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エピローグ

二人の朝 II

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女性のキャスターが神妙な顔つきで原稿を読む。

『次のニュースです。松川市で、多数の動物が殺されるという事件が発生しました。愛姫県警の発表によると、昨夜の深夜から、未明にかけて、猫や鼠、イタチ、鳥類などの動物が、現在確認された限りで計二十匹あまりが、刃物で切り付けられたのち、殺されたそうです。

 近くで死んでいたカタツムリやカエルなどの死体を検死した結果、昨夜殺された猫の血液が確認されたことから、犯人は動物以外の生物も殺しているものとみられます。

 また、正確に急所を一刺しして殺していることから、犯人は特別な職種の人間である可能性も高いということです。今回の事件も、犯行の手口から、六月十五日から相次いで起こっている、松川無差別動物殺害事件の犯人と同一人物による犯行と思われます。

 愛姫県警は先日までの事件を受けて、犯行現場である松川二丁目から六丁目には、六十人を超える人員を配置していたといいますが、不審な人物の姿は確認されず、防犯カメラにもそのような人物は映っていなかったということです。

 愛姫県警の担当者は、『幸いに、まだ人は殺されていないが、事件現場周辺に住む市民には、日夜を問わず、十分に注意をしてほしい』と周辺住民への注意を喚起しています。今後警察では、より一層の警戒態勢を敷き、犯人逮捕に尽力するもようです。近隣の住民は』

 いつの間にか、席を立っていた峰子は、海斗の机の上のリモコンを取り上げると、テレビの電源を切った。そのまま、海斗の机に座ると、右手に持っていたマグカップを机に置き、代わりに左手で新聞を、海斗の顔の前に突き出す。

「こっちも、その事件でもちきりだよ」
 峰子の広げるページには、『松川無差別動物殺害事件』の見出しがおどる。

「物騒ですね」
「まったくだよ」

 海斗の方へよじっていた体を戻し、背中越しに答える峰子。新聞を折りたたむと、ベッドの上へと放る。保健室にあるようなそのベッドは、備え付けのカーテンが完全に開かれていて、先程投げられた新聞の他に、峰子のカーディガンや、紙の束、筆記具、空のペットボトルなどが乱雑に放置れていた。

「これは、私たちの案件かもな」
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