ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

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第75話 魔界へ繋がる回廊

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ここは城塞都市の地下迷宮。
闘技場のように広い空間がとられていた。
高い天井からは光が放たれ、迷宮内を明るく照らしている。
大版の石が敷き詰められている床に、全身を鎖でグルグル巻きになっているゴブリンの姿があった。
不完全な転生をしてしまった十戒である。
そして、私の隣にいる眼鏡女子は平静を装っているが、額に青筋を浮かべその瞳はすわっていた。
命乞いをしてきた十戒ゴブリンからの言葉を、少しアレンジをし、通訳したところ、ブチ切れてしまったのだ。
真面目番長の月姫も、これでこちら側のブラックな人間になってしまったようだ。
何はともあれ、めでたいことだ。
さて、十戒の処分であるが、とりあえずといった感じで一度ブチ殺し、期待していた以上の『転生』した姿を見ることが出来たので、満足したというか遊び飽きてしまった。
現在進行形で崩壊中の『転生』が完全に破壊されるまでは、トドメをさす必要もないだろう。
抑えきれない殺気が溢れている眼鏡女子へ、十戒ゴブリンを処分しないように声をかけた。


「月姫。少しご機嫌斜めなようですね。」
「分かりますか。斜めどころか直角ですよ。」
「やはりそうでしたか。あの言葉を聞いてしまったらブチ切れて当然だと思いますが、今はその怒りを沈めて頂けないでしょうか。」
「承知しております。この魔物をどうやって殺そうか、たんたんと考えていたところです。」
「その不謹慎な魔物をここで処分してしまっても、また『転生』して蘇ってしまいますから。」
「はい。今は危害を加えることなく、このまま逃げられないように注視致します。」


月姫からは『ゴォォォォ』とオーラが発せられているような凄みを感じる。
眼鏡をキラリとさせている少女の姿が、真面目キャラの委員長ではなく、インテリヤクザのように見えてきた。
ここが迷宮内でなければ、十戒はドラム缶に詰め込まれて海底に沈められていたかもしれない。



私と月姫は『幻影通り』の結界が張られている最奥へ戻ってきていた。
静寂が広がる漆黒に空間に魔導の精霊達がカラフルな光を放ち飛びまわっている。
白い砂利が敷かれている地面には、何故か体長15mあるサーペントが正座をしていた。
A級相当以上の魔物が、眼鏡女子にビビッているようだ。
その脇にはグレイプニルの鎖によって全身をグルグル巻きにされた十戒ゴブリンが、ミノムシのようになり地面に転がっている。
十戒が獲得している全てのスキルには、『SKILL_VIRUS』撃ち込んでいた。
7日後にただの魔物ゴブリンとなることが確定している。
迷宮主の支配を受けていないサーペントへ、7日間、十戒ゴブリンを守るよう命令をした。


「サーペント。あなたには重要な使命があります。」
≪何でしょう。命をかけて絶対にやり遂げることを誓います!≫
「あなたには、この鎖でグルグル巻きにゴブリンの護衛を7日間ほどして下さい。」
≪はい。7日間ですね。その後は、どうさせてもらったらよろしいでしょうか。≫
「その後は、幻影通りから放り出してください。」
≪承知しました。7日後、こいつを地下迷宮へ戻すことを命に代えても絶対やり遂げること、お誓い致します。≫


たいしたお願いはしていないのだが、大げさ過ぎるだろ。
ゴブリンは集団戦を得意としているのだが、世界最高難易度を誇る城塞都市の地下迷宮には存在していない。
この迷宮内で生き抜くには弱すぎる魔物なのだ。
迷宮から脱出できたとしても、ここは四方を岩砂漠が広がる寒冷地帯。
仲間と合流することは決して出来ない。
仮に合流を果たしたとしても、進化が出来ないただのゴブリンは、種族内で奴隷のような扱いを受ける。
進化可能なゴブリンはレア種だけであり、ただのゴブリンである十戒は、経験を積むとある程度強くなれるものの、ただのゴブリンのままなのだ。
生き残ったとしても地獄だけしか待っていない。
表情を崩さない月姫であるが、眼鏡の奥の瞳が怪しく笑っていた。





体調が回復した四十九を魔界へ送り届けるために辿り着いた最深部には、天井・幅共に100m程度ある回廊があった。
この回廊を抜けると魔界である。
ここから先に行ける者は、魔神の加護を受けた者。
もしくは地上世界で唯一『自己再生』を獲得している私であるはずたが、眼鏡女子が『影使い』に飲み込まれていた際に『闇耐久』を獲得しており魔界への適正を獲得していた。
魔界の少女と眼鏡女子にはメタルスライムを同行させることにした。
『影使い』を少しずつ使えるようになっている四十九。
グレイプニールの鎖を自在に扱っている月姫。
それにメタルスライムがいれば魔界でも、無双をすることが出来るだろう。
私は、四十九と、月姫と、メタルスライムと別れて地上世界に戻る事にした。
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