【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ

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第17章 結婚しながら生きていこう

幕間の物語157.教官たちは引率した

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 町で暮らしている奴隷たちに対して教育をする施設がファマリアにはある。
 研修所と呼ばれているそこで働いている人族の中年男性ダンカールとエドワードは、同僚のエルフの女性ジュリエリカと、中性的な見た目のエルフの男性ジュリオンの四人で話し合いをしていた。
 彼ら以外にも教官はいたが、初期から働いているこの四人が基本的に話し合いを重ねて物事を決めていた。
 もじゃもじゃ生えている髭を触っていたダンカールが、今日の議題について口火を切った。

「いくらなんでも、ダンジョンに行くからって装備を与えすぎじゃねぇか? こんなしっかりした装備を揃えられる奴なら冒険者なんてやってねぇよ」

 彼の手元にある資料には、数日後に探索する予定のダンジョンの詳細な情報や、研修を受ける奴隷たちのリストに加えて、奴隷たちのために用意する物が事細かに書かれていた。
 四人グループにはそれぞれ支給品として、人数分のポーションが用意されている。それだけでも十分すぎるほどだが、革鎧とはいえ、防具が揃っていた。武器に至っては新品同然の物だった。
 本来であれば装備は中古や先輩からのおさがりである事が多い。それでも駆け出し冒険者が一式揃えるためにはそれ相応の時間と資金を要する。
 縁起が悪い事を気にしないのであれば、亡くなってしまった冒険者の遺品を引き取って使う事もできるが、しっかりと手入れをして管理している物ではないので状態の良い物ではない限り好き好んで使う者はいない。
 今回のダンジョン探索の目的を考えると、これは明らかに彼らのためにはならないだろうとダンカールは言いたかったようだが、対面に座っていたジュリエリカは眉間に皺を寄せた。

「万が一の事があった場合、責任をとれるんですか?」
「魔物の恐ろしさを伝えるんだったらこんなに要らねぇって言いたいだけだ。それに、不測の事態に備えて冒険者に加えて、お前らの所からも人を出すんだろ? 大概の事はどうにかなるだろ」
「即死級の攻撃が来る事も踏まえて考えるべきでは?」
「そんな攻撃できる魔物は第一階層にはいねぇし、いたら俺たち含めて全滅だわ。エドワード、お前からも世間知らずのこいつに言ってやってくれよ」

 ダンカールはいつものように突っかかってくるジュリエリカに辟易した様子で、隣に座ってのんびりと茶を啜っていたスキンヘッドの男に話しかける。
 エドワードと呼ばれた彼は、お茶を飲んで一息つくと、話に加わった。

「どっちも大事な事だと思うけどよ、何を一番避けるべきかで考えた方が良いんじゃねぇか? 今後のためにはならねぇけど、シズト様は街の奴隷たちも等しく大切になさってるじゃねぇか。流石に、そんな人にダンジョンに連れて行ったら死んでしまいました、なんて報告はしたくねぇぞ、俺は」
「そうだねぇ。直接話す事はないけど、わざわざそんな事は言いたくないねぇ」

 エドワードの正面に座ってシズトが魔力マシマシ飴と呼んでいる魔道具を口に咥えていたジュリオンもエドワードの意見に賛成なようで何度も頷いている。
 結局、話が覆る事はなく、奴隷たち一人一人に過剰ともいえるほどの装備を身に着けさせてダンジョン探索を行う事になった。
 冒険者ギルドにも奴隷たちの護衛として冒険者を雇ったが、Bランク冒険者姉妹も探索に加わった。
 赤髪の彼女たちは、奴隷たちの主人であるシズトの婚約者という事もあり、ファマリアでは知らぬ者はいなかった。
 研修所の前には、真新しい革鎧やピカピカの武器を身に着けた奴隷たちが集まっている。
 ダンカールは足を引きずりながら彼らの前に出ると、先程までのざわめきが嘘のようにピタッと静かになった。

「よし、静かになったな。今から世界樹ファマリーの根元にある転移陣を通って、離れ小島のダンジョンに行く。だが、気を付けるべき点がいくつもある。しっかりと聞いておけ。引率の教官どももだぞ!」

 選抜されたエルフの精鋭たちは真剣な眼差しだったが、冒険者ギルドから増員されてきた数人の冒険者はどこか浮ついた空気だった。それに対してダンカールは一喝すると、懐から取り出した紙を広げる。

「まず全員が守るべき事は二つ。世界樹の根元に行くが、その際に余計な動きはしない事。ドライアドやフェンリルを怒らせたくなければ畑は絶対に荒らしてはいけないし、落ちている世界樹の葉っぱも拾うな。もしそのような事をした奴らは、命の保証がないと思え。また、ダンジョン探索中死なない事。死者が出た場合、シズト様からのダンジョン探索許可が取り消しになる可能性が高い。今後も続けたいと思うのなら、必ず生きて帰る事。無謀な挑戦をしようとした奴がいた場合は手足へし折ってでもいいから連れて帰れ」

 けが人が出ただけでも中止にしそうだよな、とラオとルウは思ったがお互いに顔を見合わせただけで口を挟む事はなかった。
 あくまで彼女たちは今回、手伝いとして来ていたからだ。
 その後もダンカールの話は続いたが、概ね「油断するな」という事だった。
 ダンカールからの長い話も終わり、ドライアドたちにジーッと見られながら緊張した面持ちで世界樹ファマリーの根元に広がる畑区間を通り抜け、転移陣を使ってダンジョンのある小島に着くと、各々準備を整えて呼ばれるのを待つ。
 今回挑むのはダンジョンの一階層までだ。ぐるりと地図で示されたチェックポイントを回っていくだけなので大勢で入って行っても数の暴力でゴブリンを袋叩きにする事が目に見えていた。
 ダンカールは入る人数を調整している。
 スキンヘッドの教官エドワードは、元斥候職という事もあり、既にダンジョンに入って異変がないか調査している。
 ジュリエリカやジュリオンは魔物の数が多すぎた場合の間引き要員として既にダンジョンに潜っていた。
 そうして万全の状態で行われたダンジョン探索だったが、案の定トラブルは起きた。
 一人が血まみれの状態でダンジョンから出てきたのだ。
 血相を変えて集まってこようとする教官たちだったが、引率としてついて行っていた冒険者が手で制した。
 ダンジョンの出入り口を管理しながらそれぞれのグループの記録を付けていたダンカールが年若いその冒険者に話しかける。

「何があった」
「いや、特に怪我とかそういうのはなかったんだけどよ……」
「……返り血か」

 ダンカールはため息を吐いた。
 経緯を確認したら本当に大した事のない事だった。
 返り血を全身に浴びている奴隷の少年が、女の子たちの前で良い所を見せようとしてゴブリンの集団に突撃して切りかかったそうだ。
 そこまでは良かったのだが、支給されていた剣の切れ味が良すぎたせいでゴブリンを両断してしまい、至近距離にいた彼が全身で血を浴びてしまっただけだった。
 血が目に入ってゴブリンたちのど真ん中でしばらく騒いでいた少年だったが、引率の冒険者が手早く処理をする前に、同じグループだった女の子たちが教わった魔法を使ってゴブリンたちを処理したのでけが人が出る事もなかった。

「ここの餓鬼ども、身体強化に限らず魔法が上手いのはどうしてなんだ? 魔力量も同じ駆け出し冒険者よりも多いし……」

 不思議そうに問いかけてきた引率の冒険者に、ダンカールはただ「教育熱心なエルフと、飴のせいだな」とだけ答えて仕事に戻るのだった。
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