されど少女と少年の物語は終わらない

せきらんうん

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平穏な日々を求めて

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響く悲鳴、人間の焼ける匂い、肌で感じる炎の温度。そして手の中の温もり。
私の平穏が壊れた。

帝都よりはるか北、周りを山々に囲まれたアイロ村。人口は100人程度、決して豊かな暮らしではないが野菜や羊を飼いながら充実した日々を送っていた。だが確かにあの日の惨劇は所々にある破壊の爪痕から思い出せる。ここは人が住む場所で歴史上初めて豚顔族<オーク族>に襲われた場所である。豚顔族は人族より背丈や身体能力が高く知能が低いのが特徴だ。あの日、自分より勝る身体能力をもつ豚顔族に襲撃されアイロ村の人々はなす術もなく嬲り殺された。結局生き残ったのは赤ん坊も含めて54人。あの惨劇からはや17年、村は着実に復興していった。

「おーいエルメどこいくんだよ」
後ろから陽気な声が私を呼ぶ。
「昨日言ったでしょ、薬草をもらいに行くのよ」
声の主の黒髪の少年に、いや青年と言うべきか、同い年のはずなのだがどうしてか弟のように見えてしまう。背は同年代の男子より低くそれゆえか持ち前の人懐っこい性格のせいか。
「そうだっけかな?どこか怪我したのか?」
青年は少しおどけてみせてから本当に心配そうに聞いてきた。いまは…こんなふうに心配してくれるのはこの青年だけだ。そうあの日から。惨劇が目に浮かぶ。
「私じゃないわ、隣に住んでるおじさんが手を切ってしまったらしくて」
頭に浮かんだイメージを振り払い精一杯の作り笑いを浮かべる。いつからか作り笑いが板についてしまった。
「ふーん、そっかお前も大変だな」
青年はそれしか言わずただ顔には暗い表情を貼り付けもと来た道を戻ろうとする。この青年は分かっている。分かっていながらも見ない振りをしていてくれている。それはありがたい、だがそれと同時に心が痛む。

青年と別れ薬草を取りに行く。村に戻り薬草を届けても自分もするあの曖昧な作り笑いを浮かべられるだけだろう。自分をどう扱っていいかわからないというあの視線をうけることになる。もうなれた。だが慣れない痛みもあるということ。
平穏を求め故に平穏を失う。気づかないからこその平穏もある。平穏とは求めるものではないのかもしれない。

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