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7、捕獲される
「ピニオンさん、元気ないっすね」
「うん」
衛兵の訓練場に来て座っていた。今日は受講ではなく、あれからなんだか調子が出ないので、外の空気を吸うために気晴らしに来ていた。
声をかけてきた赤茶色の髪の若い男性は、護身術の講師をしてくれている衛兵のトルファ、19歳だ。話しやすくてなかなかカッコいいので、令嬢たちの間で人気だ。でも、衛兵隊長のウィードが言うには、結婚を約束した恋人がいるそうだ。やっぱりね。それで、間違いはないだろうということで私の講師に任命したのだ。でも、貴族と平民は結婚できないから、みんなも会話を楽しむだけだ。
トルファのような男性だったら話しやすくて楽しいから、人気あるのも分かるな。こういう人が結婚相手ならいいのかな。
衛兵にはもう一人若い男性がいる。白髪で灰色の目のロイド、17歳だ。修道院の孤児院出身で、無表情で寡黙だが、同じ孤児院出身のレニーのことを気遣っているので、優しいのは分かる。ロイドも精悍な顔をしているので人気があった。
貴族男性はなんか気位が高くて苦手だから、平民の男性のほうがいいのかも。
高い話し声がした。マリエッタと、胡椒を入れた女ジュリエットが来ていた。マリエッタは黒髪に天パのツインテール。ジュリエットは白茶の髪に二つ分けの前髪に、いつも淡い色のドレスを着て地味な令嬢だ。ジュリエットは私と同じで子爵令嬢だが、マリエッタのほうが親分格だ。マリエッタの黒髪を見ているとサンディを思い出して、余計、嫌な気分になるわ。
二人は若い衛兵を見に来たのだろう。トルファが二人に声をかけた。
「こんにちは。マリエッタさん、ジュリエットさん」
二人は若い衛兵にはさん付けで呼ばせている。トルファは気さくに手を振った。二人は嬉しそうに頬を染めて、かわいい顔をしていた。
私は邪魔にならないように、さっさと退散することにした。
「じゃあね」
「はい」
私が遠ざかると、早速二人はトルファと話し始めた。私は訓練場から近くの、孤児院に向かった。時間があるからクッキーでも焼きに行こう。子供たちにはおやつが許可されている。孤児院は敷地の端にあってかなり危険だが、端から離れた所に柵が作ってあって、崖に行けないようになっている。山から強い風が吹きつけるので平屋だ。
私が中に入ると修道女たちが歓迎する。
「いらっしゃい。ピニー」
「クッキーを焼きに来ました」
「それは私たちがやるから、男の子と遊んできてちょうだい」
「……」
早速追い出された。孤児院は年配の修道女たちが担当している。男の子たちはやんちゃで手がかかる。私が訓練をしているのを知っているので、ちょうどいいのだ。
「ピニーが来たぞ」
「騎士ごっこをしよう!」
「分かったわ」
小さい男の子たちが夢中になっているのは、木の剣を使った騎士ごっこだ。私は手を引かれて外に出た。
私も木の中剣を持った。男の子たちは三人いる。5歳から9歳で、みんなまだ小さい。三人ぐらいなら何とかなる。みんなが代わる代わる打ち込んでくるのを、避けたり、剣で受けたりしながら相手をした。
「クソ、全然ダメだな」
男の子たちは私にダメージを与えられないので、イライラしていた。へっへーん。
「よし! みんなで攻撃だ!」
「え!?」
「やあー!」
みんなが一斉に来る。私はさすがに逃げ出した。男の子たちが剣でスカートを突く。
「ちょっと、破れるから突くのをやめなさいよ!」
「こらー、お前たち。一対三は卑怯だぞ」
そこへ、トルファがやって来た。助かった! 衛兵たちはたまに子供たちの相手をしている。騎士ごっこをすることで、ロイドのように衛兵を育てることにもなるのだ。トルファに任せて私は横で休憩した。トルファは子供たちが束になっても、平気だった。さすが先生。
「あれは何をしている?」
孤児院の様子をカイゼルとマリエッタたちが見ていた。
