【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第8章 二つの世界樹を世話しながら生きていこう

幕間の物語62.借金奴隷は息を殺して過ごす

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 シズトの奴隷として一つ屋根の下で一緒に生活をしているノエルは、魔道具の研究ができればその他の事は割とどうでもいい女性だった。
 睡眠時間が少なかろうが、食べる物がまともじゃなかろうが、友人ができなかろうが彼女にはどうでもいい事だった。
 着る物がなくていつも同じ服を着ていたし、髪の毛が邪魔にならない限りボサボサのまま伸ばしてもいた。
 そんなちょっと残念なハーフエルフの彼女は、今はシズトの奴隷だ。
 奴隷になってから彼女は少し変わった。

「ちょっとノエル。ちゃんとお風呂入ってる? 臭うよ?」
「そう言えば体拭いたのだいぶ前っすね」
「今日から毎日入って。ちょっと臭い時は魔道具触っちゃだめだからね」
「えー……仕方ない、入る事にするっす」

 シズトが嫌がるから毎日お風呂にだって入る。

「ノエル、ちょっと髪ぼさぼさ過ぎない?」
「まだ邪魔じゃないっす」
「ノエルがいいならいいと思うけど、フケとか目立つしちゃんと髪洗うんだよ」
「……まあ、しょうがないっすね」

 夜の相手をする事もあるかもしれない。
 見た目も多少は考えた方がいいだろうと、髪の手入れやその他諸々の事をモニカに聞きながら頑張っている。

「ノエル~、ご飯はちゃんと食べなきゃだめだよ」
「今忙しいんすけど」
「マスターに対する態度――」
「今終わったっす!! さ、シズト様ご飯食べるっすよ~」

 シズトが望むから、奴隷なのに主人と同じ机で食事だってする。
 そんなノエルだったが、時々シズトの奴隷でいていいのか悩む時がある。
 例えば、シズトが作り出した魔法生物に寝る時間を管理されている時とか。

「夢の様な一週間だったのに、また元通りの生活っす。もっと起きていたいっす~」
「奴隷とは思えない贅沢な悩みね。普通は死ぬまで扱き使われて、休む暇なんてないのよ」
「エミリーだって、この前『シズト様にもっと尻尾を触って欲しい』とか言ってたじゃないっすか」
「ご主人様のご寵愛を求めるのは愛玩奴隷としては大切な事なのよ。一緒にしないでほしいわ」

 ノエルの部屋の掃除にやってきたエミリーが、尻尾を膨らませて抗議する。
 奴隷商人のブライアンがエミリーを選んでシズトに売ったが、一緒に買われた他の者たちと異なり彼女に戦う力はなかった。
 一通りの家事ができた事もあり、今は毎日の食事を作っているのだが、彼女が売られたのは愛玩奴隷としてだ。ただ、シズトはそういう事をしてこない。

「シズト様も、見てるだけじゃなくて触ってくれればいいのに」
「押し倒しちゃえばいいんじゃないっすか、知らないっすけど」
「そんな事したらホムラ様に折檻されるじゃない」
「お、折檻される仲間になっちゃうっすか?」
「だからしないって言ってるでしょ! シズト様の嫌がる事したら捨てられる可能性だってあるじゃない。あなたみたいに一時の欲求に従って行動してないのよ」
「仕方ないじゃないっすか。シズト様が新しい魔道具をどんどん作るのに、解析の時間を作ってくれないっすもん」
「いつか売り飛ばされても知らないわよ」
「バカっすね、エミリーは。シズト様優しいからそんなひどい事しないっすよー」
「ホムラ様に売られていく未来が見えるわ」
「シズト様に泣きつけば許してもらえるっすよー」

 シズトが寝ている時に売られそうだな、とエミリーは思ったがノエルの顔がムカついたので、黙って部屋の整理を終えて部屋から出て行った。



 夕方頃までノエルは指示された通り魔道具を作り続けた。
 勇者がやってくると聞いていたが興味もなく、時間もないから手を休める事もない。
 早く終わらせないと今日は魔道具の解析ができずに終わってしまう。

「どっかに魔道具作りに興味のある奴隷転がってないっすかね。そしたらボクの自由時間増える気がするんすけどね」

 本気でシズトにお願いしてみようか、なんて事を考えていたら廊下を走る音が聞こえてきた。
 その音がノエルの部屋まで近づいてくると、勢いよく扉が開かれた。
 部屋に飛び込んできたのは、ずいぶん慌てた様子のエミリーだった。

「ちょっとノエル来て!」
「この部屋土足禁止って言われてるんすよ? 靴を脱いで入ってきてほしいんすけど。あと、ご飯はまだっすよね」
「そんな事どうでもいいでしょ! お願い一緒に来て!」
「引っ張らないでほしいっすー」
「ほら立って! 早く!!」
「ノルマがまだ終わってないんすよ、邪魔しないでほしいっす!」
「私がホムラ様に怒られてあげるから! 助けて!!」
「何そんなにテンパってるんすか。分かったっすよ。行けばいいんすよね? ただ、ちゃんとホムラ様に弁解してくれるんすよね?」
「弁解だろうが何だろうがやってあげるから! 早く!! 一人じゃ無理! あの方たちと同じ部屋に一人なんて無理!」

 エミリーの発言から、急な来客があって慌てているんだろうな、とノエルは判断して立ち上がると、ぐいぐいとエミリーに引っ張られるままついて行く。
 靴を履く時間すらもらえず、相当苦手な相手なんだろうな、とノエルが思っていると食堂の扉の前についた。
 エミリーは手を離して身だしなみを整えると、ノエルの様子を確認する事もなくノックをしてから扉を開いた。
 中には金色の髪に青い瞳の男が二人と、ずんぐりむっくりな体型のドワーフと、小柄な女の子がいた。

「む、シズトではなかったか」
「も、申し訳ありません。ご主人様はまだお戻りになっていなくて……。他の者も出払っているので確かな事はお伝え出来ませんが、何事もなければ夕食の時間にお戻りになるかと思います」
「そうか」
「なんじゃ、まだ来んのか」
「ドフリック、奴隷に当たるな。いきなり来たのはこちらなんだ。酒でも飲んで待っておれ」
「仕方ないのう」

 ぐびぐびと瓶からワインを飲むドワーフを見ていたノエルだったが、エミリーにこそっと質問する。

「あの人たち、誰っすか?」
「ほんと、魔道具について以外は全然物を知らないわね。あの方はドラゴニア王国の国王陛下よ。粗相のないように気を付けて席に着いてなさい」
「分かったっす……って、席に着けるわけないじゃないっすか! 相手はシズト様じゃないんすよ!」
「……そうだったわね。じゃあ……シズト様の帰りを一緒に待ちましょう」
「早く戻ってきてほしいっす~」

 そうして二人はシズトが戻ってくるまで、部屋の壁際に静かに控えていた。
 ノエルは後日「ホムラ様の折檻の次くらいに嫌な体験だったっす」とシズトに文句を言い、ホムラに引っ張られていったらしいが、それはまた別のお話。
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