ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第72話 とりあえず1度ブチ殺しますので

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精霊からの求めに応じ、城塞都市にある地下ダンジョン内の狭間に隠れている幻影通りにきていた。
静寂な時間が過ぎていく中、真っ暗な空間内に、魔導の精霊達が光を放ち楽しそうに飛びまわっている。
白い砂利が敷かれている上には、魔界の少女・四十九が仰向けになり寝息をかいていた。
影を暴走させ、相当の体力を奪われてしまったのだろう。
救出しかれこれ48時間が経過しているが、回復するまでには、もう少し時間がかかりそうだ。

月姫については、この地を捜索したいと言うので、護身用に『グレイプニールの鎖』を渡しておいた。
グレイブニールの鎖とは神獣を繋ぎとめることが出来る伝説級の鎖で、私をもってしても使いこなすことが出来ない代物だ。
月姫ならと思い渡してみたところ、四苦八苦しながらも器用に動かしていたのは、さすがとしか言いようがない。
これを使いこなせたならば、最強種である龍さえも簡単に捕獲出来てしまう可能性がある。
四十九についても言えることだが、この眼鏡女子に関しても、アンデッド王をも凌ぐ可能性を秘めているようだ。

しばらくすると眼鏡女子が、鎖でグルグル巻きの姿になっている体長15mほどあるサーペントを、全身底引き猟をしているかのように引き摺りながら歩いてきた。
そのサーペントはA~S級に位置する魔物で、10t以上の重量があるはず。
その魔物を1人で引き摺っている行為は、質量と速度の積から求められる運動力の法則を無視している。
何がどうなっているのかしら。
一応であるがどうやってサーペントを捕らえたのかを聞いてみると、意味不明な答えが返ってきた。


「適当に罠を仕掛けておいたら、このサーペントが引っかかっちゃいまして。えへへへへ。」


世界最強の装備品と言われている『オニオンシリーズ』を使いこなすことはできるJOB『たまねぎ』とは、これほどまでに凄いものなのか。
予測していた範囲を超えているにしても、流石にこれは超え過ぎだろ。
何だか眼鏡女子をこのまま放置していてはマズイ気がしてきた。


「四十九が回復するまで、もう少し時間がかかりそうですし、目覚めるまでの間に城塞都市の迷宮主である十戒を狩りとろうと思います。月姫も私に付いて来なさい。」
「えっ。私なんかが、三華月様の狩りに同行させてもらってもいいのですか。全然役にたたないと思いますが、よろしくお願いします。」


言葉とは裏腹に眼鏡の奥にある月姫の瞳がキラリと光っていた。
やる気満々なようだ。
ちなみにサーペントについては、キャッチ&リリースみたいな感じで解放しておいた。
『幻影通り』に迷い込んでから2日間が過ぎていた。
『SKILL_VIRUS』の効果にて、十戒が獲得しているスキル『転生』は、30%ほど崩壊が進んでいるはず。
そろそろいい頃合いの、狩り取り時期になってきているのだ。





滑走路のような数百メートル真っ直ぐ伸びる大通りにお店と住宅がズラリと軒を連ねている『幻影通り』から出ると、景色が一変しダンジョン内に戻ってきた。
どこかの体育館といった感じの大空間で、岩で出来た高い天井からは明るい光が地面を照らしている。
正面に、少年の姿をした迷宮主の十戒が立っていた。
幻影通りから出てくるのを待ち構えていたようだ。
その十戒が自信満々な様子で両手を広げてきた。


「ようこそ俺の世界へ。」


61話で宣言したとおり、私を下僕にするために現れてきたのだろう。
スキル『捕食』によりギルド紺翼のマスター飛燕が持っていた空間を歪め、攻撃してくるものを反転させるスキル『ミラー』の獲得に成功したと予測できる。
これから私に処刑されるとも知らず、能天気なものだ。
飛んで火にいる夏の虫とは、このことだ。


