56 / 115
変態と仲直り?
「変態は黙ってください」
しおりを挟む
カラオケ店に着いて部屋に入って、当然のように私の隣に座ろうとした竜也君は天馬君と由真ちゃんにガードされた。
しかも、今日の主役だからってアニ研と文芸部が分かれて固まる真ん中の魔の境界に引きずり込まれそうになったけど、それは部長が回避させてくれた。さすがにそれはちょっと可哀想だと思う。
そして、端っこに座って、ちょっといじけた竜也君がウィッグを取るだけでざわつく。
やっぱり金髪が出てくるわけで……
「マジであの影本だった……!」
由真ちゃんが頭を抱えた。ごめん、由真ちゃん、頭痛の種持ち込んで、ごめん……
ふみちゃんは「あっ、見たことあるかも!」なんて言ってるけど、由真ちゃんは魂抜けそう。
「凛鈴、何で影本なんかと……変なことされてない? 脅されてない?」
肩を掴まれてゆさゆさ揺すられて私も魂出て行きそう。
変なことは何回もされたし、させられたし、脅されたなんて言えない。
どうしよう、筋書き考えてなかった!
「わかってたけど、浅見、俺にきつすぎない?」
竜也君は言うけど、由真ちゃんは竜也君を睨んでる。
毛を逆立てた猫みたいって思ったけど、絶対に口には出さない。
「ねぇねぇ、私にわかるように紹介してくれるかな?」
「みんなにわかるように説明してくれると助かるよ」
自分のことしか考えていない主催者のアニ研の前々部長様と、みんなのことを考えてくれるうちの佐々木部長。二人が言うのはごもっとも。
由真ちゃんも知ってるその人がどういう人物なのかを説明しなきゃいけなくなることを考えてなかった……色々問題がある。
「ヤリチンチャラ男として悪名高い、うちのクラスの害虫の親玉的な方です」
由真ちゃん……!
言いにくいことをサラッとハッキリ言った!
「うぇーい」
竜也君も乗っかった……!
カオスが辛い。カオスすぎて辛い。もう帰りたい。帰っていいかな?
「影本君だっけ? お兄ちゃんの方。とりあえず、歌えや。歌えばわかる」
有無を言わせない主催様がおっしゃった。
いきなり竜也君に試練が訪れた。トップバッターに任命されるとか試練すぎる。なぜか私が冷や汗ダラダラ。
傍若無人な自分に酔っている節がある常時酔っぱらいテンションの主催者様らしい無茶ぶりだけど、竜也君の実力を知らない。
この精神的負荷、大丈夫なの? いきなり大爆発とかないよね……?
「りりたん、耳を塞いでください」
「えっ?」
竜也君が曲を入れてる間、天馬君が言ってきた。
竜也君、まさか音痴なの? 音響兵器なの? ジャ○アンなの?
「愛しのりりちゃんのために歌います!」
「ささ、早く」
竜也君が恥ずかしいことを宣言して、イントロが流れ始めて、天馬君が急かしてくるけど、急なことに対応できる私でもなくて、ついに竜也君が歌い出す。
あれ? これ、最近、私がハマってるアニメのオープニングの曲だ……って言うか、上手くない? 普通どころか、滅茶苦茶上手くない? 鳥肌が立つくらい上手くない?
いい声なのはわかってたけど、歌まで上手いとか、竜也君は神様からどれだけ授かったんだろう?
みんな、ざわついてる。由真ちゃんでさえ口が開いてる。
「先輩、早く耳を塞いでください!」
加納君まで何を言ってるんだろう?
部長までジェスチャーで耳を塞げって言ってる?
だって、別に殺人的歌声じゃないよね?
いや、別の意味で破壊力があるかも。竜也君、絶対、わかってやってるよね?
一曲歌いきった竜也君は滅茶苦茶ドヤッてた。
でも、ドヤるのもわかる。完全アウェーで完璧に歌いきる竜也君、やばい。
また私の語彙が行方不明になるやばさ。やばい。
普通に格好いいと思っちゃったから困る。まだドキドキしてる。でも、それでチャラにしない理性は残ってる。
「先輩、顔赤いんですけど」
「えっ」
加納君に言われて、思わず頬に手を当てる。熱い。
多分、きっと加納君が言う通り赤くなってるのかもしれない。
けど、最近何だか加納君が冷たい気がする。確かにフられた相手に優しくしても仕方ないかもしれないけど、キャラが変わってきてる気がするけど、由真ちゃんも何も言わないし、後ろめたさからの幻なのかも。それに、気まずくなるよりはいいと思う。
「熱いですなぁ」
ヒューヒューと主催様に囃し立てられて余計顔が熱くなる。
こんなの公開処刑なのに、何も言えない。
「惚れ直した?」
ちらりと見た竜也君にドヤ顔で聞かれて、それでも頷きそうになる自分が怖い。
これで挽回できるって確信してる?
