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彼は変態でした
同情するなら説明して!
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来てしまった……ついにこの時が来てしまった。
待ちに待ってない影本君と約束の土曜日が!
明日が来なければ良いと思ったのに、来ちゃった……辛い。
あの日から今日まで生きた心地がしなかった。
あれは全部夢だって思いたかったけど、約束の証のアレがあるし、スマホには謎の『たっちゃん』の連絡先がある。
学校で影本君が話しかけてくることはなかったけど、視線は感じるし、妙に意識して会話が気になって大変だった。夜も眠れなかったし……
全部影本君のせい。影本君が悪い。
クラスメートで文芸部員の由真ちゃんがゴキブリ扱いするのもちょっとわかるくらい影本君を恨んだ。
その由真ちゃんに不審がられたけど、相談できなくて、家でひっそり泣いた。
待ち合わせの駅前でその影本君を探してみるけど、目立つ金髪が見付からない。
そう言えば、着いたら連絡してって言われてたんだっけ……仕方なく『着きました』の一言だけ送ってみる。
本音を言えば今すぐ帰りたいけど、逃げたら何されるかわからないし……来るしかなかった。
すぐに『そこで待ってて』って返事が来て、待ってみる。
あれ……? こっちに向かってくる人がいるけど、影本君じゃないよね?
でも、その人は私の前に立って、微笑んだ。
こんな人知らない。
背は影本君と同じくらいかもしれない。高い。当然のように私を見下ろしてる。
黒髪で大きめの黒縁の眼鏡をかけてて、オタク部連合の集会が行われると男子部員の着用率ほぼ百パーセントを誇る究極の装備――チェックシャツを着てる。
でも、凄く格好良く着こなしてる。顔立ちも綺麗だし、スタイルも良いと思う。
こんな人に私がナンパされるわけがないし、どなた……?
道ならわかりませんよ……?
「あはは、りりちゃん、ぽかんとしてる。おもしれぇ……俺に見とれてる?」
この声、この頭悪そうな喋り方、影本君だ……!
あの金髪を目印にしてたから、全然わからない。わかるはずがない。
チェックシャツ着てて格好いいとか、やっぱりこの人は神に選ばれしイケメンなのかもしれない。影本君だけど。ヤリチンチャラ男の影本君だけど。
「だ、だって、そんな格好されたらわからないよ……」
影本君が待ち合わせに変装してくるとか思わないし。
そもそも、何で、そんな格好してるんだろう……?
「まあ、ここで立ち話しててもしょうがないし、うちに行こっか?」
行かないって選択肢はないくせに、影本君は残酷だと思う。
そっと手が繋がれて、振り払うこともできずに歩き出す。
普段の影本君より全然目立ってないけど、やっぱり注目されてる。イケメンのオーラはチェックシャツじゃ殺せないらしい。
そんな影本君と恋人繋ぎしてる美人でもないチビな私。女性達の死ね死ね光線が突き刺さって怖い。痛いくらいに感じる。
やっぱり影本君と一緒に歩いてるとかありえない。
影本君は多分私の歩くスピードに合わせてくれてたんだと思うけど、何を話してたか全然わからない。
頭の中ではずっとドナドナが流れてた。
「あはは、りりちゃん口開いてる。突っ込みたい」
隣で影本君笑ってるし、変なこと聞こえた気がするけど、それよりも目の前の光景に唖然としてる。
本日二度目のぽかん。
屠殺場は大きなお家だった。影本君の家ってお金持ち……?
「りりちゃん、中入るよ。家じゃなくて、俺に興味持って」
半ば引きずられるように立派な門を通って、家の中に入るけど、もう理解が追い付かない。
玄関から立派すぎる。私、ここに何をしに来たんだっけ……?
靴を脱いで、なぜかピンクのウサギのスリッパを履かされて、影本君に手を引かれながらぺたぺた後をついて行く。
その影本君は家の中に入るなり、眼鏡を外して黒い髪の毛も取ってしまった。ウィッグだったんだ……やっぱり影本君は影本君だった。
ふと、影本君が足を止めて、危うくぶつかるところだった。
「まだいたのかよ」
影本君が威嚇するみたいに低い声を出した。
目の前にはさっきの影本君にちょっと似た感じの男の子がいた。
黒髪で眼鏡かけてるし、チェックシャツをお洒落に着こなしてるイケメンっぽい子。
背は影本君より少し低いかもしれないけど、歳はそんなに違うようには見えない。
「さっさと出てけよ、クソオタク」
男の子は何も言わないけど、別に影本君を怖がってる風でもなく、嫌がってるわけでもなさそう……?
