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服職人の誤解
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テーバイの大通りには多数の店が軒を連ねている。その中で衣服のロゴが掲げられた店に俺達は入った。
「へーい、いらっしゃーい」
気の抜けた店主の声を聞きつつ店内を見回すと様々な服がかけられていた。
『ちょっとユシルには派手過ぎるかな?』
リーシュは服を手に取り呟く。ロキはその服を一瞥して
『このカスの服なんて1番安いのでいいのよ。ていうか、この何か変じゃない?この上下セットのやつとか…スカート短過ぎない?』
「安くて全然いいんだけど、変なデザインだけは勘弁して…ん?…何だと!?」
俺はロキの持つ上下セットの服を引ったくった。
『ちょっ、何なのよっ!』
「…制服だ」
『は?』
俺は小刻みに震える手にブレザー型の女子の制服を握り締めた。
「これは日本の制服だ。何でここにあるんだ?」
俺の反応に何か感じ取ったようでリーシュは興味深そうにブレザーを見ていた。
『ユシルはその制服?に何か思い入れがあるの?』
「思い入れというか、日本の男でこの服が嫌いな人なんていないというか。いや、違うな…。俺は懐かしいんだ。死ぬ前はこの服が本当に身近にあってさ、これを見てると死ぬ前のこと思い出すなぁ」
改めて手に取ったブレザーを俺はまじまじと見つめた。
この世界に転生したことを後悔はしていない。だが、前世でもし殺されずにいたら俺はどんな人生を送っていたんだろうか。そんな事を考えるとほんの少しだけ複雑な気持ちになる。
『あんた…女物の服をそんなジッと見てると変態にしか見えないわよ?』
「ロキ、お前って本当に空気読まないな」
ギャーギャー騒ぐロキはリーシュに取り抑えられ、俺はその間に店主にこのブレザーがどうしてここにあるのか聞く事にした。
(もしかしたら、前世の話ができるかもしれないし)
そんな小さな打算も含めて。
「すいません、この制服ってどこから…ん?」
座って本を読んでいる店主の顔には見覚えがあった。
それも、つい先程。
「ヘルメスさん、ですよね?」
「バレちゃった?まさか君達がこの数余多の店の中からウチの店に来るとは思わなかったよ。ハハハ」
気マズそうに目を泳がせるヘルメスは乾いた笑いを上げる。
「ヘルメスさん、さっきの別れ方だと再会は結構先な感じでしたよ」
『物語ってものをわかってないですね。この人』
いつの間にか近くにいたツグミが俺の耳元で囁くが、それはヘルメスにも聞こえていたようだ。
「なんか僕が悪いみたいに言われてるけど、君達が僕の店に来たんだからね?」
「まぁ、それはそれとして、さっきはありがとうございました。ヘルメスさん、お店やってたんですね。それも服屋を」
「あぁ、僕は服以外にも楽器店や本屋なんかもやっているよ。下界で言えば青年実業家?」
少しだけ得意気に話すヘルメスに俺は今手にしている制服について聞いてみた。
「あぁ、それね。僕は結構下界に遊びに行くのが好きでね。特に今の日本は食べ物は美味しいし、おしゃれで面白い物も多いから店で売る商品の参考にさせてもらうためにちょくちょく通ってるんだよ。その制服も可愛いよね。昔のセーラー服も良いけど、僕はそのブレザー型が可愛くていいと思うんだ」
「ですよね!俺もそう思います!」
久々の日本を知る人との会話に俺とヘルメスは盛り上がった。それを近くで聞いていたリーシュ達も興味を持ったようで、買い物に来たはずなのだが思わず談笑してしまった。そこでリーシュがハッと気付きヘルメスに話し掛けた。
『あっ、そうだ!ヘルメスさん、今日はユシルの服を探しに来たんですけど…もう少し地味な感じの物はありますか?ちょっとユシルには派手な色が多いみたいで』
この店の服はどれも金や銀の派手な色使いで、基本黒めを好む俺に合いそうな服は陳列されている中には無さそうだった。俺がレーヴァテインを装着した時の事もリーシュは考えてくれているようだ。
レーヴァテイン装着時に金や銀の服を着ていたら成金のようにしか見えないと俺も思うし、できるならば避けたい色でもある。
それを聞いたヘルメスは店の奥を指さした。
「そうゆうのは僕よりもウチの服職人に言った方がいいね。ウチはオーダーメイドもやってるから。紹介するよ。テナさーん!ちょっとこっち来てくれるかい」
