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初めての男の人
しおりを挟む俺が今の女の姿ではなく、いつも通りの男の姿で彼と会うことができていたら、また何か違っていたかもしれない。守るべき存在である女の子だからここまで親切にしてもらえたのかもしれないが、それでも彼とは久しぶりの男友達になれていたかもしれない可能性さえも抱けてしまう。……昔から童顔を気にしていたため、幼い子供扱いをされたのはすごく癪だけど、特別に許してあげようと思う。
「まだ痛むというのに休息を邪魔して悪かったな。話はこれだけだ。ゆっくりと休め」
「……あっ、ま、待ってください」
「なんだ?」
すぐさま部屋から出て行こうとするレオさんを引き止める。
…………特に用もないというのに。
「(……いったい俺は何を言うつもりだったんだ)」
―――多分、なんでも良かったんだと思う。彼と話すことができればどんなくだらないことでもいいのだ。暴言や一方的な命令ではなく、男友達のように彼と話すことができれば。父親にすら教師にすら恵まれず、今までは本当に色々な意味で男運がなかった。だから少しでもレオさんと他愛のない話でもしてみたかったのだが、これ以上彼に迷惑を掛けるのはやめておいた方がいいだろう。嫌われてしまうのは悲しいからな。
「い、いえ。なんでもありません。色々ありがとうございます、おやすみなさい」
だから俺は彼ともっと話したいという気持ちを必死に押し込めて、そのまま枕に体重を預ける。
「…………なんでもないって顔してねえくせに」
「……え?」
「ったく、変な女だな」
そうすれば、なぜか大きな溜息を吐かれてしまった。
「さっき起きたばかりで、身体も痛くてすぐには寝れねえだろうけど、目を閉じて安静にしてろ」
「……は、はい」
「それとも、子守唄でも歌ってやろうか?」
「い、いりません……!」
「はっ、それだけ元気なら心配はいらねえな」
「…………っ、」
レオさんはニヤリと意地悪そうな笑みを浮かべてそれだけを言うと、そのまま部屋から出て行ってしまった。……多分だけど、眠れずに不安になった子供が用もなく引き止めたのだと思われてしまったのだろう。断片的には間違ってはいないのだが、そう思われてしまったのはとても屈辱だ。
「……優しいのか、意地悪なのか分からないな」
間違いなく酷い人ではないのだろうけれど、それでも彼は彼でクセがあるのは確かだろう。こんなことになると分かっていたのなら引き止めるような真似は絶対にしなかった。だけどそれを今更後悔したところで過去は変えることはできず、俺は少しだけ頬を赤く染めたまま言われた通りに目を閉じたのだった……
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