ただ、じっと影本君を見てた。
「何だよ?」
影本君は不機嫌全開で、怖くて帰りたくなった時、その子が口を開いた。
「家でまで頭悪いフリする兄貴哀れ」
「え……?」
どういうこと……?
兄貴ってことは影本君の弟君? 弟さんはオタク?
影本君の頭が悪そうって言うか、軽そうなのはフリ? 確かに成績は良いんだけど……
どうなってるの?
わけがわからなくって、影本君よりは哀れみの視線を向ける弟君に聞いた方がわかる気がして、そっちを見ようとするけど影本君は私を背中に隠すようにする。
それからがしがしと頭を掻いた。
「仕方ないじゃん! りりちゃんの、嫌そーな、悲しそーな、顔が見てみたかったんだから!」
益々わからなくなった。
私の怯えた顔が好みだとは言ってたし、普通に考えればいつものいじめっ子の影本君だけど、それは嘘なの?
それが本当の影本君? 影本君の秘密?
「彼女氏が哀れ。兄貴の性癖も哀れ」
「そんなに俺を哀れむな! お前の性癖も哀れだよ!」
影本君は子供っぽく怒るけど、私も思いっきり哀れまれてるよね……?
「哀れな兄貴に好かれた彼女氏超哀れ。お気の毒に」
ああ……物凄く哀れまれた。手を合わされた。
兄弟の性癖を巡る不毛な口論を聞かされるよりはいいけど……
お願いだから哀れみより説明がほしい。同情するなら説明して!
「りりちゃんは俺が世界一幸せにするし」
好きな人に言われたら嬉しい言葉だろうけど、多分、今の私の目、死んでる。
この数日、散々由真ちゃんとか部活仲間に言われたけど、私は死んだ魚になりたい。
「彼女じゃない……」
「照れなくていーよ」
照れてないし!
彼女だと思われたくないのに、訂正したかったのに、そして助けてほしかったのに!
「お前はさっさとアキバでもどこでも行ってこい」
「言われなくても行くよ。女神が沈黙した哀しみはアキバでしか癒やせないし」
あ、あ……常識ありそうな弟君が聖地に行っちゃう……
正直、一緒について行きたいくらいここから逃げたい。
お願い、私もアキバに連れてって。影本君の後ろから顔を出して会ったばかりの弟君に目でSOSを送る。
目が合ったと思ったら、さっと目を逸らされてしまった。
「何もできなくてすいません」
擦れ違いざま、弟君が言った。謝るなら助けてほしい。
「バカでどうしようもない兄貴ですけど、よろしくお願いします」
頭を下げられた。よろしくお願いされても困る。
しかも、この子さらっとバカって言った……!
でも、影本君は何かを言うわけでもなく、弟君は足取り軽く(私にはそう見えた)聖地へと向かってしまった……
「いつまで見てるの、りりちゃん行くよ」
内心泣きながら弟君を見送ってたら影本君に強く腕を引かれた。
しくしく……死へのカウントダウンが始まってしまった……
「ほら、入って入って」
ぐいぐい腕を引かれて押し込まれた。
影本君は部屋もチャラいんだろうなって思ってた。
アロマ的な物があったりして、絶対に落ち着かないんだろうな、って。
確かにいい匂いはするけど、目の前に広がるのは想像を絶した。裏切られた。
何、この逆に落ち着かない空間。部屋、間違えた……?
「弟さんの部屋……?」
だって、これ、どこからどう見てもオタクの部屋……
大量にある漫画だけなら、不良さんも読むし、で納得したけど。でも、大衆向けじゃない類のアニメのDVDにフィギュアまであって、ポスターも貼ってあるし、トルソーに可愛い女の子の服がかかってる。
前に行ったアニ研の先輩(女だけど)の部屋に近い物を感じる。あの人の部屋も凄かった……もっと、腐海も見たことあるけれど。
「俺の部屋だよ」
影本君はにっこり笑顔で認めるけど、私の頭がその答えを拒否してる。
ど、どういうこと?