「ねぇねぇ、二人のなれそめは? 何で喧嘩中なの? って言うか、喧嘩中って嘘でしょ? ラブラブでしょ? もうヤッ、ごふぅっ!」
ニマニマといやーな笑みを浮かべる主催様だけど、その言葉は遮られた。
おそらく不愉快なことを言おうとしたんだろうけど、ボディーにエルボーを食らって。
「変態は黙ってください」
そう言い放つのは部長。我らが佐々木部長殿。
主催様にエルボーを食らわせたのもこの人。しかも、全く表情を変えないまま。ミスターポーカーフェイスは伊達じゃない。
みんなが避けたがる主催様の隣に座っても平然としていられるどころかエルボー食らわせるあたり、やっぱりただ者じゃない。
その台詞、是非とも竜也君にも言ってほしかった。ついでにエルボーを食らわせてほしかった。
「うわぁ、辛辣ぅ」
不死身の主催様はケラケラ笑ってる。それこそこの人はゴキブリ並の生命力だと私は思ってるし、それが失礼だと感じないから困る。
「文芸部の現部長として部員とその関係者を悪いものから守る義務があると考えますので」
「凄いなぁ、君は。私の後継者達は絶対に言わないよ、そんなこと」
うちの部長は何考えてるかわからないけど、やる時はやってくれる。だから、由真ちゃんも認めてるところがあると思う。
そして、アニ研の現部長も含めてそんなことを言わないのは、やっぱり自分第一だからだと思う。
交流していても、こういう時、違いを思い知る。二つの組織でできてる以上一枚岩じゃないのは当たり前なんだと思う。
OG・OBが参加するのもアニ研特有の現象だと言っても過言じゃないと思う。文芸部は案外そういうことがない。多分、佐々木部長も来年は来なくなる。そう思うと何だか寂しいし、その後の集まりのことを考えると不安だけど。
「まあ、いい。皆の者、歌おうではないか! はっはっは!」
そうやって主催様は笑ってごまかした。
そうして、リモコンを押し付けた相手は隣に座らせた萌花ちゃんだった。
「遅刻した罰だ。萌花ちゃん、君、歌いなさい」
「遅刻してません!」
「じゃあ、部長命令。歌え」
パワハラっぽいけど、誰も止めない。
私にとっても知らない人だったんだから、萌花ちゃんからしたらもっと知らない人だと思う。でも、今日の会では絶対的な権力者って言うか連合の中でも幹部的な扱いをされる人だから仕方ない。
萌花ちゃんも不満げにしながらもさっさと曲入れてるし、凄い子だと思う。
それにしても、今日はアニ研の変態カップルがいなくて良かった。
萌花ちゃんはパワハラ受けながらも、堂々たる歌いっぷりだった。アニメ声、ぶれない。
ううん、何かいつもより気合いが入ってた気がする。なんか、ざわざわする。
竜也君を見たのは気のせいだと思いたい。
その後はみんな順番に歌って、時間が過ぎるのはあっと言う間だった。
竜也君もキレずに無事に終わって良かった。
思ったほど質問責めにされなかったのは、うちの部長が最高権力者にエルボーを食らわせたことが効いていたのかもしれない。
竜也君も天馬君も元々のメンバーのみたいに馴染んで、楽しそうだった。特に天馬君はふみちゃんと席を変わってくれて、アニ研側の陣地に単身乗り込んでくくらいの馴染みようだった。
だから、由真ちゃんとふみちゃんには竜也君がネット親友のリュウ君の正体だったって説明した。由真ちゃんはまだ納得できてないところがあったみたいだけど、竜也君が一方的に私にベタ惚れだっていうのを察したらしい。
それに竜也君のオタク度というか乙女ゲーム愛はその後歌った曲で十分に伝わったと思う。キャラソンとかヴィジュアル系だって完璧に歌いこなしていた。
全部全部私が好きな歌で、それが全然不快な感じじゃなくて、聞く度にドキドキした。
天馬君も歌が上手くて、兄弟デュオやばかった。
ドキドキしすぎて震える声は由真ちゃんがカバーしてくれた。
しかも、今日の主役だからってアニ研と文芸部が分かれて固まる真ん中の魔の境界に引きずり込まれそうになったけど、それは部長が回避させてくれた。さすがにそれはちょっと可哀想だと思う。
そして、端っこに座って、ちょっといじけた竜也君がウィッグを取るだけでざわつく。
やっぱり金髪が出てくるわけで……
「マジであの影本だった……!」
由真ちゃんが頭を抱えた。ごめん、由真ちゃん、頭痛の種持ち込んで、ごめん……
ふみちゃんは「あっ、見たことあるかも!」なんて言ってるけど、由真ちゃんは魂抜けそう。
「凛鈴、何で影本なんかと……変なことされてない? 脅されてない?」
肩を掴まれてゆさゆさ揺すられて私も魂出て行きそう。
変なことは何回もされたし、させられたし、脅されたなんて言えない。
どうしよう、筋書き考えてなかった!
