家族に家から追い出されたので、悪役令嬢を矯正します!

雲乃琳雨

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5、悪魔が憑いている女

「ここに、ハンターの男がいただろ」
「え、え~と」

 伯爵は私たちに向かって冷たく聞いた。レニーが言っていいものかと困って、両手の指を突き合わせている。伯爵はふと私を見て、右肩を指さして言った。

「お前、悪魔が憑いているぞ」

 はあ? 失礼な! 急に言われてイラっときた。私は、ハンターに言われた通り衝撃を与えることにする。私は伯爵に笑顔で近づいた。
 くらえ、この怒り! 私は伯爵の頭めがけて左から回し蹴りをくらわすが、パシッと右手で止められた。仕方ないから、ボディにパンチを出すと、これもパンっと左手で受け止められた。
 み、身動きができない。下には綿のズボンをはいているので大丈夫だけど。

「何の真似だ?」

 静かに怒りをたたえて聞かれた。怖い……。

「さっきのハンターが、あなたは悪魔が化けているので衝撃を与えれば正体を現すと言ったんです……」
「……フッ」

 伯爵は馬鹿にするような目で私を見て、鼻で笑った。レニーが両手を握って進言した。

「伯爵様、その方はピニオン・マクレガー子爵令嬢です」

 ありがとうレニー助けてくれて。

「何? お前は本当に令嬢なのか?」

 伯爵の疑いのまなざしが突き刺さる。私は目をそらした。この格好で、そう静かに聞かれても……。それより、早く手を放しなさいよ! もう上げた足が痛いし、無様すぎる……。これを家に報告されたらおしまいだ。
 バタバタと外が騒がしくなった。ハンターの男が出て行ったドアの前を走って通り過ぎた。その後から衛兵が追いかける。伯爵はパッと手を放した。私はよろけて、机に手をつく。伯爵は部屋を出て男の後を追った。

「ふ~。足がつりそうだった」
「大丈夫ですか?」
「うん」
「あの男の嘘だったみたいですね。私たちも見に行きませんか?」
「え?」

 レニーが目を輝かせていた。

「伯爵様は、本当に素敵ですよね」

 なに? ……私もそう思っていたことがあったけど、もうそうは思わない……。何なのあの冷たい目は。軽蔑の眼差し、小馬鹿にした笑い、噂以上だったわ。あいつこそ悪魔よ!

「私は、ちょっといいかな」
「そうですか? ピニーさんって変わってますよね。伯爵様って優しいんですよ」
「え? あれが?」

 もう、あれ呼ばわり。

「はい、たまにここに見えるんですよ。国中を巡回して悪魔祓いしているんですが、前回来たのは半年ぐらい前でしょうか。お茶を出した時も、ちゃんとお礼を言ってくれるんです。貴族の方は平民にお礼なんか言いませんよね」
「そうなんだ……」

 貴族は当たり前だと思っているからそんなもんだけど、ちょっと意外だわ。
 レニーは邪魔になるといけないからと、結局行かなかった。
 洗濯物を片付けていると、鳥のさえずりのような声が聞こえてきた。令嬢たちと真ん中にあの悪魔がいた。世界で一番、黒い服が似合う男だ。また、冷たい眼差しをこちらに向けてくる。うっ……視線が痛い……。

「怪我の治療に来た」
「それなら、わたくしがしますわ」
「いや、結構。ご令嬢方の手を煩わせるわけにはいきません。そこの、メイドで十分です」
「あら。プッ」

 伯爵は私を指さした。他の令嬢たちは、私がメイドと間違われたと思ってご満悦だった。神官が人払いをした。

「さあ、みなさん、戻りなさい」
「私も失礼します」

 レニーまで、ドアを閉めていなくなった。二人きりだなんて嘘でしょ……! さっきのこともあるし、ちゃんとやらないと。私は緊張しながらも目だけ笑って聞いた。

「怪我はどこですか?」
「左手の甲だ。その前に、お前に付いている悪魔を落とす」
「え!?」

 どうやって? さっきの男はどうなったの? まさか、私を殺さないよね? ——もしかして私って、悪魔が憑いてたから我儘だったの?
 伯爵は私の右肩をめがけて、左手の中指と親指をはじいた。少し光った。

「取れたぞ」
「あ、はい。……どんな悪魔が憑いてたんですか?」
「真っ黒い姿の、曲がった矢印角が付いている子デビルだ」

 子供の悪魔? 取ってもらっても、全然変わった気がしない。我儘と悪魔は関係ないのか……。

「そうなんだ……。全然変化ないですね」
「変化がないだと?」(どういうことだ? この令嬢に憑いているわけではないのか)

 私が変化について考えていると、伯爵が怪我をした左手を差し出した。ああ、ちょっと深めに切れている。痛そう。私は傷が苦手だ。令嬢の中には血を見ただけで卒倒する者もいる。そりゃそうだよね。こんなことと無縁で育ったんだから。
 伯爵の左手を水桶で洗ってから、清潔なタオルでやさしく拭いた。二人で向かい合って椅子に座わる。消毒をして薬を塗ると、油紙を付けて包帯を巻いていく。

(よく見ると清浄な空気を感じる)

 くんっという音が上からした。まさか、私の頭の匂いを嗅いでいるのこの人? 修道院では2日に一度しか風呂に入れない。ちょっと! 令嬢の頭の匂いを嗅ぐなんて失礼よ! 私は包帯を巻きながら注意した。

「頭の匂いを嗅ぐの、やめてもらえます?」
「ん? そういう訳ではないが、すまない」

 あれ? 謝った。謝られると変な感じ。私は包帯を巻き終えた。

「終わりました」
(悪くないな。丁寧だ)「ありがとう」

 あ。また、お礼を言った。レニーの言った通りだ。

「あの、さっきすみませんでした」
「ああ、よく足が上がったもんだな。あんなことをする令嬢を初めて見た」
「……」

 褒めてないよね? 伯爵はそう言うと診療室を出て行った。
 伯爵は、なんか最初の印象と違って、調子が狂うな。

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