」


『そう? じゃあ、これお小遣いね! この通りは結構長いからあまり遠くの方には行かないでね。1時間くらいしたらまたここで♪』


  そう言って銅貨1枚渡された。


「…多くない? いいの?」


『いいの!普段は全然使わないから余ってるくらいだし、必要になったら魔獣売りにくればいいし』


  聞いてみると魔獣は売れるらしい。主に食材としてらしいが、毛や皮や牙も武器や鎧の素材として結構高値で買い取ってくれるらしく、ちなみに四聖獣は売ると銀貨5枚ほどになるらしい。500万か…



ピチュ~!


「いや、フェニは売らないから!」


『じゃあ、あたしは行くね♪ ピーちゃん、ユシルをよろしく!』


ピ~♪ 


  リーシュは食材屋に入ってしまった。


(俺じゃなくフェニに頼むのかよ…)

 リーシュが買い出しにいってしまったので、俺とフェニはとりあえずこの商店街を歩いてみることにした。10万の価値のある銅貨を握りしめて。





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