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しおりを挟む「ふーん、今は脇役受け?とかいうやつが流行ってるのか?」
「前は王道受けが主流だったがな」
「へえ」
俺こと、相内柳(あいうち やなぎ)は同室者である、菊池薫(きくち かおる)に色々なことを教えてもらっている。というのも、俺は二週間前にこの全寮制の男子高校に編入してきたばかりだからだ。
薫に教えてもらったのだが、どうやらこのお坊ちゃま学校はバイやらゲイが九割以上居るのだという。そこで腐男子?だとカミングアウトしてきた薫に、危険な目に遭わないために俺は色々教えてもらっているのだ。
最初は男同士の恋愛というものが存在することすら知らなかったのだが、今ではシチュエーションやら流行のカップリングを言えるようにまでなってきた。まあ、元々同性同士の恋愛に偏見なかったしな。意外にも俺は順応性が良いみたいだ。
「腐男子受けなんていうのもあるのか」
薄っぺらい本をパラパラと捲りながら、俺は一人呟く。
「それなら薫もネコ?というポジションになるのか?」
「あ゛?」
覚えてたての言葉を使って薫のポジションを表現してみれば、怒られてしまった。おまけに頭まで叩かれた。痛い…。
そこまで怒らなくていいじゃないか。
「俺がネコに見えんのか、お前は?…あ?」
「いえ、…ごめんなさい。見えません」
「ふざけたこと言うなボケ、殺すぞ」
だって腐男子受けというのも流行っているって書いているじゃんか。だけどまた話を掘り返せば薫から叩かれてしまうと思った俺はそれ以上口にせず、もう一度謝った。
でも、薫がネコにはならないだろうなあ。だってすっごい美形だし。身長も高い。それに筋肉もすごく付いているし。いつも可愛くてネコっぽい男の子からキャーキャー言われてる。
何で薫は腐男子というのになったのだろうか?今度さり気なく聞いてみよう。
そんなことを考えていれば、薫がニヤリと笑ったのが横目で見えた。
「薫、どうした?」
「確かに“腐男子受け”は流行ってるが、俺は新たに“腐男子攻め”を流行らせたいと思ってるんだ」
「ふだんしせめ?」
えっと、攻めっていうのは「タチ」の方だよな?抱く方ということか。
…え?ということは、
「薫は、タチ?」
「俺はノンケだ」
「……のんけ?」
おお、また知らない専門用語が出てきた。何だ、「のんけ」って。何処の毛?のんけの意味を聞こうとすれば、それより先に薫が喋る。何か今まで見たことないほど薫の表情が生き生きとしているような気がする。何故だ?ニヤリと笑う薫を見つめていれば、クシャっと頭を撫でられた。
「腐男子攻めを流行らせるには、お前の協力が必要なんだよ、柳」
「…俺の?」
「ああ、お前じゃねえと出来ないことだ」
「俺じゃないと、駄目…」
そんなに重要な役目を俺なんかが頂いていいのだろうか。何も取り得のない俺だけれども、薫から必要されているというのが分かり、何だか俺もすごいワクワクしてきた。
「いいよ、よく分からないけど協力するよ」
「そうか、助かる」
「……でも俺は何をすればいい?」
「何もしなくていい」
「え?」
「俺の側にずっと居ればいいだけだ」
「…そんな簡単なことでいいのか?」
「ああ」
「そ、そうか。分かった、俺薫のために頑張る」
拳をギュッと握って意気込んでそう言えば、薫は満足そうに笑った。薫から色々教えてもらったお礼に、少しでもいいから薫の役に立ちたいんだ俺は。
「いいか?離れんなよ」
満足そうに笑う薫を見ながら俺はコクンと頷いた。
……そして自分が「ネコ」という立場にいつの間にかなっていたことに気が付いたのは、それから一ヶ月後だった…。
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