立つ風に誘われて

真川紅美

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3、迎えに来たのは

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 そして、あたりが夕闇に包まれ、宵闇のころ、寒さをようやく覚えて起き上がったレオンは村の明かりの向こう側、ちょうど門があるあたりにちらほらとランタンの明かりが見え隠れしているのを見た。
「……?」
 目を凝らしても見えるわけない。だが、その動き方だけで何をやっているか察せた。
 息を呑んで立ち上がり、教会へと走ったレオンは、血相を変えて駆けこんできた彼にビビった孤児院の子供を押しのけて鐘楼へ駆けあがった。
「ああ? どーしたんだよ、レオン」
 鐘楼の守り番はちょうどいいことに見知った顔で、レオンは鐘楼に備え付けられている望遠鏡を取ると、そのランタンの動きを注意深く見つめた。
「レオン?」
「襲撃だ。急げ! 下の連中に知らせろ!」
 確信を持ったレオンは唖然としている守り番の手から木槌を取り上げて緊急避難の合図の打ち方で金を鳴らし始める。
「おい」
「オオカミ少年になっても構わん。奴らもう包囲して火矢を引いている。来るぞ!」
 けたたましくなる鐘の音に怪訝に思い外に出た村人たちが見たのは、燃える矢じりを付けた矢が降り注ぐ光景であった。
「わあっ!」
 警告音に従って、頭を守りながら教会へ駆けこむ村人の無駄のない動きにレオンは木槌を返して、何事かと起きてきた司祭に話を付けた。
「俺か、クロエか、狙ってきたと思う。昼頃にクロエを狙った男たちが来た」
「じゃあ、先にそっちに!」
「……今から行く。村人が大挙してくる。さばいてください」
 そう言って、村人が来る前に教会を出てクロエの家に駆けこんだレオンが見たのは、クロエが赤い日傘の柄に手をかけて抜こうとしている場面だった。その目が据わっていることと、きちんとした構えであることに気付いて、まず、事態を静観しようといつでも乱戦に加われるように腰を落とした。
「お嬢ちゃん、そんなかわいらしい物でナニしてくれるのかなあ?」
「近づかないでください」
「ああ?」
 首を傾げてゆらゆらと近づいてくる暴漢どもにクロエの呼吸がすっと整った。一瞬でとびかかってきた男たちに、日傘の柄を抜いて、中に仕込まれていたレイピアを抜いたクロエは、的確に男たちの急所をついて無力化する。あの人の娘ならば、それぐらい仕込まれていてもおかしくないなと笑ってしまって、レオンは混乱した頃合いを見計らって腰にあるナイフを抜いた。
「くそっ、聞いてねえぞ。この女ぁ!」
「数じゃこっちが勝ってんだ」
「……」
 はあ、と自分に気付いていない暴漢たちにため息をついて見せて、目の前でわちゃわちゃと動く男の襟を取って気配が多い場所へ投げ飛ばす。
「な、なんだ」
「……」
 バカどもには無言が一番と、足音を忍ばせて、夜目で確認できた男たちを一人ずつ伸していく。さっきまで火の矢を射っていた男たちなのだろう。動き回るレオンをとらえることができずに、とうとう一人残らず散らされてしまった。
「レオンさん……」
「……到着が遅れてすまなかった。状況はつかめているか?」
 一度家に入って、状況を説明して、軍服を出してもらったレオンは無言で装備を身に付けていく。緊迫した雰囲気にクロエは何も言わなかったが、表情を変えずに銃の弾の数と、錆を確認し始めたレオンにクロエは表情を変えた。
「レオンさん? なにを?」
「村を見てくる」
「そんな。ダメですっ」
 村に盗賊がなだれ込んでいるというレオンの言葉を聞いていたクロエが止めるのは予想がついていた。レオンは銃弾の確認を済まして腕に取りすがろうとするクロエをよけてホルスターにしまって、荷物から一つの巻物を取り出した。
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