「ああ、ピニオンさんは衛兵に護身術を習っているんですよ。どっちが目当てか分かりませんけどね」
「ほお……」
マリエッタが口元に手を当て、軽蔑するような眼差しで言ったが、カイゼルは感心するような声を漏らした。
(それであの動きか。習っていなければできないと思ったが、なんでまた令嬢がそんなことを……)
私はマリエッタたちと伯爵がいることに気がついた。手には黒い四角いカバンを持っている。伯爵に見られた……。何を話しているかは聞こえないが、どうせろくなことを言っていないだろう。伯爵も人の家に告げ口はしないと思うけど。護身術のことをお父様に知られたら、もっと厳しい修道院に入れられるかもしれないな。
はあっ。ため息が出た。
「私は孤児院に用があるが」
「そうですか、では、私たちはこれで」
マリエッタたちはそそくさと戻っていった。令嬢たちは孤児院が苦手な者が多い。子供は泥や砂まみれですぐ汚れるからだ。まれに子供好きな令嬢もいるが、孤児院訪問はみんな嫌がる。自分の子供なら我慢できるだろうけど、他人で、しかも平民の子供は我慢できないだろう。
「伯爵だ。おーい、伯爵様!」
子供たちが伯爵に手を振った。伯爵も手を振り返すと、孤児院に入っていった。何の用だろ。伯爵は孤児院にも顔を出していたんだな。私は子供たちに聞いてみる。
「伯爵のこと知ってるの?」
「うん、おいしいお菓子を持って来てくれるんだよ」
「へ~」
意外と子供好きなのかな? 私は会いたくないので、もう帰ろう。
「私はもう戻るね」
「え~」
「もっと遊ぼうよ」
「ピニオンさんは用事があるんだから。俺がまだ遊んでやろう」
「わ~い」
トルファは今日、夜の当直なんだな。私は帰って行った。途中、ガシッと頭を掴まれた。え? 見上げると伯爵がいた。
「挨拶せずに逃げるのか?」
「……ごきげんよう……」
捕まった……。心の中で泣いた。
「うん」
衛兵の訓練場に来て座っていた。今日は受講ではなく、あれからなんだか調子が出ないので、外の空気を吸うために気晴らしに来ていた。
声をかけてきた赤茶色の髪の若い男性は、護身術の講師をしてくれている衛兵のトルファ、19歳だ。話しやすくてなかなかカッコいいので、令嬢たちの間で人気だ。でも、衛兵隊長のウィードが言うには、結婚を約束した恋人がいるそうだ。やっぱりね。それで、間違いはないだろうということで私の講師に任命したのだ。でも、貴族と平民は結婚できないから、みんなも会話を楽しむだけだ。
トルファのような男性だったら話しやすくて楽しいから、人気あるのも分かるな。こういう人が結婚相手ならいいのかな。
衛兵にはもう一人若い男性がいる。白髪で灰色の目のロイド、17歳だ。修道院の孤児院出身で、無表情で寡黙だが、同じ孤児院出身のレニーのことを気遣っているので、優しいのは分かる。ロイドも精悍な顔をしているので人気があった。
貴族男性はなんか気位が高くて苦手だから、平民の男性のほうがいいのかも。
高い話し声がした。マリエッタと、胡椒を入れた女ジュリエットが来ていた。マリエッタは黒髪に天パのツインテール。ジュリエットは白茶の髪に二つ分けの前髪に、いつも淡い色のドレスを着て地味な令嬢だ。ジュリエットは私と同じで子爵令嬢だが、マリエッタのほうが親分格だ。マリエッタの黒髪を見ているとサンディを思い出して、余計、嫌な気分になるわ。
二人は若い衛兵を見に来たのだろう。トルファが二人に声をかけた。
「こんにちは。マリエッタさん、ジュリエットさん」
二人は若い衛兵にはさん付けで呼ばせている。トルファは気さくに手を振った。二人は嬉しそうに頬を染めて、かわいい顔をしていた。
私は邪魔にならないように、さっさと退散することにした。
「じゃあね」
「はい」
私が遠ざかると、早速二人はトルファと話し始めた。私は訓練場から近くの、孤児院に向かった。時間があるからクッキーでも焼きに行こう。子供たちにはおやつが許可されている。孤児院は敷地の端にあってかなり危険だが、端から離れた所に柵が作ってあって、崖に行けないようになっている。山から強い風が吹きつけるので平屋だ。