少しして店の奥から現れた服職人に俺は目を奪われた。
年は下界なら20前半くらいだろうか、背は俺より少し高いようでレヴの銀髪よりもう少し白に近い髪色で、腰の下くらいまで届く長髪を背中の中程で留めている。スラッとしているが出るところはきっちり出ていて、身長とのバランスが完璧だった。眼鏡を掛けていてそこから覗く瞳は少し目つきが鋭いように感じるが紛れもない美人で、下唇の横にある小さなホクロが溢れんばかりの色気を漂わせている。
その美しい服職人は見た目通りの少し冷やかな視線をヘルメスに送りつつ、面倒そうに言い放った。
『何だヘルメス。今日は忙しいから話し掛けるなと言っただろう。さぞ大事な用なんだろうな?くだらない用なら戻るぞ』
一瞬空気がピリッとしたが、ヘルメスが苦笑い気味に答えた。
「そんな怒らないでよ。オーダーメイドのお客さんだよ。店に並んでるのより少し地味目な服が欲しいんだって。こちらの男の子ね」
それを聞いた服職人は俺の顔を見た後、周囲のリーシュ達を見回してから苛立ちを隠そうともせずに俺を睨み付けた。
『女を侍らした成金に作る服はない。私の作る服は全て戦闘する事を前提にミスリルやヒヒイロカネを素材として作っているから色が派手になってしまうのはしょうがない。それとも色を自由に変えられるオリハルコンでも持ってくるか?先に言っておくが、オリハルコン金貨は純度が低いから私は扱わない。ちなみにオリハルコンの採集場はランカーくらいの実力がないと入れないからな?売っている服が気に入らなければ他の店で買え』
服職人から放たれる圧力に少し後退りしながらも、俺は誤解は解いておかないといけないと思った。というか、俺が何か言わないとロキが今にも食って掛かりそうだ。
「誤解です!一緒に行動してるだけで、別に侍らしてるわけでも成金でもない。今着てる服が限界みたいだからただ服を買いに来ただけです。ちょっと事情があってもう少し落ち着いた色の服が欲しくて相談してるだけで」
『言い方を変えただけだろう。侍らしている事に変わりはない。お前みたいな実力もないのに金だけでどうにでもなると思っている奴を私は好まない。ヘルメス、戻るぞ』
そう言い、服職人は店の奥へ戻ろうとこちらに背を向けた。
「ちょっとテナさん!待ってって!誤解だって」
『何が誤解なのかすらわからない。分かりやすくしてから言え』
「わかった!じゃあ、こうしよう?トーナメントに出るから!この子が」
急に話を振られた俺は固まってしまった。
「へ?トーナメント?何が…何?」
俺のキョトン顔など気にもならないようで、トーナメントに出ると言われた服職人は少し考えて込むように腕を組んだ。
『確かにトーナメントで優勝すれば純度の高いオリハルコンは手に入るが…優勝出来るわけがない』
「さ、さぁ、それはどうかな?僕はユシル君が優勝出来ると思うよ?あっ、でも何事も絶対はないからね。当日お腹壊すかもしれないし、事故に遭うかもしれないし」
シドロモドロで信じてるのか信じてないのかよくわからないフォローをするヘルメスに向けられる全ての視線はきっと相当冷やかなものだっただろう。
『言うのは簡単だが、結果が伴わなければ意味がない。出来ない事を出来ると言うのは只の馬鹿だ。だが、参加は自由だから好きにしろ。本戦に出て来れたら少しは信用してやってもいい。優勝するような事があれば間違いを認め土下座でもなんでもしてやろう』
そう言い残し、服職人は奥へ戻ってしまった。
俺は隣のリーシュへ動揺しながらも話し掛けた。
「あのさ、俺、何も言ってないと思うんだけど、なんかそのトーナメントやらに参加しなきゃいけないのかな?」
リーシュは困り顔をしながら
『何も言ってないし、何もしてないはずなんだけどねぇ?違う服屋さんに行く?』
そこへウチのトラブルメイカーが割って入ってきた。
『参加よ!あのムカつく女に土下座させるのよ!ユシル、参加しなかったらアンタの服は無しよ!在庫なくなったら裸にレーヴァテインつけなさい!』
強引な物言いに俺より先に頭の中に声が響く。
『いくらユーちゃんでも裸はイヤっ!絶対イヤっ!』
レヴァだ。何も関係ないのに1番の被害者だ。
「レヴァが嫌だって泣き叫んでるんだけど…はぁ~、ヘルメスさん、何て事してくれたんですか。いや、マジで」
深い溜め息をつく俺にヘルメスは申し訳無さそうにしながらも
