ブラックな聖女『終わっことは仕方がないという言葉を考えた者は天才ですね』

samishii kame

文字の大きさ
127 / 142

第127話 闇商人の使い②

しおりを挟む
ここは、土竜が掘り進めている次元回廊内。
半円形状のトンネル内にある住設機器は停止し、工事現場独特の音は消えていた。
私が座るテーブルの上には、土竜の連帯保証人になるための用紙が置かれている。
連帯保証人とは、主債務者が何らかの理由で返済できなくなったときに主債務者の代わりに返済義務を負わなければならない。
藍倫が素知らぬ顔をしながら少年神官が出したお茶をすすっており、その背後に黒マントで全身を隠した死霊王がボディーガードのように立っていた。
安全第一と書かれたヘルメットを被っている土竜は、土下座していた体勢から顔を上げ、少年神官は空気のように存在を消している。
そして、肥満体型が加速しつつある純白の聖衣をきた聖女が、反社会的勢力が口にするような言葉を吐いてきた。


「三華月様。うち達は、その用紙にサインをしてもられば、気持ちよく帰るつもりでおります。」
「私が連帯保証人になったとしても、土竜さんが更生されるわけではないでしょう。」
「確かにそうですね。でも、連帯保証人にならなければ、最も神格の高い聖女様が、眷属の一人を見殺しにしてしまうことになってしまいます。」
「土竜さんには破産宣告をさせようかと思っております。」
「破産宣告ですか。三華月様は、借金が免責される法的手段をとるつもりなのですか?」
「はい。破産宣告にて借金を踏み倒したら、私が連帯保証人になる必要はないわけです。」
「残念ながら、ギャンブルによる借金は破産宣告をしたとしても、免責を受けることは出来ません。そもそも、借りたものは返す。それって人として当然のことですよ!」
「それでは、土竜さんを鮪漁船にでも乗せてやって下さい。」
「マグロ漁船ですか。うちが言うのもどうかと思いますが、マジで血も涙もない聖女なんですね。」
「本当に、藍倫がその言葉を言うのは、いかがなものかと思います。」
「もう観念したらどうですか。土竜さんの雇用主である三華月様がここに名前を書いてくれたら、全てが丸く収まるんです。」
「どうしても連帯保証人にならないと駄目ですか。」
「駄目だと言っているじゃないですか。マジで往生際が悪い聖女なんですね。聖女とは慈愛の気持ちが大事なんですよ!」
「その理屈で言えば、同じ聖女である藍倫が慈愛に満ちた対応をとってもいいではないですか。」
「うちは慈愛に満ちた対応をしていますよ。考えてみて下さい。借金を踏み倒そうとしている聖女に対し、ちゃんと返済するように説得しているじゃないですか!」
「私が借金をしているような言い方はしないで下さい。」
「そもそもですが、うちは聖女を辞めようかと考えておりまして。」
「え。藍倫が聖女を辞める?」
「うちが聖女になった動機とは、働かなくてもいいこと。楽が出来ると思ったわけなのです。それが、偉くなっていくにつれて、人に頼られていく悪循環に陥ってしまっている今日この頃なんです。」
「毎日が激務になって辛いということですか。」
「はい。自由に生きている三華月様が羨ましいです。破壊衝動にかられてしまうその気持ち、今は理解しております。」


少女が大きくため息をはき、憂鬱そうな顔をした。
藍倫からすると私という者は、自由に生きると言いながら、チート級スキルで気に入らない者を殺しまくる定型ヒロインに見えているのかしら。
横に立ち異様な気配を放っていた死霊王が、絶妙な間合いで話しを続けてきた。


「藍倫様は現在世界に影響を与える人物の10傑に選ばれております。つまり、三華月様とは異なり、半端なく忙しい聖女様なのです。」


何気に死霊王も私をディスってくるのかよ。
とはいうものの、言っていることは正しい。
藍倫は不良聖女ではあるが、次期最高司祭の最有力候補である。
私は神に愛されているが、藍倫には人望があるのだ。
聖女を辞めたいというが、何かやりたいことでもあるのだろうか。


