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後日譚
後日譚526.没落令嬢も見守られている
千与の誕生日を祝うパレードと、誕生日パーティーは何とか無事にやり遂げたモニカは、数日後にまた緊張した面持ちで朝を迎える事となった。
「あんまり眠れてないのなら『安眠カバー』使う?」
「いえ、お気持ちだけで大丈夫です」
「チヨは眠れたのですわ?」
「…………ん」
三歳の誕生日を迎え、朝食の席に同席する事になった千与は、母親の隣でご飯を食べていたのだが、レヴィアの問いかけに一瞬固まると、端的に返した。
同じシズトの配偶者であってもまだ緊張するようだ。
「それならよかったのですわ。イクオもいつも通り早寝早起きしてたのですわ」
「緊張とは無縁そうだよね。パーティーの挨拶も僕よりも決められたとおりに話してたし」
「短かったのと、あんまり相手の事を気にせずにスピーチすればいいだけだったからなのですわ」
「なるほどね。……今日のお披露目パーティーはそういう挨拶をしないんだよね?」
「そうですわね」
「やってる時間がない、というのが正確ね。縁談を申し込んできた者限定で参加する事を認めたとはいえ、イクオもチヨも結構な数の申し込みが来てるから……」
ガレオールの女王であり、シズトの側室の一人でもあるランチェッタが肩を竦めた。
各大陸の関わりが少しでもある国々からはそれぞれ少なくとも十通は来ていた。千与に至ってはその倍以上の数が来ている。
育生よりも千与の方が多いのはその加護の特異性や、勇者の血が色濃く表れているその容姿、実際に加護を授かっている事など様々だが、なによりも母親のモニカの身分が低いからだろう。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「別に迷惑なんて思ってないわ。むしろ中継地点のガレオールにもお金が落ちるだろうから有難いわ」
「ランチェッタ様……」
「冗談よ。そんな目で見ないで頂戴、ディアーヌ」
メイド服を着た褐色肌の女性ディアーヌが首を横に振る。そんな彼女に対してランチェッタが何やら言い始めたが、モニカはそれを何となく見るだけでそれ以上は特に何も言わなかった。
お披露目パーティーはクレストラ大陸の都市国家フソーで行われる事になっていた。
そこへ移動するために数日の時間を設けたが、それでも転移陣が設置されている首都まで辿り着けなかった者もある程度出ると想定していた。
「思ったよりも脱落者がいないですね」
「そうだね。ちょっとでも減ってくれればよかったんだけど……。僕は壇上で様子を見るだけって言われてるから、そろそろ上に上がるね。頑張ってね」
「こっちの事は任せるのですわ!」
心配そうな表情で何度も振り返りながら離れていくシズトを見送ったモニカは、前回とは違う新品のドレスに目をやった後、千与を見た。
多くの人の気配を感じているのか、緊張した面持ちの彼女はキョロキョロしながらもモニカの手を離そうとしない。
彼女の近くには大小さまざまな人形が立っていて、彼女の周りを守るように並んでいた。
参加者は殆どが爵位を持っている貴族で、中には王族もいた。だいぶ歳が離れているが、貴族社会では歳の差婚などよくある事なのでモニカは気にしなかった。
(シズト様は気にするでしょうが……)
ついそんな事を思ってクスッと笑ったモニカを見上げ、千与が首を傾げるが「あとでね」とだけ伝えて集まってくる男性陣に千与を紹介していくモニカ。
千与は蘭加ほどではないが人見知りが激しい。だが、それでも貴族の務めとして最低限のコミュニケーションは取っていた。
何か問われれば千与は頷いたり、首を振ったり、手を振ったりした。周りの人形も彼女の動きを真似て頷いたり、首を振ったり、手を振ったり――。魔道具が気になるのか男の子だけではなく、女の子も集まってきた。
「可愛い!」
「これあなたが作ったの?」
「私にも作ってくれないかしら?」
挨拶もそこそこに、同年代くらいの女の子が千与に話しかける。
マナー違反だが、今回はあくまで社交界ではなく、お見合い相手と顔合わせをするために開かれたパーティーである。多少の無作法は目を瞑る、という事が大人たちの中での暗黙の了解となっていた。じゃないとシズトの子どもたちに自分から話しかける事が出来ないものが殆どだからだ。
それを知ってか知らずか、女の子たちがさらに集まってグイグイ来る。
千与と話をするようにと親に言われてやってきていた同年代の男の子たちが彼女たちに何か言おうものなら集団でいろいろ言われていた。
口論に発展する子たちも現れ始め、騒ぎが大きくなるとどこからともなく現れたドライアドたちも混ざって収集がつかなくなってきた。
(数日にわたって行うって聞いた時はチヨの負担が心配でしたが、確かに数日に分けるのは正解でしたね)
婚約者候補との顔合わせだけではなく、娘の友人候補を見繕う目的もあったモニカはそんな事を思いながらふとシズトがいる方を見た。
彼は心配そうにそわそわしながら椅子に座っていたが、モニカと目が合うと慌てた様子で立ち上がった。
だが、近くに控えていたランチェッタに座っているようにとでも言われたのだろう。しょんぼりとした様子で椅子に腰かけ、再びそわそわしながらこちらの様子を見てくるシズト。
そんなシズトの様子に思わず苦笑を浮かべると再び千与が不思議そうにモニカを見上げた。
「お父様がこっちを気にしているわ。頑張ろうね」
「! うん!」
人が多すぎてモニカのドレスのスカート諸共足に引っ付いていた千与だったが、背筋を伸ばしてその場に立った。……それでも、モニカの手を離さなかったが、それについて誰も指摘する事はなかった。
「あんまり眠れてないのなら『安眠カバー』使う?」
「いえ、お気持ちだけで大丈夫です」
「チヨは眠れたのですわ?」
「…………ん」
三歳の誕生日を迎え、朝食の席に同席する事になった千与は、母親の隣でご飯を食べていたのだが、レヴィアの問いかけに一瞬固まると、端的に返した。
同じシズトの配偶者であってもまだ緊張するようだ。
「それならよかったのですわ。イクオもいつも通り早寝早起きしてたのですわ」
「緊張とは無縁そうだよね。パーティーの挨拶も僕よりも決められたとおりに話してたし」
「短かったのと、あんまり相手の事を気にせずにスピーチすればいいだけだったからなのですわ」
「なるほどね。……今日のお披露目パーティーはそういう挨拶をしないんだよね?」
「そうですわね」
「やってる時間がない、というのが正確ね。縁談を申し込んできた者限定で参加する事を認めたとはいえ、イクオもチヨも結構な数の申し込みが来てるから……」
ガレオールの女王であり、シズトの側室の一人でもあるランチェッタが肩を竦めた。
各大陸の関わりが少しでもある国々からはそれぞれ少なくとも十通は来ていた。千与に至ってはその倍以上の数が来ている。
育生よりも千与の方が多いのはその加護の特異性や、勇者の血が色濃く表れているその容姿、実際に加護を授かっている事など様々だが、なによりも母親のモニカの身分が低いからだろう。
「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「別に迷惑なんて思ってないわ。むしろ中継地点のガレオールにもお金が落ちるだろうから有難いわ」
「ランチェッタ様……」
「冗談よ。そんな目で見ないで頂戴、ディアーヌ」
メイド服を着た褐色肌の女性ディアーヌが首を横に振る。そんな彼女に対してランチェッタが何やら言い始めたが、モニカはそれを何となく見るだけでそれ以上は特に何も言わなかった。
お披露目パーティーはクレストラ大陸の都市国家フソーで行われる事になっていた。
そこへ移動するために数日の時間を設けたが、それでも転移陣が設置されている首都まで辿り着けなかった者もある程度出ると想定していた。
「思ったよりも脱落者がいないですね」
「そうだね。ちょっとでも減ってくれればよかったんだけど……。僕は壇上で様子を見るだけって言われてるから、そろそろ上に上がるね。頑張ってね」
「こっちの事は任せるのですわ!」
心配そうな表情で何度も振り返りながら離れていくシズトを見送ったモニカは、前回とは違う新品のドレスに目をやった後、千与を見た。
多くの人の気配を感じているのか、緊張した面持ちの彼女はキョロキョロしながらもモニカの手を離そうとしない。
彼女の近くには大小さまざまな人形が立っていて、彼女の周りを守るように並んでいた。
参加者は殆どが爵位を持っている貴族で、中には王族もいた。だいぶ歳が離れているが、貴族社会では歳の差婚などよくある事なのでモニカは気にしなかった。
(シズト様は気にするでしょうが……)
ついそんな事を思ってクスッと笑ったモニカを見上げ、千与が首を傾げるが「あとでね」とだけ伝えて集まってくる男性陣に千与を紹介していくモニカ。
千与は蘭加ほどではないが人見知りが激しい。だが、それでも貴族の務めとして最低限のコミュニケーションは取っていた。
何か問われれば千与は頷いたり、首を振ったり、手を振ったりした。周りの人形も彼女の動きを真似て頷いたり、首を振ったり、手を振ったり――。魔道具が気になるのか男の子だけではなく、女の子も集まってきた。
「可愛い!」
「これあなたが作ったの?」
「私にも作ってくれないかしら?」
挨拶もそこそこに、同年代くらいの女の子が千与に話しかける。
マナー違反だが、今回はあくまで社交界ではなく、お見合い相手と顔合わせをするために開かれたパーティーである。多少の無作法は目を瞑る、という事が大人たちの中での暗黙の了解となっていた。じゃないとシズトの子どもたちに自分から話しかける事が出来ないものが殆どだからだ。
それを知ってか知らずか、女の子たちがさらに集まってグイグイ来る。
千与と話をするようにと親に言われてやってきていた同年代の男の子たちが彼女たちに何か言おうものなら集団でいろいろ言われていた。
口論に発展する子たちも現れ始め、騒ぎが大きくなるとどこからともなく現れたドライアドたちも混ざって収集がつかなくなってきた。
(数日にわたって行うって聞いた時はチヨの負担が心配でしたが、確かに数日に分けるのは正解でしたね)
婚約者候補との顔合わせだけではなく、娘の友人候補を見繕う目的もあったモニカはそんな事を思いながらふとシズトがいる方を見た。
彼は心配そうにそわそわしながら椅子に座っていたが、モニカと目が合うと慌てた様子で立ち上がった。
だが、近くに控えていたランチェッタに座っているようにとでも言われたのだろう。しょんぼりとした様子で椅子に腰かけ、再びそわそわしながらこちらの様子を見てくるシズト。
そんなシズトの様子に思わず苦笑を浮かべると再び千与が不思議そうにモニカを見上げた。
「お父様がこっちを気にしているわ。頑張ろうね」
「! うん!」
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