「ごめんね?でも、僕もテナさんの土下座は一度でいいから見てみたいからさ、頑張って!」
俺はもう一度深い溜め息をついた。
「へーい、いらっしゃーい」
気の抜けた店主の声を聞きつつ店内を見回すと様々な服がかけられていた。
『ちょっとユシルには派手過ぎるかな?』
リーシュは服を手に取り呟く。ロキはその服を一瞥して
『このカスの服なんて1番安いのでいいのよ。ていうか、この何か変じゃない?この上下セットのやつとか…スカート短過ぎない?』
「安くて全然いいんだけど、変なデザインだけは勘弁して…ん?…何だと!?」
俺はロキの持つ上下セットの服を引ったくった。
『ちょっ、何なのよっ!』
「…制服だ」
『は?』
俺は小刻みに震える手にブレザー型の女子の制服を握り締めた。
「これは日本の制服だ。何でここにあるんだ?」
俺の反応に何か感じ取ったようでリーシュは興味深そうにブレザーを見ていた。
『ユシルはその制服?に何か思い入れがあるの?』
「思い入れというか、日本の男でこの服が嫌いな人なんていないというか。いや、違うな…。俺は懐かしいんだ。死ぬ前はこの服が本当に身近にあってさ、これを見てると死ぬ前のこと思い出すなぁ」
改めて手に取ったブレザーを俺はまじまじと見つめた。
この世界に転生したことを後悔はしていない。だが、前世でもし殺されずにいたら俺はどんな人生を送っていたんだろうか。そんな事を考えるとほんの少しだけ複雑な気持ちになる。
『あんた…女物の服をそんなジッと見てると変態にしか見えないわよ?』
「ロキ、お前って本当に空気読まないな」
ギャーギャー騒ぐロキはリーシュに取り抑えられ、俺はその間に店主にこのブレザーがどうしてここにあるのか聞く事にした。
(もしかしたら、前世の話ができるかもしれないし)
そんな小さな打算も含めて。
「すいません、この制服ってどこから…ん?」
座って本を読んでいる店主の顔には見覚えがあった。
それも、つい先程。
「ヘルメスさん、ですよね?」
「バレちゃった?まさか君達がこの数余多の店の中からウチの店に来るとは思わなかったよ。ハハハ」
気マズそうに目を泳がせるヘルメスは乾いた笑いを上げる。
「ヘルメスさん、さっきの別れ方だと再会は結構先な感じでしたよ」
『物語ってものをわかってないですね。この人』
いつの間にか近くにいたツグミが俺の耳元で囁くが、それはヘルメスにも聞こえていたようだ。
「なんか僕が悪いみたいに言われてるけど、君達が僕の店に来たんだからね?」
「まぁ、それはそれとして、さっきはありがとうございました。ヘルメスさん、お店やってたんですね。それも服屋を」
「あぁ、僕は服以外にも楽器店や本屋なんかもやっているよ。下界で言えば青年実業家?」
少しだけ得意気に話すヘルメスに俺は今手にしている制服について聞いてみた。
「あぁ、それね。僕は結構下界に遊びに行くのが好きでね。特に今の日本は食べ物は美味しいし、おしゃれで面白い物も多いから店で売る商品の参考にさせてもらうためにちょくちょく通ってるんだよ。その制服も可愛いよね。昔のセーラー服も良いけど、僕はそのブレザー型が可愛くていいと思うんだ」
「ですよね!俺もそう思います!」
久々の日本を知る人との会話に俺とヘルメスは盛り上がった。それを近くで聞いていたリーシュ達も興味を持ったようで、買い物に来たはずなのだが思わず談笑してしまった。そこでリーシュがハッと気付きヘルメスに話し掛けた。
『あっ、そうだ!ヘルメスさん、今日はユシルの服を探しに来たんですけど…もう少し地味な感じの物はありますか?ちょっとユシルには派手な色が多いみたいで』
この店の服はどれも金や銀の派手な色使いで、基本黒めを好む俺に合いそうな服は陳列されている中には無さそうだった。俺がレーヴァテインを装着した時の事もリーシュは考えてくれているようだ。
レーヴァテイン装着時に金や銀の服を着ていたら成金のようにしか見えないと俺も思うし、できるならば避けたい色でもある。
それを聞いたヘルメスは店の奥を指さした。
「そうゆうのは僕よりもウチの服職人に言った方がいいね。ウチはオーダーメイドもやってるから。紹介するよ。テナさーん!ちょっとこっち来てくれるかい」
少しして店の奥から現れた服職人に俺は目を奪われた。