「この闘技場のような空間は、気の強い聖女ちゃんを俺様専用のペットへ調教するために、わざわざ用意した場所なんだぜ。」


空間を歪め反転させるスキル『ミラー』を獲得し、勝利を確信しているようだ。
最悪、敗北したとしても『転生』という保険もあるので安心しきっているのだろう。
―――――――――――とりあえず、このクソ雑魚は、軽くブチ殺して差し上げましょう。
背後にいる月姫へ目配せをすると、後方へ下がっていく。
私は、運命の弓を召喚する。
3mを超える白銀に弓が姿を現すと、半笑いをした十戒が両手を挙げて忠告してきた。


「おいおいおい。俺様をその弓で攻撃するつもりか?」
「そのつもりです。」
「俺様は、空間を歪めて攻撃を反転させるパッシブスキル『ミラー』を獲得しているんだぜ。」
「ご忠告頂き有難うございます。ですが、ミラーへの対処法は分かっておりますので、心配にはおよびません。」
「対処法だと。そんなハッタリは通用しないぜ。なんせ俺様への攻撃は全て聖女ちゃんへ戻ってしまうんだからな。つまり、俺様へ攻撃したら駄目だろうが。」


十戒の表情からは下品な笑みが消えていた。
だが、まだ自身が狩られる立場であるということを認識出来ていないのだろう。
私は、スキル『ロックオン』と『転移』を発動する。
明るく静かな空間に魔法陣が浮かび上がってくる。
――――――――――私は2つの『転移』を発動させていた。
一つは、少年の姿をした十戒の心臓部。
もう一つは私の心臓だ。
これから何が起きるのか全く理解していない十戒へ、なぜ私が、あなたと自身の心臓をロックオンしたのか、その理由を砕いて教えてあげましょう。


「私は2本の矢を、同時に撃ち放たせてもらいます。その2本の矢は、私と十戒あなたの心臓を同時に貫くということです。」
「何を言っている。どういう事か、分かるように説明しろ。」
十戒あなたの心臓へ撃ち放たれた運命の矢は、空間を歪めるというパッシブスキルが発動されて、私の心臓を貫いてしまうでしょう。それでは、同時に私の心臓へ放たれた運命の矢はどこに行くと思いますか。」
「どこへ行くって。もしかして、それは、俺の心臓なのかよ…。」


空間を歪めて反転させてしまったら、私の心臓に放たれた矢は十戒あなたの心臓を打ち抜く事になるのが道理というものだ。
私も心臓を貫かれてしまうため激痛を味わうことになるが、『自己再生』があるので問題ない。
十戒がようやく私の説明を理解したようで、ガタガタ体を震えさせ始めた。


「なかなかクレージーな方法だな。俺と刺し違えるつもりなのか。だが教えてやろう。俺には切り札があるんだぜ。」
「切り札とは『転生』のことでしょうか。」
「ほぉう。俺が『転生』出来ることを知っていたのか!」


黄金色に輝く瞳『真眼』が、『転生』の存在について教えてくれていたのだ。
最後は絶対に復活出来るという自信を持っている十戒の顔が、私がその存在について知っていた事実を聞いて顔を歪めた。
もちろん、刺し違えるつもりなど微塵もない。


「話しの続きを申し上げますと、切り札と思っているスキル『転生』についても、既に攻略済みです。」
「なんだと。俺の切り札を攻略済だと言っているのか!」
「はい。今までどおり、まともに転生することは出来なくなっているはずです。」
「どういう事だ!」
十戒あなたの『転生』は既にウイルス感染しており、30%程度の崩壊が進んでいます。現時点において、これまで通りの『転生』は出来ない状態になっています。」
「ハッタリだ!そんなはずがあってたまるかよ!」
「信用頂けていないようで残念です。でもまぁ、これから十戒あなたを1度ブチ殺しますので、身をもってご理解下さい。」


十戒は目を見開き、顔を真っ赤にさせている。
その表情からは余裕が消えていた。
既に、十戒あなたは完全に詰んでいる。
私は運命の矢を2本リロードする。
矢の先端を正面に浮かんでいる『転移』の魔法陣に向けながら、弓を引き絞り始めた。
これより、面白い劇場の開演をさせてもらいます。
弓に溜まったエネルギーを解放させた。
――――――――――TWIN_SHOOT


放たれた矢が『転移』をして、自身の心臓と、十戒の心臓を同時に貫いた。
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