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本編
失態と胸騒ぎ-3
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「団長……!」
「ロッテ……」
振り返って、まるで幽霊でも見たようなギクリとした顔をする彼は確かにテレンスだった。
しかし、どこか様子がおかしいのは気のせいだろうか。やはり慣れない夜会で疲れてしまったのだろうか。
「おかえりなさい、団長」
眠る前に彼の顔を見ることができてシャルロッテは安堵していた。大げさかもしれないが、彼が帰ってきたことが重要だった。これでやっと眠れる。
「ああ、ただいま……」
返事はどこか歯切れが悪い。ちらりと向けられた目がすぐ逸らされてしまう。まるで会いたくなかったとでも言われているかのような反応にシャルロッテはどうすれば良いのかわからなくなる。
「またそんな格好で……」
「あっ……! す、すみません……」
ぽつりと呟かれた言葉でシャルロッテははたと自分の格好を思い出す。
普段からシャルロッテが夜間にネグリジェと肩掛けだけの格好で自室の外に出ることをテレンスはよく思っていないらしかった。肌を必要以上に露出しているわけでもなく、布を押し上げるほどの胸の膨らみがあるわけではないのだが。
家族同然とは言ってもテレンスとシャルロッテでは明確な立場の違いがある。彼は団長なのだから当然のことではあるが、倍も歳が離れているせいか、口うるさい兄というよりも厳格な父親のようなのである。
それについてクレアは何か言いたげであったが、口を閉ざすことにしたようだった。
「いや……もう寝るんだ」
「……はい」
テレンスは目を合わせないまま、まるで早く切り上げようとしているかのようである。
いつまでも子供なのだろうか。嫌われているわけではないと思いたいが、もしかしたら面倒に思われているのかもしれないとふとした瞬間に不安に襲われるのだ。
やはり離れるべきなのだろうか。自主的な決断を待たれているのだろうか。不安が膨らむほどに、彼の態度を悪く捉えてしまう。それでもシャルロッテには素直に引き下がれない理由があった。
「団長、顔色が優れないようですが、何かお持ちしましょうか?」
酒を飲んだからだとも思えないテレンスの様子がシャルロッテには気がかりだった。戦えない代わりにシャルロッテは救護に力を入れてきた。日頃から団員達の体調は注視している。よく気が利くと言われることがシャルロッテの喜びであり、生き甲斐になっていた。
「いや、大丈夫だ。すぐに部屋で休む。ロッテも早く寝るんだ」
やんわりとした言い方ではあったが、テレンスはまるで逃げようとするようにシャルロッテに背を向ける。
しかし、すぐにふらついて壁に手を突く。
「あっ……!」
慌ててシャルロッテはテレンスの体を支えようと腕を伸ばす。こんな彼の姿を見るのはシャルロッテにとって初めてのことであり、困惑していた。
そして、何よりも触れた手に伝わる強張りが、拒絶を表しているように感じるのは考えすぎだろうか。
「せめて部屋まで送ります!」
「ロッテ、それは男の役目だ」
こんな状態の彼を放ってはおけない。その一心だったが、溜息混じりに吐き出された言葉にシャルロッテはどうすれば良いのかわからなくなってしまう。
呆れられているような気もする。しかし、どうしてこんなにも拒まれているのかがわからない。いっそ掴んだ手を振り払われた方が良かったのかもしれない。突き飛ばされでもすればシャルロッテも離れる覚悟を決められたというのに。
「だが、俺は今その役目を果たせそうにない。早く部屋に戻ってくれ」
「でも……放っておけないんです。団長が心配で……」
それは懇願だったのかもしれない。
やんわりと体を押し返す力は弱い。手加減されているというよりも、それだけ今の彼は弱々しいのだ。それ故に拒絶と言い切れないが、シャルロッテがそう思いたいだけなのかもしれなかったが。
「後悔するぞ」
「このまま部屋に戻る方が後悔します。気になって眠れません。だから、無事に団長がご自分の部屋に戻れるようにお手伝いさせてください……!」
何を後悔すると言うのだろうか。シャルロッテにとっての後悔は今の彼を放っておいた後で生まれるものだ。だから、シャルロッテも懇願していた。
そして、再びテレンスは小さく溜息を吐いた。
「わかった、ついてきて構わない。俺が部屋に入ったら、すぐに自分の部屋に戻るんだ。いいな?」
最大限の譲歩だったのだろう。シャルロッテはこくりと頷く。これ以上は彼の体に障るかもしれない。そう思うとそれ以上何も言うことはできなかった。
そうして支えを拒み、一人で慎重に歩き出したテレンスの後について歩き出す。細く見えても長身の体を支えられるほどの力はシャルロッテにはない。彼が倒れてしまえば巻き込まれて共に倒れるだけだろう。そうなると助けを呼ばなければならなくなる。
わかるからこそ見守ることしかできないもどかしさをシャルロッテは抱えながら歩いた。