年は下界なら20前半くらいだろうか、背は俺より少し高いようでレヴの銀髪よりもう少し白に近い髪色で、腰の下くらいまで届く長髪を背中の中程で留めている。スラッとしているが出るところはきっちり出ていて、身長とのバランスが完璧だった。眼鏡を掛けていてそこから覗く瞳は少し目つきが鋭いように感じるが紛れもない美人で、下唇の横にある小さなホクロが溢れんばかりの色気を漂わせている。
その美しい服職人は見た目通りの少し冷やかな視線をヘルメスに送りつつ、面倒そうに言い放った。
『何だヘルメス。今日は忙しいから話し掛けるなと言っただろう。さぞ大事な用なんだろうな?くだらない用なら戻るぞ』
一瞬空気がピリッとしたが、ヘルメスが苦笑い気味に答えた。
「そんな怒らないでよ。オーダーメイドのお客さんだよ。店に並んでるのより少し地味目な服が欲しいんだって。こちらの男の子ね」
それを聞いた服職人は俺の顔を見た後、周囲のリーシュ達を見回してから苛立ちを隠そうともせずに俺を睨み付けた。
『女を侍らした成金に作る服はない。私の作る服は全て戦闘する事を前提にミスリルやヒヒイロカネを素材として作っているから色が派手になってしまうのはしょうがない。それとも色を自由に変えられるオリハルコンでも持ってくるか?先に言っておくが、オリハルコン金貨は純度が低いから私は扱わない。ちなみにオリハルコンの採集場はランカーくらいの実力がないと入れないからな?売っている服が気に入らなければ他の店で買え』
服職人から放たれる圧力に少し後退りしながらも、俺は誤解は解いておかないといけないと思った。というか、俺が何か言わないとロキが今にも食って掛かりそうだ。
「誤解です!一緒に行動してるだけで、別に侍らしてるわけでも成金でもない。今着てる服が限界みたいだからただ服を買いに来ただけです。ちょっと事情があってもう少し落ち着いた色の服が欲しくて相談してるだけで」
『言い方を変えただけだろう。侍らしている事に変わりはない。お前みたいな実力もないのに金だけでどうにでもなると思っている奴を私は好まない。ヘルメス、戻るぞ』
そう言い、服職人は店の奥へ戻ろうとこちらに背を向けた。
「ちょっとテナさん!待ってって!誤解だって」
『何が誤解なのかすらわからない。分かりやすくしてから言え』
「わかった!じゃあ、こうしよう?トーナメントに出るから!この子が」
急に話を振られた俺は固まってしまった。
「へ?トーナメント?何が…何?」
俺のキョトン顔など気にもならないようで、トーナメントに出ると言われた服職人は少し考えて込むように腕を組んだ。
『確かにトーナメントで優勝すれば純度の高いオリハルコンは手に入るが…優勝出来るわけがない』
「さ、さぁ、それはどうかな?僕はユシル君が優勝出来ると思うよ?あっ、でも何事も絶対はないからね。当日お腹壊すかもしれないし、事故に遭うかもしれないし」
シドロモドロで信じてるのか信じてないのかよくわからないフォローをするヘルメスに向けられる全ての視線はきっと相当冷やかなものだっただろう。
『言うのは簡単だが、結果が伴わなければ意味がない。出来ない事を出来ると言うのは只の馬鹿だ。だが、参加は自由だから好きにしろ。本戦に出て来れたら少しは信用してやってもいい。優勝するような事があれば間違いを認め土下座でもなんでもしてやろう』
そう言い残し、服職人は奥へ戻ってしまった。
俺は隣のリーシュへ動揺しながらも話し掛けた。
「あのさ、俺、何も言ってないと思うんだけど、なんかそのトーナメントやらに参加しなきゃいけないのかな?」
リーシュは困り顔をしながら
『何も言ってないし、何もしてないはずなんだけどねぇ?違う服屋さんに行く?』
そこへウチのトラブルメイカーが割って入ってきた。
『参加よ!あのムカつく女に土下座させるのよ!ユシル、参加しなかったらアンタの服は無しよ!在庫なくなったら裸にレーヴァテインつけなさい!』
強引な物言いに俺より先に頭の中に声が響く。
『いくらユーちゃんでも裸はイヤっ!絶対イヤっ!』
レヴァだ。何も関係ないのに1番の被害者だ。
「レヴァが嫌だって泣き叫んでるんだけど…はぁ~、ヘルメスさん、何て事してくれたんですか。いや、マジで」
深い溜め息をつく俺にヘルメスは申し訳無さそうにしながらも
「ごめんね?でも、僕もテナさんの土下座は一度でいいから見てみたいからさ、頑張って!」
俺はもう一度深い溜め息をついた。
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