「わかってたけど、浅見、俺にきつすぎない?」
竜也君は言うけど、由真ちゃんは竜也君を睨んでる。
毛を逆立てた猫みたいって思ったけど、絶対に口には出さない。
「ねぇねぇ、私にわかるように紹介してくれるかな?」
「みんなにわかるように説明してくれると助かるよ」
自分のことしか考えていない主催者のアニ研の前々部長様と、みんなのことを考えてくれるうちの佐々木部長。二人が言うのはごもっとも。
由真ちゃんも知ってるその人がどういう人物なのかを説明しなきゃいけなくなることを考えてなかった……色々問題がある。
「ヤリチンチャラ男として悪名高い、うちのクラスの害虫の親玉的な方です」
由真ちゃん……!
言いにくいことをサラッとハッキリ言った!
「うぇーい」
竜也君も乗っかった……!
カオスが辛い。カオスすぎて辛い。もう帰りたい。帰っていいかな?
「影本君だっけ? お兄ちゃんの方。とりあえず、歌えや。歌えばわかる」
有無を言わせない主催様がおっしゃった。
いきなり竜也君に試練が訪れた。トップバッターに任命されるとか試練すぎる。なぜか私が冷や汗ダラダラ。
傍若無人な自分に酔っている節がある常時酔っぱらいテンションの主催者様らしい無茶ぶりだけど、竜也君の実力を知らない。
この精神的負荷、大丈夫なの? いきなり大爆発とかないよね……?
「りりたん、耳を塞いでください」
「えっ?」
竜也君が曲を入れてる間、天馬君が言ってきた。
竜也君、まさか音痴なの? 音響兵器なの? ジャ○アンなの?
「愛しのりりちゃんのために歌います!」
「ささ、早く」
竜也君が恥ずかしいことを宣言して、イントロが流れ始めて、天馬君が急かしてくるけど、急なことに対応できる私でもなくて、ついに竜也君が歌い出す。
あれ? これ、最近、私がハマってるアニメのオープニングの曲だ……って言うか、上手くない? 普通どころか、滅茶苦茶上手くない? 鳥肌が立つくらい上手くない?
いい声なのはわかってたけど、歌まで上手いとか、竜也君は神様からどれだけ授かったんだろう?
みんな、ざわついてる。由真ちゃんでさえ口が開いてる。
「先輩、早く耳を塞いでください!」
加納君まで何を言ってるんだろう?
部長までジェスチャーで耳を塞げって言ってる?
だって、別に殺人的歌声じゃないよね?
いや、別の意味で破壊力があるかも。竜也君、絶対、わかってやってるよね?
一曲歌いきった竜也君は滅茶苦茶ドヤッてた。
でも、ドヤるのもわかる。完全アウェーで完璧に歌いきる竜也君、やばい。
また私の語彙が行方不明になるやばさ。やばい。
普通に格好いいと思っちゃったから困る。まだドキドキしてる。でも、それでチャラにしない理性は残ってる。
「先輩、顔赤いんですけど」
「えっ」
加納君に言われて、思わず頬に手を当てる。熱い。
多分、きっと加納君が言う通り赤くなってるのかもしれない。
けど、最近何だか加納君が冷たい気がする。確かにフられた相手に優しくしても仕方ないかもしれないけど、キャラが変わってきてる気がするけど、由真ちゃんも何も言わないし、後ろめたさからの幻なのかも。それに、気まずくなるよりはいいと思う。
「熱いですなぁ」
ヒューヒューと主催様に囃し立てられて余計顔が熱くなる。
こんなの公開処刑なのに、何も言えない。
「惚れ直した?」
ちらりと見た竜也君にドヤ顔で聞かれて、それでも頷きそうになる自分が怖い。
これで挽回できるって確信してる?