その足取りはやはり危なっかしく、何度も手を伸ばしそうになるのを堪えなければならなかったのだから。
「ロッテ……」
振り返って、まるで幽霊でも見たようなギクリとした顔をする彼は確かにテレンスだった。
しかし、どこか様子がおかしいのは気のせいだろうか。やはり慣れない夜会で疲れてしまったのだろうか。
「おかえりなさい、団長」
眠る前に彼の顔を見ることができてシャルロッテは安堵していた。大げさかもしれないが、彼が帰ってきたことが重要だった。これでやっと眠れる。
「ああ、ただいま……」
返事はどこか歯切れが悪い。ちらりと向けられた目がすぐ逸らされてしまう。まるで会いたくなかったとでも言われているかのような反応にシャルロッテはどうすれば良いのかわからなくなる。
「またそんな格好で……」
「あっ……! す、すみません……」
ぽつりと呟かれた言葉でシャルロッテははたと自分の格好を思い出す。
普段からシャルロッテが夜間にネグリジェと肩掛けだけの格好で自室の外に出ることをテレンスはよく思っていないらしかった。肌を必要以上に露出しているわけでもなく、布を押し上げるほどの胸の膨らみがあるわけではないのだが。
家族同然とは言ってもテレンスとシャルロッテでは明確な立場の違いがある。彼は団長なのだから当然のことではあるが、倍も歳が離れているせいか、口うるさい兄というよりも厳格な父親のようなのである。
それについてクレアは何か言いたげであったが、口を閉ざすことにしたようだった。
「いや……もう寝るんだ」
「……はい」
テレンスは目を合わせないまま、まるで早く切り上げようとしているかのようである。
いつまでも子供なのだろうか。嫌われているわけではないと思いたいが、もしかしたら面倒に思われているのかもしれないとふとした瞬間に不安に襲われるのだ。
やはり離れるべきなのだろうか。自主的な決断を待たれているのだろうか。不安が膨らむほどに、彼の態度を悪く捉えてしまう。それでもシャルロッテには素直に引き下がれない理由があった。
「団長、顔色が優れないようですが、何かお持ちしましょうか?」
酒を飲んだからだとも思えないテレンスの様子がシャルロッテには気がかりだった。戦えない代わりにシャルロッテは救護に力を入れてきた。日頃から団員達の体調は注視している。よく気が利くと言われることがシャルロッテの喜びであり、生き甲斐になっていた。
「いや、大丈夫だ。すぐに部屋で休む。ロッテも早く寝るんだ」
やんわりとした言い方ではあったが、テレンスはまるで逃げようとするようにシャルロッテに背を向ける。
しかし、すぐにふらついて壁に手を突く。
「あっ……!」
慌ててシャルロッテはテレンスの体を支えようと腕を伸ばす。こんな彼の姿を見るのはシャルロッテにとって初めてのことであり、困惑していた。
そして、何よりも触れた手に伝わる強張りが、拒絶を表しているように感じるのは考えすぎだろうか。
「せめて部屋まで送ります!」
「ロッテ、それは男の役目だ」
こんな状態の彼を放ってはおけない。その一心だったが、溜息混じりに吐き出された言葉にシャルロッテはどうすれば良いのかわからなくなってしまう。
呆れられているような気もする。しかし、どうしてこんなにも拒まれているのかがわからない。いっそ掴んだ手を振り払われた方が良かったのかもしれない。突き飛ばされでもすればシャルロッテも離れる覚悟を決められたというのに。
「だが、俺は今その役目を果たせそうにない。早く部屋に戻ってくれ」
「でも……放っておけないんです。団長が心配で……」
それは懇願だったのかもしれない。
やんわりと体を押し返す力は弱い。手加減されているというよりも、それだけ今の彼は弱々しいのだ。それ故に拒絶と言い切れないが、シャルロッテがそう思いたいだけなのかもしれなかったが。
「後悔するぞ」
「このまま部屋に戻る方が後悔します。気になって眠れません。だから、無事に団長がご自分の部屋に戻れるようにお手伝いさせてください……!」
何を後悔すると言うのだろうか。シャルロッテにとっての後悔は今の彼を放っておいた後で生まれるものだ。だから、シャルロッテも懇願していた。
そして、再びテレンスは小さく溜息を吐いた。
「わかった、ついてきて構わない。俺が部屋に入ったら、すぐに自分の部屋に戻るんだ。いいな?」
最大限の譲歩だったのだろう。シャルロッテはこくりと頷く。これ以上は彼の体に障るかもしれない。そう思うとそれ以上何も言うことはできなかった。
そうして支えを拒み、一人で慎重に歩き出したテレンスの後について歩き出す。細く見えても長身の体を支えられるほどの力はシャルロッテにはない。彼が倒れてしまえば巻き込まれて共に倒れるだけだろう。そうなると助けを呼ばなければならなくなる。
わかるからこそ見守ることしかできないもどかしさをシャルロッテは抱えながら歩いた。
その足取りはやはり危なっかしく、何度も手を伸ばしそうになるのを堪えなければならなかったのだから。
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