「藍倫。聖女以外に何かやりたいことがあるのでしょうか。」
「田舎でスローライフを送るのもいいかなと考えています。」


その定型ルートなら知っている。
仕事をし過ぎて疲れたのでだからもう働きませんと田舎に引っ込むものの、教会の幹部が藍倫を追いかけてくるのだろう。
そして、何故か近くで現れるS級の魔物を、藍倫の指示で護衛役の死霊王が討伐してしまう。
結局のところ、『うちは静かに暮らしたいのに、周りがそれを許してくれない!』となる。
そう。スローライフなど送ることができないのだ。


「藍倫。スローライフを送ろうとしても、聖女の時よりも忙しくなってしまいます。」
「どういうことですか。なぜ忙しくなるのですか。」
「それが、あなたの運命だからです。」
「とにかくですね。雇用主である三華月様には土竜さんの借金を何とかする義務があるわけです。」
「雇用主に借金を返済する義務があるって、乱暴すぎませんか。」
「労働基準法第二十五条の定めにも『従業員に急を要する理由がある場合は、雇用主は前払いに応じる義務がある』という規定があるじゃないですか。」
「そもそも土竜さんは奉仕されているわけでして、私は雇用主ではありません。」
「三華月様。労働基準法37条で定められているとおり、ただ働きの強制は違反ですよ!」


藍倫が目を見開き鋭く言葉を言い放ってきた。
言っていることは分かる。
だが土竜から私のお手伝いをしたいという申し出があり、お願いしたのであって、強制をしているのではない。
土竜に視線を送ると、我に返ったように、ようやく藍倫へ自らの口で説明を開始した。


「藍倫様。私は三華月様の元で働いているのは強制されたものではありません。」
「うむ。ここは生き延びるための賢い選択をするところだぞ。」
「賢い選択ですか。」
「一生、マグロ漁船に乗りたいのか?」
「一生ですか!」
「ここは、三華月様に連帯保証人へなってもらった方がいいんじゃないのか。」


土竜は藍倫の言葉を断るどころか、私へ助けを求めてくるような視線を送ってきている。
おいおいおい。連帯保証人になってしまうと、私に土竜が負った債務に対し返済義務が生じてしまうではないか。
土竜と視線が重なった刹那、死霊王が割り込むように体を入れ、視線を切ってきた。
更に藍倫が、甘言を仕掛けてくる。


「三華月様が連帯保証人になったとしても、誰も史上最凶の鬼聖女からは、取り立てなんて出来ませんよ。そもそも三華月様って、お金に興味がないし、持っていないので、取り立てなんかされないでしょう。だから連帯保証人になっても問題ありませんし、気に入らなかったら、取り立て屋を処刑したらいいじゃないですか。闇商人なんぞ、しょせんクズなので、処刑したも世界が綺麗になるだけです。」


死霊王が私へペンを差し出している。
藍倫の言っていることは間違っていないのかもしれないが、ここで連帯保証人になっては駄目な気がしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

領民の幸福度がガチャポイント!? 借金まみれの辺境を立て直す【領地ガチャ】が最強すぎた!内政でUR「温泉郷」と「聖獣」を引き当てて…

namisan
ファンタジー
「役立たず」と中央から追放された没落貴族の俺、アルト・フォン・クライナー。継いだのは、借金まみれで作物も育たない見捨てられた辺境領地だけだった。 絶望する俺に発現したスキルは【領地ガチャ】。それは、領民の「幸福度」をポイントとして消費し、領地発展に必要なものを引き当てる唯一無二の能力だった。 「領民を幸せにすれば、領地も豊かになる!」 俺は領民と共に汗を流し、壊れた水路を直し、地道に幸福度を稼ぐ。 『N:ジャガイモの種』『R:土木技術書』 地味だが確実な「当たり」で、ほのぼのと領地を再建していく。 だが、ある日。溜め込んだ幸福度で引いたガチャが、俺の運命を激変させる。 『UR(ウルトラレア):万病に効く【奇跡の温泉郷】』 この「当たり」が、中央の腐敗した貴族たちの欲望を刺激した。 借金のカタに領地を狙う大商会の令嬢。 温泉利権を奪うため、父の命で派遣されてきた元婚約者の侯爵令嬢。 「領民の幸福(ガチャポイント)を脅かす者は、誰であっても許さない」 これは、ただ平穏に暮らしたかっただけの俺が、ガチャで得た力(と証拠とゴーレムと聖獣)を駆使し、ほのぼの領地を守り抜き、いつの間にか最強の領主として成り上がっていく物語。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...