私が中に入ると修道女たちが歓迎する。
「いらっしゃい。ピニー」
「クッキーを焼きに来ました」
「それは私たちがやるから、男の子と遊んできてちょうだい」
「……」
早速追い出された。孤児院は年配の修道女たちが担当している。男の子たちはやんちゃで手がかかる。私が訓練をしているのを知っているので、ちょうどいいのだ。
「ピニーが来たぞ」
「騎士ごっこをしよう!」
「分かったわ」
小さい男の子たちが夢中になっているのは、木の剣を使った騎士ごっこだ。私は手を引かれて外に出た。
私も木の中剣を持った。男の子たちは三人いる。5歳から9歳で、みんなまだ小さい。三人ぐらいなら何とかなる。みんなが代わる代わる打ち込んでくるのを、避けたり、剣で受けたりしながら相手をした。
「クソ、全然ダメだな」
男の子たちは私にダメージを与えられないので、イライラしていた。へっへーん。
「よし! みんなで攻撃だ!」
「え!?」
「やあー!」
みんなが一斉に来る。私はさすがに逃げ出した。男の子たちが剣でスカートを突く。
「ちょっと、破れるから突くのをやめなさいよ!」
「こらー、お前たち。一対三は卑怯だぞ」
そこへ、トルファがやって来た。助かった! 衛兵たちはたまに子供たちの相手をしている。騎士ごっこをすることで、ロイドのように衛兵を育てることにもなるのだ。トルファに任せて私は横で休憩した。トルファは子供たちが束になっても、平気だった。さすが先生。
「あれは何をしている?」
孤児院の様子をカイゼルとマリエッタたちが見ていた。
「ああ、ピニオンさんは衛兵に護身術を習っているんですよ。どっちが目当てか分かりませんけどね」
「ほお……」
マリエッタが口元に手を当て、軽蔑するような眼差しで言ったが、カイゼルは感心するような声を漏らした。
(それであの動きか。習っていなければできないと思ったが、なんでまた令嬢がそんなことを……)
私はマリエッタたちと伯爵がいることに気がついた。手には黒い四角いカバンを持っている。伯爵に見られた……。何を話しているかは聞こえないが、どうせろくなことを言っていないだろう。伯爵も人の家に告げ口はしないと思うけど。護身術のことをお父様に知られたら、もっと厳しい修道院に入れられるかもしれないな。
はあっ。ため息が出た。
「私は孤児院に用があるが」
「そうですか、では、私たちはこれで」
マリエッタたちはそそくさと戻っていった。令嬢たちは孤児院が苦手な者が多い。子供は泥や砂まみれですぐ汚れるからだ。まれに子供好きな令嬢もいるが、孤児院訪問はみんな嫌がる。自分の子供なら我慢できるだろうけど、他人で、しかも平民の子供は我慢できないだろう。
「伯爵だ。おーい、伯爵様!」
子供たちが伯爵に手を振った。伯爵も手を振り返すと、孤児院に入っていった。何の用だろ。伯爵は孤児院にも顔を出していたんだな。私は子供たちに聞いてみる。
「伯爵のこと知ってるの?」
「うん、おいしいお菓子を持って来てくれるんだよ」
「へ~」
意外と子供好きなのかな? 私は会いたくないので、もう帰ろう。
「私はもう戻るね」
「え~」
「もっと遊ぼうよ」
「ピニオンさんは用事があるんだから。俺がまだ遊んでやろう」
「わ~い」
トルファは今日、夜の当直なんだな。私は帰って行った。途中、ガシッと頭を掴まれた。え? 見上げると伯爵がいた。
「挨拶せずに逃げるのか?」
「……ごきげんよう……」
捕まった……。心の中で泣いた。
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────────────
毎日20時頃に投稿します。
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