誰か説明をプリーズ……!
待ちに待ってない影本君と約束の土曜日が!
明日が来なければ良いと思ったのに、来ちゃった……辛い。
あの日から今日まで生きた心地がしなかった。
あれは全部夢だって思いたかったけど、約束の証のアレがあるし、スマホには謎の『たっちゃん』の連絡先がある。
学校で影本君が話しかけてくることはなかったけど、視線は感じるし、妙に意識して会話が気になって大変だった。夜も眠れなかったし……
全部影本君のせい。影本君が悪い。
クラスメートで文芸部員の由真ちゃんがゴキブリ扱いするのもちょっとわかるくらい影本君を恨んだ。
その由真ちゃんに不審がられたけど、相談できなくて、家でひっそり泣いた。
待ち合わせの駅前でその影本君を探してみるけど、目立つ金髪が見付からない。
そう言えば、着いたら連絡してって言われてたんだっけ……仕方なく『着きました』の一言だけ送ってみる。
本音を言えば今すぐ帰りたいけど、逃げたら何されるかわからないし……来るしかなかった。
すぐに『そこで待ってて』って返事が来て、待ってみる。
あれ……? こっちに向かってくる人がいるけど、影本君じゃないよね?
でも、その人は私の前に立って、微笑んだ。
こんな人知らない。
背は影本君と同じくらいかもしれない。高い。当然のように私を見下ろしてる。
黒髪で大きめの黒縁の眼鏡をかけてて、オタク部連合の集会が行われると男子部員の着用率ほぼ百パーセントを誇る究極の装備――チェックシャツを着てる。
でも、凄く格好良く着こなしてる。顔立ちも綺麗だし、スタイルも良いと思う。
こんな人に私がナンパされるわけがないし、どなた……?
道ならわかりませんよ……?
「あはは、りりちゃん、ぽかんとしてる。おもしれぇ……俺に見とれてる?」
この声、この頭悪そうな喋り方、影本君だ……!
あの金髪を目印にしてたから、全然わからない。わかるはずがない。
チェックシャツ着てて格好いいとか、やっぱりこの人は神に選ばれしイケメンなのかもしれない。影本君だけど。ヤリチンチャラ男の影本君だけど。
「だ、だって、そんな格好されたらわからないよ……」
影本君が待ち合わせに変装してくるとか思わないし。
そもそも、何で、そんな格好してるんだろう……?
「まあ、ここで立ち話しててもしょうがないし、うちに行こっか?」
行かないって選択肢はないくせに、影本君は残酷だと思う。
そっと手が繋がれて、振り払うこともできずに歩き出す。
普段の影本君より全然目立ってないけど、やっぱり注目されてる。イケメンのオーラはチェックシャツじゃ殺せないらしい。
そんな影本君と恋人繋ぎしてる美人でもないチビな私。女性達の死ね死ね光線が突き刺さって怖い。痛いくらいに感じる。
やっぱり影本君と一緒に歩いてるとかありえない。
影本君は多分私の歩くスピードに合わせてくれてたんだと思うけど、何を話してたか全然わからない。
頭の中ではずっとドナドナが流れてた。
「あはは、りりちゃん口開いてる。突っ込みたい」
隣で影本君笑ってるし、変なこと聞こえた気がするけど、それよりも目の前の光景に唖然としてる。
本日二度目のぽかん。
屠殺場は大きなお家だった。影本君の家ってお金持ち……?
「りりちゃん、中入るよ。家じゃなくて、俺に興味持って」
半ば引きずられるように立派な門を通って、家の中に入るけど、もう理解が追い付かない。
玄関から立派すぎる。私、ここに何をしに来たんだっけ……?
靴を脱いで、なぜかピンクのウサギのスリッパを履かされて、影本君に手を引かれながらぺたぺた後をついて行く。
その影本君は家の中に入るなり、眼鏡を外して黒い髪の毛も取ってしまった。ウィッグだったんだ……やっぱり影本君は影本君だった。
ふと、影本君が足を止めて、危うくぶつかるところだった。
「まだいたのかよ」
影本君が威嚇するみたいに低い声を出した。
目の前にはさっきの影本君にちょっと似た感じの男の子がいた。
黒髪で眼鏡かけてるし、チェックシャツをお洒落に着こなしてるイケメンっぽい子。
背は影本君より少し低いかもしれないけど、歳はそんなに違うようには見えない。
「さっさと出てけよ、クソオタク」
男の子は何も言わないけど、別に影本君を怖がってる風でもなく、嫌がってるわけでもなさそう……?
ただ、じっと影本君を見てた。
「何だよ?」
影本君は不機嫌全開で、怖くて帰りたくなった時、その子が口を開いた。
「家でまで頭悪いフリする兄貴哀れ」
「え……?」
どういうこと……?
兄貴ってことは影本君の弟君? 弟さんはオタク?
影本君の頭が悪そうって言うか、軽そうなのはフリ? 確かに成績は良いんだけど……
どうなってるの?
わけがわからなくって、影本君よりは哀れみの視線を向ける弟君に聞いた方がわかる気がして、そっちを見ようとするけど影本君は私を背中に隠すようにする。
それからがしがしと頭を掻いた。
「仕方ないじゃん! りりちゃんの、嫌そーな、悲しそーな、顔が見てみたかったんだから!」
益々わからなくなった。
私の怯えた顔が好みだとは言ってたし、普通に考えればいつものいじめっ子の影本君だけど、それは嘘なの?
それが本当の影本君? 影本君の秘密?
「彼女氏が哀れ。兄貴の性癖も哀れ」
「そんなに俺を哀れむな! お前の性癖も哀れだよ!」
影本君は子供っぽく怒るけど、私も思いっきり哀れまれてるよね……?
「哀れな兄貴に好かれた彼女氏超哀れ。お気の毒に」
ああ……物凄く哀れまれた。手を合わされた。
兄弟の性癖を巡る不毛な口論を聞かされるよりはいいけど……
お願いだから哀れみより説明がほしい。同情するなら説明して!
「りりちゃんは俺が世界一幸せにするし」
好きな人に言われたら嬉しい言葉だろうけど、多分、今の私の目、死んでる。
この数日、散々由真ちゃんとか部活仲間に言われたけど、私は死んだ魚になりたい。
「彼女じゃない……」
「照れなくていーよ」
照れてないし!
彼女だと思われたくないのに、訂正したかったのに、そして助けてほしかったのに!
「お前はさっさとアキバでもどこでも行ってこい」
「言われなくても行くよ。女神が沈黙した哀しみはアキバでしか癒やせないし」
あ、あ……常識ありそうな弟君が聖地に行っちゃう……
正直、一緒について行きたいくらいここから逃げたい。
お願い、私もアキバに連れてって。影本君の後ろから顔を出して会ったばかりの弟君に目でSOSを送る。
目が合ったと思ったら、さっと目を逸らされてしまった。
「何もできなくてすいません」
擦れ違いざま、弟君が言った。謝るなら助けてほしい。
「バカでどうしようもない兄貴ですけど、よろしくお願いします」
頭を下げられた。よろしくお願いされても困る。
しかも、この子さらっとバカって言った……!
でも、影本君は何かを言うわけでもなく、弟君は足取り軽く(私にはそう見えた)聖地へと向かってしまった……
「いつまで見てるの、りりちゃん行くよ」
内心泣きながら弟君を見送ってたら影本君に強く腕を引かれた。
しくしく……死へのカウントダウンが始まってしまった……
「ほら、入って入って」
ぐいぐい腕を引かれて押し込まれた。
影本君は部屋もチャラいんだろうなって思ってた。
アロマ的な物があったりして、絶対に落ち着かないんだろうな、って。
確かにいい匂いはするけど、目の前に広がるのは想像を絶した。裏切られた。
何、この逆に落ち着かない空間。部屋、間違えた……?
「弟さんの部屋……?」
だって、これ、どこからどう見てもオタクの部屋……
大量にある漫画だけなら、不良さんも読むし、で納得したけど。でも、大衆向けじゃない類のアニメのDVDにフィギュアまであって、ポスターも貼ってあるし、トルソーに可愛い女の子の服がかかってる。
前に行ったアニ研の先輩(女だけど)の部屋に近い物を感じる。あの人の部屋も凄かった……もっと、腐海も見たことあるけれど。
「俺の部屋だよ」
影本君はにっこり笑顔で認めるけど、私の頭がその答えを拒否してる。
ど、どういうこと?
誰か説明をプリーズ……!
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