「ねぇねぇ、二人のなれそめは? 何で喧嘩中なの? って言うか、喧嘩中って嘘でしょ? ラブラブでしょ? もうヤッ、ごふぅっ!」
ニマニマといやーな笑みを浮かべる主催様だけど、その言葉は遮られた。
おそらく不愉快なことを言おうとしたんだろうけど、ボディーにエルボーを食らって。
「変態は黙ってください」
そう言い放つのは部長。我らが佐々木部長殿。
主催様にエルボーを食らわせたのもこの人。しかも、全く表情を変えないまま。ミスターポーカーフェイスは伊達じゃない。
みんなが避けたがる主催様の隣に座っても平然としていられるどころかエルボー食らわせるあたり、やっぱりただ者じゃない。
その台詞、是非とも竜也君にも言ってほしかった。ついでにエルボーを食らわせてほしかった。
「うわぁ、辛辣ぅ」
不死身の主催様はケラケラ笑ってる。それこそこの人はゴキブリ並の生命力だと私は思ってるし、それが失礼だと感じないから困る。
「文芸部の現部長として部員とその関係者を悪いものから守る義務があると考えますので」
「凄いなぁ、君は。私の後継者達は絶対に言わないよ、そんなこと」
うちの部長は何考えてるかわからないけど、やる時はやってくれる。だから、由真ちゃんも認めてるところがあると思う。
そして、アニ研の現部長も含めてそんなことを言わないのは、やっぱり自分第一だからだと思う。
交流していても、こういう時、違いを思い知る。二つの組織でできてる以上一枚岩じゃないのは当たり前なんだと思う。
OG・OBが参加するのもアニ研特有の現象だと言っても過言じゃないと思う。文芸部は案外そういうことがない。多分、佐々木部長も来年は来なくなる。そう思うと何だか寂しいし、その後の集まりのことを考えると不安だけど。
「まあ、いい。皆の者、歌おうではないか! はっはっは!」
そうやって主催様は笑ってごまかした。
そうして、リモコンを押し付けた相手は隣に座らせた萌花ちゃんだった。
「遅刻した罰だ。萌花ちゃん、君、歌いなさい」
「遅刻してません!」
「じゃあ、部長命令。歌え」
パワハラっぽいけど、誰も止めない。
私にとっても知らない人だったんだから、萌花ちゃんからしたらもっと知らない人だと思う。でも、今日の会では絶対的な権力者って言うか連合の中でも幹部的な扱いをされる人だから仕方ない。
萌花ちゃんも不満げにしながらもさっさと曲入れてるし、凄い子だと思う。
それにしても、今日はアニ研の変態カップルがいなくて良かった。
萌花ちゃんはパワハラ受けながらも、堂々たる歌いっぷりだった。アニメ声、ぶれない。
ううん、何かいつもより気合いが入ってた気がする。なんか、ざわざわする。
竜也君を見たのは気のせいだと思いたい。
その後はみんな順番に歌って、時間が過ぎるのはあっと言う間だった。
竜也君もキレずに無事に終わって良かった。
思ったほど質問責めにされなかったのは、うちの部長が最高権力者にエルボーを食らわせたことが効いていたのかもしれない。
竜也君も天馬君も元々のメンバーのみたいに馴染んで、楽しそうだった。特に天馬君はふみちゃんと席を変わってくれて、アニ研側の陣地に単身乗り込んでくくらいの馴染みようだった。
だから、由真ちゃんとふみちゃんには竜也君がネット親友のリュウ君の正体だったって説明した。由真ちゃんはまだ納得できてないところがあったみたいだけど、竜也君が一方的に私にベタ惚れだっていうのを察したらしい。
それに竜也君のオタク度というか乙女ゲーム愛はその後歌った曲で十分に伝わったと思う。キャラソンとかヴィジュアル系だって完璧に歌いこなしていた。
全部全部私が好きな歌で、それが全然不快な感じじゃなくて、聞く度にドキドキした。
天馬君も歌が上手くて、兄弟デュオやばかった。
ドキドキしすぎて震える声は由真ちゃんがカバーしてくれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,087
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる