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しおりを挟む「……わ、わかった」
だから俺は、油断したらすぐに震えそうになる声を必死に絞り出してそう答えた。
「お前の……、薫の傍にずっと居る」
『少し考えさせてくれ』と言うこともできたかもしれない。だって俺は宮田さんにも告白をされたばかりなのだ。そうすればきっと薫も考える時間をくれただろう。でも俺はそうはしなかった。……だって、多分時間を掛けて深く考えたところで、答えは一緒になると思ったから。
「……柳」
「好きとか、まだそういうのはよく分かんないけど、薫がそれでもいいなら……」
もしかしたらこのなんともいえない返しを薫はよく思わないかもしれない。だって見据えていることは同じだけど、それでも想いは違う。まだ対等ではない。
そう思うと少し不安だったのだが、薫は嫌だと思っていなかったのか、俺の身体を強く抱き締めてくれた。
「か、薫?」
「ああ、少しずつでいい。ただ今は俺の傍に居てくれ」
「……うん」
「その内、俺のことが好き過ぎて一人で生きていけねえようにしてやるよ」
「……そ、それはちょっと困る、かな?」
冗談なのか、それとも本気で言っているのか、この体勢だと薫の顔が見えないため判断ができない。だから俺は冗談だと受け取って軽く笑う。そうすればすぐさま「冗談じゃねえからな」と頭を撫でられながら、耳元でそう言われてしまった。
「……そ、そうなんだ」
「ああ」
……冗談ではないらしい。
「……どれだけ俺のことが好きなんだよ……」
そしてそれを理解した俺は、バレないように薫の胸元に顔を埋めて赤面したのだった。
********************
「…………というわけで、ごめんなさい」
「……そうか」
翌日俺は、すぐさま宮田さんに断りの返事をした。返事はまだいらないといわれていたものの、このまま期待させるだけさせて、先延ばしをして宮田さんを傷付けるのは嫌だった。とても言いにくいことだったけど、真摯に想いを伝えてくれた相手にはきちんとした対応をしたかったのだ。
「そんな顔をするな」
「……宮田さん」
「こうなることは少なからず予想はできていた」
「…………」
「それを分かった上で、俺はお前に告白したんだ」
『自分の気持ちを隠せなかったんだ』と話す宮田さんになんと言えばいいのか分からず、俺は黙って俯いた。
すると頭上で宮田さんが笑った気がしたかと思えば、急に髪の毛を撫でるように優しく掻き混ぜられた。
「わっ、宮田さん?」
「あまり隙を見せてくれるな。俺はまだ諦めたわけではないからな」
「…………、え?」
そしてそのまま額に掛かった髪を横に分けられたかと思うと……、
「……っ!」
「そういう顔をしてると、今すぐ奪ってやるぞ?」
……そのままチュッと音を立ててキスをされた。
「おい!?クソ宮田!何してやがる!?」
「……見ていたのか」
「ふさげんな!柳は俺のだぞ!!」
「どうせ情に訴えて良いように言い包めただけだろ」
「このストーカー野郎!ぶっ殺してやる!」
「……上等」
俺は自分の体温が上昇していくのを誤魔化すように、その感触かき消すように、前髪を乱暴に掻き混ぜてやった。
「ちょ、ちょっと!」
そしてなぜか今にでも殴り合おうとしている二人の仲裁に入ったのだった……
END
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